孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン大統領選挙  リードを広げるベニグノ・アキノ上院議員

2010-05-07 21:44:25 | 国際情勢

(母親譲りの「ラバン(闘争)」の頭文字Lを示す、“ノイノイ”こと、ベニグノ・アキノ上院議員
“flickr”より By noynoy aquino
http://www.flickr.com/photos/45356271@N07/4401119154/)

【リードを22ポイントに拡大】
フィリピンでは大統領選挙が今月10日に行われます。
世論調査によると、故コラソン・アキノ元大統領の長男ベニグノ・アキノ上院議員が選挙戦終盤でリードを広げており、何事もなければ、親子での大統領が誕生する見込みです。

****比大統領選、アキノ候補がリードを拡大=世論調査****
フィリピンの民間調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)が2─3日に実施した世論調査によると、10日の大統領選で、コラソン・アキノ元大統領の息子であるベニグノ・アキノ上院議員が、2位の候補に対するリードを22ポイントに拡大している。(中略)
調査では、アキノ候補の支持率が4月から4ポイント上昇して42%となった。
一方、エストラダ前大統領の支持率は3ポイント上昇して20%となり、2位につけた。
今年に入りアキノ候補と互角の戦いを演じた時期もあるマヌエル・ビリヤール上院議員の支持率は、7ポイント低下して19%となった。(中略)
先週行われたパルス・アジアの世論調査では、アキノ候補の支持率は39%、エストラダ候補とビリヤール候補は、ともに20%で2位だった。【5月7日 ロイター】
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アキノ上院議員は、母親の故コラソン・アキノ元大統領(愛称コニー)の死亡によって、マルコス独裁政権と闘った母親コニーを慕う国民の気持ちに乗る形で、一躍選挙戦トップに躍り出ました。
その後、記事にもあるように、一代で財をなした富豪のビリヤール上院議員が支持率で2ポイント差まで追い上げましたが、汚職疑惑で国民から絶大な不人気のアロヨ現大統領が、後継候補のチョドロ氏支持を装いながら、自らの刑事訴追を避けるため、実際にはビリヤール氏を応援する「密約」が存在するとの疑惑が流れ、終盤で失速する展開となっています。

ビリヤール氏にとっては疫病神となったアロヨ現大統領は再選禁止で大統領選には出られませんが、一族郎党とともに下院議員選挙に立候補して権力維持を狙っているという話は、3月26日ブログ「フィリピン 5月10日大統領選挙 下院出馬で権力維持を狙う?アロヨ大統領 」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100326)でも書いたところです。

【政治の世襲化】
こうしたフィリピン選挙事情について、政治家一族が公職を「使い回し」しているとの批判が【朝日】にありました。

***政治家一族だらけの選挙戦 公職を「使い回し」*****
「私の父は殺された。あなたたちは私の母を支持してくれた。私たちがあなたたちを必要としたとき、あなたたちはそこにいてくれた…」  
黄色のシャツを着たベニグノ・アキノ(愛称ノイノイ)が語りかける。背後に、マニラ空港で暗殺された父の上院議員ベニグノ・アキノ(愛称ニノイ)や大群衆に向かって指で「ラバン(闘争)」の頭文字Lの形を示す母の元大統領コラソン・アキノ(愛称コリー)の在りし日の映像が流れる。大統領選向けのテレビCMだ。
マルコス独裁政権に立ち向かったニノイは国民的英雄。コリーは夫の遺志を継いで民主化を成し遂げたヒロイン。アキノの名を知らないフィリピン国民はいない。
アキノ家直系のノイノイも政界に進んだ。議員として特に実績はないが、昨年8月にコリーが没すると、「大統領に」との期待が高まった。両親のイメージを最大限に利用し、選挙レースのトップを走る。当選すれば、親子大統領の誕生だ。

だが、1946年の独立後の歴代10入の大統領で、親子は初めてではない。現大統領のアロヨは、第5代大統領マカパガルの娘だ。
アキノやアロヨのように、フィリピン政界は政治家一族だらけだ。新興政治家もいったん権力につけば、新しい政治家一族をつくりあげる。
世論調査で支持率2位につける上院議員ビリヤールは、不動産業で財をなした富豪だ。「貧困地区から身を起こした」のが売りだが、地方の有力政治家一族から妻を迎えて「一族入り」した。
映画ス夕ーから転身した前大統領工ストラダは妻と長男が上院議員。
前国防相テオドロはコリー・アキノの実家の出身で、ノイノイのはとこにあたる。 
まだある。ノイノイとコンビを組む副大統領候補ロハスは初代大統領の孫。マルコスの長男は上院選に出る。現大統領アロヨの長男は下院議員で、大統領退任と同時に下院選に出る母に選挙区を譲り、自分は比例区に。
夫から妻、父から息子、息子から母…公職が私物のように一族内で使い回される。

フィリピン調査報道センターによると、アキノ政権(86~92年)以降、下院議員の6割以上が政治家一族の出身だ。
「王朝」と呼ばれるこうした一族は、有力紙インクワイアラーによると、全国に少なくとも108ある。
「選挙で勝つには名前を知られなくてはならない。テレビやラジオで大衆に名前を売るには金がなくてはいけない。選挙に出られる人間は眼られる。民主的であるはずの選挙システムは初めから制限を受けている」。アテネオ・デ・マニラ大教授(政治学)のベニト・リムは語る。
大統領選出馬の届け出はだれでもできる。しかし、7千余の島からなる隨国で本格的な選挙運動を展開できる見込みのない者は中央選挙管理委員会の審査ではねられる。選挙戦は政策論争よりも名前の売り込みと中傷合戦に傾く。

一握りの支配層による自国の植民地化・・・フィリピンの国民的作家ショニール・ホセはそう指摘する。「新大統領が最初にやらなければならないことは伝統的なフィリピン人であることをやめることだ。自分が属する階級を裏切ることから始めなくてはならない」 
フィリピン大統領選挙は6月に投票される。9年に及んだアロヨ政権には汚職疑惑がつきまとい、国内の貧富格差は広がった。人びとは、どんなリーダーを選びとるのか。【5月5日 朝日】
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しかし、誰しも思うところでしょうが、政治の世襲はフィリピンだけの話ではなく、日本だって同じようなものです。鳩山、麻生、福田、安倍、小泉・・・歴代の首相を見ても一目瞭然です。フィリピンよりひどいかも。
その他の政治家を見ても、二世議員の多さには「民主主義とは一体何なのか?」という疑問もわきます。
更に言えば、民主主義の総本山アメリカでも、ケネディ王朝、ブッシュ親子、クリントン夫妻・・・と、似たような状況があります。
民主主義という政治システムが抱える世界共通の問題であり、ひとりフィリピンの問題ではありません。

ところで、下院銀選挙には先述のようにアロヨ現大統領のほか、マルコス大統領夫人のイメルダ夫人(80歳)も立候補しています。
イメルダ夫人は1986年の「ピープル・パワー革命」で国を追われた際には、「靴3千足」で有名になりましたが、ハワイから帰国後、下院議員を95年から3年務め、その後は政界から遠ざかっていました。
熱烈なマルコス信奉者が現在も多い元大統領の出身地、ルソン島北部北イロコス州から出馬し、優勢が伝えられるとも報じられています。【3月26日 読売より】

【依然続く反政府活動】
昨年末、フィリピン南部ミンダナオ島の紛争を巡る反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」と政府の和平交渉再開が伝えられましたが、もうひとつの反政府武装組織アブサヤフのテロ活動は依然続いています。
****比南部で爆弾爆発、12人死亡 イスラム過激派犯行か*****
フィリピン南部のバシラン島イザベラ市内の2カ所で13日、相次いで爆弾が爆発した。海兵隊が駆けつけたところ、武装集団の襲撃を受け、国軍によると市民や海兵隊員ら少なくとも12人が死亡した。国軍は同島を拠点とするイスラム過激派アブサヤフの犯行とみて調べている。
アブサヤフはバシラン島やホロ島を拠点に外国人の誘拐などを繰り返しており、国軍が掃討を進めている。【4月13日 朝日】
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アブサヤフは国際テロ組織アルカイダとのつながりを指摘されていますが、近年は外国人誘拐を繰り返す犯罪集団の性格が強いとの言われています。
そのほか、共産党軍事組織・新人民軍(NPA)も活動しており、3月6日には、中部ミンドロ島で、国軍兵士がNPAと戦闘になり、少なくとも国軍兵士11人が死亡したと発表されています。

貧富の格差是正、腐敗・汚職体質の一掃、治安回復・・・新たなリーダーに求められる課題は山積しています。

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