(会議に先立ち、上海万博を訪れたクリントン米国務長官 “flickr”より By U.S. Department of State
http://www.flickr.com/photos/statephotos/4632360396/)
【経済摩擦解消よりも、地域の安全保障をめぐる緊急課題を優先】
米中戦略対話が24日から北京で行われています。
アメリカからは、クリントン国務長官やガイトナー米財務長官をはじめ、これまでで最大規模の約200人の代表団が派遣されています。
米中間には、以前より「人民元切り上げ」に関する経済問題がありますが、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が24日、同国哨戒艦が北朝鮮の魚雷攻撃で沈没したとする調査結果が出たことを受け、この問題を国連安保理に提起する方針を示したことを受けて、北朝鮮対策などの安全保障問題が優先する形になったようです。
****緊急課題優先、摩擦二の次=北やイランへの対応協議―米中対話****
米中戦略対話が24日、北京で始まった。クリントン米国務長官は哨戒艦沈没事件への対応で中国側に協力を要請するなど、両国は対話で摩擦解消よりも、地域の安全保障をめぐる緊急課題を優先させており、同対話が国際的な重要課題に関する米中2大国の直接協議の場となることを印象付けた。
米中関係は今年初め、台湾への武器売却問題や、オバマ大統領とチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の会談などで悪化したが、4月に胡錦濤国家主席が訪米し、修復に向かっている。ただ中国側には、「米中間の問題が解決したわけではない」(外交筋)との思いが強い。
このため胡主席は開会式で、「中国国民にとって国家の主権や領土保全ほど重要なものはない」と強調。中国の「核心的利益」にかかわる台湾やチベット問題で譲歩する考えのないことを改めて示した。【5月24日 時事】
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「人民元切り上げ」については、3月、アメリカの超党派130議員が「中国政府による人民元相場の操作で、米産業が被害を受けている」として、ガイトナー財務長官とロック商務長官に対し、中国を為替操作国と認定し直ちに行動するよう求める公開書簡を送る事態となり、米中関係が一時緊張しました。
結局、アメリカは4月、為替操作国の認定作業を延期しましたが、延期の引き替えに、アメリカ政府が求めるイラン制裁決議案への中国の協力を取り付けたのではないかとの“取引”が一部では噂されていました。
【「圧力をかければ、我々は動けない」】まあ、“取引”と呼ぶかどうか別として、国際政治に限らず、世の中すべて“ギブ・アンド・テイク”で動いています。“取引”はともかく、アメリカ側の中国への姿勢が軟化した背景には、中国からの「圧力をかければ、我々は動けない」との要請があったようです。
****人民元切り上げ、春先に中国が示唆 米に「圧力やめて」*****
中国の通貨「人民元」の切り上げを声高に求めていた米国政府に対し、3月中旬~4月中旬に中国政府から「圧力をかければ、我々は動けない」との要請があったことがわかった。米国側は「圧力」をかけなければ、中国側が切り上げに動く意思を示唆したものと受け止め、切り上げを強く求める姿勢を改めた。中国側は「我々にも有権者がいる」と一党支配の社会主義国として異例の表現も使い、米国側に配慮を求めたという。
米政府高官ら複数の関係者が朝日新聞に明らかにした。米国側によると、中国側から「圧力をかけるのをやめて欲しい(ドント・プレス・アス)。米国が圧力をかけ続ければ、我々は動くことができない。我々にも有権者(コンスティテュエンシー)がいる」と伝えられたという。
米中間では、3月中旬から4月中旬にかけて、北京でのガイトナー財務長官・王岐山(ワン・チーシャン)副首相会談や、ワシントンでのオバマ大統領と胡錦濤(フー・チンタオ)・国家主席の会談などがあり、こうした場で中国側の意思が伝えられた模様だ。
米政府は、オバマ大統領が「国家輸出戦略」を打ち出しており、輸出拡大に有利になるよう、人民元高・米ドル安の状況をつくりだしたいところ。3月上旬には、大統領自身が「中国がより市場志向の為替レートに移行していくことは、世界的な不均衡の是正に向けて不可欠な貢献をもたらす」と述べ、切り上げの必要性に言及していた。
米議会はさらに強硬で、中国を16年ぶりに「為替操作国」に認定し、強く人民元切り上げを迫るよう米政府に求めた。自らの輸出振興のために自国通貨を不当に安くしているという「操作国」に名指しすれば、米国からの圧力の象徴になるとみられていた。
しかし、中国側の要請に呼応するように、米政府は4月、為替操作国の認定作業を延期した。以後も表立って人民元切り上げを強く求める行動を控えている。
米中両政府は24、25日の第2回米中戦略・経済対話を前に、ガイトナー財務長官が王副首相らと23日に北京で会食する。対話では人民元切り上げが表明されることはない模様だが、ギリシャの財政危機を機に金融市場で混乱が起きていることもあり、米政府は23~25日の間、中国の姿勢に変わりがないかを確認するとみられる。【5月23日 朝日】
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アメリカの圧力に屈した形で切り上げに追い込まれるのでは、国内的に批判が高まり耐えられない・・・ということでしょうが、「我々にも有権者(コンスティテュエンシー)がいる」というのは面白い表現です。
一党独裁国家である中国における“constituency”(有権者、支援者層)とは何を指すのでしょうか?
中国共産党指導層には、上海閥とか太子党などの政治勢力があり、普段に厳しい政治闘争が繰り広げられていることはよく伝えられるところです。
また、インターネットを中心にした世論の動向を指導部が非常に気にしていることも報じられています。
急激な人民元切り上げは、中国輸出産業にとっては死活問題にもなり、社会不安の火種にもなります。
そうした対外強硬論に傾きがちな指導層内の対抗勢力、国内世論を指しての“constituency”でしょう。
中国指導部にとっては、アメリカなどの国際批判より、国内のそうした批判が政権維持にとってはるかに重要なファクターでもあるようです。
【「独自の管理可能で段階的な方法で」】
****米中戦略・経済対話、中国主席は段階的な為替改革を再表明*****
24日から始まった米中戦略・経済対話で、胡錦濤・中国国家主席は、為替制度改革を段階的に進める方針を改めて示した。
同国家主席は「中国は、独自の管理可能で段階的な方法に従い人民元相場の形成メカニズムの改革を引き続きしっかりと進める」と語った。
また、米中両国は、経済政策において一段と協力し「完全な景気回復」を達成するためともに取り組む必要があるとの認識を示した。
さらに、より均衡のとれた成長を達成するために内需を拡大するとも表明した。
一方、ガイトナー米財務長官は、貿易障害を取り除き、より均衡のとれた世界経済を達成するため、ともに協力することが必要との認識を示した。
長官はまた、国内で開発された最先端技術の大きなシェアを中国企業に対して与えるという政策を緩めるよう間接的に促した。
一方、クリントン国務長官は、北朝鮮に対して、他国同様、中国も圧力をかけるよう促した。
クリントン国務長官は「北朝鮮による韓国哨戒艦の沈没でわれわれは今、深刻な問題に直面している」と指摘。「この問題を解決するため協力し、朝鮮半島の平和と安定のためにわれわれの共通の目的を達成する必要がある」と語った。
韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は24日、同国哨戒艦が北朝鮮の魚雷攻撃で沈没したとする調査結果が出たことを受け、この問題を国連安保理に提起する方針を示した。 国民向けのテレビ演説で述べた。
24日付の中国人民日報は「人民元の上昇は米中貿易不均衡の解決や、米国の雇用問題の解決にはならない」と指摘。「中国は国内経済状況の必要性を基に人民元相場の形成メカニズムの改革を進めている」との見解を示した。【5月24日 ロイター】
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“独自の管理可能で段階的な方法”というのが“為替操作”にもなる訳ですが、「人民元相場の形成メカニズムの改革を引き続きしっかりと進める」とも言っていますので、その成果を見せてほしいところです。