孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キルギス  南部の混乱続く ウズベク人との民族対立再燃の懸念も

2010-05-22 11:37:25 | 国際情勢

(4月17日 南部ジャララバード 集会を開こうとする暫定政府支持者に抗議するバキエフ前大統領支持の女性 “flickr”より By plasmastik
http://www.flickr.com/photos/plasmastik/4522896184/)

【「背後にバキエフが控えている」】
4月初めに政変が起きたキルギスですが、バキエフ前大統領支持勢力の抵抗が南部で続き、まだ情勢は安定していません。

****キルギス:前大統領支持派と臨時政府が衝突 死傷者出る*****
中央アジアのキルギス南部で、先月の政変により追放されたバキエフ前大統領の支持者が臨時政府への抗議行動を活発化させている。14日には双方が衝突し、死傷者が出る事態に発展、キルギス情勢は再び混迷を深めている。
バキエフ派の支持者は13日、キルギス南部にある同国第2の都市オシで約1000人の住民が州庁舎に乗り込み、4月の政変で解任されたバキエフ派の州知事の復職などを要求。オシ市内の空港にも侵入した。さらにジャララバードやバトケンでも同派が州政府庁舎を占拠した。
14日にはジャララバードで、臨時政府の支持者ら約500人がバキエフ派に占拠された州政府庁舎を奪還しようと試みた際、衝突が発生。双方の間で銃撃戦となり、同国保健省によると、1人が死亡、44人が負傷した。

臨時政府のテケバエフ副代表(憲法改正担当)は14日のテレビ番組で、一連の庁舎占拠について「背後にバキエフ(前大統領)が控えている」と指摘。治安機関はバキエフ氏周辺が反政府運動に100万ドル(9250万円)相当をつぎ込んだと主張する。政府はイサコフ副代表(防衛担当)を全権代表としてオシに派遣し、情勢沈静化に当たっている。
キルギスは歴史的に南北間の地域対立が激しく、バキエフ氏が基盤とした南部では、北部出身者が多い臨時政府への反発が根強い。臨時政府は来月に新憲法承認の国民投票、10月に大統領と議会の同時選挙を予定しているが、バキエフ派の抵抗が続く中、難しい対応を迫られそうだ。
また、キルギス南部とウスベキスタン、タジキスタンにまたがるフェルガナ盆地は、イスラム原理主義への支持が根強いことから、キルギス情勢の混乱は中央アジア全体に影響を及ぼす恐れもある。【5月14日 毎日】
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キルギスの政変でベラルーシへ出国したバキエフ前大統領は、出国当時は「辞表を提出した」と言われていましたが、出国後は辞任を否定しています。
****バキエフ氏、大統領辞任否定=臨時政府「辞表ある」と反論-キルギス****
キルギス政変で失脚し、事実上の亡命生活に入ったバキエフ氏は21日、ベラルーシの首都ミンスクで記者会見し、「わたしは正当に選ばれたキルギス大統領だ。国民の破局的状況に責任を負う」と述べ、大統領辞任を否定した。
これに対し、キルギス臨時政府当局者は同日、「バキエフ氏は(米ロなどの)大国や国連によってキルギスから出国させられ、辞表を提出した」と反論。「彼が民衆によって打倒され、もはや国を統治していないことは明白」と強調した。
バキエフ氏は15日に出国した後、カザフスタン経由で週初にベラルーシ入りした。【4月21日 時事】
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【支援するロシア、前大統領をかくまうベラルーシ】
キルギスの暫定政府は4月27日、ベラルーシに逃れたバキエフ前大統領を「大量殺害」などの容疑で訴追したと発表、さらに、民衆デモ弾圧を指揮したコンガンチエフ元内相の刑事訴訟に着手しました。
コンガンチエフ元内相は、1500人以上の死傷者を出した4月上旬の反政府デモへの弾圧で主導的な役割を果たしたとみられており、政変後はロシアに出国していました。
ロシア治安当局は、この発表前にすでにコンガンチエフ内相をモスクワ市内で拘束しキルギスへ送還したことが報じられています。【4月26日 毎日】
他国に先駆けて臨時政府を事実上承認したロシアのキルギス暫定政権への肩入れ度合いがうかがわれます。

ロシア軍基地とともに、米軍がアフガニスタンへの物資輸送拠点に使っているマナス空軍基地も存在するキルギスでは、米ロ双方がその影響力を争ってきました。政変後、臨時政府を樹立した野党勢力の指導者から「バキエフ大統領の追放にロシアが役割を果たした」との発言もありましたが、プーチン首相は「ロシアは今回の暴動には一切関係がない」と関与を否定しています。
バキエフ前大統領は「外国の力なしにこうした作戦を実施することは事実上不可能だ」と述べていますが、「ロシアが自分を見捨てたとは思わない」「背後にロシアがいるとは言えないし、信じたくない」とも語っています。【4月9日 毎日より】

一方、バキエフ前大統領を受け入れたベラルーシのルカシェンコ大統領は、バキエフ前大統領引き渡しに応じていません。
「ヨーロッパ最後の独裁者」とも呼ばれるベラルーシ・ルカシェンコ大統領ですが、最近は、旧ソ連の国ではありますがロシアとは一定の距離を保ち、ロシアとEUを天秤にかけ、双方から経済支援を引き出す外交を展開しています。
ロシアが支援するキルギス暫定政府に抗する形でバキエフ前大統領を受け入れ続けるベラルーシ・ルカシェンコ大統領に対し、ロシアは“苛立っている”とも言われています。
ウクライナ、キルギスと、カラー革命をひっくり返して親ロシア政権が誕生している流れで、次にロシアが標的にしているのがグルジアとベラルーシだとも。

【底流に南北対立】
話が横道にそれてきました。本筋に戻すと、バキエフ前大統領が国外で暫定政府への抵抗を続けていることもあって、国内情勢は冒頭記事のように安定していません。
キルギスの政治情勢には南北間の対立が基本にあり、北部利益を代表するアカエフ元大統領に対する南部での反発から「チューリップ革命」が起きてバエキフ前大統領が誕生し、今回は南部を地盤とするバエキフ前大統領を北部勢力が野党を支援する形で追い出した・・・という流れが従来から言われています。
(なお、暫定政府の中心人物で、暫定大統領ともなったオトゥンバエワ氏自身は、南部オシの出身です。)

このように、強権的支配に対する民主化運動の抵抗、一族支配への反感(バキエフ前大統領の次男マクシムが最近民営化された通信会社や電気会社を支配下に収めた際、電力の大幅な値上げによる経済不安が生じたため、野党や国民から批判の対象となっており、これが反政府運動の引き金の一つとなったと言われています)というだけではありませんので、南部における不穏な状況が続いています。

【再燃する民族対立】
前大統領が基盤とする南部は民族構成が北部とも異なり、ウズベク人が多い地域でもあります。
全国的には、キルギス人が70.9%、ウズベク人が14.3%、ロシア人が7.8%、その他7%ですが、ウズベキスタンに隣接する南部ジャララバード州ではウズベク人が4割を占めています。

そうした土地柄、キルギス南部最大の都市オシでは、ソ連末期の1990年にキルギス系とウズベク系住民が衝突し、死者・行方不明者600人(数字には諸説あるようです)を出す惨事も起きています。
今回の政変の混乱で、再びこの民族対立にも火がつきかねない懸念があります。

****キルギス暫定大統領を決定 2人死亡の南部で非常事態****
インタファクス通信によると、流血の政変でバキエフ政権が崩壊した中央アジア・キルギスの暫定政府は19日、暫定政府を率いてきたオトゥンバエワ元外相代行を2011年末までの暫定大統領とする決定をした。
一方、失脚したバキエフ前大統領の基盤である同国南部ジャララバードでは同日、キルギス人のデモ隊約3千人が少数民族のウズベク系の大学を襲撃しようとしてウズベク系住民と衝突。保健省によると2人が死亡、60人以上が負傷し、暫定政府はジャララバードなどに非常事態を宣言した。

暫定政府には、オトゥンバエワ氏を暫定大統領とすることで政権の権威を高め、バキエフ前大統領支持者らによる混乱が南部で連日続いている事態の早期収拾を図る狙いがあるとみられる。
暫定大統領の任期は11年12月31日まで。オトゥンバエワ氏は同年に実施される大統領選に立候補しない。
政変に伴う前倒し大統領選はこれまで、今年10月10日に行われる議会選と同時に実施される可能性が高いとみられていた。
ジャララバードでは、バキエフ氏や親族の家の襲撃に関与したとしてデモ隊がウズベク系指導者の引き渡しを要求。ウズベク系住民らが対抗し、発砲も起きたという。【5月20日 京都新聞】
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バキエフ前大統領が南部を支持基盤としている、一方、南部はウズベク人が多い・・・では、バキエフ前大統領とウズベク人の関係は?・・・という基本的なことが今までわからずモヤモヤしていたのですが、上記記事によれば“バキエフ氏や親族の家の襲撃に関与したとしてデモ隊がウズベク系指導者の引き渡しを要求”とありますので、南部において、バキエフ前大統領支持勢力とウズベク人勢力は対立関係にあるようです。

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