孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

核拡散防止条約(NPT)再検討会議とオバマ米大統領の「核兵器なき世界」

2010-05-16 13:34:47 | 国際情勢

(NPT再検討会議開幕の前日の2日、ニューヨーク・タイムズスクエアをデモする日本からの市民団体 “flickr”より By asterix611
http://www.flickr.com/photos/28722563@N05/4585252920/sizes/m/
“国連本部で開催されている核拡散防止条約(NPT)再検討会議は7日午後、民間活動団体(NGO)が各国政府代表らに核廃絶などを直接訴えるセッションが行われ、被爆者や秋葉忠利・広島市長らが「核兵器なき世界」に向け、世界が一つになって取り組むよう求めた。セッションには約300人が出席。日本原水爆被害者団体協議会を代表し、長崎で被爆した谷口稜曄(すみてる)さん(81)が再検討会議で初めて被爆体験を証言。背中にやけどを負った自身の写真を掲げ、「私を最後の被爆者にするため、廃絶の声を全世界に」と訴えかけると、政府代表らは立ち上がって拍手で応えた。”【5月8日 読売】

【「非常に速いテンポ」で草案】
5月3日~28日まで4週間にわたって国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議は14日、3委員会の議長が前半の議論を締めくくる報告の草案を示しました。
核兵器保有国の増加を抑止し、核兵器保有国には核兵器の削減義務を課すNPTは、国際的な核軍縮・不拡散を実現するための最も重要な基礎となるものです。
しかし、核兵器保有国であるインドとパキスタンは、条約が制定時の核兵器保有5か国にのみ核兵器保有の特権を認め、それ以外の国には保有を禁止する不平等条約であるため未加盟であり、核兵器を保有していると疑われているイスラエルも未加盟です。

会議では「核軍縮」「核不拡散」「原子力の平和利用」について3委員会に分かれて討議されており、今回示された草案は最終文書の土台となります。
草案は、オバマ米大統領の「核兵器なき世界」を求める政策に後押しされる形で、核兵器廃絶に向けた行程表作りを求めるなど「核軍縮」促進で踏み込んだ点が目立つとされています。
ただ、“核軍縮分野で非核国の、核不拡散分野で核保有国の意向をそれぞれ強く反映させ「落としどころ」を探った妥協の産物でもある”【5月15日 毎日】とも指摘されており、最終文書とりまとめに向けた後半の議論の過熱が予想されています。

****NPT合意草案:「核廃絶行程表」14年に国際会議で作成*****
国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議のカバクトゥラン議長は14日、核軍縮、核不拡散、核の平和利用をテーマにした主要3委員会が提出した合意文書草案を各国に配布した。毎日新聞が入手した草案では核廃絶への行程表を作る国際会議の14年開催など26項目の行動計画を明記した。
オバマ米大統領の「核兵器なき世界」を求める政策に後押しされ「非常に速いテンポ」(外交筋)で草案が出た。ただ核保有国、非核国のバランスに配慮した「たたき台」で、17日から文言を巡る交渉が激化する。
草案は、具体的な行動計画を策定した。具体的には、核保有国に対し11年までの核軍縮交渉の開始、12年までの加盟国への報告を求めた。また14年に「期限を切った核廃絶」に向けた行程表を討議する国際会議を開くとした。
このほか、核実験全面禁止条約(CTBT)の批准▽兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉開始▽12年までの核兵器転用可能な核分裂物質の備蓄量公表▽核兵器や運搬手段の数、種類の公表▽査察の能力強化による信頼性、透明性の向上も求めた。(後略)【5月15日 毎日】
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【「単なる言葉でなく、行動で先導している」】
5年前の再検討会議では、核保有国と非保有国の溝が埋まらず失敗に終わりました。今回、何らかの合意に至らない場合、NPT体制が危機にひんするとの認識が核保有国には強く、米国のオバマ政権は自国が核軍縮に努力している姿勢を示すことで、非核保有国との溝を埋めたい考えだと報じられています。

4月にロシアとの間で新核軍縮条約(新START)に調印したアメリカ・オバマ政権は、NPT再検討会議が開幕する5月3日、アメリカが昨年9月末時点で5113発の核兵器を備蓄しており、ピーク時の1967年末から84%削減したと発表しました。アメリカ政府が核軍備の実情を公表するのは極めて異例のことです。
クリントン米国務長官は3日のNPT再検討会議での演説で、非核国による原子力の平和利用を後押しするため、国際原子力機関(IAEA)に5年間で5000万ドル(約47億円)を拠出すると発表するとともに、核兵器備蓄数の公表について「(アメリカ政府は)単なる言葉でなく、行動で先導している」と語っています。

更に、オバマ米大統領は13日、上院へ送付した米露新戦略兵器削減条約(新START)と同時に提出した議会向け報告書(機密扱いで一部のみ公表)の中で、同条約に基づき削減する戦略核兵器の運搬手段の現行保有数と削減予定数の内訳を初めて明らかにし、情報公開を進めています。

もっとも、アメリカ国内事情については、“新核軍縮条約(新START)の批准案に関する審議は今年いっぱいはかかる見通しだ。また、核実験全面禁止条約(CTBT)の批准案の上院提示はそのさらに後で、しかも、批准には上院の3分の2の賛成が必要。11月の米中間選挙で民主党が議席を減らせば、見通しは厳しい。”【5月9日 毎日】というハードルも存在します。
定数100の上院での批准には67人の賛成が必要ですが、民主党系は59議席にとどまり共和党の一部の賛成が不可欠です。しかも、11月の中間選挙を前に党派対立が強まっています。

【新たな通常戦力で軍事的優位】
アメリカ・オバマ政権の核軍縮への積極的な対応は、裏を返せば、テロに使用される危険の増大した核兵器に頼らなくても、通常兵器で軍事的優位を維持できるという“自信”があるとも言えます。
****地球のどこでも1時間以内に攻撃 米、通常兵器で軍事優位に*****
米国防総省が地球上のどこでも1時間以内に攻撃できる通常兵器を開発しており、早ければ14年の配備開始を構想していることが23日、判明した。長距離ミサイルに搭載して超音速で移動し、照準地点近くで分離、衛星情報を得ながら誘導する。同日付の米紙ニューヨーク・タイムズが報じた。核軍縮を進めながらも新たな通常戦力で軍事的優位を確保するオバマ政権の戦略が鮮明になった。【4月24日 共同】
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【招かれざる客、イラン大統領】
なお、今回のNPT再検討会議には、核兵器開発疑惑で追加制裁が検討されているイランのアフマディネジャド大統領も出席しています。
イランも条約加盟国ですので、アメリカとしても「来るな」とは言えません。
イランは追加制裁回避に向け外交攻勢を強めており、NPT参加もその一環とみられています。
今回会議で核不拡散に対する国際社会の意見をまとめたい米国などにとっては、会議進行の不確定要素ともなる「招かれざる客」です。

*****イラン大統領「NPT脱退しない」 1時間半超の大会見******
核不拡散条約(NPT)再検討会議のためニューヨークを訪れているイランのアフマディネジャド大統領は4日、記者会見し、NPTに違反して核開発を進めている疑惑に反論したが、「NPTを改定して公正なシステムにしたい」と述べ、脱退する考えのないことを強調した。
ニューヨーク市内のホテルで行われた1時間半超にわたる会見には、100人以上の報道陣が集まった。
アフマディネジャド氏は、イランに批判的な質問にも淡々とした口調で対応。しかし、米国、国連安全保障理事会などに対しては鋭く批判した。安保理常任理事国などが協議中の対イラン追加制裁については「歓迎はしないが、恐れもしない」と述べた。【5月5日 朝日】
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