孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

止まらぬユーロ信用不安 “ユーロ離脱”や“死のスパイラル”も

2010-05-15 13:07:02 | 国際情勢

(ギリシャ 5月5日 政府の財政赤字削減法案に反対するデモで荒れる市街 巻き込まれた観光客でしょうか? 首都アテネ中心部のデモでは、一部の参加者が投げた火炎瓶が銀行の入った建物に引火、建物が炎上し3人が死亡しました。 “flickr”より By George Laoutaris http://www.flickr.com/photos/laoulaou/4591689924/)

【ギリシャ 年金改革へ24時間スト】
ギリシャが欧州諸国と国際通貨基金(IMF)から3年間で総額1100億ユーロ(約12兆7500億円)の大規模融資を受ける条件となるギリシャ政府の財政赤字削減法案について、反対するデモ隊の火炎瓶による火災で死者3人が出るという混乱の中、ギリシャ国会は6日これを可決しました。
法案には公務員給与や年金の削減、増税などが盛り込まれ、財政危機脱出のための荒療治となっていますが、結果的に国民生活を疲弊させ、デフレにより債務状況をさらに悪化させる危険も指摘されています。

財政再建の根幹となる年金改革については、10日、ギリシャ政府の閣議決定がなされています。
****ギリシャ政府、年金改革法案を閣議決定*****
ギリシャ政府は10日、財政赤字削減策に向け、年金制度改革法案を閣議決定した。
法案は、女性の退職年齢を引き上げると共に、年金の早期受給の条件を厳しくする。
ロベルドス労働・社会保障相は閣議後の記者会見で「現世代だけでなく将来の世代のためにも、年金・医療制度を救済している」と語った。
法案は今後10日以内に議会へ提出され、6月に採決が行われる見通し。与党は議会で過半数を占めている。
ロベルドス労相は、年金制度改革を断行しなければ、政府の負担は2050年に対国内総生産(GDP)比で最大24%に達する可能性があると警告した。【5月11日 ロイター】
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一方、2月のギリシャ失業率は12.1%に上昇(昨年2月の失業率は9.1%)。これは少なくとも過去6年で最高の水準で、債務削減に向けた厳しい緊縮財政措置の実施に伴い、今後さらに上昇するとみられています。
こうした厳しい情勢、緊縮策の提示に対し、国民からは激しい反発も出ています。
ギリシャの公共・民間セクターの労働組合は12日、年金制度改革に抗議し、20日の24時間スト実施を呼びかけています。

【厳しいユーロ防衛】
ドイツの慎重姿勢などでもたつきながらもギリシャ支援を決めたEUは10日、ギリシャ財政危機が他国に波及し、更なるユーロ信用不安が起こることを防止すべく、資金繰りの悪化したユーロ導入国を対象に総額最大7500億ユーロ(約90兆円)を融資する新たな支援制度の創設を発表しました。
また、欧州中央銀行(ECB)も10日、ギリシャ危機の拡大を阻止するため、ユーロ圏の国債や民間債を買い取る措置を初めて導入すると発表、深刻化するユーロの信用不安の解消のため、EUとECBが異例の包括策を打ち出しています。

****EU:ユーロ防衛に90兆円…融資制度創設****
・・・・新制度は「欧州版IMFに向けての一歩」(バロワン仏予算相)とされ、ポルトガル、スペインなどに、ギリシャの影響が波及してユーロが崩壊の危機に陥るのを防ぐのが狙い。新制度を適用して融資を受ける国々には、財政赤字削減に積極的に取り組むことを融資条件に据える。
EU条約は加盟国に対する金融支援の強行発動を原則として禁じているが、自然災害や「制御不可能な例外的な事態」に陥った場合には特例として認めている。非ユーロ圏の英国などが「新制度は禁止されている金融支援にあたる」などと難色を示したため、調整は10日未明まで11時間に及んだ。
ホワイトハウスなどによると、ギリシャ危機によるユーロの信用不安が世界同時株安を招いた事態を踏まえ、オバマ米大統領は9日、メルケル独首相、サルコジ仏大統領と相次いで電話協議し、「EU諸国が市場の信頼を確立するための措置を取る必要性」で合意した。

一方、ECBは国債や民間債券の買い取り措置の導入を決めた。市場や一部首脳や欧州委員会からも、ポルトガルやスペインなどへの危機拡大を防ぐため、ECBに国債購入の検討を促してきたが、国債購入は、ECBの資産劣化を招き、共通通貨ユーロの信認を損なう恐れもあり、ECBは一貫して導入に否定的な考えを示してきた。
しかし、ポルトガルなど深刻な財政危機に陥った諸国の国債は、市場で買い手がなく暴落が続いている。危機の根を断つには、ECBが国債などの買い手となり、市場の不安を抑制する措置が不可避と判断した。【5月10日 毎日】
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こうしたギリシャの財政再建努力、EUの信用不安防止対策にも関わらず、ユーロ安に歯止めがかっていません。
****ユーロ/ドルが1年半ぶり安値、欧州経済を懸念=NY市場*****
14日のニューヨーク外国為替市場では、ユーロが対ドルで1年半ぶり安値に下落した。ぜい弱な欧州経済の回復が緊縮財政措置でさらに弱まるとの懸念がユーロを圧迫した。
ユーロ/ドルは2008年末以来の1.24ドル割れとなった。週間ベースでは4.2%下落し、08年10月26日終了週以来の大幅下落となった。
経済指標が米国の景気回復を示す一方で、ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの歳出削減や増税により欧州経済の成長が遅れるとの見方が投資家の間で強まっている。(中略)
フォレックス・ドットコムの首席ストラテジスト、ブライアン・ドラン氏は「依然として大幅なユーロ下落への調整過程にある。長期の平均は1.18ドル付近で、現在はまだこの水準を上回っている」と話した。・・・・【5月15日 Newsweek】
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99年1月にユーロが導入された際のユーロ/ドルは1.20ドル未満であり、恐らくユーロ売りは今の水準では収まらないのではないでしょうか。

【ユーロ離脱】
信用不安が増大するユーロについては、“ユーロ離脱”という言葉が欧州各国指導者の口から聞かれるようになっています。
3月17日、メルケル首相は独連邦議会で、財政条件満たさない国に関して、「最後の手段だが、ユーロ離脱条項を条約に 盛り込むことを将来、検討しなければならない」との考えを示しました。
ドイツでは、支援に踏み切れば、支援を受ける国が「モラルハザード」に陥り、 同様に財政赤字に苦しむ国々が次々と支援を要請するとの懸念が強く、国民の反発が根強くあります。

当然のごとく、ギリシャのパパンドレウ首相は同日、「ユーロから離脱する可能性はゼロだ」と 強い不快感を示していますが、ドイツ自身も財政赤字のGDP比が02~05年と09年に3%を超えたほか、累積赤字も02年以後、60%を上回る状態が続いており、今回のメルケル発言について、英フィナンシャル・タイムズ紙は 「ドイツ自身がEUにとどまりながら、ユーロを離脱することを考えているのではないか」との見方を紹介しているそうです。【3月18日 毎日より】

また、EUの最大90兆円のユーロ防衛策を巡り、5月7日のユーロ圏首脳会議で、フランスのサルコジ大統領が自国がユーロから離脱する可能性をちらつかせながら、対策に消極的なドイツのメルケル首相に協力を強く迫ったとスペイン紙パイスが14日伝えたえています。
“サルコジ大統領は机をこぶしでたたきながら「(防衛策は)すべての国が関与すべきだ」と強調し、「それができないなら、フランスはユーロに対する態度を考え直さなければならない」とユーロ離脱の可能性を示唆したという”【5月14日 毎日】
フランス、ドイツ、スペイン関係国は、この報道を否定しています。

ギリシャの抱える財政危機は、膨らむ社会保障費の増大で財政悪化が進む他国も同様です。
また、ユーロ圏内の各国財政政策を調整すべき中央集権的なシステムも存在しません。
“出て行け”にせよ、“出て行く”にせよ、そうした発言が出る文脈はいろいろあるにせよ、また、その真偽のほどは定かではないにせよ、そうした“ユーロ離脱”という言葉が表面化すること自体が、傾きつつあるユーロ圏の現状を表しているように思えます。

【死のスパイラル】
今後の展開については、悲観的な見通しが多く語られています。
厳しい財政緊縮策をギリシャが実行できるとは思えない・・・仮に、すべて計画どおりに進んでもギリシャ政府の債務残高は最高でGDP比150%に達し、金利支払いだけで7.5%にのぼる、これは政治的に耐えられないだろう・・・ギリシャ危機は欧州の同様に財政危機にある国々に信用不安という形で伝染する・・・危ないギリシャ国債を大量に抱えるギリシャの銀行が危機に瀕すると、ギリシャの銀行に資金的に依存するブルガリアやルーマニアで信用収縮が起きる・・・ギリシャ国債を抱えるEU諸国の銀行も同様に危機に陥る・・・

最近“死のスパイラル”という言葉もよく目にします。
財政赤字による信用不安で国債金利が上昇し、債務返済コストが更に膨れ上がり赤字が増大する、対応策として厳しい緊縮策をとれば国内景気は悪化し、税収は低下し、更に赤字が増える・・・

各国の財政状況悪化の根底には膨大な社会保障費の存在があります。
各国とも高齢化が進むなかで、今後増大が見込まれ、この“聖域”に切り込むことは政治的に容易ではありません。
第1次大戦後、金本位制の従来経済秩序に固執し、世界大恐慌へと突入した世界経済になぞらえて、現在の世界経済は膨らむ社会保障費への対応がとれず世界恐慌へ至る危険があることを指摘する意見もあります。

また、当時はイギリスなど欧州経済が疲弊し、アメリカが台頭する世界経済秩序の変革期でしたが、現在は欧米先進国経済が停滞し、新興国が台頭する変革期でもあります。
その台頭する新興国が輸出主導から内需主導経済に転換し、先進国からの輸出を引き受けてくれるシステムになれば、新しい経済秩序が形成されるのでしょうが・・・。

コメント
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