孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  NPT再検討会議に反発  ガザ支援船団を攻撃

2010-05-31 22:43:40 | 国際情勢

(5月22日 トルコ・イスタンブールを出港するガザ支援船「Mavi Marmara」と見送る人々 “flickr”より By IHH Humanitarian Relief Foundation/TURKEY
http://www.flickr.com/photos/ihhinsaniyardimvakfi/4638082693/)

【中東非核化構想】
28日閉幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、10年ぶりに最終合意文書の採択にこぎつけましたが、実質的な成果は小幅な前進にとどまったと評価されています。
“「採択とする」。議長が28日夕、最後の全体会合で最終合意文書の採択を宣言すると、会場からまばらな拍手が起きた。大きくもなく、小さくもない。まるで会議の成果を象徴するようだった”【5月29日 毎日】

こうした背景には、“「盛りだくさん」とされた00年会議のように多数の課題を抱えたくない核保有国と、オバマ米大統領が訴える「核兵器なき世界」の追い風に乗り、核軍縮を大幅に進めたい非核保有国の意識の格差があったようだ”【5月30日 毎日】とも言われています。

そうしたなかで最後までもめたのが、イスラエルの核問題を念頭に置いた、中東非核化構想の取り扱いでした。
結局、リブラン・カバクトゥラン議長(フィリピン国連大使)が27日に提示した最終案を原案通り採択しました。
これにより、中東非核化などを求めた中東決議(95年)の履行に関する国際会議を、国連事務総長らが12年に開くことが明記されました。

最大の問題点は、イスラエルを名指するかどうかという問題でしたが、会議への出席を求める国として、NPT未加盟のイスラエルを名指しすることは避けながら、別の文脈で、イスラエルのNPT加盟の重要性に言及した00年会議の最終文書に触れ、すべての中東諸国が非核保有国としてNPTに加盟することを求めるという、中東諸国、アメリカ双方が妥協する形になったようです。

前回会議では、イスラエルをめぐる同様の構図が決裂の主因だっただけに、どういう形であれ、最終文書に「イスラエル」が盛り込まれたことは、アメリカが一定の譲歩をした結果であり、アメリカの姿勢の変化が鮮明となったとも報じられています。【5月30日 産経より】

一方、NPT加盟の非保有国でありながら、平和目的の原子力研究をかくれみのに核開発を進めている疑いが持たれているイランは、会期中、国連安全保障理事会に追加制裁の草案が提示されたため、全会一致による最終文書採択に協力するかどうか懸念されていましたが、最終文書中で名指しの批判が回避されたこともあり、結局は採択に賛成しました。

【オバマ大統領の“確約”】
こうした決定にイスラエルは反発しています。
****決定に従う義務なし=NPT再検討会議を非難―イスラエル首相****
カナダを訪問中のネタニヤフ・イスラエル首相は29日、声明を発表し、28日に採択された核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書について、「深刻な欠陥があり、偽善的だ」と非難。「NPT非加盟国のイスラエルは会議の決定に従う義務はない」と述べた。
また、ネタニヤフ首相は「最終文書は中東の現実や中東や世界全体が直面している真の危機を無視している」と述べ、核疑惑の渦中にあるイランが文書の中で言及されなかったことを疑問視した。【5月30日 時事】
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イスラエルはアメリカ・オバマ大統領から、イスラエルの国益を損ねる内容にはならないとの「確約」を得ていたと主張しています。
****「国益損ねないと約束された」、NPT最終文書にイスラエル反発*****
イスラエルの政府高官は30日、ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相が最終文書採択の前に、イスラエルの国益を損ねる内容にはならないとの「確約」を米国のバラク・オバマ(Barack Obama)大統領からされていたと声明で発表した。
声明は「2週間前、ネタニヤフ首相はイスラエルの戦略と抑止力を大幅に向上させることなどを明確に保障する個人的メッセージをオバマ大統領から受け取った」「イスラエルの重大な国益を損なうような決議が国連(UN)採択されないことを約束された」などとしている。(中略)
ネタニヤフ首相は6月1日に米国でオバマ大統領と会談する。【5月31日 AFP】
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素人的には、イランの核開発疑惑が国連制裁の対象にもなり、イスラエルによる核施設攻撃すら取りざたされるのに、イスラエルの核保有が国際的に放置されるという現状は、やはりダブルスタンダードと言うしかないように思えます。
1日のネタニヤフ首相とオバマ大統領の会談で、今回の問題がどのように触れられるのか注目されます。

【“力”の政策がもたらす孤立化】
今日は、もうひとつ、イスラエル絡みの記事がありました。
****ガザ支援船をイスラエル軍が強襲、10人以上死亡 トルコ強く抗議****
イスラエルによって封鎖されているパレスチナ自治区ガザ地区へ支援物資や援助活動家らを運んでいた支援船団6隻のうちの少なくとも1隻が31日、イスラエル特殊部隊の強襲を受け、イスラエル軍の発表によると少なくとも10人が死亡した。
船団結成に関与したトルコの人道支援団体IHH(Foundation of Humanitarian Relief)のガザ支部はAFPの電話取材に対し、強襲を受けたのはトルコ船籍の船で、トルコ人を中心に15人が死亡したと語った。
一方、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが運営するアルアクサテレビは、死者は20人に上ると報じている。同テレビは、黒服のイスラエル軍兵士がヘリから船へ降下して船上で活動家たちと衝突する様子や、船の甲板に倒れている負傷者の様子を放映した。

イスラエルの民放チャンネル10によると、攻撃したのはイスラエル海軍の特殊部隊で、船の乗客らから斧(おの)やナイフで反撃されたため発砲したという。
船団は、建材などの支援物資約1万トンや活動家ら約700人を乗せ、31日午前にガザ沿岸の封鎖海域に到達する見通しだった。

トルコ外務省はただちにイスラエル大使を呼び、強く抗議。「イスラエルの非人道的な行動を厳しく非難する」「公海上で発生し、国際法違反に相当するこの遺憾な出来事は、2国間関係に取り返しのつかない結果をもたらしかねない」とする声明を発表した。【5月31日 AFP】
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この支援船団については、次のように報じられており、その扱いが注目されていました。
“30日午後3時(日本時間午後9時)のキプロス出発から約6時間後、支援船団を阻止するため、イスラエルのミサイル艇3隻が北部沿岸ハイファの海軍基地を出発した。ミサイル艇に同乗した記者が電話で伝えたが、すぐに電話を切るよう命じられた。
ガザでは封鎖に反対する活動家らが国際社会に対し、支援船団の保護を求めている。船団は当初、29日にガザに接岸する予定だったが、遅れが重なり、今後24時間以内の接岸が見込まれている。ガザではパレスチナ国旗のほか、船団を派遣したギリシャ、アイルランド、スウェーデン、トルコなどの国旗を掲げた船に乗った漁業関係者らが海に出て待機している。
イスラエル側は封鎖を破ろうとする支援船団の試みを「不法行為」と非難。船団をとらえてアシュドッド港にえい航し、反パレスチナ活動家らの身柄を拘束する構えだ”【5月31日 AFP】

中東の地域大国としての存在感を増しつつあるトルコ・エルドアン政権は、昨年1月の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、エルドアン首相がイスラエルのパレスチナ自治区ガザ攻撃をめぐりイスラエルのペレス大統領と激しくやり合い、途中退席するなど、イスラエルへの対抗姿勢を明確にしてきています。

“力”による安全保障を追及し、周辺国との妥協を排し、独自のパレスチナ政策を推し進めるイスラエルですが、一方で地域での孤立化を強めており、長い目で見たとき、こうした強硬策が本当にイスラエルの安全保障に資するのかどうか疑問に思えます。

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