孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス大統領選挙で広がるポピュリズム  選挙は民意を正しく反映するか?

2012-04-24 23:17:39 | 欧州情勢

(「フランスの自由と主権と誇りを取り戻そう。闘いは始まったばかりだ」と“勝利宣言”する、極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏 “flickr”より By Laure Baron http://www.flickr.com/photos/71627575@N03/7105465783/)

【「勝者」は、決選投票に進まなかった3、4位の候補
22日に行われたフランス大統領選の第1回投票では、社会党のオランド氏(57)が首位、民衆運動連合(UMP)の現職サルコジ大統領(57)が2位という予想された結果で、いずれも過半数に届かず、2大政党の候補が5月6日の決選投票に進むことになっています。

今回選挙結果については、決選投票に進む2候補以上に、これまでの最高の得票率を集め躍進した極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏、2桁の得票率で4位につけた左翼戦線のメランション氏(60)の、極端な主張を掲げる左右小政党の善戦が注目されています。

****仏大統領選、3・4位で得票3割 反EUの小党躍進****
仏大統領選の第1回投票の「勝者」は、決選投票に進まなかった3、4位の候補かもしれない。「右」の国民戦線と「左」の左翼戦線の得票は計3割近い。2大政党の各候補を超えた。
欧州連合(EU)への反発をむき出しにし、大衆の不満を刺激するポピュリズム色が強い政党の台頭は、EUや市場が求める財政健全化にも影響しかねない。

「フランスの自由と主権と誇りを取り戻そう。闘いは始まったばかりだ」
22日午後9時。パリ南西部の集会場で国民戦線のルペン氏(43)が叫ぶと、約600人の支持者は「マリーヌ、マリーヌ」とルペン氏の名を連呼。党として過去最高の得票率を記録し、さながら勝利集会だ。
ルペン氏の主張は、経済的に苦しい立場にある人たちに浸透した。初めて選挙で投票したドゥブスさん(22)は各候補の政策を見極めたうえで、「失業者のためになってくれそう」とルペン氏に投票した。水道修理などの資格を持つが、仕事は見つからない。「先が見えない時代だからこそ彼女に大統領になってほしかった」

仕事が少ない不満の矛先は移民に向かう。学生のオレリさん(21)は「手厚い社会保障など、いいところ取りだけする移民の大量流入を許したサルコジに失望した」。
サルコジ政権のEUとの協調姿勢を「フランスの独自性や権利が奪われた」と批判する人も。事務員のアクスさん(41)は「ブリュッセルの官僚の言いなりになり、チーズのつくり方すら自分で決められなくなった」と憤る。「(EUやユーロ圏を脱退しても)物価高や失業はフランスだけで解決できる。各国もフランスにならってEUから脱退するだろう」と話した。

同じころ、パリ北部の広場では赤い旗が振られ、革命歌インターナショナルがこだました。左翼戦線のメランション氏(60)が「大衆はサルコジ時代のページを閉じる決断をした」と演説。「左派の勝利」をたたえた。
立候補表明は1月下旬と遅れたが、最低賃金の大幅な引き上げなど財政緊縮を真っ向から否定。市場経済への歯切れの良い批判が、雇用不安を抱く人々の支持を集めた。投票前の世論調査よりは減ったものの、得票率は2桁。「6月の総選挙で左派の議員を送り込もう」と力を込めた。

サルコジ氏(57)と同じように財政規律優先を続けるのでは――。社会党内の右派であるオランド氏(57)への、そんな不信がぬぐえない層も引きつけた。「経済のグローバル化を支持するオランド氏はサルコジ氏と変わらない」とベルナールさん(68)はみた。

国民戦線が掲げる反移民、反イスラムは退けるものの、EUへの反発や警戒心では共通する。メランション氏は「サルコジとメルケル(独首相)の枢軸支配から脱しよう」と演説を締めくくった。学校教師のアンジェリクさん(43)は「文化や生活様式など国ごとに異なる欧州に一つのモデルを押しつけるのがそもそも間違いだ」と話した。

左右両派で「反EU」が勢いを得たことは、サルコジ、オランド両氏の決選にも影響を与えそうだ。劣勢のサルコジ氏はルペン氏の支持層を相当取り込まねば再選は厳しい情勢だ。社会党の大統領誕生への市場の警戒を拭いたいオランド氏にも足かせとなる可能性がある。(パリ=野島淳、沢村亙) 【4月24日 朝日】
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雪だるま式に膨らむ排他的主張
大衆の不満を刺激して政治目的の実現を図る「ポピュリズム」が目立つのは、極右政党・国民戦線のルペン候補や左翼戦線のメランション候補だけでなく、2大政党のサルコジ、オランド候補も同様でした。
特に、サルコジ大統領は、国民戦線のルペン候補の支持層への浸透を狙って、反移民・反イスラム的な主張を強めています。

****不満利用、支持訴え 右翼が先導、左派も利用****
今回の仏大統領選では、大衆の不満を刺激して政治目的の実現を図る「ポピュリズム」の手法が際立った。失業不安を利用して、厳しい移民規制を求める右翼・国民戦線のルペン氏に押されて、現職サルコジ氏は合法移民の半減を公約した。排他的主張が雪だるま式に膨らんだ。

ルペン氏がやり玉に挙げたのは、イスラム教の教えに従い処理された食肉(ハラル肉)。2月中旬、「パリ周辺で流通している食肉はすべてハラル肉だ」と口火を切り、非イスラム教徒の消費者への背信行為だとして告訴した。
その翌日、サルコジ氏はパリ近郊の中央市場に出向き、「(ハラル肉のような処理をした食肉は)2・5%に過ぎない」と反論。だが、右翼対策を仕切る選挙参謀に説得され、1カ月後には「フランス人が最も心配している課題だ」として大きく軌道修正した。

国民戦線の支持層は、キリスト教の価値観を重んじる年金生活者や高学歴社会から取り残された若者。旧植民地の北アフリカなどから移り住んだイスラム教徒やその家族が増えれば、暮らしを脅かされると受け止める人も多い。ルペン氏はハラル肉の論戦を入り口に移民の家族呼び寄せ禁止や失業中の移民の帰還促進という公約を矢継ぎ早に打ち出し、支持を広げた。

失地回復を急ぐサルコジ氏は、合法移民の受け入れを半分に減らし、移民が家族を呼び寄せる条件としてフランス語の習得などを義務づけると約束。「国民投票で民意を問うことも辞さない」と、主張を先鋭化した。

パリ政治学院のノナ・マヨール教授は「主要政党の候補が右翼の土俵で争えば争うほど、右翼の訴えにお墨付きを与えてしまう。有権者は(サルコジ氏の)まね事よりもオリジナルを好むため、結果的に右翼が勢いづく」と指摘する。

一方、左派政党も、ポピュリズムの手法を使って支持拡大を目指した。右翼のような排他的主張とまではいえないものの、社会党のオランド氏や左翼戦線のメランション氏が「金融界」を経済危機を助長した仮想敵と見立てて攻撃し、低所得者や若者を取り込もうと試みた。

社会学者のピエールアンドレ・タギエフ氏は「危機の渦中ではポピュリズムが深まり、衆愚政治に陥りやすい。それを阻むのは難しい」と警告した。(パリ=稲田信司) 【4月23日 朝日】
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大衆の不満を刺激して政治目的の実現を図る「ポピュリズム」の広がりが、選挙による民意の反映に、突き詰めれば民主主義の機能そのものに、どういう影響を与えるのかが注目されます。

【「子育て中の母親には、2票を与える」】
「ポピュリズム」の問題以外にも、現在の選挙が民意を反映していると言えるのか、また、選挙がもたらした政治情勢が民意に沿うものなのか、朝日が面白い記事を特集しています。

ハンガリーでは、与党が「子育て中の母親には、2票を与える」という改革を試みたそうです。
これは、現在の選挙制度が18歳未満の将来世代の利益を反映していないという考えに基づくものです。

****1人1票」ボクにはないの?〈カオスの深淵****
「一人一票」。この選挙の常識を覆そうとした国がある。欧州の真ん中のハンガリーだ。
与党フィデス・ハンガリー市民連盟は昨年3月、「子育て中の母親には、2票を与える」という項目を憲法改正案に盛り込んだ。選挙権を持たない18歳未満の子どもの代わりに、母親が投票するのを認めようというのだ。ただし子どもが何人いても、追加は1票。ねらいはなにか。

「いまの制度では、18歳未満の意見はまったく反映されない」。フィデス幹部のヨーゼフ・サーイェル欧州議員(50)は、そうまくしたてた。オルバン首相の盟友で、憲法改正案をまとめた委員会のトップを務めた。「この数年で政治のテーマは年金や社会保障が中心になり、高齢者の意見ばかりが通るようになってしまった」
「一人一票」の選挙では、高齢者が増えれば、政治家はその声を重視しがちだ。いまの受益者の立場が優先され、痛みを伴う選択は先送りされる。もっと将来のことを考えるには、若い世代の声を反映させなければならない。それがフィデスの考え方だ。

予想されたことだが、国会では激しい反発を生んだ。野党「新しい政治の形」のアンドラーシュ・シッフェル議員(40)は「将来世代が代表されていないのは事実だが、選挙のルールを変えてその声を反映しようというのはおかしい。有権者は平等だ」と言う。ほかにも「なぜ母親なのか」「高齢者だって将来を考える」「若者が選挙に行けばいいだけの話」などの意見や、「子どもを持つ人が多いロマ人の発言力が強まる」という少数民族への警戒感からくる反発もあった。

フィデスは郵送アンケートで全有権者に問うた。だが結果は歴然だった。回答した4分の3が反対。母親からも厳しい意見が目立った。1男3女を持つイルディコ・ネベローシュさん(35)は「フェアではないし、世代間の対立をあおる」と話した。

オルバン首相は「母親にもう1票」を断念した。
「一人一票」を覆すなんて、やはり荒唐無稽だったのだろうか。
ハンガリーの社会分析が専門のロバート・ガル博士は言う。「今の政治家の決断が、今は投票できない将来の世代の負担となる可能性が大きい。これは民主主義の最大の疑問だ」

選挙の歴史は、「一票」を持つ「一人」を広げる歴史でもあった。財産のある人や身分の高い人だけが参加する「制限選挙」から、貧しくても投票できる「普通選挙」へ、男性だけから女性へ。社会の行方を選ぶ「一票」を将来の市民へとさらに広げる方法はないのだろうか。【4月23日 朝日】
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与党フィデス・ハンガリー市民連盟の右傾化路線は欧州でも評判がよくありませんが、年金問題のように痛みを伴う選択が先送りされる現行政治の改革としては、議論の余地がある問題のように思えます。
日本でも、平均余命も考慮した「年齢別選挙区」という考え方もあるそうです。

****日本では「年齢別」研究も ****
日本では「年齢別選挙区」を提唱する研究者がいる。選挙区を「青年区」(20~30代)、「中年区」(40~50代)、「老年区」(60代以上)に分け、有権者数に応じて各区に議席を割り振る方法だ。

この場合も、高齢化が進めば老年区の議席数が増える。一橋大の竹内幹(かん)准教授(実験経済学)は、年齢別選挙区を前提に、各世代の平均余命に応じて議席を配分すべきだと提案する。例えば、平均寿命が80歳なら、余命60年の20歳は60歳に比べて3倍の余命があるため、20代に配分される議席を60代の3倍とする、という具合だ。竹内准教授は「年を取るにつれて一票の価値は下がるが、生涯を通じて見れば『投票価値の平等』は担保できる。長期的な視点から社会の資源を公平に分配するためにも、選挙制度に年齢を加味すべきだ」と話す。

一橋大の青木玲子教授(経済学)が昨年12月に行ったインターネット調査では、子どもがいる有権者は子育て支援が重要と考え、子どもがいない有権者は年金が重要と考える傾向が強かった。「世代間の再分配が政治課題である以上、選挙制度に次世代を反映する必要がある。財政赤字を食い止める方法として、子どもの代理で親が投票したり、子どもに投票権を与えたりする方法があるのでは」と青木教授は話す。

子どもを持つ親に追加で投票権を与える投票法は、1980年代にハンガリー系アメリカ人学者のポール・ドメイン氏が考案し、「ドメイン投票法」と呼ばれる。青木教授によると、ドイツでも03年と08年に導入に向けた提案があったが、国民投票などを経て、「一人一票に反する」としていずれも実現しなかった。 【4月23日 朝日】
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1議席の政党の意向で、2大政党に託された民意がほごに
一方、オーストラリアでは、2大政党の獲得議席が拮抗した結果、キャスティングボードを握る1議席しかもたない少数党や無所属議員の意向で、2大政党が公約したものとは異なる政策が実現する・・・という“奇妙な”政治状況が生まれているそうです。

****2大政党の谷間 風に乗る〈カオスの深淵****
与党と野党最大勢力がともに公約で反対していた政策が進められる。そんな例がオーストラリアであった。
実現したのは「炭素税」の導入。温室効果ガスを出す企業に課す税金だ。2010年8月の総選挙前、この国の2大勢力である労働党と保守連合はともに反対。ところが、下院(定数150)の獲得議席が労働党72、保守連合73だったことが、波乱を巻き起こした。

主役は環境保護を掲げる「緑の党」。大都市メルボルンで、総選挙では初めて下院で1議席を獲得した。
「やっと機会が来た、と思った」。緑の党のクリスティン・ミルン党首(58)は選挙をそう振り返る。小選挙区制の下院は小政党に不利とされるが、緑の党は弁護士出身の若手を立てて、労組票も取り込んだ。多額の資金をつぎ込んだとされる。それが成功した。

そして選挙後、多数派工作を始めた2大勢力に突きつけたのが「炭素税」。「12年7月までの導入を約束しなければ、協力はしない」
受け入れたのは、政権維持をめざす労働党のギラード首相だった。党の方針を転換。無所属も取り込み、炭素税の関連法は昨年11月に成立した。

首相には「公約違反」の批判が集中し、支持率も伸び悩む。労働党などで連邦議員を10年余り務めたニューサウスウェールズ大のシェリル・カーノウ准教授は「多数派確保のためには仕方なかった、というのが首相の本音だろう」と同情する一方で、2大勢力の方針に託された「民意」がほごにされた点については「今、現実に力を持っているのは緑の党ということだ」。

緑の党はさまざまな政策で労働党と合意書を交わし、実現を図る。歯の治療への保険適用、シドニーとメルボルンなどを結ぶ高速鉄道の建設、政治家の歳費や国会質疑のあり方の見直し……。
インドネシアへの生きた肉牛の輸出を一時差し止めるという騒ぎもあった。現地の処理方法が残酷だ、との批判に緑の党も同調したからだ。

小選挙区は各党の候補者が1人だから人柄より政策で選ぶことになり、政権選択を容易にする。そして二大政党制が定着すれば、「決められる政治」につながる。そういわれてきた。けれど、オーストラリアの「決められる政治」は有権者が思いもよらない政策を決めてしまった。(後略) 【4月24日 朝日】
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問題は多々ある選挙制度よる民主主義ですが、そうしたものによらない政治に比べればまだましで危険も少ない・・・といったところでしょうか。


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