孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシアの天然ガス供給削減で欧州、特にドイツは苦境に

2022-06-24 23:30:04 | 欧州情勢
(独ミュールドルフにあるガス貯蔵施設。ドイツにはロシア産ガスの代替手段がほとんどない【6月24日 WSJ】)

【ロシア 政治的なガス供給削減】
日本では参議院選挙が公示されて選挙戦が始まっていますが、ほとんど熱気や緊張感は感じられないようにも。
しかし、世界はロシアのウクライナ侵攻で大きく揺らぎ、欧米各国は差し迫った危機的状況に置かれています。
欧米だけでなく、中国や中東諸国も新たな国際関係を模索して動いています。
危機的な混乱は、別の見方をすれば新たなものが生みだされる機会でもあります。
一方、微温的な安定のようなものがもたらすものは・・・

ロシアの欧州へのガス供給は従前からその政治利用が取り沙汰されてきました。
ただ、ウクライナ以前について見ると、「ロシアが供給を削減している」云々は、実際は中継国ウクライナなどによる問題、あるいは経済問題であることも多く、むしろロシアは長期の大口顧客である欧州への影響を望んでいないようにも見えました。

しかし、ウクライナ情勢の混迷に伴い、ロシアはウクライナを支援する欧州に対し、天然ガス供給を政治カードとして切り始めたようです。

これは長期的に考えると、欧州・世界の脱ロシア依存を促し、資源輸出を国家財政の基幹とするロシア自身の首を締める行為にも思えますが、ロシアとしてもそこまで追い詰められているということでしょう。

ロシアは技術的問題を理由に欧州向けの天然ガス供給を大幅に削減していますが、欧州、特にロシア依存度の高いドイツ(ガス需要に占めるロシア産天然ガスの割合はウクライナ侵攻前で55%)は極めて難しい状況に直面しています。

****ロシア、ドイツへのガス供給さらに削減 独政府は「政治的」と非難****
ロシア国営天然ガス企業ガスプロムは15日、ロシア産の天然ガスをドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム」経由の1日当たりのガス供給量を、さらに33%削減すると発表した。同社は前日にも約40%の供給削減を発表しており、ドイツ政府は「政治的な決定」と非難している。

ガスプロムは14日、ドイツのシーメンス社製のコンプレッサー設備の「修理」を理由に、供給量を約40%減となる1億立方メートルにする方針を示した。

これに対し、ドイツのロベルト・ハーベック副首相兼経済・気候保護相は翌15日、「政治的な決定であり、技術的に正当な解決策ではない」と非難。修理の必要性は認識しているとしながらも、関連作業は秋まで行われない予定だと指摘し、この削減規模は正当化できないと述べた。

ガスプロムはその後、メッセージアプリのテレグラムを通じて再度の削減を発表。モスクワ時間の16日午前1時半(日本時間同7時半)をもって供給量は最大6700万立方メートルになるとし、「エンジンの技術的な状態」のためガスタービンの運転を停止すると説明した。

ハーベック氏はこれを受け改めて声明を出し、「不安をあおり、価格を押し上げるための戦略であることは明らかだ」と批判した。 【6月16日 AFP】
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ちなみに、ガス供給が減少しているのはドイツだけでなくフランス・イタリアも同じです。

****ロシア産天然ガス、仏へパイプライン経由の供給途絶****
フランスの天然ガス輸送網を運営するGRTガスは17日、ロシアから15日以降、パイプライン経由で天然ガスを受け取っていないと明らかにした。ロシア国営天然ガス企業ガスプロムは今週、欧州への供給を大幅に削減すると発表していた。(中略)

フランスは、ロシアからドイツ経由で自国消費の17%前後に相当する量の天然ガス供給を受けている。すでに年初から供給は60%削減されており、ガス価格が高騰している。

GRTガスは、平時よりも備蓄量を増やしており、現時点での供給に懸念はないとしている。ロシアのウクライナ侵攻後、フランスや他の国々は、スペインを経由したパイプラインを通じて天然ガスの輸入を増やしているほか、船舶を使った液化天然ガスの購入も拡大している。(後略)【6月17日 AFP】
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****イタリア、ガスの「警戒事態」検討 ロシア産ガス供給不足で****
イタリアは、ロシアが天然ガスの供給削減を続けた場合、来週にも「警戒事態」を宣言することを検討している。イタリアのエネルギー会社ENI が3日連続でロシア産ガスの供給不足を報告したことを受け、政府筋2人が17日に明らかにした。

イタリアのガス緊急措置の規定では、ロシアのウクライナ侵攻後の2月末に発令された「事前警戒」から悪化した場合は「警戒事態」、さらに進むと「緊急事態」への3段階を想定している。(中略)

ENIは17日、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムに要請しているガス供給量の半分しか受け取れないと指摘した。ENIはウェブサイトに「ENIの1日のガス需要約6300万立方メートルに対し、ガスプロムは要請された量の50%しか供給しないと表明しており、実際の供給量は昨日とほとんど変わっていない」と記した。【6月18日 ロイター】
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【ドイツ 石炭利用拡大へ 脱石炭目標は維持 警戒レベル引上げ】
各国ともに対応に追われていますが、ドイツは温暖化対策で段階的に削減する目標を掲げている石炭使用を一時的に拡大することに。

****独、石炭利用拡大へ ロシア産ガスの供給減少で****
ドイツ政府は19日、ロシア産天然ガスの供給減少と国内のエネルギー需要に対応するため、石炭利用の拡大を含む緊急対策を講じると発表した。(中略)

ドイツの経済・気候保護省は「ガス需要を縮小させるには発電用のガス使用を減らす必要がある。その代替として石炭火力発電所への依存を高めることになる」と説明した。

ドイツ政府は2030年までに石炭使用を段階的に削減する目標を掲げているが、方針を転換することになる。

ドイツのガス需要に占めるロシア産天然ガスの割合はウクライナ侵攻前の55%から現在は35%に低下。それを埋め合わせるため、ノルウェーやオランダなどからの調達を拡大するとともに、液化天然ガスの輸入を増やしている。 【6月20日 AFP】
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ドイツに続きオランダ政府も20日、ロシア産天然ガスの供給減少に対応するため、石炭火力発電に対し課していた制限をすべて解除すると発表しています。

なお、ドイツは脱石炭目標自体には変更ないともしています。

****ドイツ、2030年の脱石炭目標は維持 化石燃料の利用拡大も****
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を受け、化石燃料の利用拡大方針を示しているドイツは20日、2030年までに石炭火力発電所を閉鎖するという目標については、引き続き期限通りの達成を目指していくと表明した。

経済省のシュテファン・ガブリエル・ハウフェ報道官は定例記者会見で、「2030年の脱石炭達成期限については疑いの余地はない」と明言した。(後略)【6月20日 AFP】
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更に、ドイツはガス供給の緊急計画に関する警戒レベルを引上げています。

****独、ガス調達警戒レベル引き上げ ロシアからの供給減で****
ドイツのロベルト・ハーベック副首相兼経済・気候保護相は23日、ロシアからのパイプラインを通じた天然ガス供給の減少を受け、ガス供給の緊急計画に関する警戒レベルを1段階引き上げ、3段階中第2段階に移行すると発表した。

最高レベルの第3段階ではガスは配給制になる。

ハーベック氏は、西側諸国のウクライナ支援に対する報復として、ロシアはドイツを標的にガスを「武器」として使っていると非難。

第2段階への移行について「ガス供給をめぐる状況の大幅な悪化」を受けた措置と説明し、エネルギーを節約するよう各家庭に訴えた。
現段階では、当面の間は状況に対処できると想定される。 【6月23日 AFP】
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【ロシアのガス供給完全停止も現実味 対策を講じないと冬場に枯渇する懸念も】
対応をとっているとは言え、欧州、特にドイツが苦しいのは間違いないでしょう。

****ロシア産ガス輸入減でEUの苦境鮮明、独産業連盟は景気後退を警告****
 ロシア産天然ガスの輸入が細っている欧州連合(EU)各国が対応に苦慮する状況が一段と鮮明になってきた。

21日にはドイツ産業連盟(BDI)が今年のドイツの経済成長率見通しについて、ロシアのウクライナ侵攻前の3.5%から1.5%に引き下げ、ロシア産ガスの輸入が完全に止まった場合は景気後退(リセッション)突入は避けられないと警告した。

一方、イタリア政府は同日、国内のガス備蓄を増やすための措置を打ち出すと同時に、ガス消費節約に向けて石炭火力発電所を活用する必要があるなら、政府が石炭を購入する方針だと明らかにした。

ウクライナで戦争が始まる前まで、EUは域内の天然ガス消費量の最大40%、ドイツに至っては55%をロシアに依存していた。現在もロシア産ガスはウクライナ経由で欧州に入ってきているものの、その量は減少している。

ドイツにとって重要な供給ルートであるバルト海を通るパイプライン「ノルドストリーム1」の稼働率は40%程度だ。ロシア政府は、必要な修理を西側が妨げていると非難し、欧州はロシアの主張は供給を絞るためのもっともらしい口実だと反論するなど、対立が続く。

ドイツのハベック経済相は、ロシアによる供給縮小はプーチン氏の恐怖をあおる作戦の一環だと指摘し、「この戦略を決して成功させてはならない」と訴えた。

だが現実にはこうしたロシアの姿勢により、欧州ではガス備蓄が進んでいない。EUは域内の貯蔵率を10月までに80%、11月までに90%として次の冬を乗り切ることを目指しているが、足元の貯蔵率は約55%にとどまっている。【6月22日 ロイター】
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“当面の間は状況に対処できる”【前出 AFP】とのことですが、問題は上記記事にもあるように需要が増大する冬場でしょう。

****ロシアのガス供給完全停止も、欧州は今準備を=IEA事務局長****
国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は22日、ロシアはウクライナ危機の中で政治的な影響力を強めようとしており、欧州向けの天然ガス供給を完全に遮断する可能性があると指摘、欧州は今準備する必要があると述べた。

ビロル氏はロイター向けの声明で「ロシアがそこかしこでさまざまな問題を見つけ続け、欧州へのガス供給をさらに減らし、おそらく完全に遮断する言い訳を見つけ続ける可能性を排除しない」とし「欧州が緊急時対応計画を必要とするのは、そのためだ」と述べた。

ロシアからの供給減少は、需要が高まる冬の前に政治的影響力を確保しようとしている可能性があると指摘した。その上で、IEAは最も可能性の高いシナリオとして完全な供給停止は想定していないと述べた。

IEAはこの日発表した投資に関する年次報告書で、欧州はロシアのエネルギー供給の代替確保を急ぎ、効率性と原子力を含めた再生可能エネルギーを大幅に強化すべきとの認識を示した。【6月22日 ロイター】
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ただ゛“今準備する”とは言っても、なかなか難しいことです。

****ロシア産ガス供給停止が現実味 欧州の備えは****
欧州のエネルギー選択肢は急速かつ劇的には変わっていない

半年前には、ロシアがドイツへのガス供給を止めるなどほとんど想像もできない話だった。だが現在、そうしたシナリオが現実味を帯びている。

ドイツは23日、ガス不足の警戒レベルを上から2番目へ引き上げた。ロシア国営ガス大手ガスプロムが先週、パイプライン「ノルドストリーム1」の供給量を減らしたことから、警戒レベルの引き上げは意外ではなかった。それでも、ドイツが懸念を強めていることの表れだと言える。欧州で先週、急騰した液化天然ガス(LNG)と電力の価格は一段高となった。

政治情勢がどうであれ、何十年も確実にガス供給は続いていた。だがロシアのウラジーミル・プーチン大統領は現在、長年にわたる欧州のスポンサーに対して、ほぼ公然とエネルギーを武器として使いたがっているようだ。

ロシアは今年、ポーランドとブルガリアへの供給を中断した。だが両国との契約は終了間近だったため、おおむね象徴的な動きとして受け止められた。

ドイツにはロシア産ガスに代わる選択肢がほとんどない。供給を減らすのは大胆不敵な行為だ。たとえそれが間接的な理由で行われたとしても、だ。ロシアはカナダでメンテナンスを受けたパイプラインの圧縮機が戻らないとして、カナダを非難した。

ドイツはプーチン氏がさらに踏み込んだ行動に出るかもしれないと懸念している。絶好の機会が訪れるからだ。ガスプロムはまもなく、年1回の定期メンテナンスのためノルドストリーム1の稼働を止める。再開は先延ばしされるか、もしくは無期限に延期される可能性がある。

比較的安価でクリーンな化石燃料である天然ガスは、発電や暖房、産業においてその重要性が一段と高まっている。だがパイプラインは簡単には動かせず、新設には何年もかかることから、パイプライン経由のガスは強力な地政学的武器と言える。

稼働が止まった場合、そうした硬直性が、代替手段のない買い手と売り手の双方にとって痛手となる。LNGにはいくぶん柔軟性があるものの、限られた市場にとどまっている。ドイツはかつてもう一つのノルドストリームを支持していたが、今ではLNG施設の建設を急いでいる。

欧州は昨冬、ガス不足に陥るのではないかと心配した。ガスプロムが貯蔵量を異例なほど低水準に抑えていたためだ。これはほんの序の口にすぎないことが判明した。

コンサルティング会社ウッド・マッケンジーの推計によると、ノルドストリームが今後も供給量を45%に抑えれば、欧州の貯蔵レベルは11月初めの時点で69%になる見込みだ。ノルドストリームが完全に稼働を止めた場合、貯蔵レベルは約60%と予想されている。同社のアナリスト、カテリナ・フィリペンコ氏は「どちらの場合も、需要ないしは供給に対する対策を他に取らない限り、貯蔵していたガスは冬の間に枯渇する」と指摘する。

欧州連合(EU)には対策があり、ロシア以外からガスを購入している。LNG価格は、とりわけ中国が新型コロナウイルス流行に伴うロックダウン(都市封鎖)の解除に踏み切ったこともあり、再び押し上げられることになる。

欧州はまた、再生可能エネルギー施設の建設を増やすとともに、省エネ機器を設置しているが、これらは時間を要する。

その一方で、多くの国が石炭火力発電所を再開したり、廃止するのを先送りしたりしている。ドイツが原子力発電所の稼働延長すら検討するかもしれない気配もある。フランスでは運転していない原発が多いことから問題はさらに深刻だ。

欧州各国にはそれぞれ緊急時の対策があるが、ドイツの対策は同地域の経済にとってとりわけ重要となる。今回の動きが意味するのは「ガス会社は古い(契約した)価格で売る必要がない」ということだと、UBSのアナリスト、サム・アリー氏は指摘する。これはガス供給元にとっては朗報だが、大口顧客を直撃する。顧客は契約量を減らすか、値上げしようとする。値上げとなれば、インフレに拍車がかかる。

パイプライン経由のガスが止まれば配給制となり、一般家庭と重要インフラが優先される。多くの産業ユーザーはコスト増と供給減に直面することになる。一部は完全に供給が止められるかもしれない。

インフレ高進はほぼ確実で、失業とリセッション(景気後退)が起きる可能性は非常に高い。「(ドイツは)よく練られた計画を実行するのではなく、大概が瀬戸際政策だ。冬まで時間があまりないことを考えれば、パニックのレベルは意外なほど低い」。シンクタンク、ブリューゲルのゲオルグ・ザックマン氏はこう警鐘を鳴らす。

ドイツはこれまで、ロシアがガスの供給を止めるリスクなどほとんど気に留めていなかった。そうしたリスクが現実のものとなる可能性は急速かつ劇的に変化している。残念ながら、欧州のエネルギー選択肢は急速かつ劇的には変わっていない。【6月24日 WSJ】
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