孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

東欧諸国  ポピュリズムに身を任せ、西欧民主主義を葬り去る動きに

2019-01-10 22:43:59 | 欧州情勢

(1989年11月、「ベルリンの壁」が崩壊【1月5日 JBpress】 
このソ連・社会主義崩壊を流れをつくった東欧諸国は今、EU内に深刻な分断をもたらし、西欧民主主義を葬り去る動きに先鞭を付けようとしています)

【欧州:国内・域内、そして対米関係で深刻化する分断】
日本を含めてどこの国も深刻な問題を抱えていますので、別に今日取り上げる欧州だけが困難な状況にある訳ではありませんが、2018年は欧州にとって国内・域内・対外的な分断が深刻化した困難な一年でした。

****2019年の欧州はどこへ 「広がる分裂の光景」「目覚めよ、欧州」****
欧州連合(EU)の情勢が混沌(こんとん)としている。

EUの要だったメルケル独首相が与党党首を退任し、英国のEU離脱が3月末に迫る。フランスでは反マクロン大統領のデモが尾を引く。独紙は、EUの「東西」と「南北」、さらに各加盟国内の「分断」が深刻だと指摘。(後略)【1月7日 産経】
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英独仏の国内分断、EU域内の東西・南北の対立に加え、「同盟国」アメリカとの関係も悪化しています。

****米、EUの外交的地位を格下げ 事前通知なし****
欧州連合(EU)当局者は10日までに、米国のトランプ政権がEUの駐米大使や首都ワシントンにある代表部への外交的な処遇について、各国や各大使らと同等の地位から国際機関の代表並みに格下げしたことを明らかにした。

CNNの取材に応じたEU当局者によると、格下げはEUのオサリバン駐米大使が昨年12月、ブッシュ元大統領の葬式に参列した際に判明した。格下げに関するEU側への事前通知はなかったとしている。

米国のオバマ前大統領は2016年、EU大使を国家の大使級に格上げすることを承認。この判断を覆した今回の一方的な措置にEUは不快感を示している。ワシントンの各国外交官も「アマチュア」「外交的な規範に背く行動」と非難。格下げの背後に政治的な意図があるとの見方も出ている。

トランプ政権の発足後、米とEUの関係は貿易、イランの核合意や気候温暖化対策に関する国際協定などをめぐり対立が目立つ。米国はEUに影響を及ぼす安全保障政策でも事前折衝しないなどの行動を見せている。トランプ大統領はEU批判も口にしている。

EUの外交的な格下げについて米国務省は多数回の問い合わせに回答していない。格下げの措置が決まった時期やその理由、決定を下した責任者もわかっていない。EUに口頭もしくは文書で通知しなかった理由も不明。

国務省はCNNの問い合わせに、米政府機関の一部閉鎖の影響を受け、返答出来ないとの自動メッセージで対応するのみとなっている。【1月10日 CNN】
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“加盟国との2国間の通商交渉を認めず、米国に巨額の貿易赤字をもたらすEUへの嫌悪感を隠さないトランプ大統領の意向が背景にあるのは確実。”【1月9日 共同】とのことですが、同盟国へのこうした対応はトランプ政権の強引・一方的で狭量な姿勢を示すものに思えます。

欧州国内・域内の分断、EUとアメリカとの関係の悪化に、制裁を受けるロシアは虎視眈々とつけこむ機会を狙っています。

****RBK(ロシア) 米欧の足並み乱れを注視****
ロシアは、米国とEUが疎遠になり、ロシアが影響力を行使できる空間が広がることや、国際的な対露制裁の枠組みが弱体化することに期待している。
 
露有力経済紙のRBK(電子版)は昨年12月、ロシアとEUの今後の関係を占う一連の記事を掲載。米欧の関係を悪化させうる要素として、通商や通貨をめぐる競争▽対露制裁での足並みの乱れ▽シリア内戦への対応−を挙げた。

また、英国のEU離脱やEU内でのポピュリズムの台頭に象徴される「EU懐疑論」の高まりも、ロシアとEUの関係を左右する変数になるとした。(後略)【1月7日 産経】
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なお、ロシアが欧州各国で台頭する極右勢力と密接な関係を持っていることは周知のところです。

【ポピュリズム・強権政治が台頭する東欧諸国】
上記のような困難な状況にある欧州ですが、今日取り上げるのは「東西」の分断・対立、つまり東欧の問題です。

****東欧革命30年 強権政治が台頭、EUと溝深める****
旧ソ連圏の東欧諸国で1989年に共産党独裁体制が相次ぎ倒れた革命から今年で30年。各国は民主化の道を歩んできたが、近年は強権政治の台頭など過去の取り組みを後退させるような動きが目立ち、欧州連合(EU)とも対立する。東西の亀裂をどう克服するか。EUには試練だ。
 
「加盟国を率いることがどういうことか、理解していない」。EUのユンケル欧州委員長は昨年末、独メディアでこうぼやいた。矛先は1日から半年間、輪番制のEU議長国を初めて担うルーマニア。その手腕に先立って不安を示した。
 
EU最貧国の一つのルーマニアは汚職が深刻だ。EUの特別な監視下で改革してきたが、2016年に社会民主党が政権を再び握ると、辣腕を振るった汚職対策局の長官を解任し、捜査のハードルを高める法改正などを推進。欧州委員会は昨年11月、改革が「後戻りしている」と警告した。
 
議長国は加盟国の調整などを担い、英国のEU離脱も課題に残る。「他者に耳を傾ける必要がある」。ユンケル氏は議長国の自覚を促すが、ルーマニア最大の実力者で汚職事件に問われるドラグネア社民党党首は「二流国扱いはもう認めない」と反発。同国がハンガリーやポーランドの強権政治に倣う不安もくすぶる。

一方、法の支配や表現の自由などを揺るがすハンガリーやポーランドは、EUの制裁手続きの圧力を受けても強気を崩さない。
 
ハンガリー・ブダペストでは5日、「奴隷法」と批判される労働法改正などへの抗議デモが昨年末に続き再開され、野党など数千人が結集した。

だが、圧倒的な議会勢力を持つオルバン首相は動じない。「西欧が野党を利用して自らの考えを強要しようとしている」とデモを批判した上、「20世紀に奪われた自尊心を取り戻す」と主張した。
 
ポーランドのモラウィエツキ首相は2日、東欧の独裁主義的な傾向への批判を「完全な間違い」と英紙で否定し、「改革が必要なのはEUだ」と強調。同国の保守系与党、法と正義は5月の欧州議会選挙に向け、EUに懐疑的なイタリアの与党、同盟との連携を模索する動きも見せている。

「ポピュリズム(大衆迎合主義)やナショナリズムは東欧に限ったものではない」。独紙フランクフルター・アルゲマイネはこう指摘する一方、西欧と東欧の間には「師弟関係」のような意識が強く残り、東欧では「その感情が政治利用されている」と分析する。
 
EUと対峙する東欧では一方でロシアや中国への傾斜も目立つ。オルバン氏はプーチン露大統領らをたたえ、中露に接近。

チェコでは昨年末、情報機関が中露の諜報活動を警告する報告書をまとめると、EUに批判的で親中露派のゼマン大統領が「ヒステリー」と一蹴。EUの東西結束の乱れは、中露につけ込む隙を与えかねない。

【用語解説】東欧革命
第二次世界大戦後、ソ連(当時)の勢力下にあった東欧の社会主義国で1989年、相次ぎ共産党独裁体制が崩れた一連の民主化革命。同年12月に東西冷戦の終結、91年にはソ連の崩壊に至った。

ポーランドで89年6月に東欧初の限定的な自由選挙が行われ、ハンガリーでは10月、社会主義労働者党が一党支配放棄を宣言。11月に東西ドイツ分断の象徴「ベルリンの壁」が崩壊し、12月になると、チェコスロバキア(当時)で「ビロード革命」が成功。ルーマニアでは独裁者チャウシェスク大統領が処刑された。【1月7日 産経】
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【共産主義を打破する先頭に立った東欧諸国が今度は、民主主義を葬り去る動きに先鞭を付けようとしている】
このあたりの東欧の動きについて、舛添要一氏は欧州民主主義の歴史を俯瞰しながら、“ソ連に押しつけられた共産主義を打破する先頭に立った東欧諸国が今度は、民主主義を葬り去る動きに先鞭を付けようとしている”と指摘しています。

****2019年、ヨーロッパの民主主義が試される年になる****
(中略)
12年周期で動くヨーロッパ社会の法則
若い頃、フランス、ドイツ、スイスなどでヨーロッパ史の研究に携わったが、社会主義という観点から、第二次世界大戦後の欧州について、私は12年周期という法則性を唱えたことがある。

ドイツは国土を二分されたが、ヨーロッパは自由な西側とソ連圏の東側に分断された。しかし、東欧諸国は、チェコのように、それ以前に自由な民主主義を経験した国もあり、民衆はソ連の軛から逃れ自由を渇望する動きを見せ始める。(中略)

東欧諸国の経済改革の試みは、ソ連にも影響を与え、1985年3月に政権の座についたゴルバチョフはペレストロイカを開始する。そして、グラスノスチ(情報公開)や民主化を実行していったが、それが東欧諸国の改革に弾みをつけることになり、1989年11月のベルリンの壁崩壊へとつながっていったのである。

1991年12月25日、ソ連邦は崩壊し、ロシア連邦が成立した。1980年からほぼ12年が経過している。

「ベルリンの壁」崩壊で熱狂に包まれた欧州が・・・
今年は、ベルリンの壁崩壊から30年の節目である。当時、ブランデンブルク門近くの壁をハンマーで叩き割りながら、テレビ中継で日本の視聴者に東西冷戦終結の意味を解説したことを思い出す。あの熱狂が嘘のように、今日のヨーロッパでは不安と不満と混乱が広がっている。

イギリスでは、EUからの離脱案がまとまらず「合意なき離脱」となってしまう可能性がある。そうなると、イギリスのみならずEU、そして世界に混乱が広がるだろう。

フランスでは、改革を試みるマクロン政権が、毎週末に繰り返される反政府デモによって改革のテンポを緩めざるをえなくなっている。ドイツでは、メルケル時代が終焉を迎えつつあるが、それに伴って反移民の右派勢力が台頭してきている。イタリアでは、反移民の大衆迎合政権が、ばらまき予算を組んで、EUと緊張関係にある。

反移民、ポピュリズムの波はヨーロッパ全体に波及し、スウェーデンやベルギーでは連立政権の枠組みが決まらない状況が続いている。

以上のような西ヨーロッパや北ヨーロッパについては、日本でも注目されるが、ポーランドやハンガリーのような東欧諸国も今後の民主主義の動向に大きな影響を与えることを忘れてはならない。

東欧に広がる民主主義を葬り去る動き
先述したように、20世紀において社会主義体制の崩壊に果たした東欧諸国の役割は大きい。21世紀になって、東欧諸国などの加盟によって、EUが拡大していった。

2004年5月に加盟したのが、チェコ、スロヴァキア、ポーランド、ハンガリー、スロヴェニア、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、マルタ、キプロスの10カ国である。2007年1月にはブルガリアとルーマニアが加盟している。

イギリスがBREXITを決めた背景の一つはEUに加盟したポーランドからの移民の急増である。これがイギリス人労働者の職を奪い、賃金を下げているという不満が、EUに対して爆発したのである。

ハンガリーでは、米ソ冷戦時代に共産党政権を批判し、ベルリンの壁崩壊への先駈けを造った若き活動家、ビクトル・オルバンが今や首相となって国を統治している。

彼は、政権党「フィデス」を率いて、反移民政策などで大衆を煽り、大衆の支持さえあれば民主主義的価値観が損なわれてもよいという「自由でない民主主義(illiberal democracy)」を唱道していることで有名である。

ポーランドでは、極右政党「法と正義」が政権に就いているが、司法に政治介入したり、ナチス占領下でポーランド人が行ったユダヤ人迫害という歴史的事実を否定したり、右寄りの姿勢を強めている。

チェコも同様で、一昨年10月の下院選挙で中道右派の「ANO2011」が勝利し、「チェコのトランプ」の異名を持つ富豪のバビシュが首相に就任した。因みに、日系のトミオ・オカムラ率いる極右政党「自由と直接民主主義」が第3位の議席を獲得し躍進したことも話題を呼んだ。

ソ連に押しつけられた共産主義を打破する先頭に立った東欧諸国が今度は、民主主義を葬り去る動きに先鞭を付けようとしている。

東欧から始まった自由化の動きが、30年後に「逆コース」を辿り、ポピュリズムに身を任せようとしている。

大衆民主主義においては、政治家は、善悪二元主義で、敵を作り上げて徹底的に攻撃し、支持率をあげるという安易な手法を採用しがちである。

それがまさにポピュリズムであるが、ユダヤ人を諸悪の根源としたヒトラーの大衆操縦法と大同小異である。東欧を含むヨーロッパ諸国の政治の行方は、民主主義の将来を左右しそうである。【1月5日 舛添要一氏 JBpress】
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“善悪二元主義で、敵を作り上げて徹底的に攻撃し、支持率をあげる”というポピュリズムの弊害が顕著なのはハンガリー・ポーランドなど東欧だけでなく、欧州各国の極右・ポピュリズム勢力にも見られることであり、また、民衆主義の総元締めアメリカ・トランプ政権はまさにその典型でもあります。

【ハンガリーの「奴隷法」抗議デモ ポーランド・イタリア、EU懐疑派結集の動き】
西欧民主主義を否定し、中国・ロシアをイメージした「自由でない民主主義(illiberal democracy)」を唱道するハンガリー・オルバン首相ですが、いわゆる「奴隷法」への抗議運動は年明けも続いてはいます。

****ハンガリーの「奴隷法」抗議デモ、年明け後初開催で6000人参加****
ハンガリーの首都ブダペストで5日、保守派のナショナリストであるオルバン・ビクトル首相に対する抗議デモが行われ、約6000人が参加した。同国では昨年12月に成立した改正労働法について、「奴隷法」と呼んで反対する人々がデモを繰り広げている。
 
12月16日にブダペスト中心部で約1万5000人が集結してピークに達した一連の抗議デモの参加者数は今回、年明け後に再び盛り上がりを期待し、数万人の動員をもくろんだ野党と労働組合らの予想をはるかに下回るものとなった。
 
12月12日に可決された改正労働法は、雇用主が要求できる残業上限を年間250時間から400時間に引き上げるほか、残業手当の支払いを最大3年延長できるようにするもの。
 
政府は、人員不足に苦しむ雇用主に必要な法改正で、長時間勤務を希望する労働者にも恩恵をもたらすと主張している。
 
またこれとは別に野党各党は、司法の独立を脅かしかねないとする最近の諸改革の撤廃も要求。さらには政府の広報機関と化したと野党が批判する公共メディアへの、より広範な自由を求めている。
 
この抗議活動では、対立の絶えない野党各党らが団結し、組合も水面下でこの動きを支援。同法が撤廃されない場合、ゼネストの実施も辞さない構えをみせていたた。
 
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を敬愛するオルバン首相について、昨年4月に3期目の首相再選を果たして以降、同首相に批判的な人々は、「狭量な民主主義」をもたらす諸改革の実現を追求していると評している。 【1月6日 AFP】
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年明け後も続いてはいますが、“約6000人が参加”ということで、政権を揺るがすには一桁数が少ないようにも見えます。

一方、裁判官人事への権限拡大など司法介入を強めるポーランドの「法と正義」カチンスキ氏には、5月に行われるEUの欧州議会選挙を見据えて、イタリアの右翼勢力「同盟」を率いるサルビーニ副首相兼内相が接近しています。

****EU懐疑派、欧州議会選へ結集模索 伊内相、ポーランド実力者と協議****
イタリア右派与党の同盟を率いるサルビーニ副首相兼内相が9日、ポーランドを訪問し、同国の保守系与党「法と正義」のカチンスキ党首と会談した。5月に行われるEUの欧州議会選挙に向けた連携について協議。

EUに懐疑的なポピュリズム(大衆迎合主義)勢力による会派や欧州の東西を超えた結集を目指す動きが本格化してきた。
 
「欧州を救いたい者の同盟を築く」。AP通信などによると、サルビーニ氏はポーランドの最高実力者、カチンスキ氏との会談後の記者会見でこう語り、欧州議会選の協力について話し合ったと説明。EUを牽引する「仏独枢軸」への対抗心もあらわにし、「欧州の新たな春」を目指すと訴えた。
 
欧州議会選はポピュリズム台頭を受けた「EU懐疑派」対「親EU」の戦いとなる。政治サイト・ポリティコ(欧州版)の最新予測では、中道右派・左派の2大会派はそれぞれ第1、2勢力を保つが、総議席705の過半数を割ると予測される一方、同盟や仏極右の国民連合などの会派は60議席で倍近く増やす見通し。
 
ただ、EU懐疑派は他の会派にも分散しており、これらがまとまれば第3勢力への一段の躍進も視野に入る。サルビーニ氏は一大勢力を築くことで、10月末で任期が終わるユンケル欧州委員長の後任選びやEUの政策への影響力も増大を図る狙いだ。
 
一方、法と正義も難民・移民の受け入れ反対や司法の独立を損なう改革をめぐりEUと対立。同党報道担当者は「相互理解で満たされた前向きな対話だった」とカチンスキ、サルビーニ両氏の会談を評した。
 
サルビーニ氏は中道右派に属するハンガリーのオルバン首相にも接近。ドイツの新興右派、ドイツのための選択肢もサルビーニ氏との連携を排除していない。
 
ただ、懐疑派勢力も各国の主権を重視し、EU批判で立場が一致しても、ロシアに対しては同盟などが融和的な一方、法と正義は強く警戒。移民問題でも利害が対立しており、「大同団結」がどこまで実現するか不透明な要素もある。【1月10日 産経】
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欧州は、3月29日を期限とするブレグジットの成り行き、5月に行われるEUの欧州議会選挙と、今年も多難な一年となりそうです。


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