孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カンボジア、ミャンマー 「経済回廊」が導く物流革命

2015-07-06 21:46:20 | 東南アジア

(ハノイから昆明を経て南下しバンコクに至る緑のラインが、中国の“南北経済回廊”(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/kaikaku/tekisei_k/pdfs_2014/18_haifu.pdf

日中のメコン地域開発支援競争
****日本政府によるメコン川流域への投資・・・AIIB対抗が狙い!=中国メディア****
中央人民広播電台(中国中央人民ラジオ局)は5日、日本国民の多くが「生活が苦しい」と訴えるなかで、日本政府がメコン川流域5カ国(タイ・ミャンマー・ベトナム・カンボジア・ラオス)に対して向こう3年間に7500億円の政府開発援助(ODA)を提供することを発表したと伝え、その意図は「中国をけん制することにある」との分析が出ていることを報じた。

記事はまず、日本の厚生労働省が以前発表した調査報告において「62.4%の家庭が『今は暮らしが厳しい。政府による補償がないと回答した」と紹介。「日本の経済はますます悪くなっているのか? 政府は本当にお金がないのか?」と疑問を投げかけた。

そのうえで、4日に東京で開かれた「日本・メコン地域諸国首脳会議」において、安倍晋三首相が「日々経済の力強い発展を実現しつつあるメコン川流域は、日本にとって発展の潜在力に満ちたパートナーである」と強調したことを紹介。さらに、今後3年間で同地域に7500億円の政府開発援助を提供することを約束したと伝えた。

また、首脳会議で採択された「日・メコン協力のための新東京戦略2015」において、同地域の経済発展を実現するうえで人材育成や環境保護などの「ソフトウェア」面の措置が重要であるとともに、防災、気候変動対策、水資源管理の措置も必要であることが盛り込まれたとした。

さらに、会議では安倍首相が安全保障関連法案に対する理解を各国首脳に求めたのに対し、5カ国の首脳が戦後70年における平和国家としての日本の発展を評価し、地域の安定と発展のために引き続き貢献することに期待を寄せたとの報道が出たことを紹介した。

記事はさらに、日本企業がメコン川流域への投資を絶えず増やしており、日本政府が現地のインフラ建設を通じて日本企業を助け、日本経済をけん引させようと考えているとする分析が日本メディアから出たことを伝えた。

そして、高品質なインフラ建設、技術移転や人材育成重視の援助を「日・メコン協力のための新東京戦略2015」に盛り込んだ背景には、中国による支援内容との差別化を図って日本の存在感を高めるとともに、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)の協力を強化して中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対抗する狙いがあるとの見方も出ているとした。【7月6日 Searchina】
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4日に東京で開かれた「日本・メコン地域諸国首脳会議」は日本でもそれほど注目されていた訳ではありませんが、中国がこの件を取り上げるということは、中国自身のメコン川流域地域・東南アジアへの関心の高さを反映しているとも言えます。

日本国民の多くが「生活が苦しい」と訴えるなかでの政府によるメコン川流域地域への多額の支援云々はともかく(それはそれで、中国に心配してもらう以前に、日本国内で議論すべき点でしょうが)、日本もこの地域を最重要視しており、中国の進出を警戒・牽制する動きがあることは事実でしょう。

下記は、7年前の2008年3月31日ブログ“大河メコン 進む「メコン川流域開発計画」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080331)で記載した、日本と中国の援助競争の基本的な構図です。

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現在進められている主な道路プロジェクトには、ベトナム中部・ダナンからラオス・タイを横断してミャンマー・モーラメインに至る“東西回廊”、中国・昆明から南下しラオスを通過してタイ・バンコクに至る“南北回廊”(昆明からベトナム北部・ハノイにまで連結します。)、バンコクからカンボジア・プノンペンを経由してベトナム南部・ホーチミンに至る“第二東西回廊”(南部回廊)があります。

陸続きの中国が経済力をバックに南北回廊を整備しながら、各国との結び付きを強めているのに対抗して、日本政府は今年(2008年)1月16日に東京で開かれた初の日・メコン外相会議で、東西回廊、第二東西回廊整備に2000万ドル(約23億円)の無償資金協力を表明、対東南アジア外交の再構築を図っています。
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カンボジア:「きずな橋」に続いて「つばさ橋」】
比較的最近の話題としては、“南部経済回廊”(第二東西回廊)の一部でもある、カンボジア東部を流れるメコン川にかかるネアックルン橋(つばさ橋)が、日本の支援で4月に完成しています。

****メコン川に橋 タイ~ベトナム結ばれる****
カンボジアのメコン川に架かる新たな橋が6日開通し、タイの首都バンコクからカンボジアを経てベトナム南部のホーチミンまでが一本の道路で結ばれ、物流の活性化につながることが期待されています。

この橋は、日本のODA=政府開発援助の無償資金協力によって、カンボジア南部を流れるメコン川で建設されたもので、全長は2200メートル余りとカンボジアでは最大規模となります。

現地では6日、カンボジアのフン・セン首相や日本の西村国土交通副大臣が参加して記念の式典が開かれ、日本とカンボジア両国の3世代6組が橋の渡り初めを行って開通を祝います。

これまではメコン川を渡る際に数時間のフェリーの待ち時間があり、物流の妨げとなってきましたが、橋の開通により、これが解消されることになります。

現地に進出している日系の物流企業も、新たにベトナムから隣国カンボジアに向けた生鮮食品の輸送ビジネスを始めるなど、国境を越えた物流の活性化につながることが期待されています。

また、ASEAN=東南アジア諸国連合が進める域内の経済統合に向けて、弾みがつくものとみられます。【4月6日 NHK】
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ネアックルン橋(つばさ橋)は、カンボジア国内でメコン川本流に架けられた橋としては、「きずな橋」に次ぐものです。

「きずな橋」は、プノンペンとラオス国境を結ぶ国道7号線が、コンポンチャムでメコン川を渡るところに架けられており、「つばさ橋」同様に日本のODAを活用して建設されたました。

“橋の名前も、日本語の「きずな」をそのまま使って「きずな橋」と命名され、現地でも使われています。また、この橋は、日本・カンボジア友好の象徴として、カンボジアのお札(500リエル札)にも描かれています。”【2008年4月1日 カンボジア経済 http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/c2e922dc14ed595c6df35a80355272a8

いろいろ問題も指摘されるODAですが、現地生活の改善に役立っているのであれば喜ばしい限りです。

ミャンマーの戦略 ミャンマー的事情も
ASEAN=東南アジア諸国連合は、今年12月、「AEC=ASEAN経済共同体」を発足させる予定となっています。

内政不干渉を原則とするASEANですので、EUのような政治的共同体ではありませんが、「ヒト・モノ・カネの動きが自由化」された共同体形成で経済的発展を促進させようとするものです。

中国の進める南北経済回廊にしても、日本が支援する東西経済回廊、南部経済回廊にしても、来るべきAECにおける物流の根幹を形成するものとなります。

中国・日本の支援に限らず、物流の飛躍的改善を目指して、各国で道路網の整備が進んでいます。

ミャンマーでは、ベトナム、ラオス、タイを横断する“東西経済回廊”と、ミャンマーを縦断する“アジアハイウェー1号線”をつなげることで、ASEAN諸国との物流の大幅拡大を狙っています。

タイ国境に近いミャワディからコーカレイ間の約44キロは、従来の道路は険しい山道で、道幅も狭く、奇数日・偶数日で通行方向が変わる、1日おきの片側一方通行を強いられていました。

このため、陸路を使うと商品が壊れたり、輸送時間のめどがたたなかったりするため、海上輸送が主流でした。

ミャンマー政府は、物流の妨げとなってきたこの道に変わる、トラックがすれ違える2車線を確保した新たなバイパス道路の建設し、今月完成しました。

このバイパスにより、この区間について、今まで2時間、あるいは数時間かかった山道がわずか40分で通行できるようになったというだけでなく、悪路で製品が壊れる、故障車があると修理できるまで後続車は待ち続ける・・・といったことがなくなるため、陸上輸送の可能性が拡大します。【4月6日 NHKより】

もっとも、この地域は少数民族カレン族の武装勢力が“管理”している地域で、通行する車両に通行料(賄賂)を要求するという、極めて“ミャンマー的な”問題もあります。

****@ミャンマー・タイ国境)政府と武装勢力の共存*****
「ARMY」。胸元にそうプリントされたTシャツに迷彩色のズボンをはいた若者が、私たちの車の行く手を右手で遮った。「1千チャット(約100円)」と若者が言う。通行料だ。

運転手が「領収書は出るか」と話しかけると、若者は無表情で「ない」と言いながら手渡された千チャット札をつかむ。後方には仲間の戦闘員たちがたむろしていた。


ミャンマー南東部カレン州コーカレイ東郊。タイ国境へと続く道が、難関のドーナ山脈越えに差し掛かったところだった。「DKBA(民主カレン慈善軍)だよ」。車の窓を閉めた後、運転手が苦笑いした。
 
DKBAは2011年に政府と停戦を結んだ少数民族カレンの武装勢力だ。別の武装組織カレン民族同盟(KNU)の関係者によると、DKBAの部隊の一つが「生計」を立てるため、ゲートをつくって車から勝手に金を取っている。一帯は政府側の勢力範囲だが政府軍も黙認しているのだという。(後略)【2014年11月13日 朝日】
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カレン族にあってもDKBAは早くから政府と停戦協定を結んではいますが、それでも武装解除されている訳でなく、ときに政府軍との間で衝突も起こっているようです。

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ミャンマー政府は停戦に応じた武装勢力に車の輸入許可などの利権を与えていると報じられている。
 
かつて国境地帯を支配した武装勢力は密貿易や通行料徴収などで資金を得ていたが、1990年代以降の政府軍の攻勢で弱体化。停戦に応じる背景には資金難があると指摘されている。

一方、政府側も和平を「進展」させるため、武装勢力側に多少の商業活動の余地を与えている。
互いに武器を持っているためいつでも戦闘は起こりうるが、両者の思惑の一致がいまの国境地帯の「安定」を保っているように思えた。【同上】
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もうひとつ、ミャンマー政府が重視しているのが、“南部経済回廊”の終着点にある、ミャンマー南部のダウェーの開発です。

****アジア巨大経済圏 ミャンマーの戦略****
有馬
「確かにミャンマー国内の道路、他の国に比べると整備が遅れてるのかなという印象はありますよね。
ただ一方で、それが整った時は大きなチャンスになると、こういうことですね?」
渡貫記者
「そうですね。ただ、ミャンマーが見ているのは、ASEANにとどまりません。ミャンマーは、さらに西にあるインドとか中東、アフリカを見据えています。」
有馬
「ASEANと、西にありますものね。」
渡貫記者
「その玄関口として、注目されているのが南部経済回廊の終着点にある、ミャンマー南部のダウェーですね。
バンコクから西に250キロ余りと近く、ここに大規模な工業団地や港湾施設を整備する計画が進んでいます。
ここに工業団地や港湾施設ができますと、例えば、これまでタイの工場で作られた自動車などは、マラッカ海峡を通ってインドなどに輸出されていましたが、今度はミャンマーに陸路で運んで、あるいは、ミャンマーで組み立ててインドなどに輸出することができるようになり、輸送時間やコストの削減につながると期待されているのです。」
有馬
「大きな近道になるということですね。」
渡貫記者
「そうなりますと、この巨大市場インドへのアクセスが飛躍的に高まることになります。【4月6日 NHK】
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ダウェー開発については、2012年2月27日ブログ“ミャンマー 「制裁解除後」にらんで、大型開発と海外からの企業進出”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120227)でも取り上げました。

****ダウェー深海港開発計画****
タイ最大手の建設企業「イタリアン・タイ開発」(ITD)社が旧軍事政権との間で開発契約を締結。

日本の鹿島臨海工業地帯のように砂浜を掘り込んで大型船舶が接岸できる港を建設し、その周囲に発電所、石油精製施設、工業団地などを配置する。

同社によると総面積は東京・山手線の内側の約4倍、250平方キロに上る。タイ国境から160キロという近さを生かし、山間部に道路を建設してタイ側と直結。タイ、ベトナムなどインドシナ半島からインド洋方面へ向けた輸出拠点や、安い人件費を生かした加工基地としての役割を狙う。 【2012年2月3日 毎日】
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日本主導で進めているヤンゴン市内に近いティラワ経済特区の8倍ほどの面積だとか。

ただ、タイ資本主導のダウェーの事業は資金面などで問題も多いと聞いていましたが、協力を求められていた日本も正式に事業に参加することになりました。

****ダウェー経済特区、官民支援 「南部回廊」の生産・物流拠点期待****
日本・メコン地域諸国首脳会議が4日、東京都内で開かれ、日本政府はミャンマー南部のダウェー経済特区開発への協力を正式表明する。

ダウェーは東南アジアを結ぶ「南部経済回廊」の生産・物流拠点になることが期待され、タイとミャンマー両政府から日本に技術、資金面での支援が求められていた。

日本企業も関心を寄せており、三井物産や伊藤忠商事などが参画を検討し、豊田通商はタイ国境付近のミャンマー側で部品メーカーの進出を後押しするテクノパーク建設の検討に入った。日本政府も、タイからダウェーまでの未舗装周辺道路を円借款などで整備する方針だ。

3日に日本貿易振興機構(ジェトロ)が都内ホテルで開催した「メコン5カ国経済フォーラム」では、5カ国の首脳が一堂に会した。ミャンマーのテイン・セイン大統領は「ダウェーは年末の東南アジア諸国連合経済共同体(AEC)の発足の大きな力」と歓迎し、タイのプラユット首相も「日本の鉄道や道路などインフラ整備に期待したい」と民間投資を呼びかけた。

タイで工場を持つ日本企業は最近の人件費高騰で製造工程の一部を近隣のカンボジアやミャンマーなど人件費の安い国に移し、競争力を高める「タイプラスワン」の動きが加速。実際にメコン5カ国の日本商工会議所への登録企業数はこの3年で約1000社増えた。

今回、日本政府がダウェー開発参加を正式表明することで、ベトナム南部からカンボジア、タイ、ミャンマーを横断する南部経済回廊の利便性が増し、「日本企業はメコン域内の投資戦略が立てやすくなる」とジェトロの高原正樹ヤンゴン事務所長は話す。(中略)

ダウェー経済特区は鉄鋼や石油化学も含めた工業団地に加え鉄道、電力・送電線網を含む壮大な大規模開発。三井物産や伊藤忠商事に加え、トヨタ自動車など日系自動車メーカーも「インド洋やアフリカをにらむ新物流ルートを確保できる」と関心を示している。【7月4日 SankeiBiz】
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現地経済発展の牽引ともなり、同時に日本企業のメリットも大きいということであれば、大変結構な話ですが・・・・。現地での摩擦を最小限にとどめて、中国とは違う、日本の良識ある開発を見せてもらえれば、もっと結構なことです。

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そもそも日本のASEANへの投資額は、2兆3,000億円と巨額なんですね。
日系企業が海外であげる利益の実に3割が、ASEANからというこういった統計もあります。

中でも、タイやインドネシアで日本は最大の投資国です。
ASEAN各国の日本への期待は非常に大きいものがあります。【4月6日 NHK】
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