孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

個人情報管理の在り方 現実化している「信用スコア社会」 安全運転促進アプリに自殺予防システム

2019-01-09 22:30:48 | 民主主義・社会問題

(ネットフリックス配信ドラマ「ブラックミラー・ランク社会」より 互いの評価で決まる“ランク”のアップに夢中になる人々)

【中国の合コンでは「あなたのスコアはどのぐらいなの?」】
これまでも時折取り上げてきたように、世の中は取引履歴などの個人情報を基にした「信用格付け社会」に向かっているようです。

当然に、便利な点・不安な点はありますが、最先端を行く中国では、合コンで「あなたのスコアはどのぐらいなの?」という話ができるとか。面白いと言うか、怖いと言うか・・・。

個人情報の扱いに関しては、“おおらかな”中国とは異なり厳しい管理が要求される日本ですが、この便利さには恐らく抵抗できないでしょう。

****中国に続き日本も突入か「信用スコア社会」で起こる大激震 ── キャッシュレス社会で銀行はこう変わる ****
キャッシュレス決済が急速に普及する中国では、取り引きなどの履歴からその人を格付けする「信用スコア」の活用が世界に先駆けて進んでいる。

日本でも、LINEが「LINE Score」で信用スコア事業への参入を表明したほか、みずほ銀行とソフトバンクの「J.Score」をはじめ、最近ではヤフーやNTTドコモも参入を表明するなど、徐々に注目を集めるようになってきた。

信用スコアが下支えする社会とはどのような社会なのか。シリコンバレー vs. 中国の最新技術動向を追った書籍『テクノロジーの地政学』(日経BP社刊)の共著者、シバタナオキ氏と吉川欣也氏の見立てとは。

個人が格付けレベルを即答できる世界、便利なのかディストピアなのか

── 日本でも2018年に信用スコア事業への参入表明をする企業が出てきました。たとえば中国には、スマホ決済の「アリペイ」に紐づく信用スコアとして「芝麻信用」(ジーマ信用、ゴマ信用とも)があります。どのように活用されているのでしょうか?

吉川:中国ではみんな自分のスコアを答えられるので、たとえば合コンで「あなたのスコアはどのぐらいなの?」っていう話ができるんですよね。

今までは「どこの出身?」「どこの大学に行ってるの?」「どんな会社に勤めてるの?」「今どこに住んでいるの?」
という4つぐらいを聞けば、だいたいどのくらいの収入があって、どのくらいの生活レベルか想像がついた。あと「お父さんは何をやっているの?」とかね。それで信用度をはかっていたと思うんです。

それが中国では今やはっきりと信用度が可視化されていて、みんながそれを数字で言える。そこはとても面白いですよね。

シバタ:アメリカにも「FICOスコア」というクレジットスコアがありますが、さすがに合コンのネタにはならないですよね。アパートを借りたり、家を買ったりする時には重要だけど、友達同士で「俺はスコアがいい」という自慢話にはならない。そこは中国ならではですね。

── 今、信用スコアが注目を集めるようになってきた理由はどう分析していますか?
シバタ:さっきの吉川さんの話にもあったように、日本ではこれまで終身雇用のおかげで、「どこの会社に勤めているか」を聞けば、それで何となくわかるということがあった。ところが、世界を見渡すとそうじゃない国がほとんどなんですよね。

特に中国みたいに経済が急発展した国では、勤め先だけでは、誰をどのぐらい信用していいか分からない。だから、信用スコアのようなものが必要になる。

日本もこれから終身雇用がなくなってフリーランサーの人が増えると思うので、やはり信用スコアのようなものが必要になってくるのかなと思います。(中略)

── その人の信用度をスコアではかる世の中に、懸念される問題があるとしたらなんでしょう?

シバタ:たとえば破産してスコアがすごく落ちてしまうと、かなり長い期間にわたって信用がなくなるというか、マイナスになるわけですよね。

ローンが組めないだけでなく、たとえばアパートを借りたいときも、信用スコアが悪いと借りられない。ゼロリセットがしにくくなるというのは、間違いなくネガティブな要素なんじゃないかと思います。(中略)

吉川:(中略)一方で一番怖いのは、自分のスコアが家族に波及することです。たとえば家族の中にスコアが低い人がいると、結婚に支障が出るといったことが、たぶん問題になってくると思います。

シバタ:今のはすごく怖い話で、自分個人のスコアだったら良いですけど、例えば大学に入る時に「家族全員の信用スコアを出せ」みたいな話になると、これはちょっとまた違う世界ですよね。極端な話、父親の素行が悪くて借金していたから、大学に入れないみたいな話が出てくる可能性もあるわけじゃないですか。

── それは本当に怖い話ですね。テクノロジーを使って個人を評価するのは良いところもある反面、親戚とかっていう話まで広がってくると、差別などにもつながりかねない。(中略)

吉川:(中略)インターネットもまさにそうですが、テクノロジーにはいい面も悪い面もある。使い方次第で世の中を良くする方にも行くし、怖い方向にも行きかねない。ゆくゆくはこういった情報は国が管理しないとマズいのではないかとは思います。

シバタ:1つ大事なのは、「どういう方針でどういうものを見てスコアを決めているか」という方針は開示すべきだということですね。アメリカのクレジットスコアの場合は、そこが開示されているんです。だから調べれば「たくさん借金をして、ちゃんとオンタイムに返せる人が信用できる」っていう考え方だとわかる。

中国も「芝麻信用」には芝麻なりの考え方があると思うので、それを開示して、ある程度の透明性を維持することが必要なのではと思います。【1月3日 伊藤 有氏、太田百合子氏 BUSINESS INSIDER】
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信用が可視化されてわかりやすいだけに、“(そうした情報が残ることで)失敗からの立ち直りが難しい”“自分以外の家族の情報なども求められる”等々のいろんな問題も想定されます。

なお、個人情報の扱いに関する中国でのとらえ方は以下のようにも。

****プライバシーを守りながら、個人信用スコアを活用する****
このような社会信用スコアについて、日本人の感覚だと、「プライバシーの侵害」や「なんか怖い」といった印象を持たれる方が多いかと思う。しかし、中国人の感覚は逆だ。むしろ、プライバシーが保てると感じている。

例えば、ホテルが宿泊時のデポジットを不要にするとき、従来であれば、その人の勤先や資産状況、過去の信用事故情報などを知らなければ、なかなかデポジット不要にはできない。

しかし、現実にはホテルがそのような調査をすることは難しいし、宿泊客に尋ねることもできない。結局、クレジットカードを提示してもらうか、現金を預かるデポジット制度をやめることができなかった。

しかし、芝麻信用の場合、ホテル側に伝わるのは、総合得点と5つの観点のバランス評価のみだ。具体的な中身については知らされない。しかし、それでホテル側はじゅうぶんで、宿泊客のプライバシーを根掘り葉掘り聞くことなく、デポジット不要にできるのだ。【「中華IT最新事情」】
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一方、そのディストピア的側面については、いつも取り上げるネットフリックス配信ドラマ「ブラックミラー・ランク社会」のとおり。

【個人の“政治的な志向”が勝手に売られる 国家管理はもっと怖いかも】
“ゆくゆくはこういった情報は国が管理しないとマズいのではないか”・・・・民間企業が勝手に個人情報を扱うというのも問題が起きますが、一方で個人情報が国家によって一元管理される社会というのも怖いような・・・。

個人情報の“不適切な”利用に関しては、以下のような「政治傾向」が勝手に売られるといった案件もあるようです。

****オーストリアの郵便会社、個人情報を政党に販売 批判集まる****
オーストリアの郵便事業会社で、国が50%以上出資するオーストリアポストが、政治的な志向を含む顧客の個人情報を収集して販売していたことが明らかになり、同社には8日、批判が浴びせられた。

個人情報保護団体は、フェイスブックがユーザー情報を共有したスキャンダルと同様のものだと指摘している。
 
調査報道サイト「アデンドゥム」によると、オーストリアポストは顧客約300万人の氏名や住所、年齢、性別といった情報を、ターゲットマーケティングに利用する他企業に販売していたという。

さらに同サイトは、最大で220万人分に上るユーザーのおおまかな政治的な志向をまとめた情報も含まれると推測。選挙運動において潜在的な支持者をより効果的に狙い定められるよう、複数の政党に販売されたとしている。
 
個人のプライバシー保護を訴える団体「エピセンターワークスは、欧州連合のデータ保護規則に違反すると訴えている。
 
これに対しオーストリアポスト側は、国内法の下ではそのような情報の活用は合法と認められており、自社の行為に問題はないと主張している。 【1月8日 AFP】AFPBB News
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“ユーザーのおおまかな政治的な志向”がどのように把握されているかは知りませんが、一方で、そういう情報が国家管理されるとなると、“国家”の性格・思惑次第では国民の思想管理・統制も可能となります。

【安全運転をすれば特典がもらえて保険料も安くなるアプリ
怖い話はいくらでもありますが、「これは便利かも・・・」と思わせるような使い道も。

****安全運転をするとご褒美がもらえるアプリ****
心がけていても中々実践できないのが安全運転だが、もし自分の運転をアプリが見守り、安全運転をすることによりポイントがたまり特典と交換できるとしたらどうだろう。

そのようなアプリを実際に作り出し、ドライバーに提供している企業がある。しかもこのアプリはドライバーの日々の運転の習慣を自動車メーカーと保険会社が共有するため、安全運転を続けると保険料の低減にもつながるという。
 
アプリを提供するのは英国に本拠を置くレクシス・ネクシス(LexisNexis)社で、アプリはレクシス・ネクシス・テレマティクスと呼ばれるものだ。

独立したアプリというよりはOEMとして自動車メーカーに提供され、メーカーと提携する保険会社に対しUBI(Used Based Insurance 、利用状況に応じた保険料金)のユーザーへの提供を可能にする。
 
具体的にどのように作動するのか、というとGPSを使い、例えば道路の制限速度に対しドライバーが速度オーバーをしていないか、あるいは急ブレーキを踏んでいないか、などをアプリがチェックし、それを点数化する。

そして点数が高ければそれがポイントとなり、コーヒーの無料券などと交換できる、という仕組みだ。(中略)

このアプリを作り出した理由について、レクシス・ネクシス社では「年間に世界で120万人が交通事故によって死亡し、負傷者は2000~5000万人と言われている。これを少しでも軽減し、安全運転をドライバーが自然に心がけるようなアプリを提供しようと考えた」という。

自動車メーカーにとってはユーザーサービスの一環になるし、保険会社は事故で支払う保険料の軽減につながる。さらにアプリを通してユーザーがどのような運転習慣を持つのか、というデータを蓄積できる、という点も大きい。
 
もちろん、このような形で自分の運転情報を第三者と共有したくない、と考えるユーザーに対してはアプリを起動させずにメーカーのアプリのみを使用する、というオプションもある。しかし特典がつくため、多くのユーザーがアプリを使用することを選ぶという。(中略)
 
米国ではクレジットスコア(過去の借金歴や返済歴により個人の社会的信用度を示す数字)が良ければ住宅ローンや自動車ローンなどの金利が有利になる、というのが普通だが、ドライビング・スコアもクレジットスコアと同様の指標として社会に広めよう、という考え方だ。
 
安全運転をすれば特典がもらえて保険料も安くなる、というのならこのアプリを使いたい、と考えるユーザーは多いだろう。

レクサス・ネクシスに賛同する保険会社の数も増えており、今後このアプリをOEMとして導入する自動車メーカーも増えそうだ。これまでありそうでなかった新しいタイプのアプリは、世界中に普及していくかもしれない。【1月9日 WEDGE】
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個人の行動が逐一監視されている・・・という面もありますが “安全運転をすれば特典がもらえて保険料も安くなる”というのは受け入れられやすいでしょう。

【フェイスブックの自殺予防・通報」機能な】
交通事故予防からさらに一歩踏み込んで、“自殺予防”となると、個人のメンタルな部分に“得体のしれないもの”に管理が及んでくる・・・という話にもなります。

全く知りませんでしたが、フェイスブックには「自殺予防・通報」機能なるものがあるそうです。

****フェイスブックの「自殺予防・通報」機能に賛否両論 ****
冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

<フェイスブックが17年から実施している自殺予防・通報のシステムには、実際に救命ができているという評価の反面、プライバシー保護が十分でないとか判断の精度が低すぎるといった反対意見も出ている>

フェイスブックは、2017年9月10日の「WHO(世界保健機関)の自殺予防デー」に自殺防止のキャンペーンを本格化すると告知。この前後から、自殺に関する投稿内容のモニターを開始しました。ザッカバーグCEOによれば、この1年間で「3500人への支援」ができたとしています。

さらに、2018年11月にはフェイスブックは、投稿内容のなかから「自身を傷つける緊急性のあるリスク」を発見するための、AIによる自動巡回についてより詳しい発表をしました。

投稿、コメントなど文字情報だけでなく、動画(ライブも含む)も対象として自動巡回を行い、検知された場合に、警察の自殺予防セクションなどに通報がされるシステムです。

この発表の後、米国内では1カ月あたり100件の検知という実績が上がっているという報道もありますが、その一方で賛否両論が起きています。

まず賛成意見としては、人命最優先という価値観から、具体的な救命ができているという考え方があります。各国・各州の警察当局からは、そのような声がありますし、精神病医の中にはそのような見解があると報じられています。

また、特に銃社会であるアメリカの場合は、自殺衝動から乱射事件を起こして無関係な多くの人を「巻き添え」にするケースがあることから、その「予兆」が自動的に発見できることへの評価もあります。

その一方で、反対意見も多くなっています。

一番多く指摘を受けているのは、プライバシーの問題です。メンタルヘルスという、人間にとって最もプライベートな問題を、本人の了承なしに警察当局など第三者に渡すということは、例えば欧州では2018年5月に実施された「EU一般データ保護規則(GDPR)」に違反します。従って、フェイスブックは、この自殺防止モニターについてはEU域内では実施していないとしています。

この点では、アメリカ国内でも批判があります。例えば、一般的に医療関連の企業や団体に要求されるプライバシー管理の水準と比較して、フェイスブックの対応は緩すぎるというのです。

少なくとも、医療機関の場合、メンタルヘルスの問題は、本人の同意なく第三者に渡すべきではないという規則が徹底しているからです。

精神科医などの専門家からは、フェイスブックのアルゴリズムが「粗雑にすぎる」という批判が出ています。

例えば、「とても悲しい」とか「自分はひとりぼっち」という字句を見て危険というフラグを立て、それに呼応するような内容が発見できると自動的に警告が出るというのは「まるでブラックボックスに等しい」というのです。

つまり、人間の自殺意思というのは、もっと複雑な前後の文脈を見て判断しなくてはならない中で、判断の精度が低すぎるという意見です。

これに対してフェイスブックは、AIによる統計処理だけでなく、実際に警告を出す際には専門家による監視がされるとしていますが、その「専門家」というのは、医師免許とか学位という本格的なものではなく、内部研修を受けたスタッフという意味合いのようで、この点に関しても批判があります。

また本人だけでなく、友人のコメントもチェックの対象となっており、「悲しい」という本人の書き込みに対して「私が助けてあげる」とか「大丈夫」といった周囲の反応もAIはチェックして、全体的な会話が一定のパターンに入ると自動的に警告をするというのですが、自殺の危険があるという本人だけでなく、周囲の発言までモニターされることへの抵抗感も多く聞かれます。

フェイスブックに関しては、2016年の中間選挙において政治的な意図を持った団体や人間が、加入者のプライバシーにアクセスできたことで大きな批判を浴び、そのプライバシー情報の管理体制が厳しい批判にさらされています。

現在の批判は、政治的な利用から発展して、フェイスブックを含む多くのネット関連企業が、お互いにプライバシー情報を共有していた問題に移っていますが、利用者の怒りはさらに増大しています。

そんな中で、このAIによる自殺リスクの警告システムを成功させることで、フェイスブックとしては「プライバシー情報を利用することが、公益となる」という事例を作りたいという意図も感じられます。

この自殺リスク検出システムですが、フェイスブックでは日本でも稼働されていると発表しています。

日本の場合は、自殺による死亡率が高いことから有効性への期待がある一方で、日本語のニュアンスを読み取ることの難しさについては、相当にハードルが高そうにも思われます。また、プライバシーへの感覚ということでは、アメリカとも欧州ともまた違った厳しさと緩さとがあります。

すでに稼働しているということですが、日本での運用については、もっと透明性を高め、しっかり賛否両論のディスカッションをすると同時に、医療機関や警察などとの連携をきちんと制度化することも必要と思います。【1月9日 Newsweek】
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「俺もう死にたいよ!」なんてコメントすると、本人が知らないところで警察に通報がいく・・・というのは、どうでしょうか?

まあ、自殺予防ということであれば一定に受け入れられるかとも思いますが、そういうことができるということは、ネット上の投稿内容などをAIが判断して、危険思想の持主かどうか?政府に批判的かどうか?といった判断も容易にできるし、すでに現在も行われている・・・ということでしょう。(2013年にスノーデン容疑者が明らかにしたように、世界のあらゆる情報は情報機関などによって一定の管理下にあるようですから)


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