孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ルワンダ  奇跡的復興と新たな悲劇への懸念

2010-04-05 21:58:22 | 世相

(首都キガリのスーパーで売られているマチェーテ(山刀) かつての惨劇ではこの道具が膨大な人々の命を奪いました。そのような惨事が繰り返されないことを願います。“flickr”より By Rachel Strohm
http://www.flickr.com/photos/rachelstrohm/3987723536/)

【ディアスポラ】
昨日、NHKでルワンダに関する番組がありました。
ルワンダと言えば、どうしても16年前の多数派フツ族による少数派ツチ族の大虐殺を思い起こします。

宗主国ベルギーによる分断統治的な植民地政策(顔立ち・体型がヨーロッパ人により近い牧畜民ツチ族を優遇し、多数派の農耕民フツ族を支配させる)によって作られた民族意識が背景となったことや80万人にも及ぶ犠牲者の数だけでなく、PKOを展開していた国際社会がなすすべなく虐殺を放置し、犠牲者を“見殺し”にしたこと、何よりも、それまで隣人として暮らしていた人々が突然、山刀やこん棒を手に襲いかかるという、人間性の暗部を思い知らせる衝撃において、特筆すべき惨事でした。

大虐殺後は、現在のカガメ大統領の率いるツチ族反政府勢力「ルワンダ愛国戦線(RPF)」が政権を掌握し、カガメ大統領のもとで民族和解と経済発展が実現しているとも聞いています。

****アフリカンドリーム 第1回  “悲劇の国”が奇跡を起こす****
アフリカの国々がヨーロッパの宗主国から独立し「アフリカの年」と呼ばれた1960年から半世紀。今、ようやくアフリカは「暗黒の大陸」から「希望の大陸」と呼ばれるようになってきた。急速な経済発展やグローバリズムを追い風に、大きな変化が生まれ始めているのだ。こうしたアフリカの知られざる新しい姿を描く「シリーズ・アフリカンドリーム」、第1回目の舞台はルワンダ。

民族間の対立で80万人が殺されるという大虐殺が起きてから16年、ルワンダは驚異的な復興をとげ「アフリカの奇跡」と呼ばれるようになった。その原動力は「ディアスポラ(離散者)」といわれる人たちだ。半世紀前の独立前後から迫害を逃れて世界各地に散らばったルワンダ人はおよそ200万人にのぼるが、今「祖国を復興させたい」とルワンダに巨額の投資を行うとともに、次々と帰還を始めているのだ。
今後、アフリカの国々が発展するカギのひとつとしてルワンダの戦略は大きな注目を集めている。祖国のために立ち上がったディアスポラの姿と、それを復興に生かそうとする政府の戦略を追う。【NHKホームページより】
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ルワンダの過去5年間の経済成長率は8%にも及び、その原動力がフツ族による暴力を恐れて国外に離散していた「ディアスポラ(離散者)」だそうで、100万人ほどが帰国して、経済活動の中核を担っているそうです。

【ルワンダとカガメの“伝説”】
ルワンダ経済が好調なこと、民族和解のためIDカードから“フツ”“ツチ”の表記を消し去り、“ルワンダ人”として復興に臨んでいることなどは、これまでもいろんな情報で見聞きしていました。
奇跡的な復興、そして、その復興の先頭に立って公平さと規律を重んじるカガメ大統領については、大虐殺の悲劇のあとだけに“伝説的”とも言えるようなイメージがあります。

****ルワンダのきらめき:虐殺を超えて/上 「心を一つに」 大統領も清掃活動****
・・・・毎月末土曜日の午前、アフリカ中部ルワンダ全土で車が路上から姿を消す。「ウムガンダ」と呼ばれる政府主導の清掃などの奉仕活動が実施されるためだ。「大統領も掃除をする。今、ルワンダは心を一つにしなければならない」。首都キガリの石畳の道で、溝を丹念に掃除するボナバンチュール・ムバウェヨさん(30)は言う。
94年の大虐殺直後、街は遺体であふれた。野良犬がうろつき、異常な数の鳥が空を覆った。「虐殺の記憶を清算すると同時に、決して忘れないとのメッセージが奉仕活動に込められている」

キガリではビルの建設ラッシュが続く。03年に当選したカガメ大統領の指導下、年5%以上の経済成長を達成してきた。コーヒーや紅茶の輸出が主要産業だが、情報産業立国を目指す。実用的な電子政府を導入。小国を逆手にとり、周辺国の中継地としての可能性を見いだしつつある。04年以降、海外からの投資促進にも力を注ぐ。
「即」「15分」「30分」。政府の許認可書類には、役人が順守すべき「対応スピード」が記されている。営業免許や会社登録などは無料。官僚主義がはびこるアフリカでは異例だ。外務協力省幹部は「知恵を絞り、再建を模索してきた。それを農業生産で培われた勤勉な国民性が支えている」と胸を張る。

「大統領自ら車を運転する姿も珍しいことではない」とキガリのタクシー運転手は話す。清廉さもルワンダをきらめかせる。閣僚、次官級を除き公用車を原則廃止。援助国の車の供与も停止した。エレベーターのない省庁もあるが「(その整備より)他に優先すべき課題は山のようだ」と職員は階段を駆け上がった。07年には世銀が「世界ガバナンス指標」の汚職対策分野で中・東部アフリカでトップの評価をした。(中略)
奉仕の日、郊外では植林も実施されていた。カラリサさん(40)は軽やかに語る。「この国には『規律』という美徳がある。大虐殺ではそれが間違った方向に働いた」【08年12月26日 毎日】
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【格差が呼び起こす不安】
そうした“伝説的”なイメージが既にインプットされていたため、NHK番組においては、急速に進む復興の様子よりは、いまだに重く残る“ツチ”“フツ”の対立・緊張の方が印象的でした。
“ツチ族”の殺害事件が頻発していること、隣国からのフツ族難民帰国とその貧困、フツ族農民とコーヒー栽培事業を共同で行おうとするツチ族「ディアスポラ」の試みに関して、こうした取り組みがいまだほとんどなされていない事実、フツ族農民の警戒感、ツチ族の恐怖感など・・・。

今後、経済復興が進むほどに、その中核を担う富裕層と成長の恩恵にあずかれない多数の貧困層という経済格差が拡大するであろうことは、ルワンダに限った話ではありません。しかし、ルワンダの場合は、その成長に伴う経済格差がツチ族富裕層とフツ族貧困農民の対立という、かつてのおぞましい惨劇を呼びさましかねない不安を感じました。

【IT戦略】
なお、ルワンダでは、すべての子供が自分のノートパソコンを持てるようにする計画があり、IT立国の国家戦略があります。
その実情については、次のような記事があります。
****ハイテク先進国という大きな目標を掲げて奮闘中****
ワンダといえば、民族紛争に伴う糾年の大虐殺で世界中の関心を集めた。あれから15年が経過し、今は急速な発展ぶりで注目を集めつつある。
目標は東アフリカにおけるハイテク先進国の地位に就くこと。20年までに光ファイバー網を整備し、首都キガリに無線ネットワークを張り巡らせ、すべての子供が自分のノートパソコンを持てるようにする計画がある。

首都在住の一部の外国人は計画の実現に懐疑的だ。ルワンダは極めて貧しく、インターネットの接続環境でも一部の近隣諸国に負けているという。だが国内外の多くの専門家のみるところ、可能性はゼロではない。(中略)
ハイテク産業の育成に必要なのは技術だけではない。投資を呼び込んだり、起業家が安心してリスクを取れる環境づくりが重要だが、この点での課題はまだ多い。
依然として教育水準は低く、識字率も低い。貧困という問題もある。ルワンダが東アフリカのシリコンバレーになれるとしても、それは当分先のことだろう。
インターネットの普及率でもケニアやウガンダに後れを取っている。国際電気通信連合によれば、ルワンダの普及率は2・8%だが、ケニアは8・6%以上、ウガンダは7・7%以上だ。

それでもルワンダの成長に期待しているハイテク専門家がいるのは確かだ。マソゼラも先行きに楽観的で、「私たちの仕事が重要なことは政府も認めている」と言う。
ルワンダは民族対立の激しい危険な国だと敬遠している人たちにマソゼラは呼び掛ける。「一度、実際の姿を見に来てほしい」【3月17日 Newsweek日本版】
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【強権政治家の批判も】また、欧米での評価が高いカガメ大統領の国内における強権的姿勢を批判する記事もあります。
****欧米では高評価 カガメ大統領の実像*****
アフリカ中部に位置するルワンダが旧イギリス植民地などで構成される英連邦への加盟を認められたのは昨年12月。94年の大虐殺から同国を立ち直らせたカガメ大統領にとって、今年3月のロンドン訪問は勝利の瞬間だった。
だが国内の状況はそんな華々しさとは懸け離れている。力カメは強権的を姿勢を強めているとの批判も浴びており、極めて厳しい状況工直面している 今年8月に大統領選が行われるルワンダでは政治的な対立が激化。首都キガリでは手楷弾を使ったテロが発生し、野党勢力が攻勢を強めている。与党・ルワンダ愛国戦線は幹部の離脱に悩まされ始めた。
カガメ政権は混乱を力で抑え込もうとしている。人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、野党の政治家らが弾圧の標的になっていると警告する。
しかし欧米ではルワンダは評判がいい。経済発展や環境保護政策、汚職摘発の読みなどが評価されている。カガメは国際的支援をてこに権力基盤の強化に努めている。
カガメは先日の記者会見で、キガリで起きるテロの背景には政府に批判的なジャーナリストがいると指摘。だが一方で、テロは弾圧を正当化するための自作自演だとの見方もある。【4月7日 Newsweek日本版】
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必ずしも、“伝説的”なイメージばかりではないようです。


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