孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  IMF融資、債権国協議でデフォルトからの再建スタート

2023-05-10 19:42:34 | 南アジア(インド)
(4月11日、コロンボ 【4月24日 ロイター】)

【「債務の罠」代表事例ではあるが、破綻は中国の「罠」によるものでもない】
昨年5月19日、スリランカが国家としてデフォルト(債務不履行)に陥り、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領が7月13日未明、軍用機で夫人とモルディブに逃亡したことが分かりました。

スリランカは、中国の「債務の罠」の典型事例としていつもあがります。
確かに、2017年7月に、中国からの借金が膨らみ返済不能になったため、スリランカのハンバントタ港を99年間にわたり中国国有企業・招商局港口に租借することが決まりました。

ただ、もともとスリランカは借金まみれであり、必ずしも「中国の唐の過剰な債務」で財政が破綻したという訳でもありません。

中国問題グローバル研究所所長・遠藤誉氏は“主たる原因は大統領の気まぐれな有機農業命令で、中国からの債務はわずか10%だった”と指摘しています。

****スリランカ大統領「デフォルト」で国外逃亡:主原因は有機農業、中国債務わずか10%***
(中略)
◆気まぐれな大統領の思い付き「有機農業を始めよ!」
ではいかなる事情があったのか?
その最も大きな原因は、実は大統領の気まぐれ的な思い付きにあり、化学肥料の輸入に国家予算の2%を費やしているので、その2%を減らそうとして、いかなる前触れも準備もなく、いきなり2021年4月29日に、「今日から化学肥料を輸入してはならず、農業は化学肥料も農薬も使ってはならない。すべて有機農業に切り替えよ!」という命令を出したからだ。(中略)

この凶作の惨状を見て大統領は「化学肥料を輸入してもいい」と前言を翻したが、時すでに遅し。今度は輸入するための費用もないところに追い込まれた。

スリランカは紅茶が有名だが、化学肥料も農薬も全て禁止されたため、大きな損害が出ている。すべての農産物は壊滅的打撃を受けて、破綻状態に至ったわけだ。(中略)

◆スリランカの債務の割合
(中略)(対外債務について)スリランカの財務計画省対外支援局(Department of External Resources)が発表したデータに(中略)によれば「資本市場による借入」が47%と、最も多い。(中略)

中国はスリランカの対外債務総額の10%しか占めていない。
日本も10%で、アジア開発銀行が13%、世界銀行が9%だ。インドが2%ほどを保有している。(

但し、融資の際の利子は異なる。(中略)日経新聞は中国は3.3%で、日本の利子は平均0.7%であると伝えている。もっとも、日本の外務省の発表によれば、2017年4月12日に提携した円借款および無償資金協力の利子は1.4%((コンサルティングサービス部分は年0.01%)となっている。したがって日本の利子が0.7%と異様に低いのはODA予算の中からの捻出であるためかもしれない。(中略)

◆BRICS陣営構築のため、習近平は一帯一路参加国が豊かにならないと困る
(中略)習近平は西側先進国であるG7陣営に対して、新興国や発展途上国を中心としたBRICS陣営を強大化したい。なぜならいずれアメリカによる対中制裁はいっそう厳しくなっていくだろうことは明らかだからだ。
 
(中略)現在世界190ヵ国を対象として調査した中で、128ヵ国が中国を最大貿易国としているが、特にその中の新興国や発展途上国に関しては、経済繁栄してもらわないと中国は困るのだ。したがって特にウクライナ戦争後は、一帯一路参加国が債務の罠に入らないよう、むしろ支援しているという側面が否めない。

(中略)中国外交部の汪文斌報道官は以下のように回答している。

 ――何度も繰り返し述べているように、中国はスリランカが直面している困難と課題に共感し、食糧や医薬品を含む緊急の人道支援をスリランカに提供してきた。中国側はまた、政府、地方自治体、友好団体などのチャンネルを通して、スリランカのあらゆる分野にさまざまな支援を提供してきた。 中国は引き続きスリランカの経済的・社会的発展を最大限に支援し、スリランカの経済回復と人々の生活の向上を支援していく。

中国に関連するスリランカの債務については、中国は関連する金融機関がスリランカと交渉して適切な解決策を模索することを支援している。 私たちは、関係国や国際金融機関と協力して、スリランカが現在の困難に対処し、債務負担を軽減し、持続可能な開発を達成するために積極的な役割を果たし続けることをいとわない。(報道官回答ここまで)

また駐スリランカの中国大使館は、さまざまな支援をスリランカに対して行っていることを発表しており、その中には今年4-5月の間に中国政府が5億人民元(約100億円)の緊急人道支援を提供したことも挙げられている。
 それ以外にも、今年5月27日におけるファイナンシャル・タイムズFTの取材で、スリランカ総理が中国は既に数億ドルを提供したと発言している。

したがって、中国としてはBRICS陣営に経済メルトダウンをしてほしくなく、決して中国が自ら「債務の罠」に支援相手国を陥れようとしている事実はデータには出てこない。

ウクライナ戦争はこの傾向を加速させているのではないだろうか。日本はむしろ、そのことに警戒した方がいい。【2022年7月14日 遠藤誉氏 YAHOO!ニュース】
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中国が“関係国や国際金融機関と協力して、スリランカが現在の困難に対処し、債務負担を軽減し、持続可能な開発を達成するために積極的な役割を果たし”てきたかどうかには、やや疑問もありますが、「中国が無理な債務を押しつけ、借金のかたに権益を取得すべく、意図的に財政が破綻するように仕向けている」といった解釈はやや単純にすぎるでしょう。

スリランカについて言えば、最大の責任はラジャパクサ一族が大統領や首相など要職を占める縁故主義、そこからくる非効率・非合理な政策、蔓延する腐敗にあると言えます。遠藤氏が指摘する“思い付きの有機農業”は、その一例です。

【物価ひと頃より落ち着く 24年にはプラス成長予測も】
スリランカ経済については、2022年はGDP成長率は-7.8%でした。今年もマイナスが続くものの、24年には持ち直すだろうとの予測も。

****スリランカ、22年は7.8%のマイナス成長****
スリランカ政府が15日発表した統計によると、2022年の国内総生産(GDP)は前年比7.8%減少、第4・四半期は同12.4%減少だった。

米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは13日、スリランカの今年のGDPは3%減となるが、24年には持ち直すとの予想を示した。

経済運営の失敗と新型コロナウイルス禍の影響で、スリランカは昨年初めに必需品輸入向けのドルが深刻な不足状態となり、1948年の独立以来最悪の経済危機に見舞われている。IMFは29億ドル規模の4カ年救済措置を20日に最終承認するとみられている。(後略)【3月16日 ロイター】
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また、極めて高いインフレと燃料不足が深刻化しましたが、インフレはやや落ち着く傾向のようです。

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スリランカCPI、3月は前年比+49.2%に減速 昨夏以来の50%割れ****
スリランカ統計局が21日発表した3月の全国消費者物価指数(NCPI)上昇率は前年比で49.2%と、2月の53.6%から減速した。50%を下回るのは昨年8月以来。

食品は42.3%上昇したが、前月の49%から減速。非食品は54.9%上昇した。

スリランカでは深刻な外貨準備不足などを背景に過去70年超で最悪の金融危機が発生し、昨年初めから高インフレに見舞われている。

中央銀行は今月、国際通貨基金(IMF)による30億ドルの支援を獲得してから最初の金融政策決定会合で政策金利を据え置き、インフレは今後数カ月に大きく鈍化すると楽観的な見方を示した。

ウィーラシンハ中銀総裁は、来月から好ましいベース効果が始まり、インフレ率は年内に1桁台に低下すると予想した。【4月24日 ロイター】
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【IMF融資承認 大統領「もはや破産国でない」】
上記記事にもあるように、スリランカ経済再建のスタートとなるのが、IMF融資承認です。

****IMF、約30億ドルの対スリランカ金融支援を承認****
国際通貨基金(IMF)は(3月)20日に開いた理事会で、スリランカに対して約30億ドルの金融支援を提供することを承認した。

約3億3300万ドルの融資を即時実行する。IMFは、今回の融資承認が他のパートナーの支援を促し、過去70年以上で最悪の金融危機からの脱却を目指すスリランカを後押しするとしている。

ゲオルギエバIMF専務理事は、スリランカはさまざまな改革を行う必要があると強調。「危機を克服するためには、改革に対する強いオーナーシップの下で、EFF(拡大信用供与措置)プログラムを迅速かつタイムリーに実施することが重要だ」と述べた。

スリランカのウィクラマシンハ大統領は、IMFプログラムは国際資本市場における同国の地位向上に役立ち、投資家や観光客にとっての魅力を高めるとする声明文を発表した。【3月21日ロイター】
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このIMF融資承認はウィクラマシンハ大統領にとって、強い後押しにもなっています。

*****IMF融資第1弾を受領=大統領「もはや破産国でない」―スリランカ*****
経済危機にあるスリランカのウィクラマシンハ大統領は22日、議会で演説し、国際通貨基金(IMF)からの金融支援の第1弾として約3億3300万ドル(約440億円)を受け取ったと明らかにした。
 
ウィクラマシンハ氏は、IMFの融資により「国際社会からの認識が改められ、もはや破産した(国)とは見なされないだろう」と強調。融資条件となっていた経済の構造改革や汚職の撲滅にも取り組むと説明した。【3月22日 時事】
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【債権国の債務軽減に向けた協議開始】
更に、IMF融資と連動して、債権国間の債務再編に向けた協議も始まりました。
日本もその協議の主導国のひとつです。

****スリランカ救済、広範な債権国間の協調は「歴史的快挙」=鈴木財務相****
訪米中の鈴木俊一財務相は現地時間13日、インド、フランスとともにスリランカ債権国会合を発足することについて「歴史的快挙」との認識を示した。伝統的なパリクラブ議長国であるフランスのムーラン経済・財政省国庫総局長は、早期の初会合開催に意欲を示した。

現地でメディア向けのイベントを開催し、新たな会合発足を表明した。鈴木財務相は冒頭、「スリランカの債権国会合の発足に合意したことを大変嬉しく思う」と言及。「スリランカが未曽有の危機から脱却するにはパリクラブ、非パリクラブの債権国が一堂に会して債務再編を協議することが重要」と強調した。

スリランカは中所得国と位置付けられ、20カ国・地域(G20)が低所得向けに創設した共通枠組みのような債権国協調のメカニズムが存在しない。

鈴木財務相は「広範な債権国間の協調体制が生まれることは歴史的快挙。すべての関係者の協調により、早期に債務再編が合意されることを期待している」との考えも示した示した。(中略)
スリランカの公的債務817億ドル(2022年9月末時点)のうち、対外政府債務は351億ドルとされ、主要債権国である日本や中国、インドのほか、民間が抱える債権も多い。

スリランカが22年に対外債務の一時的な支払い停止を宣言して以降、中国やインドを含む全債権国や民間債権者で債務をどう再編するかが課題となっていた。【4月14日 ロイター】
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今月9日には初協議が行われましたが、債務軽減に向けた国際協調での積極的役割云々を主張していた中国はオブザーバー参加にとどまっています。

なお、「パリクラブ」とは、債務国の経済事情を踏まえて、返済負担を軽減させ、返済しやすい条件を議論する債権国の代表者による友好的かつゆるやかな集まりです。日本は参加していますが、中国は参加していません。

****スリランカ救済巡り初の債権国会合、中国はオブザーバー参加****
22年に債務不履行(デフォルト)状態に陥ったスリランカ救済を巡り、日本とインド、フランスが主導して発足した債権国会合が9日、初協議を開いた。主要債権国の中国はオブザーバーとして参加した。

インド、フランスとともに共同議長を務めた日本の神田真人財務官によると、会合には26カ国が参加した。スリランカに債権を持つ参加国は19カ国で、このうち伝統的なパリクラブメンバーが15カ国、非パリクラブが4カ国だった。スリランカに債権を持たない国も7カ国参加した。

神田財務官は初会合後、「パリクラブ、非パリクラブ債権国が一堂に会して債務再編の条件合意を目指すことが(会合の)目的。中所得国の債務問題への対処に当たってのモデルケースになることを期待している」と省内で記者団に述べた。

会合では、国際通貨基金(IMF)や世界銀行がスリランカの経済状況などを説明。スリランカ政府が経済財政改革の進捗状況を共有し、改めて債務の透明性確保にコミットしていることを表明するとともに、各債権国が協調して債務再編を進めていくことを確認した。今後、担当者間での交渉を通じて具体的な債務再編の内容を詰める。

巨額の2国間債権を抱える中国にも正式な参加を打診したが、初会合ではオブザーバー参加にとどまった。神田財務官は「中国政府の判断として、オブザーバーとしての参加があった。引き続き中国には正式な参加を呼び掛けており、中国が参加した場合はこれを歓迎したい」と語った。

スリランカの公的債務817億ドル(2022年9月末時点)のうち、対外政府債務は351億ドルとされ、主要債権国である日本や中国、インドのほか、民間が抱える債権も多い。

スリランカが22年に対外債務の一時的な支払い停止を宣言して以降、中国やインドを含む全債権国や民間債権者で債務をどう再編するかが課題となっており、新たな会議体での協議を踏まえ、危機からの脱却に弾みを付けられるかが焦点となる。

債権国会合は4月に発足。スリランカが中所得国と位置付けられ、20カ国・地域(G20)が低所得向けに創設した共通枠組みのような債権国協調の枠組みが存在しない現状を踏まえ、日本がインド、フランスと主導した。

財務省によると、初会合はオンラインで約1時間実施実施した。【5月9日 ロイター】
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これで債務負担を軽減して経済・財政を再建していく道筋がついた・・・というところですが、当然ながらまだスタートラインにたっただけで、スリランカの真摯な取り組み次第です。
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