(【4月28日 TBS NEWS DIG】)
【薬物蔓延 国民の心身が蝕まれ、社会そのものが衰弱】
北朝鮮の強権支配・国民弾圧が常軌を逸していることは今更の話です。
そのような理不尽な政治体制が目立った抵抗もなく(権力内部での窺い知れぬ争いはあるのかもしれませんが・・・)体制がつづくというのは不思議なことにも思えますが、北朝鮮ほどに徹底した恐怖政治のもとでは人々は自分が生きるのに精一杯で、抵抗とか抗議とか行う余裕もないのでしょう。
いかんともし難い現実の重圧から逃れるために薬物に依存する人々も少なくないようです。
****「この国はもうオシマイ」北朝鮮を脱出した女性が見た崩壊する社会の生々しい現実****
最近、北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンプクト)で、アヘン中毒にかかった住民が死亡する事件が相次いで発生したという。
デイリーNKの道内の情報筋によると、今月13日、吉州(キルジュ)郡ではアヘン中毒で離婚され、一人暮らしをしていた50代の男性が自宅を訪ねてきた人民班長(町内会長)によって死亡した状態で発見された。
普段から1日に2回以上アヘンを服用してきた彼は、今年に入って借金を返せないほどの経済難ためアヘンを手に入れることができず、情緒が不安定になっていたという。
また、3日にはアヘン中毒になってまともに経済活動ができずに家まで売って放浪生活をしてきた50代の男性が、路上で亡くなっているのが発見されたという。
北朝鮮でアヘンはかなり以前から「万能薬」と誤解されている。下痢など比較的ありふれた症状でもアヘンを服用するほど多く使われる。そうして医薬品の代わりにアヘンを使用し、その過程で量を調節できなかったり、過度に頻繁に服用したりして中毒者が発生する。
北朝鮮ではほかにも、「オルム(氷)」と呼ばれる覚せい剤の乱用が深刻だ。金正恩政権になって以降、北朝鮮当局は覚せい剤など違法薬物の根絶に向け、様々な手を打ってきた。それでも、乱用が下火になる兆しは一向に見られない。
日本に在住する脱北者のAさん(40代の女性)は、薬物の蔓延が北朝鮮を離れる決定的なきっかけだったという。
「隣家の10代の学生が覚せい剤中毒になって大変な騒ぎとなった。それをきっかけに薬物について独自で調べたところ、あまりにも薬物が蔓延する実情を見て、この国(北朝鮮)はもうオシマイだと思い、脱北を決意した」(Aさん)
また、咸鏡北道の別の情報筋は以前、韓国デイリーNKに対し、「中学生も覚せい剤をやらなければいじめられ、主婦は人民班(町内会)の会議の前にキメてくる。人民保安省の機動巡察隊員も夜勤の際にやっている。以前は挨拶代わりにタバコを差し出すのが習慣だったが、最近では顔を合わせると覚せい剤をやるようになった」と証言していた。 こうした状況は、今も大きくは変わっていないという。
金正恩体制は、国民に対する統制をますます強めており、脱北者の数も大きく減っている。彼の強権が、国民の反発によって脅かされる兆候は今のところ見えない。ただ、国民の心身が蝕まれ、社会そのものが衰弱していけば、国力そのものが弱体化する。
薬物不足の「入口」となっているのが医薬品不足ならば、それを解決できるかどうかが、金正恩体制の運命に直結する可能性もある。しかし、金正恩体制はこれまでのところ、民生を改善する能力を見せたことがないのだ。【4月26日 デイリーNKジャパン】
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【今年から公開された韓国の脱北者報告】
徹底した情報非公開を貫く北朝鮮の内情は表だった方法では得ることができません。一番詳しい内情は脱北者から得ることもできますが、脱北者の情報は自分たちを被害者に見立て、韓国が欲しがる情報を提供するために偏りもあるとの指摘もあります。
そこはともかく、韓国はこれまでは脱北者の調査結果を公表してきませんでした。理由は、韓国が北朝鮮のことをどれぐらい理解しているかを北朝鮮に知られないため・・・とも。北に融和的な前政権時代は北へ“配慮”もあったのでは。
しかし、今年はその調査結果が公表されました。 北朝鮮の人権問題を切り口に国際世論を見方につけて、最終的には北朝鮮の核やミサイルの問題に持っていきたいとの尹錫悦政権の戦略だとも指摘されています。
****韓国、脱北者報告を公表 食糧配給の減少や市場への依存浮き彫り****
韓国統一省は6日、脱北者への聞き取り調査に基づく北朝鮮の経済・社会状況に関する報告書を初めて公表した。
過去10年間に韓国に定住した脱北者の半数以上が政府から配給を受けたことがなく、闇市場に頼っていたことが明らかになった。
2013─22年に6300人以上の脱北者に対し聞き取りを行った。同省は10年に調査を始めたが、結果を公表するのは今回が初めて。
それによると北朝鮮で政府の食糧配給を受けたことがなかったのは、2000年以前の脱北者の62%で、16─20年に到着した人では72%強だった。
2000年以前の脱北者の約3分の1が給与や食料を受け取っていないと答えたが、16─20年の脱北者では約半数に増えた。
回答者全体の94%近くが市場でお金を稼ぐことができると答えた。家計収入のうち非正規収入が占める割合は、2000年以前の脱北者で約39%、16─20年では69%に拡大した。
金暎浩統一相は報告書で「北朝鮮では住宅、医療、教育環境が未整備で、生存のために生活の多くの面で市場化が続いていることが確認された」と指摘した。【2月6日 ロイター】
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【「苦難の行軍」の時期より厳しかったコロナの期間 毎日のように飢え死にする人々】
“16─20年”では現状とはややタイムラグもあるかも。
“生存のために生活の多くの面で市場化が続いている”とのことですが、金正恩政権は市場経済を抑制し、国営企業・国営商店を中心とするかつての(まがりなりにも社会主義経済がそれなりに回っていた時代の)国家が管理する経済に戻していこうとする動きが見られます。
しかし、配給などの国家による施策が十分になされないまま、市場が抑制されれば、国民の多くは生活のための術を失うことになります。
****「沢山の人が死にました」脱北者が撮影した北朝鮮内部映像 飢えて倒れる人の姿も****
北朝鮮からの脱北者の単独インタビューです。北朝鮮はコロナを理由にほぼ4年間、国を閉ざしました。この間何があったのでしょうか。この脱北者は北朝鮮内部の貴重な映像を撮影していました。
脱北者が撮影した北朝鮮内部映像 飢える人々の姿
行き倒れだろうか。男性がひとり倒れ込んだまま動かない。
撮影した脱北者「近くの店の主人に彼は死んでいるのかと聞いたら、前日の午後から倒れていて触ってみたけど、まだ死んでいない。飢えて倒れているようだが、まもなく死ぬだろう、と言っていた」
これは北朝鮮南部、黄海南道(ファンヘナンドウ)で、2023年4月に撮影された。
煙草をくゆらせる、物乞いに来た男性。
撮影した脱北者「あなたの作業班でも飢えている人は、ひとりやふたりじゃないでしょう?」
「凄く沢山いる。それでも働きに出て…。やむを得ず出てゆく人も多い。死にそうだ…」
これらの映像は、韓国に脱北した男性が北朝鮮のスマートフォンで撮影したものだ。コロナを理由に北朝鮮が国を閉ざす中、飢える住民たちをとらえた貴重な映像だ。
「失敗したら家族全員が処刑」命懸けの脱北
2024年3月、映像を撮影した青年にソウルで会うことが出来ました。30代前半だというキムさんです。インタビューには、軍や警察関係者も同席しました。警護と監視のためです。
日下部正樹キャスター「キムさんはソウルに来てどれくらいになりますか?」
脱北者 キムさん(30代)「2023年5月7日に入国しました」
多くの脱北者が中国やロシアなど、第三国を経由するのに対して、キムさんは海を渡って韓国に入りました。
これが脱北で使った木造船です。妊娠中の妻と母親、弟家族の総勢9人で、韓国・延坪島(ヨンピョン島)を目指しました。キムさんは、まず脱出の詳細を語り始めました。(中略)
キムさん 「あとで家族離れ離れの苦しみを抱えたくなかったんです。家族全員を連れていく方法を探しました。その方法を半年間ずっと考えていました」
キムさんが脱北を目指すようになった理由。 それは個人の自由や権利が認められない社会に、絶望したからだった。
「こちらでは全く理解できないでしょうけれど、北朝鮮では、家を一歩出たら、すべての物事を100%疑わないと生きていけません。 何も考えずに道を歩いていると、誰かが笛を吹いて、むやみに捕まえて身体検査をして、言いがかりをつけるのです。
『どうしてジーンズをはいているんだ。これは朝鮮社会主義式ではない』。『なぜ労働時間に出歩いているんだ』と。なんでも犯罪にでっちあげることができるのです」
コロナ後、政府は国民の管理をさらに強化した。 食料は専売制となり、人々は足りない米などを闇取引で買い求めた。
ある日、キムさんの家に、取り締まり機関の保安員が捜査令状を持ってやってきて、蓄えていた米を運び去ろうとしたという。
キムさん 「『私たちのお金で買った食料ですから持って行かないで。私たちのものです』と主張したら、保安員に『この土地はお前のものか?お前が吸っているこの空気も全部党のものだ』と言われました。これ以上、ここに希望はない。この土地から逃げだそうと、決心しました」(中略)
コロナ以降、扉を閉ざした北朝鮮内部で一体何が起きていたのでしょうか。 2020年1月以来、北朝鮮はコロナ感染対策を理由に、厳格な出入国制限を行い、人と物の行き来が止まった。 韓国に渡る脱北者の数にも明確に表れている。
韓国統一省によると、多い時には年に2000人を超えたが、この4年間で激減している。 徹底的な統制によって北朝鮮は、「苦難の行軍」と呼ばれる1990年代の大飢饉以来の食料不足に陥っていたのだ。
キムさん 「苦難の行軍の時期より厳しかったです。その時でも、穀倉地帯の黄海南道では、飢え死にしませんでした。 しかし、コロナの間は毎日のように、町内の誰々の父親が死んだ、誰々の子供が死んだらしい。そんな話が聞かれるほど沢山の人が死にました」
食料不足が深刻化するとともに、凶悪犯罪が急増したと言う。
キムさん 「生きてゆくために凶悪犯罪が増えました。殺人や強盗が日常茶飯事でした。公開処刑も沢山ありました」(後略)【4月28日 TBS NEWS DIG】
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【乱発気味の公開処刑】
北朝鮮では最近、公開処刑が“乱発”されているようです。それも、韓流コンテンツを密売していたといった類の理由で。(北では韓流コンテンツは現体制への信頼を揺るがす存在であり、その密売は重罪です。みんなが裏で見ているものではありますが・・・)
****300人が強制された「令嬢カップル」の見せしめ体験****
米国務省は22日、世界各国の人権状況を記録した「2023年国別人権報告書」を発表した。
北朝鮮についてこの報告書は、「新型コロナのパンデミック(世界的大流行)後、公開処刑が減少したが、最近は国境封鎖緩和とともに再び大きく増加する様相を見せている」と指摘。また、民間人に現場学習という名目で公開処刑を参観させているとも言及した。
コロナ禍の下での典型的な事例のひとつが、2022年1月に行われた男女のカップルの刑執行だ。韓流コンテンツを密売していたことが罪に問われたもので、女性は平安南道保衛局(秘密警察)の政治局長の娘という「お嬢様」だった。
しかし、父親の権力も及ばず極刑の判決を受けた。刑場には300人が引き出され、執行場面を見ることを強制されたという。
コロナ禍の前には、より大規模なものもあった。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋の話として、2019年2月に清津(チョンジン)市内中心部で公開裁判が行われたが、ここには数万人の住民が動員され、死刑判決を受けた被告がその場で銃殺される一部始終を見ることを強いられたと伝えている。
一方、3月には市内の水南(スナム)市場のそばの河原でも公開裁判が行われ、被告女性3人のうち、2人に極刑判決が下され、執行された。3人の罪状は「迷信行為」、つまり占いだった。
3人は「七星組」というグループを作り、「神が乗り移った」という3歳と5歳の子どもに占いをさせ、金品を受け取り、全国を回っていたという。北朝鮮では庶民から党幹部、占いを取り締まる立場の司法機関の幹部に至るまで、何か重要なことをする前に運勢を見るのが一般化しているが、当局はそれを体制維持のリスク要因とみて亡き者にしたものと思われる。(中略)
金正恩政権は2018年までの数年間、公開処刑を控えていた。国際社会の批判の声を意識してのものと思われるが、2019年より再開し、近年では乱発気味だ。
江戸時代のさらし首と同じように、犯罪者を見せしめにすることで犯罪を抑制しようという、現代の人権感覚では受け入れられないものだ。それでも犯罪は減らず、公開処刑を行えば行うほど国際社会の批判は高まる。まさに「誰得」なのだ。
金正恩総書記は、経済活動の自由を認め、国民の生活レベルを向上させることが、最も効果的な犯罪抑制策であることに、いつになったら気づくのだろうか。【4月28日 デイリーNKジャパン】
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【マンション地下室に住まわされ、住民の代わりに動員などに対処する孤児】
前出記事のように、毎日にように多くの人が飢えて死んでいく・・・当然、残された孤児も増加します。これまた当然ながら、そういう孤児を保護する体制もありません。孤児は自分の力で生きて行かねばなりません。「コチェビ」と呼ばれる子供たちです。それができなければ死ぬだけです。
****「金正恩に棄てられた子どもたち」とマンション地下室の秘密****
親と家を失い、路上で寝泊まりするストリート・チルドレンのことを北朝鮮では「コチェビ」と呼ぶ。彼らは首都・平壌にいることそのものが違法だ。革命の首都のイメージを乱すからだという。障がい者も同じような理由で平壌から追放された。
平壌市民には、コチェビを発見すれば安全部(警察署)や洞事務所(末端の行政機関)に通報することが求められているが、それに反して、コチェビを匿い、労働力として活用しようとする動きが現れている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
先月末に平壌へ出張した咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、郊外の西城(ソソン)区域の長慶一洞(チャンギョンイルトン)の親戚の住むマンションに6日間滞在した。そのマンションには年の頃12歳から15歳くらいの3人のコチェビが出入りしていた。
親戚に事情を聞いてみたところ、こんな答えが返ってきたという。
「地方からやってきたコチェビをマンションの地下室で住まわせる代わりに、人民班(町内会)の様々な社会的課題(動員)や作業をさせている。管理は人民班長(町内会長)が行っている」
人民班長は住民に呼びかけ、古着や残った食べ物を集めて、コチェビに分け与えている。彼らがきつい動員に出かけた場合には、みんなで少しずつ現金を持ち寄って、3人に渡すこともあるとのことだ。
一方で3人には「泥棒をしない。他のコチェビを連れてこない。昼間はできるだけマンションの周囲をうろつかない。トラブルを起こさない」などの誓約をさせているという。
各人民班に下された社会的課題を行う場合には、他の地区の住民がいないので、問題なく彼らを連れて行って仕事をさせる。早朝の動員には親でなく子どもが行く場合が多いが、コチェビにきれいな服を着せて、代わりに行ってもらう。
ただし、他の人民班と共同で行う作業の場合、彼らの存在がバレてしまうおそれがあるため、注意が必要だ。もしバレればコチェビは登録された元の居住地に送り返され、人民班長はあれこれ追及される。それでも、おおごとになる前にコネやワイロでもみ消すので問題になることはあまりないようだ。
コチェビを雇っているのは、この人民班だけではない。
別の情報筋の兄が住む、龍城(リョンソン)区域のマンションの地下室には、推定14歳のコチェビが2人住んでいる。彼らは、人民班の人がやりたがらない、ゴミ捨て場の掃除、ゴミの処理、雪かきなどを行っている。
「人民班に課された面倒な仕事をコチェビがやってくれるので、彼らの存在を嫌がる人は誰もいない」(情報筋)
元来、コチェビの「ねぐら」と言えば市場やゴミ捨て場、駅前の片隅の雨風と寒さをしのげるところが一般的なので、地下室は非常に快適なところだろう。また、優しい住民の配慮で衣食に困らず、連行されるリスクも少ないなどのメリットもある。
また、住民の立場からも、コチェビを保護することはメリットが大きい。動員があまりにも多いからだ。何よりも助かっているのは人民班長だ。
「社会的課題と作業で人民班の人々を動員しようにも難しいので、人民班長は窮余の策としてこのような手法にたどり着いたようだ」(情報筋)
本来、労働に対しては相応の代償が支払われてしかるべきだが、当局は一銭たりとも支払わないばかりか、交通費や食費まで動員される人々に転嫁する。かつてなら当たり前のものと受け止められていた動員だが、市場経済の進展や権利意識の伸長に伴い、タダ働きを嫌う傾向が強くなっている。
当局は、市場に対する抑制策を取ると同時に、配給制度に似た食糧供給システムを復活させるなど、北朝鮮という国のシステム全体がそれなりにうまく機能していた1980年代以前のものに戻したいようだ。
しかし、2020年代を生きる北朝鮮の人々の考え方、行動様式を40年前に戻すことは不可能だろう。【5月12日 デイリーNKジャパン】
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孤児を地下室で“飼い”、動員などで住民の身代わりに使う・・・・本来であれば、深刻な児童虐待・奴隷労働として批判されべき話ですが、それが“現実にうまく対応している話”と感じられるのが北朝鮮の歪んだ社会です。
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