孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  脱「中国依存」の動き 警戒する習近平主席訪中 「欧州は米の属国集団ではない」マクロン氏

2024-05-04 23:10:46 | 欧州情勢

(【22年1月7日 伊藤さゆり氏 ニッセイ基礎研究所「変わるEUの対中スタンス-日本はどう向き合うべきか?」】)

【中国の過剰生産能力問題】
中国における公的な補助金などに支援された過剰生産能力が海外への格安の輸出へと向かい、輸出先経済に大きな被害を与えている・・・という過剰生産能力を最近アメリカがしきりに主張しています。


****中国、過剰生産能力を問題視する米国非難、「いかなる選択肢も排除せず」と米財務長官****
中国は自国の過剰生産能力を問題視する米国をこれまでで最も激しい調子で非難した、と米ブルームバーグ通信が伝えた。

イエレン米財務長官は「追加関税の可能性をも含め中国の過剰生産能力への対応で米国はいかなる選択肢も排除しない」との考えを表明。中国側のいら立ちが高まっている。

中国政府は減速する経済の新たな成長源を模索。製造業に資金を投入し電気自動車(EV)やバッテリー、再生可能エネルギーといった新たな産業に力を注いでいる。

こうした中、米中関係の安定化を試すさまざまな問題が生じている。バイデン米大統領は中国からの鉄鋼・アルミニウム輸入のうち、現在の関税率が0%ないし7.5%の製品について税率を25%に引き上げるよう提案。中国は「排外主義的だ」と反発した

ブルームバーグ通信によると、イエレン氏は14日放送された米CNNの番組で「中国が過剰生産能力を持つ分野で、われわれの市場に中国からの輸出が急増する可能性を懸念している」と発言。「私は彼らとの話し合いの中で、これが米国だけでなく、欧州や日本、さらにインド、メキシコ、ブラジルといった新興国市場にとっても懸念事項であることを明確に伝えてきた」と語った。

イエレン氏は4月上旬に訪中し、中国の「不公正な経済慣行」を批判。中国に進出している米国およびその他の外国企業に対する不当な扱いや特定分野での過剰生産への補助金を通じた世界市場わい曲などへの懸念を強調した。

米国による追加関税の可能性を問われると、イエレン氏は「可能性のある対応策として何も排除するつもりはない。だが、われわれはこの関係を本当に責任を持って管理したいと思っている」と答えた。

米通商代表部(USTR)は中国造船業の不公正慣行の調査を開始すると発表。議会は動画共有アプリ「TikTok」を親会社の字節跳動(バイトダンス)から切り離そうと取り組んでいる。

これに対し、中国外交部の23日の声明によると、同部の北米大洋州司に属する匿名の当局者は直近のブリーフィングで、米国の批判には「競争上より有利な地位と市場での優位性を得るために中国の産業発展を制限・抑制しようとする悪意が含まれている」と言及。「露骨な経済的強制であり、いじめだ」と訴えた。

ブルームバーグ通信は「今回の当局者の発言は中国政府のいら立ちが高まっていることを示唆している」と指摘。同当局者は「米国は中国を封じ込める戦略をかたくなに進めており、中国の内政に干渉し、中国のイメージを傷付け、中国の利益を害する間違った言動を続けている。われわれはこれに断固として反対し、対抗する」と主張したという。【4月26日 レコードチャイナ】
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26日に訪中したブリンケン米国務長官と王毅政治局員兼外相や、習近平国家主席との会談しました。
バイデン政権としては、これから11月までは大統領選挙に専念することになるので、この時点で米中間の対話継続を確認したかったと思われます。

ただ、バイデン政権は共和党からは対中国「弱腰」を批判される立場にあります。選挙戦のなかで対中国強硬姿勢で自国労働者の雇用維持をバイデン・トランプ両氏が争うことにもなりがちで、上記記事にもあるバイデン米大統領による中国からの鉄鋼・アルミニウム輸入に関する関税引上げなどもそうした動きです。

中国としては、アメリカのこうした動きへの警戒感を強めています。

【欧州でもEVや太陽光パネルで中国製品への警告・調査】
中国の「過剰生産能力」を問題視しているのはアメリカだけでなく、欧州も同じです。
欧州のシンクタンク「輸送と環境(T&E)」の分析によると、23年にEUで販売されたEVのおよそ19.5%が中国製だったとのことで、24年には25%にもなるとの予測も。

****欧州委、中国EV3社に情報提供不十分と警告 反補助金調査****
欧州連合(EU)欧州委員会は、中国製電気自動車(EV)の補助金調査で、中国のメーカー3社に対し十分な情報を提供していないと警告した。関係者が明らかにした。

比亜迪(BYD) 、上海汽車(SAIC) 、吉利汽車の3社が提供した情報が不十分だと結論づけた場合、欧州委は、他の情報・データを使って関税を計算する可能性がある。

この種の警告は、EUの通商関連の事案で頻繁に起こっている。企業側は警告に対し説明する権利を有するという。
吉利汽車はコメントを控えた。BYDのコメントは得られていない。

上海汽車は対話アプリ「微信(ウィーチャット)」で、世界貿易機関(WTO)とEUの規則に従って欧州委に「全面的に協力」し、反補助金調査に関連する必要な情報を全て提供したとした上で「バッテリーの設計など商業的に機密性の高い情報はこのカテゴリーに属すべきではない」と主張。欧州委がバッテリーの設計などに関する情報を要求したかどうかに関する質問にはコメントを控えた。

在EU中国商工会議所(CCCEU)は、欧州委の指摘には根拠がなく、中国の企業は複数回のアンケート調査に参加し、現地査察を支援してきたと反論。詳細な書類提出の厳しい期限、証拠提出能力を超える要求、事業上機密となるサプライヤー情報の要求などEUの要求の一部は過剰との見方を示した。

中国EVへの調査は昨年10月4日に正式に始まり、最長で13カ月に及ぶ可能性がある。欧州委は調査開始から9カ月後に暫定的な反補助金関税を課すことができる。【5月4日 ロイター】
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EUにおける太陽光パネルや素材では中国製のシェアが9割を占めています。
しかし、安価な中国産抜きでは脱炭素目標も実現困難ですし、関連産業も回らなくなってしまいます。また、安価な中国製品のおかげで太陽光発電が普及したという現実もあります。

****脱炭素「中国抜き」でやれるのか 太陽光パネルで欧州ジレンマ、産業界は悲鳴****
再生可能エネルギーの普及を目指す欧州連合(EU)が4月、中国製の太陽光パネル流入に対抗し、不正競争の疑いで調査に入った。EU域内の環境産業を守る狙いあるが、「太陽光発電の普及には安価な中国製は必要」の声も根強く、ジレンマに立たされている。

米国、インドの保護策でしわ寄せ?
調査はEU欧州委員会が4月3日に開始した。中国2社が国家補助金を受けてEU市場に参入し、競争をゆがめた疑いがあるとしている。

担当のブルトン欧州委員は「太陽光パネルはEUにとって戦略的な重要物資だ」と述べ、経済安全保障の重要性を強調した。EUは中国政策で「リスク軽減」を掲げ、供給網の依存脱却を目指している。

EUでは太陽光パネルや素材のうち、中国製のシェアが9割を占める。欧州の業界団体代表は2月、「政治が手を打たなければ、数カ月で大半の企業がつぶれる」と対応を求めていた。

「エコ先進地」として有名なドイツでは、太陽光発電大手マイヤー・ブルガーが工場閉鎖を表明した。500人の雇用喪失になる。同社は声明で、中国の過剰生産品が世界市場にあふれ、米国やインドが国内産業保護に動く中、欧州が受け皿にされていると警告した。

EUは温室効果ガス排出量を「実質ゼロ」にする環境技術で、2030年までに製造シェアを40%にする目標を掲げる。太陽光発電は、その柱のひとつ。

フランスのルメール財務相は4月初め、国内のパネル大手に対する補助金支給を発表し、「国産推進に向けて汗をかく」と述べた。ドイツも新たな補助金を検討。国内産業の保護に動く。

ロシア産ガス高騰で、新設100万件
「中国リスク」に警戒が高まる一方、安価な中国製のおかげで太陽光発電が飛躍的に普及したという現実もある。
EUでは22年、ロシアのウクライナ侵略で対露エネルギー禁輸を発動した結果、ガスと電気価格が急騰した。これが契機となって住宅のベランダや駐車場に太陽光パネル設置が進展。ドイツでは昨年、新規設置が22年比で倍増し、100万件に達した。中国製は独製より3割安いという。

欧州シンクタンク「ブリューゲル」のベン・マクウィリアム研究員は、太陽光パネルでは中国リスクは薄いと指摘する。

「太陽光パネルは供給過剰で、EUには1年分以上の在庫がある」と述べ、中国が市場独占で価格操作したり、禁輸したりしても政治的圧力にはつながらないと分析する。補助金でEU企業を支えても競争力はつかず、脱炭素化を遅らせるだけだとして、「欧州は一定量の在庫を確保しながら、光吸収効率の向上など技術開発に重点を置くべき」と訴える。

太陽光パネルをめぐるEUと中国の貿易摩擦は2013年にも起きた。当時、EUは中国製パネルに47・7%の反ダンピング(不当廉売)課税をかけようとしたが、中国が報復を表明し、最低価格を設ける妥協策で決着した。(三井美奈)【5月2日 産経】
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【欧州における脱「中国依存」の動きに対抗して、習近平主席が訪欧】
こうした欧州における脱「中国依存」の動きに対抗する狙いもあって、習近平国家主席が5〜10日にフランス、セルビア、ハンガリーを訪れます。

ただ、欧州はウクライナをめぐってロシアと厳しく対立しており、中国はそのロシアを支える立場にもありますので、習近平主席としても対欧州戦略は対ロ関係とのバランスをとる必要もあります。

*****習近平氏が5日から5年ぶりに訪欧、米国の対中圧力に対抗 欧州の足並み乱す狙いも****
中国の習近平国家主席は5〜10日にフランス、セルビア、ハンガリーを訪れる。今年初の外遊で、訪欧は新型コロナウイルス禍前の2019年以来。

米国が呼び掛ける対中圧力の強化に対抗するとともに、中国依存を低減する「デリスク(リスク回避)」に傾く欧州諸国の足並みを乱そうとする思惑がうかがえる。

中国外務省は習氏訪欧を「中国と欧州の関係全体の発展に重要な意義がある」と強調。北京の外交筋は「対米、対欧をにらんで入念に練られた訪問先だ」と指摘する。

鍵は経済分野のつながり
中国は、伝統的に独自外交を重視するフランスとの関係強化を図り、米主導の対中包囲網にくさびを打ち込むことを狙う。鍵は経済分野のつながりだ。

昨年4月のマクロン仏大統領訪中では、欧州航空機大手エアバスの旅客機160機を中国に納入することで合意しており、今回も経済をテコにフランスを引き寄せる思惑とみられる。今年4月に訪中したドイツのショルツ首相とも経済協力を確認している。

欧州連合(EU)が対中依存低減で結束しないよう働きかけることも重要なテーマとなる。
EU側が中国の電気自動車(EV)の政府補助金を巡り調査を進めるなど、双方の経済摩擦が激しさを増しているだけになおさらだ。

ハンガリーは「一帯一路」通じ関係近く
ハンガリーとは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて関係が近い。今年下半期にEU議長国を務めるため、中国にとって戦略的価値が高い国だ。ハンガリーは工場誘致を期待しているもようで、中国EV最大手の比亜迪(BYD)がハンガリーでの工場建設を決めたほか、中国自動車大手、長城汽車の工場建設計画も報じられる。

セルビアへの訪問は、1999年5月7日に当時のユーゴスラビアの首都ベオグラード(現セルビア)の中国大使館を北大西洋条約機構(NATO)軍が誤爆してから25年の節目と重なる。現地の追悼行事に習氏が出席し、米主導のNATOへの批判を展開することが見込まれる。

ロシアのウクライナ侵略を巡っても、今月中旬のプーチン露大統領の訪中見通しが報じられる中、習氏が欧州とロシアの間でどうバランスをとるか注目される。【5月4日 産経】
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【安全保障で欧州の主権を主張するマクロン大統領「欧州はアメリカの属国集団ではない」】
一方、安全保障面でみると、欧州を支えるのがアメリカとの協調によるNATO体制ですが、“例によって”フランス・マクロン大統領が「欧州はアメリカの属国集団ではない」と、欧州の主権をアピールしています。

****新防衛戦略の策定提案へ=「欧州、属国集団にあらず」―仏大統領****
フランスのマクロン大統領は25日の演説で、ウクライナへの侵攻を続けるロシアが「際限なく攻撃的」になっていると指摘し、欧州が脅威に立ち向かうには「信頼できる防衛戦略」が必要だと述べた。欧州各国に対し、戦略の策定を近く提案するという。

演説では、欧州の「主権」を強化するという持論も展開。「米国に米国の優先事項があるのは当然」であり、欧州が「米国の属国集団ではないと証明できる」ことが重要だと主張した。

その上で、激変する世界の中で手をこまねいていれば「欧州は消滅する可能性がある」と警告。生き残りは「われわれの選択に懸かっている。(決断するのは)今だ」と訴えた。【4月25日 時事】 
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フランスの対米追随を嫌う独自路線は今に始まった話でありません。NATOにしてもドゴール時代に一度脱退しています。

フランス原子力空母のNATO演習参加にしても、フランス国内には「アメリカへの属国化だ」との批判が左右両方からあるとか。

****仏海軍の原子力空母、NATO演習に初参加 “米への属国化”批判も****
フランス海軍の原子力空母「シャルル・ドゴール」が26日、北大西洋条約機構(NATO)軍の合同演習に初めて参加した。シャルル・ドゴールは米国以外が保有する唯一の原子力空母で、防衛の独立を志向する伝統があるフランスでは、米国主導のNATOの指揮下に入ることに批判も出ている。

合同演習は東欧での有事を想定し、地中海で5月10日まで実施される。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月以降では最大規模で、加盟国が作戦時の連携を向上させる狙いがある。フランスのほか、イタリア、スペイン、トルコなどの艦船20隻が参加する。シャルル・ドゴールは全長約262メートル、全幅約64メートルの大型空母で、ラファール戦闘機など40機を搭載する

フランスは第二次世界大戦後、独立独歩の外交、安全保障を目指し、核軍備はその要となってきた。米国の欧州への関与拡大を嫌うドゴール大統領(当時)が1966年、NATOの軍事機構から脱退し、サルコジ政権の09年に復帰した歴史がある。

01年に就航した原子力空母はドゴール氏の名を冠し、仏独自の安全保障政策の象徴だっただけに、今回の演習参加には反発の声が上がる。

極右政党「愛国党」のフィリッポ党首はX(ツイッター)に「信じられない。フランスのNATO、すなわち米国への歴史的服従だ」と投稿した。急進左派「不服従のフランス」創始者のメランション氏も「悲嘆。公然の属国化」と書き込み、批判した。【4月27日 毎日】
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【マクロン大統領のウクライナへの地上軍派遣発言では欧州内部からの反発も】
フランスという国にしても、マクロン大統領の個人的性格としても、独自の立場をアピールして、欧州をリードする立場にないと気が済まないようで・・・・

マクロン大統領のウクライナへの地上軍派遣発言もそうしたもののひとつでしょう。地上軍派遣発言は英独など欧州各国からの反発を招きましたが、引っ込めた訳ではないようです。
ロシアは当然反発を強めています。

****ロシア、地上部隊派遣に再言及の仏マクロン氏を非難 英外相にも反発****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が西側諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性を「排除しない」と改めて表明したのに対し、ロシア大統領府(クレムリン)が3日、反発した。

マクロン氏は2日付の英誌エコノミストのインタビューで、ロシアがウクライナの前線を突破し、ウクライナ政府から要請があれば、西側諸国の部隊をウクライナに派遣する問題が生じるのは「当然だ」と述べた。

これに対し、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は会見で、「非常に重大で危険な発言だ」「(マクロン氏は)ウクライナでの紛争に地上で直接関与する可能性に絶えず言及し続けている」と非難した。

さらに、英国のデービッド・キャメロン外相がウクライナによるロシア国内への攻撃を擁護したことについても、「危険」で「戦争の規模を拡大させる」発言だと反発した。(後略)【5月4日 AFP】
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マクロン大統領は3月5日、訪問先のチェコ・プラハで、ロシアの侵攻を受けるウクライナの同盟国が行動を強める時が来たと述べ、欧州で「弱腰にならない」ことが近く適切になるとの見方を示しています。

もっとも、フランスはウクライナを巡るロシア制裁に関して当初は、ロシアとの外交や経済的な関係を考慮して対話と外交的解決を重視し、他の欧州諸国と比較して消極的な立場を取っていました。何がマクロン大統領の心境の変化をもたらしたのでしょうか。
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