孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

世界各国の人身売買に関する報告書(米国務省)が指摘する中国・韓国、そして日本の問題

2022-07-20 22:07:23 | 人権 児童
(制度廃止を求めるデモ行進に参加する技能実習生や支援者ら=東京都内、6月12日【6月13日HUFFPOST】)

【中国「一帯一路」事業 労働者の人権侵害】
アメリカ国務省は19日、世界各国の人身売買に関する2022年版の報告書を発表しました。
毎年の定期報告ですが、この中で指摘されている東アジア地域の問題をいくつか。

まず中国、。「一帯一路」事業で強制労働などの人権侵害が横行していると指摘されています。

****「農村出身の中国人男性」が辿った壮絶な末路。中国の「一帯一路」で人権侵害を指摘 アメリカ政府****
中国の習近平・国家主席が提唱した国家プロジェクト「一帯一路」で、強制労働などの人権侵害が横行していると、アメリカ国務省の報告書が指摘した。

中国の農村部からインドネシアに出稼ぎをしに行った男性が受けた数々の人権侵害を例に挙げ、「こうした例は一帯一路の対象国では珍しくないことだ」と評価している。

■海に投げ捨てられ、銃撃される
(中略)一帯一路の人権侵害を指摘したのは、アメリカ国務省が7月19日に発表した人身売買に関する報告書の2022年版だ。「強制労働:一帯一路の隠れたリスク」と題した部分で、中国人やインフラ整備の実施国の労働者が人権侵害に遭っているとしている。

具体的には、騙されて借金漬けにされたり、恣意的に賃金を差し押さえられたりするほか、パスポートの没収や身体的な暴力なども起きているという。

報告書は実例として、インドネシアで鉄鋼生産の仕事に就いた中国人男性の例を挙げている。この男性は家族のためにお金を工面しようと、求人広告に応募して出国。しかし現地に到着するや否やパスポートを取り上げられ、当初の条件よりもはるかに低い給料で、長時間働くことを強いられたという。

数ヶ月ののち、この男性は人目につかないようにネットに自身の写真をアップ。家に帰れるよう助けて欲しいと手書きのメモを添えた。しかし救いの手は届かず、男性は4人の仲間とお金を出し合い、中国籍ブローカーに出国の手助けを依頼した。だが連れていかれたのは故郷ではなくインドネシア国内の別の現場で、再び劣悪な環境で働くよう強いられた。

最終的にこの男性は、密輸業者に金を出すことでマレーシアへ抜け出る。しかし沖合で海に投げ出され、泳いで到着した先で現地当局から銃撃を受け、逮捕されることになる。

報告書はこの男性の例について「一帯一路に参加する数十の国々では珍しいことではない」と評価する。また、インフラ整備などの工事現場だけでなく、その周辺地域でも売買春や児童を対象にした強制労働、それに搾取的な結婚が増加傾向にあるとも指摘している。

■米主導で「対抗」枠組みも発表
一帯一路をめぐっては、アメリカのバイデン大統領が6月のG7(主要7カ国)首脳会合で、途上国を対象に日本円にして80兆円超の投資を目指す「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」を発表した。一帯一路に対抗する経済圏構想とみられている。

中国外交部の趙立堅・報道官はこれに対し「一帯一路が債務の罠を作り出したというのはデマだ。予定されている交通インフラの整備が全て実行されれば、2015年から2030年で世界の760万人が極端な貧困状態から脱却できる。インフラ整備を口実に地政学的な計算を働かせ、一帯一路に汚名を着せる言動に反対する」などと反発していた。【7月20日 HUFFPOST】
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「一帯一路」批判に対する中国の反論は上記にもありますが、そもそもアメリカが“上から目線”というか、教師面して他国の人権状況についてもの言うことへの反発もあります。

中国に言わせれば、銃が街に溢れ大勢が銃でなくなっているような国、人種差別絡みに事件も多発している国から人権云々をとやかく言われる筋合いはない・・・ということにも。おそらく、その批判には幾分の真実があるでしょう。

(アメリカの2020年の銃による死亡者は4万5222人で、前年比14%増、5年前と比較すると25%増えている。とくに銃による殺人事件は近年、急激に増加して10年前から75%増、そして、自殺者も増加の傾向にあるという。【6月23日 HUFFPOST】)

ちなみに世界各国の人身売買に関する報告書では、アメリカはもっとも状況が良い「第1階層」に分類されているのに対し、中国はロシア、北朝鮮、カンボジア、ベトナムなどとともに最悪の「第3階層」に含まれています。
日本は、その中間の「第2階層」。

【韓国 20年ぶりの降格】
アメリカの話は横に置くとして、人身売買に関する報告書の続き。
韓国は20年ぶりに「第1階層」から「第2階層」にランクが引き下げられています。

****韓国の人身売買に関するランクを2級に降格 米国務省****
アメリカ国務省がまとめた世界各国の人身売買に関する報告書で、2022年版では、韓国のランクが1級から2級に降格したことがわかりました。

関連の報告書が初めて発表された2001年当時、3級に指定された韓国は、その後1級を維持してきましたが、20年ぶりに1段階下がりました。

アメリカ国務省は、各国の人身売買に関する監視と取り締まりのレベルを、1~3級に分けて評価しており、今回韓国が指定された2級は、人身売買の防止と関連したすべての基準を満たしているわけではないものの、持続的に努力している国が該当します。

文在寅(ムン・ジェイン)政権だった去年4月からことし3月までを評価した今回の報告書は、韓国政府が人身売買と関連した新たな教育課程を追加で取り入れたほか、被害者の保護に向けた新たなガイドラインを設けるなどの取り組みはあったものの、以前に比べて確かな成果が出ていないと指摘しました。

特に、韓国政府が人身売買の対象となった女性や、移住労働者など被害者を差別したり、追放する一方で、加害者に対する処罰は、1年以下の懲役や罰金、執行猶予にとどまったため、犯罪の根絶に向けた努力が不十分だったということです。

世界188か国のうち、フランスとドイツなど30か国が1級、日本など133か国が2級でした。もっとも低い3級には、北韓、中国、ロシアなどが指定され、人道支援と交流において不利益を受けることになります。

これに加え、アメリカ国務省は、アメリカ人を不当に抑留するリスクがある国をあらわす「D指標」を新設し、北韓、中国、ロシア、ミャンマーなど6か国を指定しました。【7月20日 KBS】
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今回“格下げ”に対し、“韓国外交部の当局者は20日、「これまで人身売買を根絶するため多角的に努力してきたわが政府としては大変残念に思う」と述べた。新政権発足を機に、人身売買の防止と根絶に一層積極的に取り組む考えを示した。”【7月20日 聯合ニュース】

【日本 繰り返し問題視される外国人技能実習制度での強制労働】
中国「一帯一路」の、実際の条件が応募時と異なり、到着するや否やパスポートを取り上げ・・・という話なら、日本でも外国人技能実習生でよく指摘される問題です。
ということで、日本は例年の「第2階層」

なお、下記記事で“4段階評価”というのは、今回新設されたアメリカ人を不当に抑留するリスクがある国をあらわす「D指標」を加えてのことでしょうか。「D指標」の国は「第3階層」にも分類されています。

****「日本の外国人技能実習で強制労働」 米報告書、日本政府を批判****
米国務省は19日、世界各国の人身売買に関する2022年版の報告書を発表した。日本で外国人技能実習制度の参加者が「強制労働」をさせられているとの報告があると指摘。人身売買に関与した悪質な仲介業者や雇用主の責任を日本政府が追及していないと批判し、4段階評価で上から2番目のランクに据え置いた。

国務省は過去の報告書でも日本の外国人技能実習制度を繰り返し問題視。22年版は、技能実習制度の下での強制労働の報告が、日本政府が把握している数を大幅に上回っているとした。

人身売買への対処や被害者保護に関する「政治的な意思」が欠如し、軽微な処分で済まされるケースも多く、抑止効果が弱いとして厳罰化を要求した。(後略)【7月20日 産経】
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また、児童の性的搾取についても「法執行機関が、商業的性産業で搾取を受けた何百人もの児童を正式に人身取引の被害者として指定しなかったため、保護や司法手段へのアクセスが妨げられ、性的人身取引の業者は処罰を受けることなく活動できた」と批判しています。

外国人技能実習制度の問題はアメリカ報告書も“繰り返し問題視”していますが、これまでも当ブログでも何度も取り上げてきたように、日本国内でも多くの批判・指摘が以前からある問題です。

****<技能実習生人権問題>「産業研修制度」を廃止した「変われる国・韓国」に学ぼう****
仏フィガロの「フランス・ジャポン・エコー」編集長のレジス・アルノー氏は「日本の技能実習制度はそれ自体が人権侵害だ。技能実習制度は、雲が雨を呼ぶように人権侵害を広げている。〜日本の実習制度が、世界中の外国人労働者から嫌われることを目的としているのであれば、それは非常に効果的といえるだろう。」と技能実習制度の決定的欠陥を喝破しフランス流で日本(政府)を揶揄している。

◆改正技能実習制度が欠陥を維持強化
技能実習生人権侵害の根本原因は「非熟練労働者」の「移民」は受け入れていないという「タテマエ」を維持しながら 非熟練労働者を受け入れるという「カラクリ」にある。

技能実習制度への批判を受けて2016年11月成立2017年11月施行の改正法の名称は「外国人技能実習の“適正な実施“および“技能実習生の保護”に関する法律」というそれまでの制度が「不適正」で「技能実習生の人権侵害」を招いていることを認める異例な名称の法律となっている。不適正な法律なら廃止すれば済むはずだが、改正法は逆に人権侵害を招いた構造的欠陥を維持強化している。

同法1条は目的を「国際貢献」とし、第3条基本理念は「途上国への技術移転」であり

「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」としている。
そのうえで屋上屋を課する規制を施し、実習生と受け入れ先の負担を増しそれが実習生の借金を増やし日本での手取り額を減らし、受け入れ先のコスト増となり人権侵害発生要因となっている。

たとえば非熟練労働者に必ずしも必要のない高卒要件を課すと偽造の卒業証書購入のため実習生の借金が増える。過剰な「技能研修計画」とその認定制度はお役所仕事を増やし受け入れ企業の負担・コストを増す。

実習生は転職の自由がなく受け入れ先から負担に見合う戦力になっていないとするいじめ虐待の人権侵害を招いており、本年1月の岡山県での技能実習生への集団いじめ虐待事件がこのことを示している。

以上の「カラクリ」は安倍政権下でさらに強化された。閣議決定「未来投資戦略2017」は「外国人材の活用が“移民政策と誤解されない仕組み”〜の検討を政府横断的に進める」とし、閣議決定「未来投資戦略2018」は「“移民政策とは異なるものとして”、外国人材受け入れを拡大する」とし、「カラクリ」を維持しながら外国人労働者受け入れ拡大が図られた。

◆韓国の移民政策
韓国は1993年に日本を見習い「外国人産業研修制度」をスタートした。しかし市民団体が「奴隷制度」だと批判し「産業研修制度」廃止と「外国人労働者の合法的受け入れ」を主張した。

使用者団体も既得権を克服し双方が折り合い、2004年「産業研修制度」廃止決定2007年完全廃止に至った。2004年の「産業研修制度」廃止決定と同時に「雇用許可制度」による非熟練労働者の合法的受入をスタート、「出身国別割当制」と期間4年10か月までの「ローテーシヨン原則」とした。

韓国は2007年「外国人基本法」を制定し政府が5年ごとに外国人基本政策を策定するとし、第一次基本計画(2008~20012年)では①積極的な移民許容による競争力強化、②質の高い社会統合、③秩序ある移民行政、④外国人人権擁護、を基本とした。その後も5年ごとに政策の見直しを図っている。

◆日本は何故変われないのか
日本人は細部の仕上げは得意だがグランドデザインの設計は苦手だ。いったん「技能実習制度」という「カラクリ」ができるとその細部には眼が行くがグランドデザイン自体を変えることができない。グランドデザインがいびつなまま細部を積み上げると諸々の弊害が発生し蓄積する。

特に技能実習生を斡旋し保護する役割のはずの民間の「監理団体」が全国に約5000もできているが、企業等に実習生を斡旋し派遣先から監理料を得る事実上の奴隷商人となり人権侵害を行う受け入れ先の共犯となっている。「監理団体」の巨額脱税や不明朗な支出も報道されている。

日本人が就職するなら「監理団体」は不要である。多くの実習生受け入れ先で労働法違反事例が発生しているが労働基準監督署が実習生の雇用者を「法の下の平等」で監督指導すれば良いだけである。技能実習生固有の管理のためにはすでにある「外国人技能実習機構」の任務を再定義すれば良いだけである。本来不要な「監理団体」に利益が生じる仕組みを変えなければならない。

仏教の「不妄語戒律(嘘をつかない)」の精神で隣国韓国に見習ってグランドデザイン自体を変えないと大きな国家的損失が積み増される。

新型コロナ下で「エッセンシャル・ワーカー」という用語が使われるようになったが、日本に必要な非熟練労働者はまさに「エッセンシャル・ワーカー」である。

この方々が正当に報われる制度設計ができないのであれば外国からの「エッセンシャル・ワーカー」受け入れはいったん止め、国民全体で「外国人労働者」の受け入れについて議論すべきである。【2月28日 大村多聞氏 レコードチャイナ】
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別に韓国の制度が完全という訳でもないでしょうが、日本の現行制度が大きな問題を抱え、現実に人権侵害を多く惹起していることは従前から繰り返し指摘されています。

それでも政府も制度を変えない、国民もそれを強く批判しないということは、日本という国が外国人労働者の人権など重視していない、単に便利に使えて使い捨てできる存在と考えているということでしょう。

その結果、劣悪な状況から犯罪に手を染めるケースも当然に増えますが、すると「やっぱり外国人は怖い」というリアクション。もはや日本社会が彼らの存在なくしては機能しなくなっていることなどお構いなし。

若者が多い東南アジアは高齢化が進む先進国にとっての人材の供給地になっており、新型コロナウイルスの感染拡大などを機に、医療・福祉分野の人材をめぐるグローバルな獲得競争が激しさを増している、そして日本の労働条件はどんどん他国に比べ劣後するようなっているのが現状ですが、相変わらず「東南アジアの人々は皆先進国日本に来たがっている」という寝ぼけた過去の幻想に浸ったまま。

****論点整理を提示へ=技能実習生制度見直しで―古川法相****
古川禎久法相は30日、訪問先のベトナム・ハノイのホテルで記者会見し、有識者らと進めている技能実習生制度などの見直しについて、「論点を7月に発表する」と語った。日本では、技能を学びながら働くベトナム人の若者へのいじめ事件が発覚するなど、技能実習生制度の改善を求める声が高まっている。

法相は「持続可能な制度にしなければならない」と強調。実習生を派遣する送り出し機関の在り方を含めた論点を整理し、制度の抜本的な改正につなげたい意向だ。【6月30日 時事】 
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今更、何を言っているのか・・・。
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