孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカの大統領交代  マンデラ氏の掲げた人種共存の「理想」に「現実」を引き寄せられるか?

2018-02-24 22:59:10 | アフリカ

(【2月12日 毎日】 マンデラ氏の肖像を前に演説するラマポーザ氏 2月11日)

【“庶民の大統領”は汚職・スキャンダルまみれ 混乱のなかで見放される
南アフリカのズマ大統領に対して、公費流用で弾劾の動きが出ている・・・という話は、2年ほど前の2016年4月2日ブログ“南アフリカ スキャンダルで苦境に立つズマ大統領 閉塞的社会で拡大する移民や白人への攻撃的な姿勢”で取り上げました。

ズマ氏に関してはこうした汚職・スキャンダルが絶えませんでしたが、カリスマ性と個人的人気、そして「天才的な保身能力」でなんとかしのいできましたが、ついに与党からも見放され、辞任に追い込まれました。

ズマ氏には数々の汚職・スキャンダルにまみれた「腐敗政治」の責任のほか、かつてはBRICSとして新興国を代表する立場にあった南アフリカ経済の低迷を招いた責任も問われています。

****庶民の大統領」命運尽きる=醜聞まみれ、民心離反―南アのズマ氏****
南アフリカのズマ大統領が14日、辞任した。

ズマ氏は1994年の同国民主化以降で「最も物議を醸した大統領」と言われた。数々の汚職疑惑や醜聞を抱えながら、カリスマ性と個人的人気により9年近くトップの座を守ってきたが、相次ぐ悪評に民心は離反。与党アフリカ民族会議(ANC)の身内からも見放され、任期を1年以上残す早期退陣を余儀なくされた。
 
ズマ氏は2007年、政敵だったムベキ元大統領を追い落とす形でANC議長(党首)となり、09年に大統領に就任した。

貧困家庭出身で公教育を受けたことがないズマ氏は、エリート臭を漂わせるムベキ氏と対照的な「親しみやすさ」を持ち合わせ、「ピープルズ・プレジデント(庶民の大統領)」として特に貧困層から好意的に迎えられた。
 
しかし、副大統領時代から汚職や詐欺、レイプなどの疑惑が常に付きまとい、一部の裁判は今も続く。

14年、私邸改修工事に巨額の公費を投じていた問題が発覚したほか、16年にはズマ氏に近いインド系富豪グプタ家が閣僚人事などに介入していた疑惑が新たに浮上。近年の経済低迷と高失業率への不満と相まって、「腐敗政権」に対する国民の批判はこれまでになく高まった。
 
「普通なら誰でも確実に職を失う」(英BBC放送)状況にもかかわらず、「天才的な保身能力」(専門家)で幾度もの危機をくぐり抜けてきたズマ氏。

来年の任期満了まで粘ろうとしたものの、昨年12月に「反腐敗」を訴えるラマポーザ副大統領がANC議長となったことで命運が尽きた。

14日の辞任表明演説では「官職を去ることを恐れはしないが、私が何に違反したのか、なぜ退任すべきなのか、党に明確にしてほしかった」と恨み節を繰り返した。【2月15日 時事】 
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新大統領のラマポーザ氏は、かつてはマンデラ元大統領の後継者とも目された人物ですが、政界では志を果たせず経済界に転身、大富豪に上り詰めた人物です。

大富豪に上り詰める過程で全くクリーンであったとも思われませんが、マンデラ氏が信頼したように能力は優れた人物とされており、ズマ前大統領のような“汚職を公然と行ってはばからない”非常識さとは異なると思われています。

****反アパルトヘイト闘士から大富豪に 南アのラマポーザ新大統領****
南アフリカのズマ大統領の退陣に大きな役割を果たし、自ら後継者の地位をたぐり寄せた。昨年12月に与党、ANCの議長に就任して以来、大統領の座に固執するズマ氏を追い詰めてきた。
 
アパルトヘイト(人種隔離)に終止符を打った立役者、ネルソン・マンデラ氏の下で早くから活躍し、ANC書記長として南アの民主化交渉をリードした。
 
1996年には書記長を退任して実業界に転身した。コカ・コーラやマクドナルドの株を保有するなどして財をなし、推定資産は4億5千万ドル(約480億円)にのぼる。
 
2012年にANC副議長となり政界に復帰し、14年にはズマ氏の下で副大統領に就任。米誌フォーブズで15年、アフリカの富豪トップ50にランクインした。
 
学生運動に身を投じ、獄中暮らしの経験もある。1980年代前半からは労組活動に力を入れ、黒人労働者の人権向上に尽力した。
 
腐敗の一掃を掲げているが、労組幹部の時代から白人ビジネスマンと交流を持ち、高級ワインやスポーツカーを好むぜいたくな暮らしをしてきたとされ、「白人と外国人の操り人形」とやゆする声もある。こうした振る舞いから改革を断行できるのか、疑問視する見方も一部にある。
 
ANC内部にはズマ氏を支持する勢力もあるとされ、党の団結をどう実現するかも課題となりそうだ。【2月15日 産経】
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アパルトヘイトを経験した異なった人種が平和裏に共存することが可能か・・・という壮大な試み
ズマ前大統領が汚職まみれだったのは、アパルトヘイトの時代から黒人と白人が共存する新生南アフリカを建設するという変革の時代にあって、社会的にもある意味、汚職みたいなものが不可避とも思われる政治環境を一定に反映しています。(もちろん、ズマ氏の場合は度を越していますが)

また今後、南アフリカが黒人と白人が共存できる社会として再生できるかは、壮大な挑戦であるとも言えます。

****ズマ大統領辞任の背景にある南アフリカの理想と現実*****
(中略)ラマポーザ議長がズマ大統領の任期満了を待たずに辞任を迫ったのは、高まる民衆のズマ大統領に対する反発を踏まえてのものだった。それほどまでにズマ大統領の9年間は、南アフリカを混乱に陥れた。

783件もの汚職嫌疑、贈賄側はすでに刑が確定
経済は成長から見放され、一人当たり成長率でも他のサブサハラ・アフリカ諸国に大きく後れを取った。政府債務は膨れ上がり、貧富の格差は拡大する一方で、失業率の36%は単に表に出た数字に過ぎない。

何より、ズマ氏に向けられた汚職嫌疑が783件に上るというのだから国民があきれるのも無理はない。この783件は、1999年の南アフリカ海軍によるフリゲート艦購入に関するもので、贈賄側のシャビール・シャリクは既に15年の刑が確定しており、ズマ氏に対する捜査も動き出した模様である。
 
もっとも、南アフリカで汚職は別に珍しいことではない。トランスパレンシー・インターナショナルが公表する汚職指数というのがある。その国の公職にある者がどれだけ汚職にまみれているかを示す数値で、ゼロが「最もひどく」、100が「最もクリーン」と国民が見ていることを示す。2016年、南アフリカはこの指数が45だった。

ちなみに日本は72、スイスは86で、世界に名だたる汚職大国ブラジルは40、インドネシアは37である。つまり、政府高官のほとんどは汚職にまみれている。それでもこの大統領はけた外れなのである。
 
そもそも、2007年にズマ氏が大統領に就任した時からして、レイプ・スキャンダル騒動が巻き起こる中での就任だった。それほどズマ氏には汚職、犯罪のきな臭い噂が絶えずまとわりついた。

それでもズマ氏は大統領になり、しかも9年間その地位にあった。結局、ズマ氏のまわり、あるいはもう少し広く南アフリカ富裕層一般にとり、こういうズマ氏が大統領でいることが都合良かった、ということに他ならない。

南アフリカで汚職が蔓延している理由
体制が大きく転換し、それまでの既得権益層から利権をはく奪し、国民各層にその利益を均霑しようという時、南アフリカに限らずどこでも、大なり小なり汚職が横行する。

日本でも、明治維新に際し、武士階級を廃し産業基盤たる財閥を育成した時、それなりのことはあったろうし、社会主義圏で体制転換の時、多くのオリガルキーが生まれたことは周知のことである。
 
南アフリカでもアパルトヘイトが廃止され、新生南アフリカとして再出発した時、似たような状況が生まれた。というのも、南アフリカには白人が築いた一大産業構造があったからである。

通常、アフリカ諸国は、こういう白人層の富裕資産を新政府が接収する。それが脱植民地化なのである。しかし、南アフリカはそれをせず、白人資産はそのままとし、白人と黒人が共生する道を選んだ。マンデラ大統領が目指したレインボー・ネーションである。

しかし、片や、食うや食わずの黒人層がひしめき、他方で裕福に生活する白人層がいる。これでは社会は成り立たない。

そこで南アフリカ政府がしたのが、黒人優遇政策いわゆるアファーマティブ・アクションである。民間企業は、黒人を一定割合、幹部に登用しなければならず、また、一定割合の株を提供しなければならない等である。これにより実質的に白人資産を黒人に移転した。
 
ところが、どこでも、こういう時の資産移転を公平に行うことは難しい。結局、南アフリカに出現したのは、巨大な資産を抱える新たな黒人成金層だった。そして、この成金が生まれる過程で数々の汚職が蔓延したのである。(中略)

南アフリカに渦巻く「理想」と「現実」の問いかけ
しかし、これから南アフリカがどうなるか、つまり、南アフリカの帰趨がどうなるかは、単に南アフリカだけに関わることではない。

先に述べたとおり、南アフリカはアパルトヘイト撤廃後、通常であれば白人資産を接収するところを、マンデラ大統領の崇高な理念に従い、接収することなく白人と黒人による共生の道を選んだ。

その時、白人は、どうせマンデラはきれいごとを言っても、黒人が差配する新生南アフリカがこのままうまく治まるはずがない、やがて、「破綻国家」の道を歩むのは必定だ、と言った。

他方、黒人は、マンデラはきれいごとを言って、白人と黒人の共生などというが、それがうまくいくはずがない、どうして白人資産を接収し貧しい黒人に分け与えないのか、それをしないからいつまでたっても黒人貧困層がなくならないのだ、と言った。
 
つまり、ことは単に一つの国が安定し繁栄するかどうかを越え、より高次の、脱植民地化の過程で旧支配層と被支配層が財産接収という暴力的行為を経ることなしに、平和裏に共存することが可能かという、壮大な試みに関係することであり、さらにはまた、異なった人種がアパルトヘイトという特殊な経験を経ながらも共に一つの国家を築いていくことができるかという、崇高な理念の妥当性に関することなのである。人類は理念のもとに生きることが可能なのか、あるいは所詮、現実の世界の中でしか生きられないのか、といった問いでもある。
 
もっとも、白人資産を接収したアフリカ諸国の経済が、その後その多くが立ち行かなくなっていったとの事実は、マンデラの理念の方が現実に適合し成功を収める、ということなのかもしれない。【2月22日 WEDGE】
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“白人資産を接収したアフリカ諸国の経済が、その後その多くが立ち行かなくなっていった”事例が隣国ジンバブエのムガベ大統領で、年間インフレ率が2億3100万%という天文学的数字のハイパーインフレーションで経済が崩壊、強権支配で延命していましたが、昨年11月に権力の座から追われています。

ただ、ムガベ大統領が経済破綻にもかかわらず一定に延命できた背景には、強権支配だけでなく、黒人優位の政治姿勢が広く一般国民の間で受け入れたこともあるのではないでしょうか。

“異なった人種がアパルトヘイトという特殊な経験を経ながらも共に一つの国家を築いていくことができるかという、崇高な理念”の実現は、現実社会・政治にあっては極めて難しい道筋でもあります。

特に、経済状況が悪いときほど、過去の歴史を引きずるような格差の存在は怨嗟の標的ともなります。

ズマ氏が大きく踏み誤った道から南アを引き戻すためには
今後、ラマポーザ新大統領が取り組むべき課題は、汚職が蔓延し、政治の私物化が横行する状況にあって、法治国家としての信頼を回復すること、法と規制を見直して潜在的成長力を有する南アフリカ経済を再び成長軌道に乗せること、そして教育に投資して若者に将来への希望を与えることです。

****ズマ辞任後の南アに捧げる3つの提言****
(中略)ラマポーザは、20年前に当時のマンデラ大統領が後継者にしようとした人物。彼を待ち受けるのは、一筋縄ではいかない挑戦だ。アパルトヘイト(人種隔離政策)で荒廃した国を立て直そうとしたマンデラが直面したものと同レベルの難題ばかりだ。
 
マンデラは27年に及ぶ獄中生活から解放されてから4年後の94年、大統領に就任。国民は憲法に基づく人種融和国家が誕生したと歓喜した。だが09年に大統領の座に就いたズマの任期中に、その喜びは消えた。
 
汚職の蔓延、国力の低下、企業の不正行為、国有企業の低迷。問題が相次ぐなか、地域と世界における立場は弱体化した。
 
南ア国民にとり、ラマポーザの登場は国力の復活を象徴する。彼は南アの信頼回復と、人種融和の価値を取り戻すと約束している。会議や集会を時間どおり始めるという些細なことからも、ズマとの違いを見せるだろう。
 
もっとも時間を厳守するだけで、信頼回復といい統治ができるわけではない。新しい指導者が新しい道を歩みたければ、心すべき点が3つある。

南ア鉱業の意外な潜在力
1つ目は、法治国家としての信頼の回復だ。
実業界や検察当局、閣僚に対するズマの影響力があまりに大きかったため、取り除くには時問がかかる。だがいくら難しくても、最優先で進めなくてはならない。
 
2つ目は、国と国有企業との関係を迅速に改革することだ。
ズマは国有企業で私腹を肥やし、経営の失敗は成長と発展の障害になった。貧困、不平等、失業を抱える経済は、富の効果的な牽引がなければ立ち直れない。
 
経済の中核である鉱業は、製造業を活性化させる可能性がある。南アは世界最大級のクロムとマンガンの埋蔵量を誇る。これらは電気自動車、風力発電夕-ビンなど「第4次産業革命」の製品に欠かせない鉱物だ。
     
ズマ政権は支持者に鉱山使用権を貸し出したため、鉱業界は政府を信用していない。信頼を回復する唯一の方法は、開発と生産を強化し、法と規制を見直して業界の利益を守ることだ。
 
業界と協力すれば、投資を誘致し、雇用を生み、国庫を潤わせることができる。富の再分配、とりわけ社会から取り残された人々への再分配も進められるはずだ。ここ数年、南アの福祉プログラムは危機に瀕している。経済成長が戻らなければ、改革はできない。

3つ目に、ズマが軽視した教育に思い切った投資をすべきだ。

いま若年層の失業率は約39%。若者を仕事に就かせるには、幼い頃からの教育が必要だ。南アは小国だが、指導者に適切な改革の精神が宿っていれば、地域の経済・政治大国という立場を奪回できる可能性がある。

大きな変革を起こすには、今が絶好の時期かもしれない。アフリカの多くの国で同様の動きが起きており、経済協力の機会も生まれるだろう。
 
長期に及ぶムガベ独裁政権に終止符が打たれた隣国のジンバブエでは、天然資源だけでなく、貿易やサービスの分野が息を吹き返し、再び成長が始まる可能性がある。
 
南アは今後、移り変わる地政学の中での役割を見直すべきだ。そのためには自国の影響力を再び示し、よりダイナミックで効果的、総合的な投資戦略を追求すべきだろう。
 
強力な外交と、商業分野での積極的な働き掛けが重要になる。指導層は、BRICSのような新興国の経済グループで存在感を高めることを考えるべきだ。
 
国民は新しい指導層を歓迎している。だがマンデラが掲げたような完全雇用、社会正義、強固な統治、国際的な信用が存在する未来を築くには? まずラマポーザは、ズマが大きく踏み誤った道から南アを引き戻さなくてはならない。【2月27日号 Newsweek日本語版】
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話は全く変わりますが、南アフリカで注目されているもう一つの話題は、南アフリカ第2の都市ケープタウンが直面する「100年に一度」とも言われる深刻な水不足。

水道水が枯渇する日を意味する「デイ・ゼロ」は、当初4月12日と予想されていましたが、その後の降雨や市全域での節水対策の実施により、数度にわたって先延ばしされ、現在は7月9日とされています。

ケープタウンのような大都市で水道が止まるということになると、大混乱が予測されます。4月ぐらいからは比較的雨の多い季節(降水量はさほどでもありませんが)にもなるようですので、何とかこの事態を乗り切れる・・・・のでしょうか?

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