孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

東アフリカ  「謎の国」ソマリランド 経済成長を(強引に)牽引するエチオピア・アビー首相

2024-01-04 23:16:59 | アフリカ

(2023年2月17日 時事)

【エチオピア、海へのアクセス狙いソマリランドと覚書】
日本での情報量が少ないのでよくわからないことが多いアフリカの話・・・と書き出して改めて思ったのは、「ニュースなどである程度の情報が得られるのは一部の国の、紛争・トラブルなど一部のことに関することだけでけで、実際には多くの国のほとんどの事柄について、何も知らないと言うべきだろう・・・」

それはともかく、東アフリカのニュース

****エチオピア、海へのアクセス狙いソマリランドと覚書****
エチオピアは1日、ソマリアから半独立状態にある「ソマリランド共和国」との間で、同共和国の海運サービスや軍事施設へのアクセスに道を開く覚書に調印した。ソマリアは主権侵害だとして反発しているが、エチオピアは3日、違法ではないと反論した。

覚書の内容は広範にわたり、エチオピアがソマリランドから総延長20キロの海岸線を50年間、租借することも盛り込まれた。内陸国エチオピアが紅海へのアクセスを確保できることになる。

これを受けソマリアは、「いかなる法的手段」を使ってでも自国領を守ると宣言。この問題を協議するための国連安全保障理事会緊急会合の開催を求めるとともに、アフリカ連合に対しても、エチオピアによる「侵略」をめぐる協議を要請した。

アラブ連盟やエジプトはソマリアの立場に支持を表明。一方エチオピアは、ソマリランドとの間では他の国も協定を締結したことがあるとして、覚書を擁護している。

英国の保護領だったソマリランドは、1991年にソマリアからの独立を宣言。国際的には承認されていないが、憲法と政府、治安部隊を持ち、通貨を導入している。人口は約450万人。

ソマリアは政情が不安定なこともあり、ソマリランドへの支配は及んでいない。 【1月4日 AFP】
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【「謎の国」ソマリランド】
ソマリランド・・・・東アフリカのソマリアの北部のある国と言っていいのか、地域と言うべきなのか・・・国際的には承認されていない「国」です。未承認国なので世界地図には表示されません。(そのこと自体は、他にも多くの同じような「国」がありますので、珍しいことではありません)

そもそもソマリアがよくわからない。
かつてはイスラム過激派組織アルシャバーブが実権を掌握し、海ではソマリア海賊が暴れる「無政府状態」そのものでしたが、今も多少は落ち着いたとは言え、アルシャバーブなど過激派のテロが絶えません。

****ソマリア、車両爆発で多数死傷 検問所、自爆テロか****
AP通信によると、ソマリア中部ベレトウェインの検問所で23日、車両が爆発し、少なくとも18人が死亡、40人が負傷した。イスラム過激派組織アルシャバーブによる自爆テロの可能性がある。

ソマリア政府は近年、アルシャバーブの掃討作戦を強化しており、ベレトウェインは一帯での対テロ作戦の拠点。【2023年9月24日 共同】
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****ソマリア派遣のPKO隊員54人死亡 武装勢力襲撃 ウガンダ大統領****
ウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領は3日、ソマリアでの国連平和維持活動に参加していたウガンダ部隊が先月末に武装勢力の攻撃を受け、少なくとも54人が死亡したことを明らかにした。

ソマリアにはアフリカ連合によるPKO部隊「アフリカ連合ソマリア暫定ミッション」が駐留している。2万人規模で、ウガンダのほかブルンディ、ジブチなどが要員を派遣している。2024年までに治安権限を軍・警察に移譲するのが目的。

ムセベニ大統領はツイッターの自身の公式アカウントに「司令官を含む54人の遺体が見つかった」と投稿した。

PKO部隊への攻撃があったのは先月26日未明。過激派組織アルシャバーブが襲撃を認めた。
現地の住人やソマリア軍の司令官がAFPに語ったところによると、アルシャバーブのメンバーは爆発物を搭載した車で、首都モガディシオから南西に約120キロ離れたブロマレルに設置されていたATMISの拠点に突入。銃撃戦になったもようだ。 【2023年6月4日 AFP】AFPBB News
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その混沌としたソマリアから分離独立を主張するソマリランドとなると、私のような一般人にはもはや「謎の国」

ただ、この「謎の国」は長老たちの協議で治められており、内戦・テロで荒れ狂うソマリアに比べると、はるかに平和で治安が良いという話も聞いていました。(参考「謎の独立国家ソマリランド」高野秀行著)

しかし、その「平和」も昨年破られたというニュースが。

****戦闘発生、18万人避難 平和だったソマリランド****
アフリカのソマリア北部で事実上の独立国となっているソマリランドで6日から激しい戦闘が起きている。国連人道問題調整事務所(OCHA)は16日、声明を出し「18万5000人を超える住民が家を失った」と訴えた。避難民の9割は女性や子供という。

戦闘の原因は、ソマリランド東部の長老らが反旗を翻し、ソマリランド軍の撤収を要求、ソマリア中央政府支持を表明したことで、軍と地元武装勢力の衝突に発展した。戦闘地域の病院からは57人が死亡したとOCHAに連絡があった。

ソマリランドは人口約450万人。1991年から独立状態だが、国際社会からは承認されていない。無政府状態となっていた他のソマリア各地と比べ30年間、平和が保たれていた。【2023年2月17日 AFP】
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下記旅行記は上記の戦闘発生前の2018年にテレビディレクターの後藤隆一郎氏が見聞したソマリランドの様子です。若干なりとも「謎の国」の雰囲気が分かれば・・・。

****「未承認国家ソマリランド」潜入で見た超怖い現実****
敏腕TVマンが「危険レベル4」入国を強行したら
(中略)
「イスラムのイメージ」を覆す街の様相
(到着した空港で)どうしようかと途方にくれていると40歳ぐらいのビジネスマンが声をかけてくれ、運転手付きのハイヤーで街まで送ってくれた。

「ホテルを決めていない」という話をすると、1泊12ドルで街に近いWi-Fiのあるホテルを紹介してくれた。
別れ際にお礼を言うと、ワッツアップの電話番号を紙に書き「何か問題があったらいつでも連絡してね」と言い去っていった。 初っ端から優しい人に出会えて幸先が良い。

シャワーを浴び、一息つくと街に散策に出た。
ホテルのスタッフは英語が使え、街までの道のりを丁寧に教えてくれた。ホテルから中心部まで10分ほどかかる。
「襲われるような場所はない」かとチェックしながら歩いてみたが、大きな一本道で人も多い。特に危険はなさそうだ。

道中、様々な動物に遭遇したのが面白かった。街中にもかかわらず、コブ付き牛の集団、山羊、ロバなどが普通にいる。市場ではイスラムの国では珍しく女性も働いている。

戒律の厳しいイスラム社会ではあるが、元々は遊牧民。2つの文化が合理的に融合しているように感じた。

未承認国家でアメックス!?
(中略)ソマリランドは国際社会では「未承認の独立国家」なのに独自通貨がある。しかし、国の通貨は信用がないようで、ハイパーインフレが起きていた。

1ドルは1万シリング(2018年当時のレート)。両替商はお金を路上でバナナの叩き売りのように売っている。小さな段ボール4箱分位のお金が道路に無造作に積み上げられていた。

街を歩くと、あちらこちらにそのような人がいて、誰かに見張ってもらいお金を置きっぱなしにしたまま食事に出かける両替商もいた。路上に置かれた誰からも盗まれない大金。なかなかシュールな光景だ。(中略)

そんな経済状況なので、USドル・ユーロ・エチオピアブル・南アフリカドルが一般的に流通していた。
ビックリしたのはアメリカ・ニューヨークに本社があるアメリカンエキスプレスのクレジットカードが使えることだ。(中略)

街を歩くと、至る所に日本の中古車を見かける。俺の見立てだと9割近くが日本の車だ。
アディスアベバで名刺を頂いたソマリランド大使の話だと、そのほとんどがドバイから輸入されているものらしい。(中略)

外国人は常に監視されている
ホテルに戻り、ツイッターで今日あったことをつぶやいた。すると、すぐにDMが入った。中身を見てみると、空港から街まで送ってくれたビジネスマンからだ。ワッツアップに登録した名前で検索したとのこと。

「ごっつ、今のツイート消したほうが良い。政府とか街の人が、君のツイートをチェックしてるよ」
ソマリランドでは政府が国民に言論統制を敷いているという記事を思い出した。心配してかわからないが、一度しか会ってない親切なビジネスマンも俺のSNSをチェックしている。

さらに、ソマリアにいるイスラム過激派組織のアル・シャバブは、外国人がどこにいるかなど入国者の動きを監視している可能性もある。俺は慌ててツイートを削除した。

「政治の事とか、この国にとってネガティブな内容はあまりアップしないほうが良い。そのほうが安全だ」
彼はそう付け加えた。

改めて、ひとりで危険レベル4の国にいるという事実を再確認させられた。そして、身を引き締め直した。【2023年10月1日 後藤 隆一郎氏】
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昨年2月の戦闘がその後どうなったのか・・・知りません。

【経済成長のため、内戦・周辺国とのトラブルも辞さないエチオピア・アビー首相】
もう一方の当事国エチオピアは、ソマリランド、ソマリアに比べたら遥かに大国。人口は1億人を超えて1.2億人、アフリカ第2位(1位はナイジェリア)の人口大国です。

現政権のアビー首相は2019年、隣国エリトリアとの紛争を終結させたとして、ノーベル平和賞を受賞して国際的に大いに注目されていました。しかし、その後の内戦でアビー首相の評価は大きく変わりました。

最近の話題では、中ロ主導のBRICSに新規加盟したことですが、(下記記事タイトルでは「成長国」とはありますが)経済規模を考えると「どうして?」という感も。

****エチオピア、BRICS加盟要請 アフリカの成長国****
急速な経済成長を遂げるアフリカ東部エチオピアは29日、中国、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカで構成する新興5カ国(BRICS)への加盟を申請したと明らかにした。国営エチオピア通信(ENA)によると、外務省報道官はBRICSから前向きな回答を期待すると述べた。

エチオピアはアフリカで2番目に人口が多いが、国際通貨基金(IMF)によると経済規模は世界59位にとどまり、BRICSで最小の南アフリカと比べても半分に満たない。(後略)【2023年6月30日 ロイター】
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今年1月1日、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、イランとエチオピアの5カ国が、正式にBRICSのメンバーになりました。

そもそも、イランとサウジアラビアもそうですが、エチオピアとエジプトはナイル川のダム建設をめぐって激しく対立しています。冒頭記事のソマリランドの問題でもエジプトはエチオピアに反対の立場。そんな国を同時に加盟させて話がまとまるのでしょうか? 欧米に偏っていないということで、中ロのお眼鏡にかなったようですが。

エチオピアのティグレ族との内戦は「一応」一昨年11月に停戦が成立しています。
しかし、昨年夏の段階では再び別の部族との戦闘も報じられていました。

****エチオピア北部、6カ月の非常事態宣言 武力衝突が激化****
エチオピア政府は4日、北部アムハラ州で政府側と民兵組織との武力衝突が激化しているとして、同州を対象に非常事態宣言を発令した。

今週初めに起きた衝突は、アムハラ州に隣接するティグレ州で2020年11月に発生した紛争が昨年11月に停戦となって以降で最も深刻な治安危機をもたらしている。

非常事態宣言により政府は外出や集会禁止などを命じられるようになるほか、令状なしの身柄拘束や捜査を行う権限なども与えられる。【2023年8月4日 ロイター】
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****空爆か、26人死亡 エチオピア北部****
エチオピア北部アムハラ州の町フィノテセラム中心部に13日、空爆とみられる攻撃があり、少なくとも26人が死亡した。ロイター通信が14日報じた。同州では政府軍と民兵組織との武力衝突が激化している。

攻撃実行者は明らかになっていないが、昨年11月に停戦した北部ティグレ州を中心とした紛争では、政府側によるとみられる空爆が頻発し、多くの住民が犠牲になった。

アムハラ州の民兵組織は北部紛争時、政府に協力し、反政府勢力ティグレ人民解放戦線(TPLF)と戦った。だが停戦後に政府が正規軍以外の武装解除に乗り出したことに反発し、敵対するようになった。【8月15日 共同】
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この戦闘がその後どうなったのか・・・知りません。
ソマリランドと違って、エチオピアで内戦が拡大すればそれなりの報道もあると思われますので、何もニュースを目にしないということは、事態は収まったのか、小康状態にあるということなのでしょう。

エチオピアは経済的にも、昨年末に債務不履行に陥るという苦境にあります。

****エチオピアが債務不履行、アフリカ3カ国目 過去3年間で****
エチオピアが26日、国債の3300万ドルの利払いを実施できず、デフォルト(債務不履行)に陥った。アフリカ諸国のデフォルトは、過去3年でザンビア、ガーナに続き3カ国目となる。

10億ドルの国債の利払い日は11日で、26日が14日間の猶予期間の最終日だった。関係者によると、猶予期限前の最後の営業日となる22日中に利払いが確認されなかった。

今後、20カ国・地域(G20)の低所得国の債務軽減措置「共通枠組み」にザンビア、ガーナとともに加わる見通し。

エチオピアは、内戦やコロナ禍で経済・財政が疲弊。中国を含む債権国とは11月に返済一時停止で合意したが、12月8日に年金基金、その他の民間債権者との交渉が決裂したと発表していた。【12月26日 ロイター】
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同じ昨年末、先述したように水問題でエジプトと「交渉決裂」しています。経済再建のためにはナイル川の巨大ダムの電力がどうしても必要なのでしょう。

****エジプト、エチオピアと水争い ナイル川巨大ダム巡り「交渉決裂」****
ナイル川の水資源を巡り、上流で巨大ダムを建設しているエチオピアと下流に位置するエジプトが対立している問題で、エジプト政府は19日、ダムの管理方法に関する交渉が決裂したと発表した。

両国の首脳は7月、4カ月以内に解決することで合意し、交渉が続いていた。希少な水資源を巡る対立の難しさが改めて浮き彫りになった。

問題となっているのは、エチオピア高原を水源に持つ「青ナイル」沿いでエチオピアが2011年から本格的に建設を始めた「大エチオピア・ルネサンスダム」。最大貯水量は青ナイルの平均年間流水量の約1・5倍とされ、エチオピアはすでに段階的に貯水を始めている。エジプトはこのダムが将来的に水不足を引き起こす懸念を強めている。

 交渉では、エジプトはダムの管理方法などについて法的拘束力のある合意を求めているとされる。エジプト水資源・かんがい省は声明で、「交渉は、エチオピアが技術的・法的な合意を一貫して拒否しているため失敗に終わった」と批判した。

エジプトは水需要の9割以上をナイル川に依存しており、水資源の確保は死活問題だ。ダムにより水不足が深刻化すれば、両国間で緊張が高まる可能性がある。【12月20日 毎日】
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冒頭のソマリランドとの「覚書」も、巨大ダム同様に、今後の経済成長のためには海へのアクセスが欠かせないという判断でエジプトなどの反対を押し切った形でしょう。

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エチオピアは、アフリカで2番目に多い1億1200万の人口を抱え、経済成長の潜在力が注目される。しかし、93年のエリトリア独立で内陸国となり、海港を持たないという弱点を抱える。輸出入の9割以上をジブチの港に依存しており、第2の貿易ルート確保は長年の悲願だ。

それだけに、エチオピアはソマリランドとの関係構築に力を入れてきた。ソマリランドが「首都」と位置づけるハルゲイサに事実上の大使館を開設し、ベルベラ港拡張の完工式典にも政府関係者を派遣した。

ただ、エチオピアもソマリランドを国として正式承認しているわけではない。現在、日本を含む国連加盟国でソマリランドを国家承認した国はなく、あくまでもソマリアの一部というのが各国共通の立場だ。【2021年8月19日 読売】
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内戦・戦闘の問題も、国の発展には中央集権体制が欠かせないという判断で、部族の反発を許さない形。

エチオピアの再建・発展のためには内部・周辺国の反対がいかに強くても強引に押し切る・・・というアビー首相です。
このあたりの「強いリーダーの姿勢」(悪く言えば、強権的姿勢)が中ロのお眼鏡にかなった要因のひとつかも。

ということで、わからないことが多いですが、報じられている範囲でエチオピア・ソマリランドの話でした。
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