孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカ  スキャンダルで苦境に立つズマ大統領 閉塞的社会で拡大する移民や白人への攻撃的な姿勢

2016-04-02 22:41:24 | アフリカ

(【2014年10月18日 AFP】 過激なポピュリスト的主張 赤を基調とした服装 ベレー帽・・・・なんとなく、かつての故チャベス大統領をも彷彿とさせる「経済的解放の闘士(EFF)」のジュリアス・マレマ党首)

ズマ大統領:私邸改修費問題での弾劾の動きに謝罪
ブラジル・ルセフ大統領は周知のように野党からの弾劾要求で窮地に立っていますが、同じBRICSの一画、南アフリカでもズマ大統領が公費で私邸を改修したとして、野党からの批判・弾劾要求にさらされています。

****ズマ大統領は憲法違反=私邸改築費返還せず―南ア憲法裁****
南アフリカ憲法裁は31日、ズマ大統領が私邸を改築する際に使い込んだ公費を国庫に返還しないのは憲法違反だと結論付けた判決を言い渡した。

これを受け、野党はズマ氏の弾劾を請求する方針を発表。後を絶たない醜聞で批判を浴びてきたズマ政権にとって、また一つ打撃となる可能性がある。

この問題は2014年、公権監視機関が出した報告書で浮上。ズマ氏が巨額の公費を費やし私邸にプールなどを建設していたことが明らかになり、監視機関は一部返金を請求したが、ズマ氏は拒否。

英BBC放送によると、改築費は総額2300万ドル(約26億円)に上るとされ、野党が公費返還を求め提訴した。【3月31日 時事】
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野党の弾劾要求に対し、ズマ大統領は謝罪し、公費を返還することを表明、事態の鎮静化を図っています。

****南アのズマ大統領、私邸改修費問題で謝罪 公金返還へ****
南アフリカのズマ大統領は1日、故郷の私邸改修に使った公金を返還するよう命じた憲法裁判所の判決を受け、テレビ演説で国民に謝罪し、判決に従うと明らかにした。

地元メディアが伝えた。野党はズマ氏の弾劾手続きを進めており、公金返還で事態の収束を図る狙いがありそうだ。

ズマ氏は「憲法に違反するつもりは決してない」と強調する一方、「この問題が多くの不満と混乱を引き起こしたことを謝罪する」と語った。(中略)

ズマ氏は警備面の向上が目的だと主張していたが、憲法裁は今年3月31日、返還に応じないのは「憲法を順守していない」と判断した。【4月2日 産経ニュース】
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昨年来吹き荒れる移民排斥の動き 背景に高失業率
ズマ大統領に関しては、インド系移民の富豪一族の要請を受けて閣僚人事に介入した・・・・との疑惑も問題となっています。

****富豪が閣僚人事に介入か=大統領窮地に―南ア****
南アフリカのインド系富豪グプタ家が閣僚人事に介入していた疑惑が浮上し、ズマ大統領が窮地に立たされている。公費を使った私邸改装など数々のスキャンダルを乗り切ってきた大統領だが、今回はアパルトヘイト(人種隔離)の過去を克服した南アの民主主義を揺るがす事態だけに、「政治生命の懸かった戦い」(南ア紙)となりそうだ。

疑惑のきっかけは政権幹部の「告白」だった。ジョナス財務副大臣は16日、「グプタ家のメンバーからネネ財務相(当時)に代わって大臣に就くことを提案されたが、すぐに断った」と発言。「われわれが苦労して獲得した民主主義をあざける行為だ」と批判した。

大統領は昨年12月、明白な理由も示さずにネネ氏を突然更迭。通貨ランドや株価の急落を招くなど南ア経済は大混乱に陥った。国益を踏みにじる大統領やグプタ家の私利優先に「国が乗っ取られた」と怒りが広がった。

グプタ家は1993年に南アに渡り、急拡大した新興勢力。IT関連からメディア、鉱山に至る幅広い事業を手掛ける。

大統領の息子が同家関連企業の幹部を務めるなど政権と関係の深い「政商」で、癒着がしばしば問題視されていた。【3月19日 時事】
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「政商」との癒着は別に南アフリカのような国では珍しくもなかろうに・・・・と言ったら、“アパルトヘイト(人種隔離)の過去を克服した南アの民主主義”に失礼でしょうか。

この問題が大きなインパクトを持つのは、その「政商」が移民であるというにもあるのではないでしょうか?

南アフリカでは1年前の昨年4月、暴力的な移民排斥運動が問題となりました。
(2015年4月18日ブログ「南アフリカ 広がる外国人への暴力 “暴力依存”という、アパルトヘイト時代からの負の遺産」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150418

2015年4月18日ブログでは、こうした問題や治安の悪さといった問題の背景には、人々が物事を暴力で解決しようとする暴力依存の風潮があるのでは・・・という見方を取り上げましたが、20%を超える高失業率などの経済状況があるとも指摘されています。

****南アフリカの移民襲撃で307人逮捕、5000人避難****
南アフリカ政府は19日、移民や外国人労働者を標的とした襲撃事件が国内で相次ぎこれまでに7人が死亡した問題で、307人を逮捕したと発表するとともに、襲撃に関与した者を徹底追求する方針を示した。

南アフリカではこの2週間にわたり、ヨハネスブルクや東部の沿岸都市ダーバンを中心に暴動や商店への襲撃が続き、南アフリカ人とジンバブエやソマリア、エチオピア、マラウイなどからの移民たちとの間に内在していた緊張が表面化している。

政府が暴動への対応を強化する中、マルシ・ギガバ内相は「南アフリカを政治的混乱に陥れようと企むあらゆる行為」をやめさせるため全力を尽くすと言明した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、外国人排斥を掲げた一連の襲撃を受け、UNHCRの仮設避難所には約5000人が助けを求めて集まっている。大半は戦争や迫害のため祖国を離れた難民だという。

南アフリカでは、アパルトヘイト(人種隔離政策)が廃止され白人支配が終わった1994年以降も慢性的な失業状態に置かれ、生活苦からなかなか脱出できない黒人たちの不満の矛先がしばしば外国人移民に向けられてきた。

2008年にも移民排斥運動で68人が死亡し、異なる民族間の平等をうたった「虹の国」のイメージを揺るがしている。【2015年4月20日 AFP】
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*****虹の国」に衝撃=南アで反移民暴動が激化―高失業率、不満のはけ口に*****
南アフリカでアフリカ諸国出身の移民に対する暴動や襲撃が相次ぎ、軍が出動する事態に発展した。少数白人政権によるアパルトヘイト(人種隔離)政策に抗した故ネルソン・マンデラ元大統領は、さまざまな人種が共存する「虹の国」を目指した。

しかし、かつて差別・抑圧された黒人がアフリカの同胞に暴力を振るう現実に、南ア社会と周辺諸国では衝撃が走っている。

南アのメディアによると、暴動は最大部族ズールー族の指導者が先月、移民を「シラミ」に例えて追放を訴えたことが発端となった。

暴力は先週から過激化し、最大都市ヨハネスブルクや東部ダーバンなどでは移民系の商店が襲われ、少なくとも7人が死亡。移民数千人が臨時キャンプへの避難を余儀なくされた。

情勢緊迫を受けて、ズマ大統領はインドネシアで開催されるアジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年記念首脳会議への出席を急きょ取りやめ、移民キャンプを訪問した。これまでに移民襲撃に絡んで300人以上が逮捕されたが、21日には軍が治安維持のためにヨハネスブルクへ投入されるなど、完全な沈静化には至っていない。

アフリカ大陸で最も経済・産業基盤が整う南アには、ムガベ政権の失政で経済崩壊した隣国ジンバブエをはじめ、サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)諸国から大量の移民が流入。鉱山や農場などで低賃金労働に従事している。

一方で南アの失業率は2014年10~12月期で24.3%と高水準。十分な雇用創出には「4~5%の経済成長率が必要」(南ア中央銀行)とされるが、ズマ政権の経済改革は遅々として進まず、14年の成長率は1.5%にとどまる。

閉塞(へいそく)感から特に失業率が高い黒人層が「職を奪った」として、不満のはけ口を移民に向けた格好だ。【2015年4月22日 時事】
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学生運動も過激化 矛先は白人支配にも
閉塞感が漂う中で、昨年から学生運動も過激化しています。
その矛先は、単に授業料値上げ反対といった経済問題に収まらず、社会の多くの分野で今も大きな権限を有する白人へも向けられており、“アパルトヘイトを克服した”南アフリカの抱える根源的な問題に及んでいます。

****南アの大学を揺さぶる過激な学生デモ****
南アフリカ各地の大学で昨年以降、学生による抗議運動が相次ぎ、暴動に発展するケースも増えている。

発端となったのは、ヨハネスブルグのヴイツツ大学。学内に根強く残る植民地時代からの白人至上主義に対する若者の怒りだった。

教授陣や経営陣の大半を今も白人が占める状況に抗議の声が殺到。授業料値上げへの反対も加わり、デモは各地の大学に広がっていった。

今年に入って抗議運動はさらに激しさを増している。ケープタウン大学では先月、学生寮の不足に抗議するデモが過激化し、車両や絵画などが燃やされた。

先週には北西部の町マフイケングにあるノースウェスト大学で、暴徒化した学生たちが建物2棟などに放火する事件も発生。治安部隊が銃撃で応戦し、キャンパスは閉鎖に追い込まれた。

ネルソン・マンデラ財団が学生と大学の仲裁役を申し出るなど沈静化に向けた動きも始まっている。だが一連の衝突は南ア社会を深くむしばむ差別や矛盾の表れであり、学生たちの怒りは簡単には収まりそうにない。【3月15日 Newsweek日本版】
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ケープタウン大学での学生運動では、白人支配と人種差別の象徴とされてきた19世紀の政治家セシル・ローズの銅像が撤去されています。

セシル・ローズの銅像が未だに南アフリカに存在したことが驚きでもありますが、「アパルトヘイトの克服」がそうそう簡単な話ではないことを窺わせます。

****白人支配の象徴」撤去=セシル・ローズ像―南ア****
英国の植民地だった南アフリカで、白人支配と人種差別の象徴とされてきた19世紀の政治家セシル・ローズの銅像が9日、撤去された。この銅像はローズが土地を寄付して設立されたケープタウン大学の構内にあり、黒人主体の学生団体が撤去を求めて抗議活動を展開していた。

ローズは南ア地域のダイヤモンド採掘で財をなし、英国が支配するケープ植民地で首相を務めた。英帝国主義を象徴する人物として知られ、その後の「アパルトヘイト(人種隔離)」につながる白人至上主義政策を推進した。

英紙タイムズなどによると、赤い塗料で汚された銅像がクレーンでつり上げられると、学生から歓声が上がった。一方、白人の団体は撤去に抗議した。【2015年4月11日 時事】 
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不満を背景に勢力を拡大するポピュリスト政党
こうした不満を背景に、移民排斥・白人への対決姿勢といった流れを政治的に扇動して影響力を拡大しているのが、かつて与党・アフリカ民族会議(ANC)の青年同盟の議長を務めてたジユリアス・マレマ氏です。

****過激な発言が支持を呼ぶ「南アのトランプ****
社会の不満を追い風にして過激な発言で支持を集めるポピユリスト-米大統領選の共和党指名獲得争いでトップを走るドナルド・トランプを彷彿させる政治家が南アフリカを席巻している。

左派政党「経済的解放の闘士(EFF)」のジユリアス・マレマ党首。鉱山の国有化や白人所有の土地の強制収用を掲げて、失業中の若者などの絶大な支持を集める人物だ。

35歳のマレマはかつて与党・アフリカ民族会議(ANC)の青年同盟の議長を務めていたが、離党して13年にEFFを結成した。
翌14年の総選挙で6%以上の票を獲得しており、今年5~8月に行われる地方選でも台風の目になるとみられる。

メディアとの対立や差別発言で注目を集める手法もトランプと似ている。

マレマはズマ大統領の盟友であるインド系移民の富豪グプター族を目の敵にしており、一族が所有するメディアの記者を会見場から締め出すと宣言。

移民排除を掲げ、グプター族に国を去るよう求めている点も、トランプの「ムスリム排斥発言」を彷彿させる。【3月29日 Newsweek日本版】
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ジユリアス・マレマ氏はかつてのANCの青年同盟議長時代には、ズマ氏の大統領選挙運動で「白人を撃て」と歌うズールー語の歌を集会で多用して物議を醸していた人物であることは、以前のブログでも取り上げたことがあります。

マレマ氏の立ち上げた「経済的解放の闘士(EFF)」については、以下のようにも。

****経済的解放の闘士(EFF)」*****
アフリカ民族会議(ANC)の青年同盟のリーダーであったジュリアス・マレマがANCを離脱してEFFを立ち上げた。マルクス・レーニン主義の党と自己定義し、反資本主義を掲げている。

党首名を「最高司令官」とし、党員や幹部が皆赤いベレー帽を被るなど、軍隊色が強い。とは言え、この政党に軍事部門が存在しているわけではない。

ANCの腐敗や汚職に失望しているアパルトヘイト時代を知らない黒人の若者たちの間で急速に支持を集め、2014年5月に行われた総選挙では下院400議席中25議席(得票率6.35%)を獲得した。【ウィキペディア】
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ズマ大統領も外部の人間には、マンデラ氏などの過去のリーダーと比べると過激で奔放なイメージがありますが、マレマ氏は更に突出しています。

ただ、そういうマレマ氏の過激と思われる主張が黒人の若者たちの間で急速に支持を集めるという事実の背景には、先述のような依然として大きな影響力を維持する白人特権層の存在などの問題があることも、これまた事実です。

隣国ジンバブエの黒人至上主義的な強権的支配者として国際社会からは「ならず者」扱いされているムガベ大統領もジンバブエや南アフリカでは一定の支持があります。

白人との対決姿勢ではなく、穏健な方策で現状の改善を図っていくのがいい・・・と言うのは簡単ですが、何事ににつけても、実際には「穏健な方策でバランスを取りながら改革を実現する」というのは非常に難しいことでもあります。

****アフリカ南部諸国、ポピュリスト政党が台頭****
アフリカ南部諸国の現職政治家たちにとって、過去半世紀は非常に良い時代だった。だがここにきて、根強い貧困や高い失業率を背景に、経済情勢の変革を誓うポピュリズムが台頭し始めている。

アンゴラやモザンビークなどアフリカ南部10か国のうち8か国では、植民地支配からの独立後やアパルトヘイト撤廃後に選挙で勝利した政党が一貫して政権を掌握している。

解放運動の成功の陰で、南アフリカの与党・アフリカ民族会議(ANC)やナミビアの南西アフリカ人民機構(SWAPO)などの団体は、共産主義者や自由市場主義者、敵対する部族や派閥を難なく、排除してきた。

だがここにきて、長く政権の座にある政党の腐敗や汚職が指摘され、国家機関を政府の意志に従わせているなどの批判も高まっている。

特に、変革を求める都市部の若い層が、大統領や首相、王族に対して非難を声を上げている。若者の失業率は50%に達することも多く、アパルトヘイト時代の富の集中は解消されていない。

アフリカの民主主義などについての著書があるダニエル・レスニク氏によると、こうした不安を背景に「起業家的思考を持つ政治家」が、「現職の政治家に対抗するだけでなく、すべての人に教育や医療の改善、経済成長などあらゆることを約束し」、チャンスをつかんでいるという。

たとえば南アフリカで「アンファン・テリブル(恐るべき子ども)」とも呼ばれるジュリアス・マレマ元ANC青年同盟総裁(33)。マレマ氏はANCから除名処分を受けた後、13年に新党「経済的解放の闘士」を結成。2014年の総選挙では25議席を獲得し、第3党に躍り出た。

マレマ氏の政友で、ボツワナの野党を率いるアラファト・キツォ・カーン氏も国家政策を揺さぶっている。カーン氏は、現政権の私腹を肥やす行為や欧米諸国による「新植民地主義」に屈する外交政策を批判し、「政権交代」を目指している。マレマ氏はカーン氏の応援のためにボツワナ入りを試みたが、ビザが下りなかった。

10月に国民議会選挙を控えるボツワナのイアン・カーマ大統領は、南アフリカでマレマ氏が成し遂げた成功が自国でも起こることは望んでいないし、10月の選挙を前にマレマ氏に波風を立たせてほしくもない。だが、カーマ大統領をはじめとするアフリカ南部の首脳たちはポピュリストの勢力阻止に苦戦しているようだ。

もっとも、新たに誕生した政党がすぐに政権を掌握すると期待する人はほとんどいないが、ポピュリストたちは、農地改革や資源国有化、黒人経済力強化政策といったアフリカ南部での重要な議論に影響を与えている。

実際、南アフリカでは民衆の抗議運動を受けて、ANCが「さらなる転換」を約束。これは、マレマ氏の「ビジネスにおける黒人の権利拡大」の要求を反映したものでもあった。【2014年10月18日 AFP】
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