孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  更に悪化する治安状況 相次ぐテロ 刑務所襲撃も

2013-08-02 21:24:22 | 中東情勢

(7月29日の同時多発自動車爆弾テロの現場のひとつ “flickr”より By Madhu babu pandi http://www.flickr.com/photos/93397882@N07/9395848129/in/photolist-fjhbix-fgFeDP-fgDMnv-f1k5ex-f1ydxL-f1EAKG-f4v1nU-f9kXqd-a6pJmQ-fgERit-fcFULY-f7sha8-f3M3pg-f3pgKV-fcvRkP-fiKa9B-ficvqN-f43FML-fgpXbn)

【「この国での政治的解決には、奇跡が必要だ」】
イラクではマリキ政権の基盤となっている多数派のイスラム教シーア派、これに反発する少数派のスンニ派、北部で自治権強化を求めるクルド人の三つどもえの状況にあって、このところ治安が悪化し、5万人以上の犠牲者を出した06〜07年の宗派対立の再燃も懸念されているということは、5月7日ブログ「イラク 高まる宗派対立再燃の懸念 来年総選挙に向けた政治的緊張も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130507)でも取り上げました。

その後、事態はますます悪化しており、相次ぐテロ事件などによる犠牲者は、7月には約1000人に上り、2008年以後の5年間で最多となったと報じられています。

****7月の死者約1000人、5年間で最多 イラク****
宗派間対立が激しさを増すイラクでは7月、カフェの爆破や刑務所の襲撃などによる死亡者が約1000人に上り、2008年以後の5年間で最多となった。

イラク政府の発表によると、7月の死者数は989人。そのほとんどが民間人だが、イラクの治安当局も攻撃の標的になっている。

一方、国連の統計による7月の死者数は1057人、AFPの統計では875人と開きはあるものの、どれも同国の治安が悪化の一途をたどっていることを示している。

7月に最も多くの死者を出した事件としては、同国北部キルクークのカフェで41人が死亡した自爆攻撃などが挙げられる。(中略)

イラクの首都バグダッドで取材に応じた47歳の男性は「治安改善のためには、(当局が)政治を立て直すべき。でも、この国での政治的解決には、奇跡が必要だ」と語った。【8月2日 AFP】
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テロの犠牲者は4月は約700人、5月も約1000人と、ここ数か月異常な状況が続いています。
この背景としては、“国内多数派のシーア派が主導するマリキ政権に対し、少数派スンニ派のアルカイダ系武装組織「イラク・レバント(シリア地域)のイスラム国」がテロ行為を活発化させていることが背景にある。”【8月1日 時事】と指摘されています。

最近起きたテロでは、以下のようなものがあります。

****イラク全土でシーア派を狙った爆弾攻撃、死者57人以上****
イラクで29日、主にイスラム教シーア派が多く住む地域を狙った自動車爆弾攻撃が各地で相次ぎ、少なくとも57人が死亡した。これで7月に入ってからの死者数は800人を超えた。

29日は、首都バグダッドの9か所で自動車爆弾攻撃が11件起きた。このうち7か所はシーア派居住区域だ。

さらに南部のバスラやサマワなどバグダッド以外の都市でも爆発が相次ぎ、全国で少なくとも232人が負傷した。(後略)【7月30日 AFP】
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全般的には上記のようなアルカイダ系のスンニ派武装組織によるシーア派住民を標的にしたテロが目立ちますが、シーア派側のテロも起きています。

****スンニ派モスクで自爆攻撃、20人死亡 イラク****
イラクの首都バグダッド北方の町で19日、多くの人が集まっていたイスラム教スンニ派モスク(礼拝所)の中で自爆攻撃があり、20人が死亡した。警察が発表した。

警視監によると、イマーム(宗教指導者)が金曜日の礼拝のためにモスクに入った後、自爆犯が爆弾を爆発させた。死者数は医師により確認された。爆発ではまた、40人が負傷した。

現場に近いバクバ市の周辺は、爆弾攻撃に頻繁にさらされており、16日には同市の北東にあるムクダディヤ市のスンニ派モスクを出る信者らを狙った爆弾攻撃により4人が死亡、15人が負傷している(後略)【7月20日 AFP】
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いずれにしても連日のテロで、全面的な宗派間紛争の再燃の恐れが次第に高まっていることは間違いありません。

アルカイダのメンバーら500人以上が脱獄
21日は、イラク戦争当時、米軍によるイラク人拘束者への虐待が行われたことで知られるアブグレイブ刑務所がスンニ派武装組織に襲撃され、500人ほどが脱走するという事件も起きています。

****イラク:刑務所襲撃 アルカイダメンバーら約500人脱獄****
イラクの首都バグダッド郊外にあるアブグレイブ刑務所が21日夜、武装勢力に襲撃され、ロイター通信によると、死刑囚として収容されていた国際テロ組織アルカイダのメンバーら500人以上が脱獄した。犯行声明は出ていないが、治安当局はアルカイダなどのイスラム教スンニ派武装組織による計画的犯行とみている。

イラクでは昨年末以降、シーア派主導のマリキ政権に対するスンニ派組織の反発から、双方のテロ攻撃が激化しており、非政府組織「イラク・ボディー・カウント」によると、今年の死者は4200人を超えている。今回の脱獄によって、スンニ派組織がさらに勢いを増す可能性がある。

ロイター通信などによると、武装勢力は21日夜、刑務所の門の前に乗り付けた複数の車を爆発させた。迫撃砲や携行式ロケット弾の援護を受けて、刑務所内に侵入。

混乱に乗じ、イスラム教のラマダン(断食月)に合わせて屋外で日没後の食事をとっていた収容者らが逃走した。衝突は22日朝に軍のヘリコプターが到着して事態を収拾するまで続き、治安部隊側は少なくとも35人が死亡、武装勢力も4人が死亡した。
収容者が屋外にいる時間帯に襲撃が起きたことから、内務省は「内部に協力者がいた」との見方を示している。

アブグレイブ刑務所は、2003年のイラク戦争後に米軍が収容施設として利用し、米軍兵士によるイラク人拘束者への大規模な虐待が行われたことで知られる。その後、施設はイラク側に返還され、襲撃当時は死刑囚ら数千人が収容されていた。

一方、バグダッド北方のタジ刑務所も21日夜に襲撃されたが、治安部隊が撃退し、脱獄者は出なかった。治安部隊側は16人、武装勢力は6人が死亡した。【7月23日 毎日】
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「治安部隊の装備が不十分であるため、万全な安全管理下にあるべきの施設を守れなかったことが、刑務所襲撃事件で浮き彫りになった」と治安部隊の問題も指摘されています。【8月2日 AFPより】

興味深いのは、この時期アルカイダ系武装組織による大規模な刑務所襲撃や暴動が、イラクだけでなくパキスタン・リビアでも同時多発的に起きていることです。

****パキスタン:武装勢力が刑務所を襲撃、250人脱走*****
パキスタン北西部デライスマイルカーンで29日深夜、武装集団約100人が刑務所を爆弾やロケット弾で襲撃した。
地元当局によると、重大なテロ事件などに関連して拘束されていた武装勢力のメンバー25人を含む約250人の容疑者や囚人が脱走した。

主要武装勢力「パキスタン・タリバン運動」が犯行声明を出した。地元当局は周辺一帯に外出禁止令を出して脱走者を捜索し、30日正午までに十数人が捕まった。

パキスタンでは30日に大統領選が実施され、全土で警備態勢が強化されていた。タリバンはその前日に刑務所に襲撃を仕掛け、攻撃能力を見せつけた。

現地からの報道によると、タリバンは刑務所の塀の複数箇所を爆破して侵入し、拘束された仲間たちの名前を呼んで、脱走させたという。
応戦した警察との交戦は約5時間にわたり、警察官5人、民間人2人、拘束者4人が死亡した。タリバン側の死者は不明。

タリバンは襲撃の際、イスラム教シーア派の拘束者の頭部を切断するなどして殺害したとの情報もある。タリバンはスンニ派武装勢力で、シーア派住民へのテロを繰り返している。

タリバンは昨年4月にも北西部バンヌ管区の刑務所に大規模な攻撃を仕掛け、囚人ら約400人を脱走させていた。脱走者のうち、2003年のムシャラフ大統領暗殺未遂事件に関与したとして懲役刑を受け、服役していたタリバンのアドナン・ラシード司令官は今月、国連本部で演説したパキスタン人の少女マララ・ユスフザイさんに手紙を送り、注目された。

手紙は「あなたは『ペンは剣よりも強し』などというから襲われるのだ」との内容で、昨年10月にタリバンがマララさんを銃撃で暗殺しようとしたことを正当化した。【7月30日 毎日】
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****リビアの刑務所で暴動、1000人以上脱走****
リビア東部ベンガジの刑務所で27日、受刑者が暴動を起こし、1000人以上が脱走した。
脱走者には、2011年に崩壊したカダフィ政権に関与した政治犯や、アフリカ系の外国人も含まれているという。

地元の治安当局によると、収容者の一部が脱走を図り、警備員が発砲、刑務所全体を巻き込む暴動となった。
AFP通信によると、刑務所の存在に不満を持つ周辺住民も所外から刑務所を襲撃、騒ぎが拡大したという。【7月28日 読売】
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イラクの刑務所襲撃はアルカイダ系武装組織「イラク・レバントのイスラム国」が昨年7月に服役中のメンバーの解放を最優先課題とすると発表してからちょうど1年後に実行されています。
なお、この襲撃の際、100台以上の迫撃砲も奪われたとのことです。【8月6日号 Newsweek日本版より】

リビアのケースは暴動によるもので、脱獄者の多くは一般の犯罪者だったとのことです。
そうしたことからも、1週間に3件の脱獄事件が重なったのは、“たまたま”ということでしょう。

それにしても、イラクでもパキスタンでも、こうもやすやすと刑務所が襲撃されるようでは、テロの連鎖は当分収まりそうにありません。

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