孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ 犠牲者数の上ではすでに事実上の“第5次中東戦争” 更にヒズボラ参戦はあるのか?

2024-01-06 22:58:13 | 中東情勢

(パレスチナ自治区ガザ南部ラファで、無料で配布される食料を求める市民ら=2023年12月28日(ゲッティ=共同)【1月4日 共同】)

【犠牲者数の上ではすでに事実上の“第5次中東戦争”】
日本は騒然とした年明けになりましたが、世界も年が明けてもウクライナもパレスチナも惨状は変わらず。 更に、北朝鮮は韓国との海上の境界線付近にあたる海域での連日の砲撃、中東ではレバノンで(おそらくイスラエルによる)ハマス指導者殺害、イランではISが声明を出している大規模テロ・・・。

アメリカでは依然としてトランプ氏が優位な選挙情勢・・・これも今後の国際関係にとっても、世界の民主主義にとっても“大惨事”の予感。

そうしたなかで、悲惨さが際立つパレスチナ情勢。“ガザ側死者は2万2600人。連日、百人単位で増えている。ガザでは人口の9割近い約190万人が避難民となった。”【下記記事】

****ガザ戦闘3カ月、さらに長期化へ 人道危機深刻、紛争拡大に懸念****
パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まって7日で3カ月。イスラエル軍はハマス壊滅と人質奪還を掲げ年内はガザで作戦を続ける構えで、さらなる長期化が確実だ。

2万2千人を超えた死者の一層の増加は不可避で、人道危機も深刻。レバノン国境での交戦激化など中東地域で紛争が拡大しつつあり、国際社会の懸念が強まっている。

イスラエル軍は6日もガザで攻撃を続けた。長期戦を見据え予備役の一部撤収を発表したが、ハマス指導部が潜伏するとみるガザ南部や、中部で地上侵攻を強化。軍報道官は5日夜、今年は「戦闘の年になる」と語った。ハマスもゲリラ戦で対抗。カタールなどが仲介する停戦や人質解放の交渉は進展が見られない。

戦闘は昨年10月のハマスのイスラエル奇襲を契機に開始。ハマスは130人以上の人質を依然拘束する。ガザ保健当局によると戦闘のガザ側死者は2万2600人。連日、百人単位で増えている。ガザでは人口の9割近い約190万人が避難民となった。【1月6日 共同】
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犠牲者の数で言えば、これまでの4回の中東戦争を上回る規模にもなっており、“数の上ではとっくに事実上の〝第5次中東戦争〟と言える”とも。

****シナリオなき2024年〝第5次中東戦争〟の危機迫る****
(中略)
2023年10月7日のハマスの攻撃で始まったガザ戦争はイスラエルの無差別攻撃でパレスチナ人住民らの死者は2万2000人を超えた。これには崩れた建物の下に埋まっている行方不明者7000人やイスラエル側の死者1200人は含まれていない。戦闘で死んだハマス戦闘員数千人とイスラエル兵約170人を合計した犠牲者数は3万5000人を超え、今後も増えるのは必至。

ニューヨーク・タイムズなどによると、イスラエル建国直後に起きた第1次中東戦争(1948年)から第4次中東戦争(73年)までのそれぞれの戦争の死者は1万5000人から1万9000人。82年のレバノン戦争での死者は1万8000人弱。今回のガザ戦争の死者はこうした歴史的な大戦争よりもはるかに多い。

数の上ではとっくに事実上の〝第5次中東戦争〟と言えるだろう。しかもパレスチナ住民の犠牲者の70%は女性と子どもというのは悲劇的だ。

だが、ガザ戦争が終息に向かう兆候は全くない。イスラエルのネタニヤフ首相は米紙への寄稿で、戦争目的として「ハマスの壊滅」「ガザの非武装化」「パレスチナ人社会の非過激化」挙げ、「誰もわれわれを止めることができない」と戦争続行を宣言。イスラエル軍のハレビ参謀総長は「もう数カ月かかる」と長期化を明らかにし、ガザ中部と南部を激しく攻撃している。

これに対しハマスのガザ代表のシンワル氏はこのほど、軍事衝突後初めてメッセージを出し「絶対に降伏しない」と徹底抗戦を呼び掛けた。ガザと接するエジプトがガザ戦争の解決に向けた「3段階提案」を発表したが、イスラエル、ハマスとも歩み寄りは見せず、長期化は避けられない情勢だ。(後略)【1月5日 WEDGE】
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【ヨルダン川西岸地区の状況も悪化】
ガザ地区だけでなく、ヨルダン川西岸地区の状況も悪化しています。

****イスラエルの入植活動、ヨルダン川西岸で「過去にない急増」 NGO****
昨年10月7日にイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの軍事衝突が始まって以降、同自治区ヨルダン川西岸でイスラエルの入植活動が「過去に例のないペースで急増」している。イスラエルの入植活動を監視するNGO「ピース・ナウ」が4日、報告書で明らかにした。

1967年からイスラエルに占領されている西岸では軍事衝突開始以降、イスラエルの入植地が新たに9か所確認され、暴力も急増している。

西岸では約300万人のパレスチナ人が暮らす一方、49万人のイスラエル人も入植地で暮らしている。こうした入植地は国際法違反と見なされているにもかかわらず、イスラエルは承認している。

ピース・ナウは報告書で、今回の紛争開始以降、新規入植者が「記録的な」数に上っているとした上で、西岸で一部入植者によるパレスチナ人を「排除する」動きが増加していると指摘。

イスラエル軍が全権を持つ西岸の被占領地「C地域」に言及し、「入植者は3か月に及ぶガザ戦争を、C地域での広範囲の実効支配を既成事実にするのに利用している」との見解を示した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ政権では、入植推進運動の指導者数人が閣僚を務めている。同政権は、一部の入植計画を進めるのに有利となるよう「軍事的・政治的に寛容な環境」づくりに努めてきたとピース・ナウは指摘している。 【1月6日 AFP】
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ネタニヤフ政権の極右指導者はこの機に乗じて、やりたい放題のようにも見えます。
イスラエル軍もこうした動きを後押しするかのように、西岸地区での圧力を強めています。

****イスラエル軍、ヨルダン川西岸で多数拘束 過激派関与の疑い****
イスラエル軍は4日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のトゥルカレムにあるヌール・アル・シャムス難民キャンプで捜索を実施し、過激派活動への関与が疑われる多数の身柄を拘束したと発表した。

捜索はこの日が2日目。パレスチナ赤新月社によると、この日の午後の捜索が終了した時点で21人の負傷者を手当てした。このうち17人は尋問中に受けた殴打による怪我、1人が銃撃による怪我を負っていたという。

住民らによると、イスラエル軍は少なくとも120人を拘束したほか、3軒の家屋を取り壊した。取り壊された家屋のうち1軒は、パレスチナ自治政府主流派のファタハに関連しているとされる武装勢力「トゥルカレム旅団」のメンバーのものだという。

トゥルカレム旅団は、イスラエル軍との交戦があったとしている。(後略)【1月5日 ロイター】
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【ベイルートでのハマス幹部殺害 ヒズボラは慎重姿勢との見方も】
このパレスチナ情勢に大きな影響を与えるのがハマス以上の戦闘力を持ち、かつてイスラエルと戦って負けなかった(実質勝利とも)成果を誇る隣国レバノン・ヒズボラの動向・・・というのは衝突開始時点から言われていたことですが、これまでのところイスラエルとヒズボラは小競り合いは続けているものの大規模衝突には至っていません。

経済的に疲弊しているレバノンにあって、さすがにヒズボラも(そして、後ろ盾のイランも)組織存亡をかけたイスラエルとの大規模戦闘に入るのは躊躇されるのだろう・・・と思われてきました。

そうした状況を変えるのか、変えないのか・・・注目されるのが、2日に首都ベイルートでおきた(おそらくイスラエルによると思われる)ハマス幹部殺害へのヒズボラの対応です。

****レバノンでハマス幹部殺害 イスラエルの無人機攻撃か****
イスラム組織ハマスは中東のレバノンに拠点を置く幹部がイスラエル軍の攻撃で殺害されたと発表しました。「イスラエルによるテロ行為」と攻撃を非難しています。

レバノンの国営通信は2日、首都ベイルートでイスラエル軍の無人機がハマスの事務所を攻撃し、政治部門幹部のサレハ・アルーリ氏を含む7人が死亡し、11人がけがと報じました。

アルーリ氏は、去年10月のイスラエルに対する攻撃を実行したとされるハマスの軍事部門「カッサム旅団」の創設者の一人だとみられています。

ハマスは声明でアルーリ氏の死亡を認めたうえで「完全にテロ行為でレバノンの主権を犯している」とイスラエルを非難しています。

レバノン南部のイスラエルとの国境地域でも今後、さらに緊張が高まる可能性があります。【1月3日 テレ朝news】
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“イスラエルがなぜあえて戦線拡大につながるような暗殺に踏み切ったのかは明らかではないが、イスラエルは現在、ヒズボラやイエメンの親イラン反政府組織フーシ派、イラク、シリアの民兵軍団らイランの「配下」とされるグループからの敵対行動にさらされており、イランがこれ以上介入しないよう警告したものとみられている。しかし、逆に戦線が拡大する恐れは十分にあり、イスラエルにとっては大きな賭けだ。【1月5日 WEDGE「シナリオなき2024年〝第5次中東戦争〟の危機迫る」】”

当然に、お膝元でハマス幹部を殺害されたヒズボラは激しく反発してはいますが、本格的戦闘に入るのかどうかはまた別問題。激しい言葉とは裏腹に慎重姿勢も垣間見えるとの指摘も。

****ヒズボラ指導者、ハマス幹部殺害でイスラエル非難 戦闘拡大には慎重か****
レバノンの首都ベイルートでイスラム組織ハマス幹部サレハ・アルーリ氏がドローン(無人機)攻撃で殺害されことについて、ハマスと協力関係にあるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者は「沈黙していられない」と述べたが、ハマスを攻撃するイスラエルへの明確な報復の示唆は避けた。

ヒズボラの指導者ナスララ師は3日、テレビ放映された演説で、アルーリ氏の殺害は「イスラエルによる明白な侵略」だと非難。イスラエルがレバノンに戦争を仕掛けることを選択した場合、ヒズボラによる戦闘行為に「上限もルールもない」とし、「われわれとの戦争を考える者は後悔する」と語った。

パレスチナ自治区ガザでハマス掃討作戦を続けるイスラエルは、アルーリ氏殺害への関与を肯定も否定もしていない。

イスラエル軍のハガリ報道官は、ヒズボラによる報復の可能性にどのように備えているか記者に問われ、直接の回答を避けた上で「ハマスとの戦闘に集中している」と述べるにとどめた。

ヒズボラ、イスラエル双方ともにガザ周辺地域への戦闘拡大を望まない姿勢を示唆した格好となった。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官もナスララ師の演説について「ヒズボラがハマス支援に前のめりな様子をわれわれは目にしていない」と分析した。

ガザでの戦闘開始以降、ヒズボラはレバノン南部の国境でイスラエル軍と交戦を続けてきた。

ナスララ師はイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が米軍の無人機攻撃で殺害されてから4年を迎えるのに合わせて演説した。

イラン南東部ケルマンでは3日、ソレイマニ司令官の墓がある墓地で行われていた追悼式典中に爆発があり、100人近くが死亡した。【1月4日 ロイター】
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“ヒズボラは民兵組織のほかに政党も有し、レバノン内政に大きな影響力を持っている。
レバノンでは政治の空転が続き経済も低迷の一途をたどっており、国内ではイスラエルとハマスの戦闘に引き込まれれば混乱が拡大するとの懸念が強い。このため、ヒズボラは報復するとしてもイスラエル軍兵士に攻撃対象を限定するなど、当面は抑制的に動くとの見方も出ている。”【1月5日 産経】

【高まる緊張で不測の事態も イスラエルは先制攻撃も辞さない構え】
ヒズボラ、イスラエル双方ともにガザ周辺地域への戦闘拡大を望まない姿勢を示唆した・・・そうは言うものの、緊張は極限に近づいており、何が起きても不思議ではない状況。もし、ヒズボラ側に動きがあれば、イスラエルは先制攻撃も辞さない構えとも。

****イスラエル「ヒズボラへの本格攻撃、近づいている」 緊張高まる****
イスラエルのガラント国防相は5日、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラに対し、本格的な戦闘を開始する時が「近づいている」と述べた。

ヒズボラの最高指導者ナスララ師は同日、友好関係にあるイスラム組織ハマスの副指導者アロウリ氏がレバノンで殺害されたことを受け、改めて報復を宣言していた。イスラエルがヒズボラに先制攻撃を仕掛ける可能性もあり、緊張が高まっている。

イスラエルメディアによると、ガラント氏とイスラエル軍のハレビ参謀総長はヒズボラへの先制攻撃を以前から主張していたが、紛争の拡大を懸念する米国から圧力を受けるネタニヤフ首相が引き留めてきた経緯がある。ガラント氏は5日、イスラエル北部で軍幹部と協議。ヒズボラとの対立について「外交的解決を望む」としながらも、局面を変える「時期が来ている」と述べた。

一方、ナスララ師は5日のテレビ演説で、イスラエルによるレバノンへの越境攻撃を放置すると「レバノンの全国民が危機にさらされる」と強調。「報復の時は近い。決定は下されている」と述べた。

イスラエル軍とヒズボラは小規模な衝突を続けており、軍は5日、レバノン南部でヒズボラの指揮所などを空爆。ヒズボラもイスラエル側にロケット弾攻撃を実施した。負傷者は報じられていない。(中略)

こうした中、イスラエル軍は5日、ハマスによる10月の越境攻撃について軍の対応を検証する委員会を設置した。ネタニヤフ政権の責任問題にも直結するだけに、極右政党から選ばれた閣僚が委員の人選などを批判し、政権と軍の間に不協和音が生じている。【1月6日 毎日】
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【政治的には戦闘継続で血路を切り開くしかないネタニヤフ首相】
翻ってイスラエル国内では、ネタニヤフ首相は以前からの司法改革強行の問題でも、そして、自治政府への対抗策としてハマスを水面下で支援し、今回の戦闘を招くに至った責任の問題でも、人質救出が進まないことでも、政治的に追い詰められた状況にあります。

****イスラエル最高裁、司法権限縮小の法律は「無効」と判断 ネタニヤフ政権に痛手****
イスラエル最高裁は1日、国会で可決された司法の権限縮小をめぐる関連法について、「無効」だと判断した。

ネタニヤフ政権は昨年初めに司法の権限を縮小する「改革」を行うと表明し、民主主義の根幹である三権分立を損なうとして大規模な抗議デモが相次いだ。イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘を続ける政権には大きな痛手となる。イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)などが伝えた。

関連法は、政府の決定について最高裁が「合理性」を理由に無効とする権限を剝奪する内容で、イスラエル基本法(憲法に相当)の修正案として国会に提出され、昨年7月に可決された。

極右政党も参加するネタニヤフ政権は、選挙で選ばれた国会議員の決定に対し、司法が過剰に介入していると主張していた。最高裁では判事15人のうち8人が「民主主義の根幹を著しく傷つける」として無効だと判断した。また、判事12人が基本法を見直す権限は最高裁にあると判断した。

イスラエルではハマスとの戦闘が始まる昨年10月上旬まで、司法の権限縮小に反対する国民が毎週のように抗議デモを行い、予備役の一部が任務を拒否して抗議の意を示すなど国内の分裂が拡大した。ハマスなどは分裂に乗じて奇襲を仕掛けたとの観測もある。

ハマスとの戦闘開始を受けて発足した戦時内閣の主要メンバーであるガラント国防相やガンツ元国防相は司法制度の変更に反対していたため、政権の結束維持が問われるとみる向きもある。【1月2日 産経】
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****イスラエル世論、人質解放へ攻撃継続を56%支持 首相続投は15%****
パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの戦闘終了後もネタニヤフ首相に続投を望むイスラエル国民の割合は15%にとどまった。2日発表された世論調査で分かった。

ネタニヤフ首相は、ハマスが拘束している人質解放には強硬な軍事圧力が不可欠としている。

イスラエル民主主義研究所(IDI)が12月25─28日に実施した調査では、人質を取り戻す最善の方法について、軍事攻撃の継続と答えた割合は56%、イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人の釈放を含む交換取引との回答は24%だった。

ネタニヤフ首相に戦闘終了後も続投を望む割合は15%にとどまり、ライバルで戦時内閣に参加しているガンツ前国防相に期待する割合が23%だった。約30%は支持する指導者はいないと回答した。

昨年12月の前回調査では、69%が戦争が終わり次第選挙を実施すべきと回答していた。【1月3日 ロイター】
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もし、戦争が終結して総選挙となれば、ネタニヤフ首相の敗北は必死の情勢です。ネタニヤフ首相にとって生き残りの道は戦争を継続・拡大して、ハマスやヒズボラを決定的に叩いて、イスラエル国内では誰も批判できないような成果を示すこと・・・・でしょう。

そうした政治状況からして、ネタニヤフ首相はヒズボラ参戦による文字通りの「第5次中東戦争」を望んでいる・・・と言うのが言い過ぎなら、そういう事態にになっても「それはそれで・・・・」ぐらいには考えているのかも。全くの邪推ですが。
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