孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ  イスラム原理主義と世俗主義のせめぎあい

2013-08-01 22:06:08 | 南アジア(インド)

(ダッカ 2月7日 戦争犯罪によりイスラム協会指導者に対する死刑を求め、路上に座り込む市民活動家 “flickr”より By Morshad Alam http://www.flickr.com/photos/87946810@N08/8454243956/in/photolist-dT5dbQ-dSYyk4-dT5cvC-dTv5LN-dSQRRZ-dSWs5f-dSWs9J-dSWsch-dSWs6m-dVBDrY-dVzQNN-dVw2wt-dVBCuJ-dVuf3P-dVBCS1-dVw1ik-dVw32e-dVBAPA-dVufnP-dSWse5-dTxFRb-dTs1T2-dTxFZj-dTs2bz-dTs2vx-dTxFi5-dTxF1d-dY3MZ5-dY3MM3-dT9GFH-bpm194-9pFyTi-dTxFE3-dSQZBg-dVM8us-dVFvTH-88Wdng-88ZtaY-88ZtcC-88WdpV-88Ztfw-88WdvM-brdYch-bE8TDg-brdXPC-bE8TGv-brdYwy-bE8TyK-9pJABQ-9pJzjA-9pJB5h)

【「イスラム原理主義による支配からの解放と終焉」を求める行動
「アラブの春」で独裁政権が崩壊したエジプト、チュニジア、リビアなどでは、エジプトに典型的にみられるように、かつては弾圧されていたイスラム原理主義を求める動きと、これに反発する世俗主義を求める動きのせめぎあいが続いています。
イスラムに関してどのようなバランスをとるかは、イスラム教徒が多い国家においては共通する問題となっています。

人口の9割をイスラム教徒が占めるバングラデシュでも、原理主義勢力と世俗主義勢力の対立が激しくなっています。
イスラム政党関係者が関与したとされるバングラデシュ独立時の戦争犯罪(パキスタン支持派民兵を指揮して、ヒンズー教徒を虐殺・強姦したり、改宗を強要したとされるもの)について死刑を求める動きをめぐって、対立が表面化しています。

*****イスラム反発 死刑判決めぐり暴動 バングラデシュ 独立時の戦争犯罪****
バングラデシュ独立時の戦争犯罪を裁く同国特別法廷は2月28日、当時、市民を虐殺したとしてイスラム政党幹部に死刑判決を言い渡した。これに反発する同政党支持者らがダッカなど各地で暴徒化し、AP通信によると1日までに市民や警官44人が死亡した。

死刑判決を受けたのは、「イスラム協会(JI)」の副党首、デルワー・ホサイン・サイディー氏(73)。1971年にバングラデシュがイスラム教国のパキスタンから独立を宣言した際、これに反対したサイディー氏がヒンズー教徒を虐殺したり、イスラム教への改宗をヒンズー教徒に強要したりしたと認定した。

現地からの報道によれば判決に怒ったイスラム協会支持者らは各地で警官隊と衝突。警察署やヒンズー教寺院、政府支持者の民家に爆弾を投げ込むなどした。警官隊は発砲で応じた。

特別法廷は、与党アワミ連盟(AL)党首のハシナ首相が2010年に設立した。今年1月に別のイスラム協会幹部が被告人不在のまま死刑判決を受け、2月5日にはもう1人が終身刑を言い渡されていた。

40年以上前の罪を裁いた判決について、市民の間には犯罪者がやっと罰を受けるとの歓迎ムードがある。一方で、イスラム協会が最大野党バングラデシュ民族主義党(BNP)と協力関係にあるため、年内にも実施予定の総選挙を前に首相が野党の弱体化を狙ったとの見方もある。イスラム協会は、「政治的動機に基づくもので、証拠は何もない」と反発した。法廷は国際基準を満たしていないとの批判も聞かれる。

アワミ連盟はバングラデシュの独立を主導。その賛否をめぐり内戦が勃発し、インドの介入で第3次印パ戦争に発展。パキスタンの降伏で独立が決まった。【3月2日 産経】
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バングラデシュの政党政治は、現与党のアワミ連盟(AL)と最大野党バングラデシュ民族主義党(BNP)の抗争の歴史ですが、今回のイスラム主義者の戦争犯罪への死刑要求についても、両者の確執が絡んでいるようです。

当然にイスラム主義勢力は反発していますが、一方で死刑を求める若者ブロガーを中心とする世俗主義的な運動も高まりを見せています。

****イスラム原理主義支配に蜂起したバングラディシュのブロガー戦士たち(瀬川 牧子*****
2013年、バングラディシュでは若者ブロガーらが国の世俗化(民主主義)を求め、イスラム原理主義団体らと命懸けで闘っている。
これはアワミ政権が2008年の選挙マニフェストに「独立戦争時の戦犯を死刑にする」と掲載したことが発端だ。

1971年のパキスタンとの独立戦争時に多くの知識人やジャーナリストを殺害したとされる戦犯は、イスラム原理主義団体や政党を象徴する人物であった。そのため「イスラム原理主義による支配からの解放と終焉」を期待し、若者を中心とした民衆が一気に動き出したようだ。

今年2月、首都ダッカのシャハバッグ広場から死刑裁判などを求めるデモが始まった。そのことから地元の新聞ではこの民衆運動を『シャハバッグ運動』と呼ぶ。2月から4月半ばまでで約100万人がシャハバッグ運動に参加。これはバングラディシュ独立後、最大規模の運動だと人々は口を揃える。

民衆の要求は、もともとは戦犯の死刑だった。それが次第に「イスラム原理主義の政党『ジャマット・エ・イスラム』を政府に介入させない」「『ジャマット・エ・イスラム』を支持する機関などをボイコットする」「女性の地位向上」などへと拡大した。

この「シャハバッグ運動」の士気を鼓舞しているのが若者ブロガーらだ。参加者の7割が30歳以下を占めると地元新聞の記者は話す。そのため、国の世俗化を追求する若者ブロガー対イスラム原理主義の対立構造とも考えられる。
(後略)【4月24日 NOBORDER 瀬川 牧子】http://no-border.asia/archives/7953
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神に対する冒とくに死罪を設けるよう要求する運動
独立時の戦争犯罪問題とは別に、イスラム原理主義勢力は“神に対する冒とくに死罪を設けるよう要求する運動”を展開し、多くの死者を出しています。死者数は下記記事では28人とありますが、続報では37人と報じられています。

****イスラム冒とくに死罪要求、大デモ隊が警察と衝突 28人死亡 バングラデシュ****
バングラデシュの首都ダッカ(Dhaka)で5日、神に対する冒とくに死罪を設けるよう要求する数十万人規模のデモが行われ、警官隊との衝突で少なくとも28人が死亡した。警察当局と医療関係者が6日、明らかにした。

デモはイスラム強硬派のヘファジャット・イスラミ党(Hefajat-e-Islam)が主催したもの。デモ隊は「アッラー・アクバル(アラーは偉大なり)」「要求は1つ、無神論者に絞首刑を」などと叫びながら、ダッカ周辺の高速道路6本を封鎖。首都と郊外と結ぶ交通機能をまひさせた。

デモ参加者の多くは、地方の農村部出身者だという。警察発表によれば、ダッカ中心部まで20万人が行進し、治安部隊と衝突。デモ隊が警官隊に向かって投石し、警官隊側が警棒で応酬した。また、警察当局はゴム弾のみを使用したと発表したが、目撃者や地元メディアによると、警察署に放火したデモ隊を解散させるため治安部隊が実弾数百発を発砲したという。

最近結党されたばかりのヘファジャット党はイスラム原理主義を掲げ、イスラムを冒とくした者に死罪を科すよう要求している。今回の大規模デモについては、13点の要求項目の推進を掲げて行ったと説明しており、この中には男女が公共の場で自由に同席することを禁じたり、憲法にアラーへの誓いの言葉を復活させることなどが含まれている。【5月6日 AFP】
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【「イスラム協会」の政党登録は違法
上記のような原理主義勢力と世俗主義勢力の対立・混乱のなかで、バングラデシュの裁判所は、イスラム政党「イスラム協会」の元指導者に禁錮90年の判決を下し、また、「イスラム協会」の政党登録も違法との判断を行っています。
なお、この裁判所判決と、【3月2日 産経】にある特別法廷の関係はよくわかりません。

****イスラム政党元指導者に戦争犯罪で禁錮90年、バングラデシュ****
バングラデシュの裁判所は15日、1971年の独立戦争時に殺人などの残虐行為を首謀した罪で、同国最大のイスラム政党「イスラム協会」の元指導者グラム・アザム被告(90)に禁錮90年の判決を下した。

検察側からナチス・ドイツの総統アドルフ・ヒトラーになぞらえられたアザム被告は、パキスタンからの独立戦争においてパキスタン軍に加勢する民兵組織の設立に関与し、市民に対する残虐行為を主導したとして有罪判決を受けた。

この判決を受けて、同国の主要な野党勢力であるイスラム協会は、裁判の目的は自分たちの指導者を失脚させることであるとして、全国的なストライキを呼びかけた。
同国では判決が出る前から、各地でアザム被告の支持者たちと警察や治安部隊との間で衝突が起きていた。

当局によると、警察はゴム弾を使って鎮圧しようとしたが、ときに実弾を使うケースもあった。
同国北西部では、手製の手投げ弾を投げつけるイスラム協会支持派に準軍事部隊が発砲し、デモ参加者1人が死亡したと、地元警察関係者はAFPに明かした。【7月16日 AFP】
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****最大イスラム政党に違法判決=政教分離原則に違反―バングラ*****
バングラデシュの裁判所は1日、同国最大のイスラム政党「イスラム協会」の政党登録は違法との判決を下した。同党憲章が憲法で規定する政教分離の原則に違反しているとの訴えを認めたもので、党支持者からの激しい反発が予想される。【8月1日 時事】
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日本的な価値観からすればイスラム原理主義は容認しがたいものがありますが、バングラデシュ国内においてもコアな原理主義者の数はそう多くないとの指摘もあります。ただ、社会的影響力は大きいようです。

“バングラディッシュは人口の約90%がイスラム教徒。しかしイスラム原理主義者らの人口は国内ではわずか9000人にも満たないと政府関係者らは話す。
マイノリティにも関わらず、イスラム原理主義者らが影響力を持つのは、彼らに資金力があるため。地元ジャーナリストは、彼らが国内に多くの病院、銀行などを所有していると明かす。”【前出 瀬川 牧子氏リポート】
 
イスラム政党だけでなく、与党と対立関係にあるバングラデシュ民族主義党(BNP)が反政府の立場で関与すれば、混乱は更に拡大します。

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