孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  数週間内にヒズボラとの本格戦争でレバノン領に地上侵攻も・・・米国防当局者らの見方

2024-07-01 23:32:59 | 中東情勢

(イスラエル軍は29日、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」の軍事施設などを標的とした空爆をレバノン南部で実施したと発表しました。【6月30日 TBS NEWS DIG】)

【関係国も危機感を強めるイスラエル・ヒズボラの開戦】
イスラエルとレバノンのヒズボラの緊張が高まっていることは、6月23日ブログ“ヒズボラ  イスラエルとの戦闘が激化 全面戦争の危険性も 両者は互いに相手を威嚇”で取り上げたばかりですが、その後も流れは変わらず、全面戦争の危険も言及されています。

関係国も神経を尖らせており、発言が相次いでいます。
ホロコーストの負い目もあってイスラエルを支持するドイツは、イスラエルに自制を求めています。

****中東紛争の本格拡大を懸念、「全面戦争のリスク高まる」=独外相****
ドイツのベーアボック外相は24日、イスラエルとレバノンの国境沿いでの衝突が激化し、中東の紛争が本格的に拡大するリスクが高まっていることを大きく懸念していると述べた。

ベーアボック氏は安全保障関連の会合で「意図しないエスカレーションと全面戦争のリスクは日を追うごとに高まっている」とし、「われわれはパートナーと共に、解決策を探るべく懸命に取り組んでいる」と述べた。

同地域を訪問中のベーアボック外相は、翌日に再度ベイルートに向かうという。

また、イスラエルがイスラム組織ハマスとの戦いの中で自らを見失えば、パレスチナ自治区ガザの民間人が受けている被害に対する怒りが高まる中、イスラエル自身の安全が脅かされる恐れがあると、「友人」としてイスラエルに警告すると語った。

イスラエルのネタニヤフ首相は23日、テレビのインタビューで「ガザでの激しい戦闘が終われば、親イラン武装組織ヒズボラとの戦闘が激化しているレバノンとの北部国境沿いにさらに部隊を展開できるようになると述べた。【6月25日 ロイター】
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一方、パレスチナ支持で存在感を示したいトルコ・エルドアン大統領は・・・

****トルコ大統領、レバノンとの連帯表明 近隣諸国にも支援呼びかけ****
トルコのエルドアン大統領は26日、イスラエルとの緊張が高まる中、トルコはレバノンと連帯していると述べた上で、近隣諸国もレバノンを支援するよう呼びかけた。

与党・公正発展党(AKP)議員向けの議会演説で「イスラエルはパレスチナ自治区ガザを破壊し焼き払った後、今度はレバノンに目を向けているようだ。西側諸国が舞台裏でイスラエルを支援している」と指摘。「この地域に戦争を拡大するというネタニヤフ首相の計画は大惨事につながる」とし、イスラエルに対する西側諸国の支援は「哀れだ」とした。

その上で「トルコはレバノン国家および国民を支持する。この地域の他の国々にもレバノンと連帯するよう呼びかける」とした。【6月26日 ロイター】
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イスラエルに強い影響力を持つアメリカも警戒を強めています。

****イスラエル、ヒズボラと全面衝突も=米当局者が分析―報道****
米政治専門紙ポリティコは27日、パレスチナ自治区ガザで交戦するイスラエルとイスラム組織ハマスの停戦合意が実現しなければ、今後数週間でイスラエルと隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが全面衝突する可能性があると報じた。どちらか一方が大規模攻撃を予告なしに行うことがあり得ると米当局者が分析しているという。【6月28日 時事】 
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****ヒズボラ拠点への攻撃強化 イスラエル、米は軍艦派遣****
イスラエル軍は28日、レバノン南部にある親イラン民兵組織ヒズボラの拠点少なくとも5カ所を攻撃したと発表した。戦闘本格化への懸念が高まる中、地上侵攻も視野に攻勢を強めているもようだ。ヒズボラもイスラエルに向けて多数のロケット弾やミサイルを発射し、応酬は激化の一途をたどっている。

AP通信によると、事態悪化を懸念する米国は今週、強襲揚陸艦ワスプを東地中海に派遣。レバノンからの米国市民の避難準備に加え、抑止力を高める狙いがある。

米メディアは複数の米国防当局者らの見方として、イスラエルが数週間内にレバノン領に地上侵攻する恐れがあると指摘している。【6月29日 共同】
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【当初から本格的戦争には消極的なヒズボラ】
前出記事でエルドアン大統領は「レバノン」と言っていますが、「レバノン」と「ヒズボラ」は同義ではありません。
ヒズボラは「政党」としてレバノン国政に大きな影響力を有していますが、ヒズボラと対抗勢力のせめぎあいで22年10月に退任した大統領の後任を決められない政治空白がずっと続いています。

明確な主体性も持った「レバノン政府」というものが存在するのかも疑問です。

ハマスとイスラエルの開戦当初は、レバノン政府にしても、ヒズボラにしてもイスラエルとの大規模な戦争には消極的とされていました。

****「戦争」に消極的なヒズボラ、レバノンの経済破綻が重荷****
イスラエルと敵対するイスラム教シーア派組織ヒズボラを抱えるレバノンは、4年前の金融危機以来、経済が破綻し、国家が崩壊状態に陥っている。このためヒズボラとイスラエルが戦争状態に陥れば、持ちこたえることは不可能だ。

関係筋によると、イランの影響下にあるヒズボラはこうしたレバノンの危機的状況を承知しており、この点を念頭に置きつつ、対イスラエル戦における次の一手を練っている。

ヒズボラの盟友ハマスとイスラエルとの戦争の波紋が中東全域に広がる中、ヒズボラとイスラエルが戦争に陥るリスクは2006年の前回の大規模な紛争以降、最も高い状態が続く。

中東情勢に詳しい専門家によると、レバノンから200キロの位置にあるガザ地区でハマスが窮地に陥った場合、ヒズボラが動きをエスカレートさせる可能性があり、レバノンの指導者はイスラエルがヒズボラとの大規模な紛争に突入するのではないかと不安を抱いている。

イスラエルはヒズボラに対し、ヒズボラが戦線を開けばレバノンに「壊滅的な打撃 」を与えると警告している。既に1975─90年の内戦以来、最も不安定な局面にあるレバノンにとって、いかなる戦争も大きな代償を伴う。

ヒズボラの内情に詳しい関係筋は「ヒズボラは戦争に熱心ではないし、レバノンもそうだ」と明かした。レバノンからは既に数千人が国外に脱出しており、ヒズボラはこれ以上の国土の破壊や国民の流出を望んでいない。

レバノンは財源が枯渇しており、復興費用を誰が負担するのかも疑問だ。レバノンにおけるヒズボラの影響力の大きさを考えると、06年に復興資金を提供したスンニ派の湾岸アラブ諸国が今回も急ぎ支援に動くかどうか疑わしいとの声もある。(中略)

ただ、ヒズボラはイスラエルと米国に対抗するイランの支援を受けたグループの急先鋒としての立場を背景に、戦争に乗り出す用意があることも表明している。

レバノンの政治家は、ヒズボラに戦闘を激化しないよう働き掛けているが、ほぼ影響力はない。(中略)

レバノンは独立以来、安定した時期がほとんどない。1978年と82年のイスラエルによる侵攻など戦争に耐えてきた同国にとって、この数年は特に困難な時期だった。

数十年にわたる与党政治家の汚職と政策ミスにより、2019年には金融システムが崩壊。外貨準備が払底し、通貨は暴落、貧困に拍車がかかった。

さらに翌年、首都ベイルートの港湾で起きた化学薬品の大爆発で壊滅的な被害が発生した。ヒズボラがこの事件を巡る捜査を妨害し、緊張状態が激しい暴力につながった。

国家はかろうじて機能しているが、派閥争いのため大統領は不在で、完全な権限を備えた行政機構もない。地元紙アンナハルのナビル・ブーモンセフ副編集長は、レバノンには危機を管理できる政府がないと指摘。「本当に恐ろしいシナリオに直面することになる。インフラが破壊され、経済回復の見通しが立たなくなる」と戦争拡大に懸念を示した。

2006年、ヒズボラがイスラエル兵2人を拉致したことに端を発する戦争では復興に何年も要した。この戦争の後、ヒズボラの指導者であるサイエド・ハッサン・ナスララ氏は、ヒズボラは戦争を予期しておらず、もし、このような紛争につながると知っていたら作戦を実行しなかっただろうと述懐した。

<ヒズボラが主導権>
それから17年、ヒズボラの攻撃力は大幅に拡充され、レバノン国内でのパワーバランスはヒズボラ有利な形で固定されている。

強硬な反ヒズボラ政党、レバノン軍団党のガッサン・ハスバニ氏は「ヒズボラが主導権を握っている。全く容認できない」と述べた。「レバノンがヒズボラによって破壊的な対立に引きずり込まれることに深刻な懸念がある。社会的・経済的状況は脆弱で、これ以上、不安定な状態が続くことには耐えられない」と述べた。

カーネギー中東センターのモハナド・ハゲ・アリ氏は、ヒズボラは戦争後に復興資金が調達できるか否かを真剣に考えるだろうと予測する。湾岸アラブ諸国が支援に動くか、イランがどれだけの資金を提供できるかなど、疑問があるからだ。

「復興しなければ、ヒズボラは間違いなく政治的な代償を払わされる。そうなれば人々は疑問を口にし、怒りが広がるだろう」と同氏は語った。【2023年10月31日 ロイター】
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表向きの強気発言は別にして、イスラエル軍の兵力を分散させるハマスへの側面援護以上の本格的な戦争には消極的・・・というヒズボラの姿勢は、基本的には今も変わってはいないでしょう。

【避難を余儀なくされている北部住民の圧力から、開戦にむけてヒズボラを挑発するイスラエル】
ただ、ヒズボラの意思決定にはイランの意向が強く影響しますが、そのイランでは大統領が死亡し、選挙戦が続くという状況。

そのイランの大統領不在もあって、イスラエル側がヒズボラを挑発しているとの指摘もあります。

****【ガザの激化とエスカレートする敵対行為】イスラエルとヒズボラの全面戦争を避ける手だてはないのか***
(中略)
繰り返されるイスラエルによる挑発
イスラエルがヒズボラを攻撃するという観測記事が米国で度々報道されている。去年10月、ガザに侵攻する前にイスラエル側が後顧の憂いを断つためにまずヒズボラを攻撃しようとし、米国に止められたとか、今年の3月、イスラエルは6月にヒズボラ掃討作戦を行うとか報じられた。

最近、イスラエルはガザでの作戦に今年一杯かかるという見通しを出しているが、にもかかわらずネタニヤフ首相が「イスラエルはヒズボラに対して非常に強い行動を取る用意が出来ている」と述べたように、ヒズボラ掃討作戦を行う可能性が高まっている。

その事情としては、まず、ネタニヤフ首相に対する辞任要求がますます高まる中で、ガザの作戦が思うように進まず、同首相は政権を継続するために危機的状況を続けなければならないだけではなく、ヒズボラの攻撃で6万人の避難民が生じていて国内政治的にもこの様な状況を放置できないということがあろう。

実際、4月1日にダマスカスのイラン大使館が空爆されヒズボラとの連絡役だった革命防衛隊の准将が暗殺され、さらに、イスラエル側は、今年に入って以来、既に44回もシリア領内のヒズボラ関係施設を空爆していることを考えるとネタニヤフ首相が積極的にヒズボラを挑発して反撃させ、大規模衝突を正当化しようとしているのではないかと考えざるを得ない。

一方、ヒズボラ側は、イスラエルと全面衝突すれば敵わないのは目に見えているので、抑制的に対応しているように見える。(中略)

イラン大統領の事故死も影響か
問題は、仮に、近々、イスラエルが大規模なヒズボラ掃討作戦を行い、ヒズボラ側に大きなダメージが生じる場合、イランがあらゆる方法でヒズボラを支援しようとするはずであり、最悪、再びイランとイスラエルの間で直接戦火を交える可能性も排除されないことだ。

イランにとりヒズボラは、イスラエルと対峙する上での最強の代理勢力だが、同時に世界中で唯一、イラン式のイスラム革命のイデオロギーを受け入れている団体(例えば、ヒズボラの指導者は聖職者のナスラッラー師で、イランと同じく聖職者による支配体制を取っている)であり、イランはヒズボラが大きなダメージを受けることは絶対に容認できないであろう。

また、最近、上記ネタニヤフ首相の発言をはじめとしてイスラエル側のヒズボラに対する強硬な発言が急に増えているのは、ライシ大統領の事故死でイランの最高指導者の後継者問題が再燃しており、イランが内部の権力闘争でスムーズに動けないだろうというイスラエル側の読みがある可能性もある。【6月28日 WEDGE】
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****「戦争準備できている」=対ヒズボラ―イスラエル国防相****
イスラエルのガラント国防相は28日、北部の防空施設を視察し、大規模衝突の懸念が高まっているレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに関し「戦争は望んでいないが、その準備はできている」と表明した。ただ、ヒズボラと事態沈静化に向けて合意する方が「好ましい」とも語った。イスラエルのメディアが伝えた。

パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスと連帯するヒズボラは昨年10月からイスラエル北部を連日のように攻撃し、イスラエル軍も応戦。米国がイスラエルとレバノンに事態悪化を避けるため圧力をかけているが、数週間以内に本格衝突に発展する可能性が報じられている。【6月29日 時事】 
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ネタニヤフ首相にとっては、ヒズボラからの攻撃を避けるために北部で発生している6万人の避難民の存在が、ヒズボラへの大規模作戦に向かわせる大きな圧力になっています。

****イスラエルがハマスと同時にヒズボラにも戦争を仕掛けたがる理由****
<レバノンのイスラム教過激派勢力ヒズボラによるミサイル攻撃を受け、イスラエルはヒズボラへの攻撃の意思を明らかにしている。ガザ地区でのハマスとの戦いも続くなか、本気で二正面戦争に突入するのだろうか>

元英国首相ウィンストン・チャーチルが残した多くの名言の中に、「歴史から学ばない者は、歴史を繰り返して滅ぶ」というものがある。

イスラエルがレバノン南部で、レバノンの過激派組織ヒズボラと本格的な戦争に乗り出す準備をしている可能性があることも、まさにその例であるようにみえる。(中略)

激怒する北部住民
イスラエルには、ヒズボラの脅威を排除したいもっともな理由がある。昨年10月8日にガザ紛争が始まって以来、ヒズボラは後ろ盾のイランから供与されたミサイルやロケット、無人機を、国境越しにイスラエル北部に撃ち込んでいる。しかもその目的は、イスラエル国防軍の注意をガザ作戦からそらせ、ハマスを支援するためだと、ヒズボラは明言している。

ヒズボラの攻撃は比較的限定的で、今のところイスラエル北部に限られている。それでも、国境付近の住民約6万人が避難を余儀なくされている。うんざりした住民は、ネタニヤフ政権にヒズボラを国境から撤退させろと要求している。

その怒りはここ数日でさらに増大した。ヒズボラが低空飛行の偵察機で撮影したイスラエル北部の都市ハイファの軍事施設や民間施設の映像を公表したからだ。

つまり、ヒズボラはこの地域で新たな標的を設定する準備にかかっていたのだ。ハイファは人口30万人近い都市だが、ヒズボラの攻撃はまだ受けていない。

ネタニヤフ内閣で最も右寄りの閣僚ベザレル・スモトリッチ財務相とイタマール・ベン・グヴィル警察相は、イスラエル軍のレバノン南部への侵攻を公然と要求している。

このような圧力がなくても、イスラエル北部の住民は与党リクード党の強力な支持者であることから、ネタニヤフ首相としては、ヒズボラの脅威をなんとしても無力化したいのだ。

アメリカとイランの利害関係
アメリカは明らかに、イスラエルが紛争で第二の戦端を開くリスクを懸念している。ジョー・バイデン大統領はイスラエルとレバノンにアモス・ホッホシュタインを特使として派遣し、緊張緩和を図っている。(中略)

現時点のイスラエルとヒズボラの戦争の可能性におけるイランの利害関係は複雑だ。イスラエルが二正面から軍事的圧力を受けるのが喜ばしいことは明らかだ。だが、イランの指導者たちはヒズボラを、イランの核施設を攻撃したがっているイスラエルに対する抑止力だと考えている。

ヒズボラは推定15万発のミサイルとロケット弾を保有しており、その中にはイスラエル領の内部まで届くものもある。これまでのところイランは、ヒズボラとイスラエルとの大規模な戦闘拡大は望んでいないようだ。

イスラエルのミサイル防衛システム「アイアン・ドーム」は、ガザからのロケット弾攻撃を無力化することには目覚しい成功を収めているが、より高性能なミサイルの集中砲火に対しては、それほど有効ではないかもしれない。
現に今年4月、イランがイスラエルにミサイル150発と無人機170機を直接撃ち込んだときは、イスラエルはアメリカ、イギリス、フランス、ヨルダンからの支援を必要とした。(中略)

歴史は繰り返すのか
(中略)ほとんどの軍事専門家は、二つの正面で戦争を構えることには警告を発するだろう。ジョージ・W・ブッシュ元米大統領は、アフガニスタン戦争にまだ決着がつかない2003年にイラク侵攻を開始した。その結果、米軍は大きな犠牲を払い、国も壊滅的な損失を被った。

19世紀のアメリカの作家マーク・トウェインは、「歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む」と言ったと伝えられる。イスラエルの指導者たちは過去からの響きに耳を傾けるだろうか。【6月29日 Newsweek】
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