孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  右派ボルソナロ前大統領の支持者が暴徒化 民主主義のポピュリズムへの劣化

2023-01-09 22:34:13 | 民主主義・社会問題
(ブラジルの首都ブラジリアで、連邦議会の敷地内に侵入したジャイル・ボルソナロ前大統領支持者(2023年1月8日撮影)【1月9日 AFP】)

【“模倣犯”のような陳腐さも】
南米ブラジルで、大統領選挙の結果を認めない右派ボルソナロ前大統領の支持者が暴徒化し、大統領府や議会、最高裁判所を襲撃して施設や備品を破壊した件は報道のとおり。ある程度予想された事態でもあります。

****ブラジル前大統領支持者が議会襲撃 約300人逮捕****
ブラジルの首都ブラジリアで8日、昨年10月の大統領選で敗れた右派ボルソナロ前大統領の支持者が暴徒化し、大統領府や議会、最高裁判所を襲撃して施設や備品を破壊した。

地元メディアによると約4千人が集結したが、警察が約4時間で制圧。約300人が逮捕された。地方を視察していた左派ルラ大統領は、選挙結果を受け入れず襲撃したボルソナロ氏の支持者を非難し、厳しく処罰する方針を示した。

米国では2021年1月にトランプ前大統領の支持者らが、大統領選で不正があったとして議会議事堂を襲撃した。ブラジルでも政治対立が深刻化する実情が鮮明になり、各国の首脳が「言語道断だ」(バイデン米大統領)などと暴徒化した群衆を批判している。

ルラ氏は今年1月1日に就任したばかり。南米の大国ブラジルの政治が不安定化する懸念も出ている。(中略)

ルラ氏は昨年10月の大統領選の決選投票で、ボルソナロ氏を破り当選。8日は大雨被害の視察でサンパウロ州を訪れており、ブラジリアを離れていた。

ルラ氏は視察先で記者会見し、襲撃を「狂信的なファシスト」によるものだと糾弾。当初、大統領選で不正があったとしていたボルソナロ氏の姿勢が、支持者らを襲撃に向かわせたとして批判した。

ただ、同氏自身は昨年12月30日、敗北を事実上認めて米フロリダ州に渡っていた。同氏も襲撃について、ツイッターで「法から外れている」と述べた。

ボルソナロ氏の支持者による襲撃について、バイデン米大統領が「民主制と平和な権力移行に対する襲撃を非難する」と表明。

メキシコのロペスオブラドール大統領も「(ルラ氏を)メキシコと米州大陸、世界が支持している」と述べた。欧州の主要国首脳からも事件を問題視する声が一斉に出ている。【1月9日 産経】
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ブラジルの状況については、昨年末の12月18日ブログ“ブラジル 敗北を認めない大統領 支持者は大量の攻撃的な銃を所有 進行するアマゾン消失”でも取り上げましたが、ボルソナロ氏は、従来から大統領選で使われる電子投票が「不正」だと主張し、大統領選以降、敗北したことを公式には認めていません。

ボルソナロ氏の熱狂的な支持者らはその訴えに共鳴し、大統領選後も各地の軍事基地などで抗議活動を続け、軍の介入などを要求していました。

ボルソナロ氏は、暴徒が起きてからしばらくは声明などは出さずにいましたが、ブラジル時間の午後9時すぎに自らのツイッターを更新。AP通信によると、平和な抗議活動は民主主義の枠内にあるが、公共施設への侵入や破壊行為は「この原則に対する例外的な事態だ」と主張したとのこと。

“例外的な事態”というのはわかりにくい表現ですが、「平和的なデモは民主主義の一部だ。しかし、今日起きた公共施設の略奪、侵入はその法則から外れている」【1月9日 読売】という表現からすれば、今回の公共施設への侵入や破壊を表向きは否定しているようです。

何から何まで、2021年1月にトランプ前大統領の支持者らが議会議事堂を襲撃した事件とダブります。
そうした“既視感”から、“模倣犯”のような陳腐さも。

****「行動起こすしかなかった」=参加者ら、記者を羽交い締め―ブラジル****
ブラジルのルラ大統領が「前代未聞の破壊行為」と呼んだ、ボルソナロ前大統領支持者による連邦議会、大統領府、最高裁への侵入事件。

これらすべての建物に侵入したというブラジリア在住の会社員カンポス氏(34)は「司法は(ボルソナロ氏が負けた)選挙結果の見直しを行おうとしない。議会も最高裁も憲法を守っていない」と主張。「破壊行為は賛成できないが、民主主義が機能しておらず、行動を起こすしかなかった」と動機を語った。

地元テレビは無残に荒らされ、破壊された執務室や会議場の姿を映し出した。

一部参加者は、トランプ前米大統領の支持者らによる約2年前の米連邦議会襲撃事件を意識したのか、高官のものとみられる豪華な椅子に腰掛けて笑顔でカメラにポーズを取っていた。(後略)【1月9日 時事】 
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【計画した人間の意図は?】
そもそも、トランプ支持者にしても、ボルソナロ支持者にしても、議会襲撃などで「政権転覆」を考えていた訳でもないでしょう。反政府デモ参加者の一部が暴徒化して略奪するような、鬱積した不満のうっぷん晴らしみたいなノリだったのかも。

そうした“うっぷん晴らしみたいなノリ”““模倣犯のような陳腐さ”から、“民主主義を破壊しようとする行為”というほど大袈裟なものでもないようにも思えますが、こういう行為の蔓延は確実に“民主主義の劣化”であり、“ポピュリズム的衆愚政治”を示すものでしょう。

参加者は“うっぷん晴らしみたいなノリ”だったかも知れませんが、突発的事態ではなく、事前に計画されたもののようです。

****ブラジル議会襲撃、2週間前から計画か 前大統領支持の数千人暴徒化****
(中略)ロイター通信によると、ボルソナロ氏の支持者による政府建物の占拠は、ツイッターなどのソーシャルメディア(SNS)で少なくとも2週間前から計画されていた。

SNS上には国内数カ所の都市で集合場所を決め、チャーターしたバスでブラジリアに向かう計画が記されていたという。

ディノ法相はボルソナロ氏の支持者を乗せた数百台のバスの資金源や、安全対策の準備をしなかった知事への調査を進める考えを明らかにした。(後略)【1月9日 毎日】
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また、アメリカのトランプ氏周辺と相談がなされた可能性も

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米紙ワシントン・ポストは22年11月、ボルソナーロ氏陣営が選挙後、トランプ氏の側近らと協議していたと報じた。

報道によると、ボルソナーロ氏の国会議員の息子は、22年10月末のブラジル大統領選後に、フロリダ州のトランプ氏の自宅を訪問している。ボルソナーロ氏支持派による抗議や選挙結果への異議申し立ての効力についてスティーブン・バノン元米大統領首席戦略官と電話で協議したり、トランプ氏の側近で広報担当だったジェイソン・ミラー氏とオンライン検閲や言論の自由について議論したりしたという。【日系メディア】
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軍を動かしてクーデターを起こす訳でもなく、このような“うっぷん晴らし”のような襲撃事件を計画・実行する意図は何なのか? 

よくわかりませんが、支持勢力の求心力を維持し、モチベーションを高める“イベント”としての効果はありそう。

衆愚政治において、指導者は「パンとサーカス」で民衆の心を繋ぎとめるとされますが、議会・大統領府襲撃はその“サーカス”みたいなイベントでしょうか。

【民主主義が内包するポピュリズムの危険性】
民主主義が内包するポピュリズムの危険性、その曖昧な区分について語るのは荷が重すぎますが、下記のような佐伯啓思氏の指摘も

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民主主義の理念が「討議による政治」であり、少数派への配慮が必要とされるのは、何が真理であるかは誰にもわからない、という前提があるからだ。真理は不明であり、絶対的に間違いのない判断などありえないのである。

ここに、判断は一人一人異なってもよいし、それを強制されてはならないという自由主義の原理が持ち込まれれば、民主主義は価値判断についての完全な相対主義に陥る。正邪、善悪の判断は人によって異なっている。こういう価値相対主義こそが民主主義の根本的な前提をなしている。

とすれば、いかなる政治家であろうとも何が正しいかなどわかるはずはない。いや、哲学ならいざ知らず、現世の利得・損失に関わる事項に真理などという概念は意味をなさないであろう。

それなら政治家は多数派の「民意」を恃(たの)むほかなくなる。つまりポピュリズムを弄(ろう)するほかないであろう。

絶対的な正義や正解が誰にも分からないとなれば、政治の言説もメディアの言説もすべてフェイクといえばフェイクということになろう。

かくてトランプ派は、「フェイクメディアの背後には隠れた力が働いている」という陰謀論を唱えるが、それも真偽は不明なのである。こうなれば、民主主義はむき出しの言論合戦となるほかない。メディアは世論を操作し、政治家は民意を動かそうとする。一種のデマゴーグである。【佐伯啓思氏 日系メディア】
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確かに、反対派とも論議をつくすという「討議民主主義」は民主主義の理念である。だが、利害が多様化して入り組み、にもかかわらず人々は政治指導者にわかりやすい即断即決を求めるという今日の矛盾した状況にあっては、由緒正しい民主主義では政治が機能しないことは明白である。

そしてこの現実こそが、民主政治へのいら立ちや不信感を生み出しているのであり、その政治への不満がトランプ現象を生んだのであった。(中略)

人々が政治に求めるのは、「幸福を追求する」ための条件ではなく、現実に「幸福を享受すること」なのである。(中略)

人々にとっては、おのれを頼みとして自分の幸福を自ら獲得するという「自己決定」などというものは重荷なのだ。だから人々は、政治に対して「安全と幸福」の提供を要求する。その結果、人々は、安全と幸福を与えてくれるような強力な「護民官」的な指導者を求める。【同上】
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そして“強力な「護民官」的な指導者”を装うポピュリスト政治家はデマゴーグで人々を扇動する・・・こうしたポピュリズムがアメリカのトランプ政治であり、ブラジルのボルソナロ政治のように見えます。

そこでは、前述のように議会襲撃も支持者を鼓舞し、カタルシスを経験させるイベントなのでしょう。
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