孤帆の遠影碧空に尽き

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インドネシア  ジョコ大統領がレガシーとすべく進める首都移転 移転計画には暗雲も

2024-08-13 23:04:55 | 東南アジア

(新首都「ヌサンタラ」【8月11日 毎日】)

【人気が高いジョコ大統領 強引な政権運営で民主主義後退の批判も】
国民的人気が高いジョコ大統領の後任を決めるインドネシア大統領選挙は2月14日に行われ、ジョコ大統領のかつての政敵であったものの、現在はジョコ政治の後継者をアピールするプラボウォ氏が当選、ジョコ大統領の長男が副大統領としてプラボウォ氏とペアを組むことになっています。

大統領選挙は2月でしたので、とっくにプラボウォ新体制になっているかと思っていましたが、同氏の就任は10月、現在のインドネシアの政治は約8カ月の長い政権移行期の最中にあります。

庶民派大統領として人気の高いジョコ大統領ですが、政権・大統領批判者が逮捕されるとか、自身の長男(35歳)を強引な形で副大統領に押し込むなど、強引な政治姿勢も目立ちます。

また、軍人として東ティモールの独立運動を弾圧したプラボウォ次期大統領には人権侵害が指摘される過去がありますが、2月の大統領選挙ではそのあたりがうまく“隠蔽”されたような感もあります。

****政治YouTuberの台頭とインドネシアの民主主義****
インドネシアにおける民主主義の後退と市民社会
ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の2期10年が任期満了を迎えようとしている。2014年に「初の庶民出身」として大統領に就任したジョコウィは、経済開発の成果や頻繁な現場視察などによる国民へのアピールによって、高い支持率を維持し続けた。

他方で、情報および電子取引法(ITE法)の濫用によって、ソーシャルメディア上で政府や大統領を批判した人物が逮捕されるケースが頻発するなど、自由な言論空間たる市民社会の活動が制限された。

とくに大統領の側近であるルフット・パンジャイタン海事・投資担当調整大臣の資源ビジネスへの関与を批判した2人のNGO活動家が、2021年にITE法違反で刑事告訴された事件は象徴的だった(2024年1月8日に無罪判決)。

アムネスティ・インターナショナルによれば、この事件を含め、2021年1月から12月の間に人権活動家に対する367件の起訴や逮捕、暴力、脅迫があり、そのうち100人以上がITE法違反で告訴されたという。こうしたことから、ジョコウィ政権の2期目には多くの研究者がインドネシアの民主主義は後退しているとみなすようになった。

ジョコウィ大統領の権限濫用は、民主主義を支える最も重要な手続きである選挙の正統性までを揺るがした。2024年2月の大統領選挙を前に、ジョコウィは過去2度の大統領選で対決したプラボウォ・スビアント国防相を自らの後継者と位置付け、さまざまな手段でその当選を支援した。

最大の問題は、プラボウォの副大統領候補に弱冠35歳だった長男ギブラン・ラカブミン・ラカを据えるため、大統領が憲法裁判所の審議に事実上介入したことだった。選挙法では、40歳未満の者は正副大統領への立候補が認められていなかったにもかかわらず、大統領の義弟が長官を務める憲法裁判所の裁定でこれが覆った。その結果、ギブランの立候補が認められることになったのである。

さらに、プラボウォの選挙対策チームによるソーシャルメディアの活用は、候補者をめぐる諸問題を覆い隠した。過去の大統領選でも問題視されてきた、プラボウォの国軍特殊部隊隊長時代の人権侵害への関与は、「フェイクニュース」だとされた。

代わりにプラボウォのチームは彼の大統領候補者としてのイメージを向上させるため、彼自身が舞台上で踊る様子のほか、それを加工してアニメ化した「かわいい」「踊る好々爺」の動画を大量にティックトック(TikTok)などのソーシャルメディアで流した。この戦略は効果的で、若い世代ほどプラボウォ組を支持することになった。

他方で、ユーチューブ(YouTube)上では新たな形態での政治的議論がさかんになった。YouTubeは、少人数による親密な雰囲気のなかで、テレビでは扱いにくいテーマを長時間にわたって議論することができるソーシャルメディアである。

簡単な機材さえあれば誰でも番組を始めることもできる。そのため、テレビ司会者や政治コメンテーター、元国会議員、NGO活動家などによる新設のYouTubeチャンネルが多数現れ、既存のテレビ局を凌駕する人気の番組を提供するようになった。

第二次ジョコウィ政権下において自由な言論空間が狭まったことは、代替的なメディアの需要を高めさせた。さらに、2020年3月以降の新型コロナウイルス流行も、こうした傾向を後押しする大きなきっかけとなった。

こうした背景から、選挙期間中にはYouTubeでさまざまな議論が展開されるようになった。(中略)すなわち2024年の大統領選をめぐるYouTube上の批判的議論の盛り上がりは、インドネシアの市民社会の活発さを再確認する機会ともなったのである。(後略)【7月 見市建氏 アジア経済研究所】
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【ジョコ大統領がレガシーとすべく進める首都移転】
ジョコ大統領が自らの政治のレガシーとすべく推し進めているのが首都移転。

インドネシア首都ジャカルタは交通渋滞・大気汚染・地下水くみ上げによる地盤沈下で限界状態にもあり、首都をカリマンタン島(ボルネオ島)のジャングルの中に新たに建設する「ヌサンタラ」に移転しようという計画です。

私事ですが、6月にバリ島を観光しましたが、交通渋滞、駐車場の未整備には苦労しました。その経験からすればジャカルタの困難な状況は少し想像はできます。

ただ、この首都移転問題でもジョコ大統領は十分な議会審議を行わないなかで強引に法律を通して進めているとの批判があります。世論にも懐疑的な空気があります。

膨大な費用を必要とする事業ですので、カネの使い道として適切かどうか、どうやって工面するのか・・・という話にもなります。

政権内部でも、移転作業を加速させたいジョコ大統領と対立する動きもある・・・との噂も。

****インドネシア首都移転、担当トップが辞任 計画に懐疑的な見方広がる****
インドネシアの首都をジャカルタからカリマンタン島(ボルネオ島)東部に移転して新首都「ヌサンタラ」を建設する計画で、担当する新首都庁のバンバン・スサントノ長官とドニー・ラハジョエ副長官が突然辞任した。

プラティクノ国家官房長官は3日、大統領が暫定的にバスキ・ハディムルヨノ公共事業・国民住宅相と農務副大臣を後任に任命したと発表した。

政府は公務員移動の第1陣として9月に1万2000人を移動させる計画で、インフラ建設を急ピッチで進めている。ただ、計画は既に2度延期された。

ジョコ大統領が掲げる約32億ドルの看板プロジェクトだが、民間資金不足に直面しており、スサントノ長官らの辞任観測は以前からあった。これが現実化したことでプロジェクトの先行きに懐疑的な見方が強まった。

インドネシア戦略国際問題研究所のアナリスト、アリア・フェルナンデス氏は「問題は、投資家をどのように納得させるかだ」と話した。

公共事業・国民住宅相は3日に記者会見し、新首都計画地の土地所有権で障害があると述べた。ただ、早期解決の見通しを表明し「売却するにせよ、賃貸するにせよ、政府と企業が協力するにせよ、投資家が疑念を抱かないようにスピードアップして対処する」と話した。

インドネシア次期大統領のプラボウォ国防相は首都移転計画の継続を公約に掲げている。【6月4日 ロイター】
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ジョコ大統領は計画を貫徹する姿勢で、新首都「ヌサンタラ」での執務も始めています。

(新首都「ヌサンタラ」での初執務後、報道陣の取材をうけるジョコ大統領 7月29日 【8月11日 毎日】)

****ジョコ大統領、新首都で初執務 インドネシア「ヌサンタラ」****
インドネシアのジョコ大統領は29日、ジャカルタから移転を進めるカリマンタン島(ボルネオ島)東部の新首都「ヌサンタラ」で執務を始めた。大統領府が明らかにした。

土地収用や外国資本からの資金不足で、新首都は建設の遅れが指摘されている。10月に退任するジョコ氏は移転計画を政治的遺産としたい考えで、内外に進展をアピールする狙いがあるとみられる。

ジョコ氏は新しい大統領宮殿で地元メディアの取材に応じ「水は豊富で電気も大丈夫だ」と話した。
ジョコ政権は8月17日の独立記念式典をヌサンタラで実施するほか、中央官庁など首都機能の一部を年内に移転する見通し。【7月29日 共同】
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【移転計画には暗雲も】
上記記事にもあるように、大統領は今月17日の独立記念式典をヌサンタラで実施してその進捗をアピールする構えです。ただ、首都を変更する大統領令布告の見通しは立っていません。

****インドネシア「ヌサンタラ」 新首都に漂う暗雲 総工費4.4兆円、どう調達 完成や公式宣言、いつ****
インドネシア政府は17日の独立記念式典を初めて、カリマンタン島東部に建設している新首都「ヌサンタラ」で開催する。

ジョコ大統領の号令の下、ここにきて関連施設の工事が急ピッチで進み、式典には何とか間に合う運びとなった。ただ、公式に首都を変更する大統領令布告の見通しは立たず、移転計画には暗雲も漂う。 

「よく眠れなかった」。7月末、現在の首都ジャカルタから約1200キロ離れたヌサンタラで初めて執務を行ったジョコ氏。地元メディアによると、新しい大統領宮殿で過ごした一夜をこう振り返った。

「多分、初日だったから」「水も電気もインターネットも問題ない」と釈明したが、眠りが浅かったのは新首都にまつわる心配の種が尽きないからではないか、ともささやかれた。 

2019年に発表された新首都建設はジョコ氏の肝煎り事業だ。約3000万人が暮らすジャカルタ首都圏は、世界最悪レベルの交通渋滞や深刻な大気汚染、地下水のくみ上げによる地盤沈下など数々の問題を抱える。

このため人口が集中するジャワ島ではなく、外島にある約25万ヘクタールの森林地帯にスマートシティーを建設して政府機能を段階的に移転させ、将来的には200万人規模の都市とする計画だ。移転は独立100周年となる45年に完了させるとしている。

首都移転は歴代大統領が検討しながらも立ち消えになってきた経緯があり、10月に退任するジョコ氏は自らの「レガシー(政治的遺産)」として歴史に名を刻むつもりだとも言われる。

政府は新首都の総工費を466兆ルピア(約4兆4000億円)と見込む。国家予算からの支出は2割で、残りは官民連携プロジェクトや外国からの投資などでまかなう算段だが、巨額の費用をどうやって調達するかが課題となっている。

昨年の式典でジョコ氏が「来年はヌサンタラで開く」と宣言した後も、建設の遅れが指摘されてきたが、ここにきてペースアップ。7月末には8000人を収容する式典会場が完成し、最寄りの空港があるバリクパパンまでの高速道路も開通のめどが立った。年内には中央省庁の機能の一部を移転させる予定だ。

2月の大統領選でジョコ氏の路線継承を掲げるプラボウォ国防相が当選し、政権交代によって首都移転が暗礁に乗り上げる可能性は低くなった。

政府関係者らが各国を訪れて関連事業への投資を呼びかけ、外国資本の不足解消を図っている。ただ、地元メディアによると、商業都市ではなく、政府機能の中心地として設計されていることなどから、まだ様子見の空気が強いという。

また、プラボウォ新政権の目玉公約である給食費無償化は、高校までの約8300万人が対象で、年間4兆円の予算が必要となる。首都移転の総費用と同程度のコストが毎年かかる計算だ。実現にこだわれば財政難に直面し、移転費用をまかなえなくなるのではとも危惧される。

6月には移転事業を担当する「ヌサンタラ首都庁」の長官と副長官が突然辞任し、混乱が生じた。早急に移転を進めたいジョコ政権との間で対立があったのではとの臆測が飛び交った。

ジョコ氏は建設を加速するため、出資者に最大190年の借地権を認めるなどてこ入れを図っているが、独立記念日までに完成するのは全体の15%程度にとどまる。実際の首都機能は整っておらず、大統領令で公式な移転を宣言するのは、後任のプラボウォ氏に譲る可能性も示唆する。 

インドネシアのシンクタンク「戦略国際問題研究所」のニッキー・ファフリザル氏は「自身の功績を国内外に示してさらなる投資を呼び込むため、ジョコ氏は何としてもヌサンタラで式典を開きたいのだろう」と指摘。しかし、本格的なインフラ整備はまだこれからだとし、「首都として本当の機能を果たすのは10年以上先ではないか」との見方を示した。【8月11日 毎日】
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首都移転も費用を要しますが、プラボウォ新政権の目玉公約である給食費無償化の方も、首都移転の総費用と同程度のコストが毎年かかる・・・・完全実施は無理なようにも思えます。日本でも小・中学校について無償化している自治体は約3割にとどまっています。

一部無償化であっても巨額の費用が必要でしょう。首都移転とバッティングしそう・・・・。

12日には新首都「ヌサンタラ」で、現内閣の国防相でもあるプラボウォ次期大統領も出席して初閣議が開催されています。

****インドネシア、新首都ヌサンタラで初の閣議****
インドネシアのジョコ大統領は12日、新首都「ヌサンタラ」で初の閣議を開いた。10月の退任を前に、自身の看板プロジェクトである新首都建設(総工費320億ドル)が順調に進んでいることを投資家にアピールする狙いがある。

同プロジェクトは建設の遅れや外国投資の不足など、複数の問題に直面してきた。
ジョコ氏は新首都がインドネシアにとって歴史的な新しい章になると閣僚らに語った。

「新首都ヌサンタラは、われわれが未来を切り開くキャンバスだ。全ての国がゼロから新しい首都を建設する機会や能力を持っているわけではない」と述べた。

ヌサンタラは現在の首都ジャカルタから約1200キロ離れたボルネオ島の森林地帯に建設されている。

12日の閣議は10月に次期大統領に就任するプラボウォ国防相を含む閣僚34人のほぼ全員が出席。ヌサンタラの開発や次期政権への移行について協議した。

プラボウォ氏は閣議前に記者団に「少なくとも私はこのプロジェクトを継続し、可能であれば完成させる」と述べた。【8月12日 ロイター】
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プラボウォ氏の「可能であれば・・・・」 何が何でもという訳でもなさそう・・・というのは下衆の勘繰りでしょうか。
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