孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン内戦  双方の非道さが招いた「世界最悪の人道危機」 何とか停戦継続を

2019-01-08 23:04:05 | 中東情勢

(1月3日、イエメンの港湾都市アデン。食料を求めてゴミの山を漁る人々【1月7日 WEDGE】)

【いずれは頓挫するとの見方が多い停戦 今のところはまだ機能】
イエメンの首都サヌアを支配するイスラム教シーア派系武装勢力のフーシ派と、南部の港湾都市アデンを拠点にアラブの盟主サウジアラビアなどの支援を受ける暫定政府派。

フーシ派を支援しているとされるイランと、暫定政府を支援して大規模空爆を続けるサウジアラビアの、中東での覇権をめぐる代理戦争とも言われていますが、多数の民間人犠牲者、さらには混乱のなかでの飢餓と疫病の発生という「世界最悪の人道危機」とも言われています。

そのイエメン内戦について、国連のグテレス事務総長は昨年12月13日、紅海に面する海の要衝ホデイダでの戦闘停止で合意ができたと発表しました。

国際支援物資搬入の要となる重要港湾ホデイダでの停戦は、「世界最悪の人道危機」にあっては、めったにない朗報ですが、今後については“4年越しの内戦は何万もの死者(大半は一般人)と深刻な食料不足をもたらしている。これまでの外交努力は全て失敗に終わってきた。今回の合意もいずれは頓挫するとの悲観的な見方が多い。”【12月25日 Newsweek】といった、悲観的な見方がもっぱらです。

フーシ派・暫定政府の双方が疑心暗鬼のなかで、年末にはフーシ派の撤退開始が報じられていました。
ホデイダは今後は国連によって管理されることになると思われますが、すんなりと実現するのかは・・・・。

****イエメン反体制派、ホデイダ港から撤退開始 政府側は疑念****
イエメンの反体制派は29日、停戦協定に従って物流の要衝ホデイダ港からの撤退を開始した。国連当局者が同日、明らかにした。しかし政府側部隊はホデイダ港の引き渡しプロセスに疑念を抱いている。(中略)
 
政府側の当局者はAFPに対し、政府側はホデイダ港引き渡しの報道に「驚いた」と語り、「彼らはその港を誰に、どうやって引き渡すんだ」と述べた。
 
政府側当局者は、「フーシ派は、ホデイダを支配しているのをいいことに、海軍と沿岸警備隊の両方に自軍側の戦闘員を送り込んでおり、正統政府にとって大きな悩みの種となってきた」「こうした極めて重要なインフラストラクチャーにおける適切な人員採用プロセスを確保するため、国連は透明性のある仕組みを整えなければならない」と訴えた。
 
別の政府側当局者は、国営のサバ通信がフーシ派に掌握されたためにサウジアラビアが設立した同名の通信社「サバ通信」を通じて、今月スウェーデンで行われた和平交渉で結ばれた「合意の内容をゆがめるための、反体制派による試みなのは明らかだ」と述べた。
 
フーシ派は同派が掌握したサバ通信に対し、「ホデイダ港からの移動の第1段階」を始めたと明らかにした。
 
国連の統計によると、イエメンでは1400万人が飢餓の瀬戸際に追い込まれており、ホデイダ港はこうした人々に対する食料支援の搬入拠点となっている。このため、フーシ派のホデイダ港からの撤退は、今月18日に発効した停戦の中核となっている。
 
政府側部隊も、サウジアラビア主導の連合軍の支援を受けて6月13日に開始した攻勢で奪取したホデイダの一部地域から撤退することになっている。【12月30日 AFP】
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al arabiya net は、イエメン政府、サウジ、UAEが安保理に対して、12月31日付けの書簡をもってフーシ派が停戦違反を繰り返しているとの苦情を申し立てたと報じていますが【1月3日 「中東の窓」より】、今のところは停戦が崩壊したといった話にはなっていません。

国連は、今後のホデイダ管理に向けて動き出しています。

****国連のイエメン担当特使が首都サヌア入り、港湾都市の停戦を後押しへ****
国連のマーチン・グリフィスイエメン担当特使が5日、イエメンの重要な物資補給路となっている港湾都市ホデイダの停戦を後押しする協議を行うため、首都サヌア入りした。AFPカメラマンが伝えた。
 
グリフィス特使は、サヌアでイスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派指導部と協議した後、サウジアラビアの首都リヤドでイエメン暫定政権側と協議する予定。サヌアでは、ホデイダの停戦を監視する国連監視団を率いるオランダのパトリック・カマート退役少将とも会談する。
 
フーシ派筋によると、グリフィス特使は6日、ホデイダを訪れる予定。紅海沿岸のホデイダ港は、2200万人以上が人道支援物資に頼って生活しているイエメンに輸入される物資の大半の搬入拠点となっている。
 
グリフィス特使はサヌア入り後に声明を出さなかったが、数年にわたって続くサヌアの空港封鎖の解除を求めるデモに、救急車の中から参加していた慢性疾患の子ども5人を見舞った。
 
フーシ派によると、空港封鎖のために、大勢の患者が外国での治療を受けられずにいるという。【1月6日 AFP】******************

【支援物資の横流し 餓死者の目の前から食料を奪う様な行為】
フーシ派は、治療を受けられない子供たちなどで暫定政府・サウジ側の非道をアピールする狙いのようですが、(サウジの空爆は無差別攻撃的な非道さはあるにしても)フーシ派の側にも支援物資を横流しするなどの疑惑もあります。

****イエメン問題(食糧援助の窃盗、横流し)****
イエメンでは人口の半分以上(1590万人で、人口の53%)が飢餓に苦しんでいるとされ、国連機関、とくにWFP世界食糧プログラムが、人道的食糧援助をしてきました。

然るところ、hothyグループ支配下(イエメンの人口が密集する北部イエメン中心)にある地域で、援助物資の窃盗や横流しが後を絶たないという報道が、多数見受けられました。

しかし、これらの報道はhothyグループと敵対するサウディ系のメディアが報じることが大部分で、おそらくは事実関係もさりながら、情報宣伝的要素も多かろうと思い、特に記事にはしてきませんでした。
(因みに本日付のalsharq al awsat net は、彼らはこれまで700台のトラック分を盗んだと報じている)

然るところ、haaretz net がこのような問題を報じているので、中道左派のメディアでサウディの息がかかっているという話を聞かない、haaretz net がこの問題を取り上げていますので、事実関係は確認できませんが、記事の要点次の通り

国連の食糧援助が目的者に届かずに、途中で横取りされたり、主都の市場で売られているとの噂に対して、WHPが調査を行ったところ、援助が対象に届かないことがしばしばあり、また援助物資が市場で売られていることが見つかり、少なくもhothy政府文部省関係の機関が、不正に関係していることを突き止めたとして、31日このような「餓死者の目の前から食料を奪う様な」行為を非難する声明を出したとのことです。

これに対してhothy政府は、このWFP事務局長の声明は公正ではないとして、強い不満を表明した由。

これに対して、WFPは援助食糧が市場で売られていたㇼ、現地官憲が偽の書類を発行していることは写真やその他の証拠で確認したとしている由(中略)

確か国連の援助食糧が横流しされて、町で高値で売られたり、関係者に奪われることは、北朝鮮でもかって広く行われていると報じられていたところ。

餓死する人たちを横目で見つつ、力を持つものが、人道援助を奪うのは必ずしもイエメンに限られるわけではないと思います【1月2日 「中東の窓」】
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【人道危機を招いた双方の非道さ スーダンからの“少年兵輸出”も】
840万人とも1400万人とも、あるいは人口の半分以上1590万人とも言われる人々を飢餓の瀬戸際に追いこみながら、また、6万人もの死者を出しながら、4年にもわたって内戦を続けていられるのは、住民の頭上に爆弾を落とす輩、餓死者の目の前から食料を奪う輩だからこそできるものです。

****「世界最悪の人道危機」の正体、魑魅魍魎のイエメン戦争****
これまでに6万人が死亡し、840万人が飢餓の危機にさらされているイエメン戦争。「世界最悪の人道危機」(国連)と言われながら、サウジアラビアと同国を支配する武装組織フーシ派の戦いは今年も終結する見通しは小さい。

戦争の裏側では傭兵や、過激派と手を組む部族長ら魑魅魍魎が跋扈し、希望のない新年に市民には絶望の色が濃い。

スーダンの“少年兵輸出”
シーア派の一派であるフーシは元々、イエメン北部のサウジ国境近くが根城だったが、2011年のアラブの春の混乱を利用して台頭。2015年、ハディ政権を首都サヌアから追放し、同国を掌握した。

サウジはこれに危機感募らせた。フーシの背後で宿敵のイランが糸を引いているとの疑念を深めたためで、アラブ首長国連邦(UAE)と図り、南部アデンに逃れた傀儡のハディ政権を支援して軍事介入、フーシへの空爆を開始した。
 
サウジは米国の支援を受け、フーシへの攻撃を激化させる一方で、イエメンの国境や海上を封鎖した。これにより、ただでさえ最貧国のイエメンは物資不足に陥り飢餓が蔓延。上下水道などのインフラが破壊されたため、衛生状態が極度に悪化し、コレラが大発生した。
 
サウジなどの空爆は無差別状態と化し、結婚式や葬式、市場、病院、学校なども爆撃を受け、これまでに民間人約5000人が犠牲になった。

米紙によると、誤爆が多発するのは、サウジ機のパイロットが撃墜されることを恐れて高高度を飛行するため、爆撃の精度が下がっているからだという。
 
サウジの爆撃に対し、フーシはミサイル攻撃で反撃、リヤドの空港などに撃ち込んだ。地上戦も紅海沿いの港湾都市ホデイダで激戦が続いた。

サウジはこうした地上戦に、紅海を挟んだ対岸のアフリカ・スーダンで徴募した傭兵を送り込んだ。ニューヨーク・タイムズの報道によると、その数は4年間で1万4000人にも上り、多数の少年兵が含まれている。
 
傭兵はかつての「ダルフール紛争」で家や畑を失った貧困層出身の少年が多いが、レイプや殺人などの蛮行で知られるならず者組織の構成員もいる。

しかし、サウジは傭兵を送り込む一方で、自国の軍部隊は派遣していない。サウジ軍の指揮官も前線には来ず、離れたところから命令を下している、という。これはサウジ人の損害を回避するためだ。
 
傭兵の少年たちは14歳から17歳程度。徴募に応じると、支度金が支給される上、月500ドル弱の給料が支払われる。加えて半年に1回のボーナスや戦闘手当も支払われる。戦闘経験のある戦闘員には月給も上積みされる、という。サウジは給料などを直接スーダンの銀行に振り込んでおり、スーダンにとっては貴重な外貨稼ぎの手段となっているが、戦闘によるスーダン人の死者もかなりの数に上っている。
 
スーダン人の1人は同紙に対し「商品のように少年兵らが輸出されている」と批判、専門家の1人も「貧困に付け入って札束で戦闘員を買っている」とサウジのやり方に批判的だ。だが、サウジ軍スポークスマンは「少年兵がいるというのは作り話」と否定している。

腐敗し切ったフーシ
サウジやUAEはこうした傭兵軍団に加え、イエメンの部族指導者に資金援助し、米国製の武器を供与、フーシと戦わせている。この指導者は南西部タイズを拠点とするアブ・アッバス。配下には3000人の戦闘員がいる。だが、アッバスは米国がすでにテロリストとして制裁対象に指定した人物だ。
 
アッバスは過激派の思想には賛同しないとしながらも、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)と連携していたことを認めており、米国がテロ指定したのは当然の措置だ。

これは「フーシと戦うのであれば、過激派と手を組んでいようが関係ない」というサウジ側のなりふり構わぬ姿勢を象徴するものだろう。
 
だが、フーシの実態もまた、腐敗にまみれたものだ。最近のワシントン・ポストはこれまで伝えられなかったフーシの実像を明らかにしているが、フーシは反対派を片っ端から拘束しては拷問するなどの弾圧を加える一方、幹部がサヌアの豪華な邸宅に暮らし、高級車のポルシェなどを乗り回す贅沢ぶりだ。人々が飢餓にあえぎ、公務員にさえ給料も支払われていないのとは対照的な生活だ。
 
フーシはホテルや病院などにもスパイ網を敷き、ささいな理由で反対派を拘束、ムチ打ちや体に電流を流したり、また手足を縛り付けてローストチキンのように火あぶりにする拷問を加えたりしている。

拘束者に対し、トイレも1日1回程度しか行かせなかったり、蛇を独房に投げ入れたり、また家族も殺すと脅したりするのは日常茶飯事だという。
 
フーシのモハメド・アリ最高革命委員会議長はこうした批判に対して、調査するとしているものの、国連や人道支援機関の監視を強化し、自由な活動を制限するなどその独裁ぶりが改善される見通しは皆無だ。【1月7日 WEDGE】
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スーダンからの“少年兵輸出”の話は初めて目にしました。自分たちは弾の届かないところにいながら、カネで買った「少年兵」に戦わせる、地上からの反撃を回避するため、目標をかまわず高高度から爆弾をばらまく・・・・なんとも卑劣です。

ドローンやロボットによる攻撃に代表される現代の“安全な戦い”は、そこで流される人々の血を覆い隠してしまいます。

一方のフーシ派も、餓死者の目の前から食料を奪い贅沢三昧の暮らしを楽しむ、ムチ打ち・電流・ローストチキンのような火あぶり・・・記事を読んでいても息苦しくなるような、なんともむごい惨状です。

【停戦継続に果たすアメリカの役割】

****米国の責任****
イエメン戦争がこうまで残虐に長引いた責任の一端は米国にある。トランプ政権はサウジへの1200億ドル強の武器売却で合意しているが、オバマ前政権も600億ドル、ブッシュ元政権も200億ドルに上る武器を売却した。サウジがイエメン戦争につぎ込んでいる戦闘機や爆弾はほとんどが米国製だ。
 
F15戦闘機の保有機数はサウジが米国、イスラエルに次いで世界3番目。いかに米国製兵器がサウジに渡っているのかの良い例だ。地上では、イエメン爆撃から帰還したサウジ戦闘機のメインテナンスのため、ボーイング社などから数百人の技術者が働いている。
 
こうしてサウジの戦闘継続を米国が支えてきたわけだが、とりわけ、イエメンへの軍事介入に踏み切ったムハンマド・サウジ皇太子をしゃにむに支援しているトランプ政権の責任は大きい。戦争が泥沼化する前にムハンマド皇太子を押しとどめるべきだった。
 
トランプ政権は昨年11月、サウジの反体制記者カショギ氏殺害事件に批判が高まったこともあり、イエメン戦争のサウジ機に対する空中給油支援を停止した。遅きに失したというべきだろう。

上院もムハンマド皇太子非難の決議とともに、イエメン戦争の軍事支援を中止するようトランプ大統領に求める決議案を採択したが、議会のチェックも後手に回ったという印象が強い。
 
ハディ政権とフーシは昨年末、国連主導の和平協議で激戦地ホデイダでの部分停戦と捕虜1万6000人の交換に合意した。やっと見え始めた和平への一筋の光明だが、これが続くと見る向きは少ない。停戦が破られないことを祈るばかりだ。【同上】
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“遅きに失した”“後手に回った”アメリカ政権・議会の対応ではありますが、現実問題として、アメリカがサウジ支援をやめればイエメン内戦は止まります。

こんな内戦を続けていても誰の利益にもなりません。サウジの軍事費負担もサウジ財政を苦しめていますし、イランにしても制裁で青息吐息でしょう。停戦には異論はないのでは。

今後の停戦継続に向けてアメリカが強い意思表示を示し続けることを期待します。

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