孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ タイ政府の中国へのウイグル族強制送還へ反発 タイ領事館襲撃も 中国は「政治問題化」を非難

2015-07-12 22:10:40 | 中東情勢

(タイ政府によるウイグル族強制送還に反発、トルコ・イスタンブールでタイ領事館を襲撃する群衆 【7月10日 TBS Newsi】)

中国人と間違えて韓国人の観光客グループを襲撃
中国の新疆ウイグル自治区におけるウイグル族など少数民族への“圧政”に関し、テュルク系遊牧民族という民族的共通性を有するトルコやカザフスタンなどの国々が強い関心を持っている・・・・という話は、6月16日ブログ「カザフスタンやトルコなどチュルク系民族の、中国の高圧的なウイグル族対策に向ける目」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150616)で取り上げました。

この問題が、最近トルコで表面化しています。
イスタンブールで今月5日、中国の対ウイグル族対策に不満を持つ勢力が、中国人と間違えて韓国人の観光客グループを襲撃する事件が起きました。

****ウイグル族弾圧で反中デモ、韓国人観光客を誤襲撃 トルコ****
中国西部・新疆ウイグル自治区のイスラム教徒への中国政府の対応を批判するトルコの一部グループが5日、イスタンブール中心部の旧市街で、中国人と間違えて韓国人の観光客グループを襲撃した。

イスタンブールでは同日、中国支配下での文化・宗教的な抑圧に不満を抱くウイグル人との連帯を示し、数百人がトプカプ宮殿に向けてデモ行進していた。

デモ隊が宮殿に到着した際、そこに居合わせた韓国人観光客らに参加者の一部が襲い掛かったのだという。この韓国人観光客らはその後、機動隊に救助された。

観光客を襲撃したのは、トルコの極右政党、民族主義者行動党(MHP)下部組織の極右団体「灰色の狼」のメンバーら数人とされる。

今回の事件は、イスラム教の神聖月であるラマダン期間中に、ウイグル人らの祈りや断食といった行為を中国政府が制限しているとの一部報道を受け、トルコ政府が中国に対して懸念を表明する中で起きている。

6月30日には、中国から逃れてきたウイグル人計173人が、タイで一時拘束された後、トルコに到着。中国政府は今月3日、これらの人々を受け入れたトルコ政府に対し、不快感をあらわにしていた。

イスタンブールでは1日にも、人気の中国レストランが襲撃され、窓ガラスが割られる出来事があった。しかし、このレストランの経営者はトルコ人で、料理長もウイグル人だった。

イスラム教徒が多数を占めるトルコは、言語や宗教などウイグル族とのつながりが深い。トルコ国内には、ウイグル族の関連団体が複数存在している。【7月6日 AFP】
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この襲撃に先立って、中国政府のウイグル族政策に抗議するデモがトルコ各地で実施されていました。
当然ながら、中国は強く反発しています。

****デモ暴徒化でトルコに抗議=「言動慎め」―中国****
中国外務省の華春瑩・副報道局長は6日の定例会見で、トルコで続いている中国に抗議するデモの暴徒化に「懸念」を表明した上で、トルコ側に抗議し、中国人の安全確保に向けた措置を取るよう求めたことを明らかにした。

華副局長は、ウイグル族の宗教活動に対する中国政府の締め付け強化をトルコが批判していることを念頭に、「トルコには中国の主権と領土を尊重し、言動を慎むよう要求した」と述べ、問題に介入しないよう訴えた。さらに「ウイグル族は宗教・信仰の自由を享受している」と強調した。

中国の在トルコ大使館は抗議デモの発生を受け、トルコに滞在する中国人に対し、外出を避け、デモに近づかないよう警告を出している。【7月6日 時事】
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中国の「ウイグル族は宗教・信仰の自由を享受している」という言い分の妥当性には甚だ疑問がありますが、今回はそこには立ち入りません。

この襲撃事件には、襲撃グループと関係が深いとされる民族主義的な野党「民族主義者行動党(MHP)」党首の人種差別的発言という“おまけ”も。

****反中デモの韓国人誤襲撃、「目が細いから」と擁護 トルコ野党党首****
トルコで反中デモの参加者が誤って韓国人観光客を襲撃した問題をめぐり、与党・公正発展党(AKP)の連立相手と目されている野党の党首が、中国人も韓国人も「目が細い」から間違っても仕方がないととれる発言をし、批判を浴びている。(中略)

この一件について野党・民族主義者行動党(MHP)のデブレト・バフチェリ党首は、8日の日刊紙ヒュリエトに掲載されたインタビューで「(襲撃した)彼らは若者たちだ。こうした若者に間違った情報を与えて判断を誤らせる連中もいるし、彼らがそういう連中に従ってしまう場合もある」と発言。

続けて、次のように述べた。
「それにしても、韓国人と中国人との違いは何だ? 両方とも目が細い。どちらでも違いはないだろう?」
「トルコの若者たちは、中国で起きている圧政を非常に気にしている。彼ら(デモ参加者)は自分たちの民主的な権利を行使できるはずだ」

この発言に、マイクロブログのツイッターでは批判が殺到。一部のユーザーは、バフチェリ党首を人種差別主義者で人種的憎悪をあおっていると非難し、「目が細かったら誰かを殴ってもいいというのか」などと投稿した。

韓国人旅行客を襲撃したのは、MHP下部組織の極右団体「灰色の狼」のメンバーとみられている。
イスラム教国のトルコは言語や宗教上ウイグル人とのつながりが強く、国内でも複数のウイグル人団体が活動している。【7月9日 AFP】
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トルコは“親日的”といわれていますが、“目が細い”日本人も気をつける必要がありそうです。

日本人から見て欧米人やチュルク系民族が同じように見えるのと同様に、東洋人が外見的に似ているのは事実ですが、そのことをこういう場面で、こういうふうに発言する政治的感覚が“極右”とも言われる所以でしょう。

MHPは先の総選挙で80議席を獲得し、AKPの連立工作の有力な相手ともなっていますが、大丈夫でしょうか?

タイ政府が約100人のウイグル族を中国に強制送還・・・・トルコではタイ領事館襲撃
中国のウイグル族政策をめぐるトルコ国内の反発は、更に、タイを巻き込んだ意外なところから拡大しています。

****ウイグル族約100人を中国送還=トルコで暴徒がタイ公館襲撃****
タイ政府は9日、タイに不法入国し身柄を拘束されていた100人近くのウイグル族を8日に中国に送還したことを明らかにした。

これに関連してトルコ・イスタンブールで8日夜、タイ政府に抗議する暴徒がタイ名誉総領事館を襲撃。現地からの報道では、窓が破壊されるなどの被害が出たが、けが人はなかった。

これら不法入国者は昨年3月以降、タイ南部の入国管理施設に収容されていた300人以上のウイグル族の一部。

タイ政府副報道官によると、身元確認を進めた結果、トルコ国籍と確認された約170人をトルコに移送し、中国籍と認められた100人近くを中国に送還した。

人権団体は中国当局から迫害を受ける恐れがあるとして中国送還に反対していたが、副報道官は「われわれは国際慣行と法律に従い、いかなる人権侵害も行わない」と強調。中国政府は送還後のウイグル族の身の安全について「適切に取り扱う」とタイ側に確約したという。【7月9日 時事】 
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タイは事態を受けて、イスタンブールにある領事館を一時閉鎖することを明らかにしています。

****在トルコ公館を一時閉鎖=ウイグル族送還で非難相次ぐ―タイ****
タイ政府が約100人のウイグル族を中国に強制送還した問題に絡み、タイ政府は10日、トルコ最大都市イスタンブールにある領事館を一時閉鎖すると明らかにした。領事館が8日、送還に抗議する暴徒に襲撃されたのを受けた措置。政府副報道官によると、首都アンカラにある大使館は領事業務を除いて通常通り業務を行うという。

タイ政府の対応をめぐっては、国連をはじめ米国やトルコ政府が批判する声明を出したほか、国際人権団体からも「卑しむべき振る舞い」(アムネスティ・インターナショナル)と非難の声が相次いでいる。

プラユット暫定首相は10日、記者団に対し、送還されたウイグル族の安全が懸念されていることについて「中国は法的な手続きに従うと確約している。(中国は)野蛮な国ではない」と反論。「タイと中国の関係を破壊してほしいのか」とも述べ、送還の正当性を主張した。【7月10日 時事】 
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「タイと中国の関係を破壊してほしいのか」・・・・“タイ外務省幹部は中国送還について、クーデターを決行した軍主導の最高機関、国家平和秩序評議会(NCPO)高官から指示があったとしている。対中関係を強めているクーデター体制下で、中国の意向に配慮した可能性がとりざたされている。”【7月10日 朝日】といった事情を反映した発言にも思えます。

この問題では、アメリカもタイの強制送還措置を批判しています。

****米 ウイグル族強制送還でタイ政府を非難****
・・・・これについてアメリカ国務省のカービー報道官は9日の記者会見で「中国に戻されれば法的手続きのないまま、残酷な扱いを受けるおそれがある」と述べ、タイ政府の対応を非難しました。

そのうえでカービー報道官は「中国に対しても、国際的な人権基準に基づいて適切に対応するよう求める」と述べ、中国政府をけん制しました。【7月10日 NHK】
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【中国:強制送還された者への厳重対処表明 トルコ在外公館の関与も指摘】
プラユット暫定首相の言うように「中国は法的な手続きに従うと確約している。(中国は)野蛮な国ではない」ならば、そんなにも問題とならないのですが・・・。

****中国 強制送還のウイグル族 厳重対処の方針****
中国の公安当局は、タイ政府から強制送還された中国の少数民族ウイグル族のおよそ100人について、「テロに関わったものがいる」として厳重に対処する方針を示し、テロ対策を理由にウイグル族への締めつけに懸念を示す欧米からの批判が高まることも予想されます。

タイ政府は、去年3月に不法入国の疑いで拘束した女性や子どもを含むウイグル族およそ100人を、中国政府の求めに応じて9日、中国に強制送還しました。

これについて国営の中国中央テレビは11日、公安当局の話として、「密入国者はトルコを経てシリアやイラクに行き、いわゆる“聖戦”に参加しようとしたほか、テロに関わって逃亡した者もいる」と報じ、厳重に対処する方針を伝えました。

ウイグル族の人たちを巡っては、中国政府による抑圧的な政策に反発して民族的に近いトルコなどに逃れる動きが加速していますが、中国政府はイスラム過激派の戦闘に加わっているなどとしてウイグル族への取締りを強化しています。

アメリカ政府などは今回の強制送還について「中国に戻されれば、残酷な扱いを受けるおそれがある」と強い懸念を表明していただけに、中国政府の方針に欧米の批判が高まることも予想されます。

また、中国中央テレビは、ウイグル族がトルコに逃れる背景に東南アジアの一部の国のトルコ大使館が関わっていると伝えており、今後、中国とトルコの外交問題に発展する恐れも出ています。【7月12日 NHK】
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中国公安当局の“厳重な対処”がどういうものなのか?

上記記事にもあるように、中国はウイグル族の国外脱出へのトルコの関与を主張しています。

****過激組織にウイグル族「売却」=トルコが身分証明と非難―中国高官****
ロイター通信によると、中国公安省高官は11日、一部の外国メディアに対し、ウイグル族が東南アジアにあるトルコの在外公館で身分証明を与えられた上でトルコへ渡航し、一部は過激派組織「イスラム国」に戦闘員として売られていると主張した。

また、タイから中国に送り返されたウイグル族109人について「彼らは中国人だ」と述べ、送還の正当性を強調した。

ウイグル族と民族的・宗教的に結びつきが深いトルコは中国への送還に不満を持っており、中国のこうした主張にさらに反発しそうだ。

同高官は、トルコ外交官がクアラルンプールなどでウイグル族に「トルコ人としての身分を与えている」と主張。一部のウイグル族はトルコに渡った後、ウイグル独立派組織とされる「東トルキスタン・イスラム運動」などの手引きを受け、1人当たり2000ドル(約25万円)の代価でイラクやシリアの過激組織に引き渡されると訴えた。

一方、中国外務省の華春瑩・副報道局長は11日、米政府がウイグル族の中国送還を非難したことを受け、「米国の声明は事実をごまかし、政治的な偏見に満ちており、強烈な不満と断固たる反対を示す」とする談話を発表。米国に抗議したことを明らかにした。【7月11日 時事】
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エルドアン大統領は今月後半に中国を訪問する予定ですので、騒ぎを大きくしたくないようです。
ただ、トルコ在外公館の関与を指摘されると、トルコとしても穏便には済ませられないところもあります。

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エルドアン大統領は、外国大使とのイフタールの席上、ウイグル人に対しトルコ人が民族的、宗教駅に同胞意識を有するのは当然だが、最近のトルコの反応は誇大な報道に影響された可能性が強いとして、自重を求めるとともに、このような報道がされたのが、大統領の中国訪問直前であることに意図的なものを感じると述べた。【7月10日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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かねてより中国当局のウイグル族弾圧を非難している世界ウイグル会議議長のリビア・カーデル氏は、「エルドアン大統領が中国のリーダーと会う時に、東トルキスタンに住むウイグル人に対する暴力と弾圧について議題にあげ、議論することを期待します。」と語っています。【7月10日 cappadociapress より】

国益のためには人権問題には目をつぶる・・・というのがチベット問題などでの欧州各国の対応ですから、トルコ・エルドアン大統領に多くを期待するのは難しいでしょう。

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1 コメント

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中国が口にしない『トルコ政権のイスラム国支援』 (ローレライ)
2015-07-13 10:27:12
中国は『トルコ政権のイスラム国支援』非難は自粛してますね。トルコ国内のクルド人はトルコ政権を非難してます。
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