孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カザフスタンやトルコなどチュルク系民族の、中国の高圧的なウイグル族対策に向ける目

2015-06-16 22:11:01 | 中央アジア

(5月7日、アスタナでカザフスタンのナザルバエフ大統領が行った歓迎式に出席した中国の習近平国家主席 【5月8日 新華社】)

新疆:相変わらずの緊張状態
中国・新疆ウイグル自治区における中国政府の徹底したウイグル抑圧策、その結果としてイスラム過激派がこの地域に浸透しつつあることは、5月25日ブログ「中国新疆のウイグル族問題  当局の徹底した抑圧のもとで忍び込む過激思想」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150525)でも取り上げました。

新疆における厳しい緊張状態は変わっていません。

****ウイグル族2人射殺=手製爆弾で警察襲撃―中国****
米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)は28日、中国新疆ウイグル自治区ホータン地区モーユー県で25日夜、ウイグル族6人が手製爆弾を使い、パトロール中の警察部隊に対する襲撃を試みる事件が発生したと伝えた。これでウイグル族2人が射殺され、4人が逃亡した。

6人は20〜26歳で、4人が既に拘束されたかどうかは不明。当局は、地元の18〜60歳の男性住民を集めて4人に関する捜査の手掛かりを収集している。【5月29日 時事】
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ISによる組織的勧誘も報じられています。

****ウイグル族をISISに勧誘していた組織が特定****
トルコの新聞、ミリエットが、中国ウイグル族をテロ組織ISISに勧誘する組織が特定され、トルコとシリアの国境でウイグル族400人が逮捕されたことを明らかにしました。

ミリエットは、2日火曜、「ウイグル族への罠」というタイトルの一面記事の中で、「ウイグル族のための新たな祖国を約束し、彼らをISISの罠にはめていた組織が特定された」としました。

この報告によりますと、この組織は、新疆ウイグル自治区の不満を抱くトルコ系ウイグル族に対し、弾圧のない自由な祖国と宗教的な自由を与えると約束し、彼らをISISの罠にかけていたということです。(後略)【6月2日 Iran Japanese Radio】
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北京とモスクワの意向で勝手に引かれた国境線は、まさに自由を剥奪された象徴
中国のウイグル族対策については、欧米からの批判がよくとりあげられますが、新疆に関心を持つのは欧米だけだはないようです。ある意味では、欧米の人権批判よりもっと切実・身近な関心です。

****カザフをにらむ孔子学院が、中華思想対イスラムの発火点となる****
中央ユーラシアの背骨である天山山脈。天山の北麓にアルマトイという都市がある。「リンゴの都」の意だ。旧ソ連から独立後、97年までカザフスタンの首都だったこの地に中国政府の文化機関、孔子学院があり、現在約1500人の若者たちが学んでいる。

世界各国の支部で中国語と中国文化を教える孔子学院は中国共産党のプロパガンダ機関と批判され、欧米諸国から軒並み姿を消しつつある。そんななかで、シルクロードの天山北路に09年に設置された校舎だけは活況を呈し、イスラム文化圏にあって異彩を放っている。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は先月に13年以来2度目となる同国訪問を実現し、シルクロード経済圏構想を持ち掛けている。中国の狙いはカザフスタンの豊富な地下資源であり、まさに経済的な権益を確保するための橋頭堡としての役割を孔子学院は果たしている。

それだけではない。中国はまた孔子学院を通してカザフスタンに対する政治的干渉をも強めようとしている。というのも、カザフスタンには中国から亡命してきたウイグル人とカザフ人が大勢暮らしているからだ。

ウイグル人やカザフ人は中国の同化に抵抗している

時は1962年。中国・新疆ウイグル自治区西部のイリとタルバガタイ地区に住むウイグル人とカザフ人は、人民公社など中国の急激な公有化政策に反発。生活レベルが高かったソ連に大挙して逃亡した。中ソ国境紛争の1つとして知られる「イリ・タルバガタイ事件」である。

中ソがイデオロギーをめぐって対立していたこの時期、亡命者はモスクワの対中干渉のカードとして使われてきた。

ソ連崩壊後の今日、彼らは新疆ウイグル自治区における分離独立運動の最大の支持者となっている。中国は孔子学院を通して、亡命者組織を分断し、抑えようと企図している。

「カザフスタンの現代の大ハーン」ナザルバエフ大統領には別の雄略がありそうだ。中央アジア諸国の中でいち早くシルクロード経済圏への支持を表明しており、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加も決めている。

こうした「親中」ぶりの一方で、実は新疆に住むカザフ人への配慮もある。新疆北部に住む約150万人ものカザフ人の大半は、1917年のロシア革命後の移住者たちの子孫だ。

ソ連で遊牧民に対する過酷な定住化政策が導入されていた時期に、それを嫌ったカザフ人は東トルキスタンと当時呼ばれていた新疆側に渡った。

もともと「トルコ系の言葉を話す人々の故郷」を意味するトルキスタン。その一部である東トルキスタンは、ウイグル人にとってもカザフ人にとっても民族の故郷だ。彼らにとって、北京とモスクワの意向で勝手に引かれた国境線は、まさに自由を剥奪された象徴以外の何ものでもない。

ナザルバエフは新疆側で暮らす同胞たちの境遇に目を光らせている。中国政府の高圧的な民族政策が場合によっては民族の新たな大移動を触発する危険性を帯びているので、カザフスタン政府も神経をとがらさざるを得ないからだ。

儒教は伝統的な境界線だった万里の長城を越えるか
孔子に源を発する儒教の思想は歴史的に万里の長城の最西端、嘉峪関(かよくかん)を越えたことはなかった。長城は儒教とイスラムとの境界線でもあった。

一度だけ、中国の為政者たちは東トルキスタンで儒教を強制したことがある。19世紀後半にムスリムたちが清朝に対して大反乱を起こし、鎮圧された後のことである。湖南省出身の中国人軍閥が儒教でもってトルコ系住民たちを中華の臣民に改造しようと試みたが、猛反発を受けて失敗に終わった。


今日においても、新疆ウイグル自治区のウイグル人とカザフ人が最も抵抗しているのは中国への同化だ。
水と油のように混合不可能な儒教思想とイスラム。孔子学院を武器に中華思想をイスラム圏へ広げようとする野望は、新たな火種になる可能性が高い。【6月9日号 Newsweek】
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“水と油のように混合不可能な儒教思想とイスラム”なのかどうかはさておき、カザフスタンには上記のような経緯もあって約23万人のウイグル人が暮らしています。

また、新疆を中心に中国には約150万人のカザフ人が暮らしています。
更に、ウイグルもカザフも同じテュルク系遊牧民族で、血のうえでも、文化的にも近しい関係にあります。

4月に6選を果たしたばかりのナザルバエフ大統領は選挙直後の5月7日、習近平主席のカザフスタン訪問を歓迎した上で「中国との善隣関係はカザフの外交の優先課題だ」と述べ、協力強化に意欲を示していますが、一方で、“中国政府の高圧的な民族政策が場合によっては民族の新たな大移動を触発する危険性”だけでなく、同胞らへの処遇に対する一般的関心も高いことも想像されます。

もっとも、新疆では漢族の圧政だけでなく、カザフ人は同じ少数民族のウイグル人からも迫害を受けている・・・といった話もあるようですので、話は単純ではないかも。【http://www.chatabi.net/colum/3048.html

ウイグル族問題をめぐるトルコ・中国の軋轢
テュルク系遊牧民族という点では一番多いのがトルコ人ですが、トルコと中国の間で、新疆におけるウイグル対策が問題となったこともあります。

今、トルコは中国製戦闘機の導入を検討していますが、トルコ側の過去のウイグル問題への反発を問題視する見方も中国にはあるようです。

****中国の軍事技術導入、たぶん世論が許さない・・・「J−31」戦闘機、トルコが購入の可能性****
中国の大手ポータルサイト、新浪網は12日、トルコが中国の瀋陽飛機工業集団が開発したステルス戦闘機「J−31(殲−31)」の関連技術を購入する可能性があると紹介した。

ただし、トルコは中国から防空ミサイルシステムの「HQ−9(紅旗9)」の輸入を決めたが、世論などのために見送りになったことがあるという。(中略)

瀋陽飛機のJ−31が、トルコの要求に最も適していると主張する専門家もいるという。
しかし新浪網は、「トルコがHQ−9の導入の際に見せた悪行を忘れてはならない」と主張。40億ドルでの購入を決めたが、トルコ国内の媒体による「熱烈な議論」が発生し、入札結果が反故にされたと指摘した。

トルコは西側諸国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)のメンバーだ。NATO関係国の懸念に対してトルコのイスミト・ユルマズ国防相は2015年2月19日、中国から導入する防空システムは、NATOの防空システムとは切り離すと述べた。しかしその後、HQ−9導入は「音沙汰なし」という。

新浪網は、「トルコは常に態度を変転させており、『心と知能が健全な国』として信用するのは、極めて困難」と論評した。

◆解説◆
2009年にトルコ首相ら閣僚が、人権を抑圧してウイグル族を弾圧しているとして、中国政府を非難した。中国ではトルコ批判の報道が続き、多くのネット民がトルコを批判した。

トルコでウイグル問題に対する関心が高いのは、ウイグル族がチュルク(=トルコ)系民族であることに関係している。チュルク民族は中央アジアに広く分布する民族で、アゼルバイジャン、カザフ、ウズベク、トルクメン、キルギス、トゥバ、サハなどがある。

ただしトルコがチュルク系民族に示す連帯感/親近感は「トルコ中心主義」として、他のチュルク系民族には歓迎されない場合もある。【6月16日 Searchina】
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トルコの中国製HQ−9導入が「音沙汰なし」なったのは、アメリカなどが、NATO諸国から武器支援を受けていながら中国製ミサイルを導入しようというトルコへの強い不快感を示し、圧力をかけたせいではないか・・・とか、あるいは、もともとトルコは本気で中国製ミサイルを導入する考えはなく、欧米メーカーに価格の再検討を促すためではないか・・・とも言われていました。

上記記事によれば、国内的にも、チュルク系民族のリーダーとして、中国のウイグル族抑圧に強い批判があるようです。

もっとも、“トルコがチュルク系民族に示す連帯感/親近感は「トルコ中心主義」として、他のチュルク系民族には歓迎されない場合もある”というのも、非常に興味深いところです。

チュルク系民族はトルコ、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、ロシアなどに広範に存在しています。

中国の高圧的なウイグル族への対応は、こうした国・地域との関係にも影響してきます。
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