孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  アッサム州の地元少数民族とイスラム教徒の衝突で高まる緊張

2012-08-23 22:53:18 | 南アジア(インド)

(アッサム州コクラジハル 学校を使った避難民キャンプに避難したボド族の人々 イスラム教徒住民の避難民キャンプもあるようです。 “flickr”より By TwoCircles.net http://www.flickr.com/photos/94592664@N00/7763953450/in/photostream/

【「こんなことが起きるなんて思ってもみなかった」】
世界中に民族対立・宗教対立が溢れていますが、インドでもそうした衝突が起き、政府は対応に苦慮しています。
インドと言えば、インド洋に着き出たひし形の国土が思い浮かびますが、北東部にバングラデシュ・ブータン、ミャンマー・中国に囲まれた地域が突出しています。
この北東部地域のアッサム州で、少数民族ボド族とイスラム教徒住民の衝突が7月から起きています。

〈ボド族〉
“インド北東部のモンゴロイド系先住民族の一つでヒンドゥー教徒が多数を占める。アッサム州を中心に居住し、人口は2001年の調査で州全体の5%の135万人。州西部のボドランド自治地域では多数派で全体の人口の3~4割とされる。アーリア系のアッサム人や同州で人口の約3割を占めるイスラム教徒住民と土地などをめぐり対立してきた”【8月22日 朝日】

****インドで民族・宗教対立緊迫 84人死亡 避難民も****
■殺害事件が発端、焼き打ちや銃乱射も
インドでイスラム教徒と北東部の少数民族との緊張が高まっている。発端は北東部アッサム州で7月に始まった少数民族ボド族とイスラム教徒住民の衝突。21日までに84人が死亡し、68人が負傷。一時は約48万人が避難民となった。暴力行為は国内各地に飛び火し、政府は対応に追われている。

緑豊かな水田や森林が広がる同州西部コクラジハル近郊。のんびり歩く牛やヤギをよけながら車で走ると突然、黒こげになった民家が出現した。村の中に入ると焼かれた家々が無残な姿をさらす。女性や子どもは避難民キャンプに逃れたため閑散とし、数人の男たちが難を逃れた家で寝泊まりをしていた。

ボド族が住むバムンガオン村。村人によると、7月24日、隣村のイスラム教徒の男らがやってきて、竹やりで家々を破壊、灯油をかけて火を付けて回った。
隣村とは互いの祭りの際に行き来するなど交流があった。ラハラム・ワリさん(32)は4年前に貯金をはたいて建てた家の焼け跡を前に、「こんなことが起きるなんて思ってもみなかった」と肩を落とした。

一方、イスラム教徒の村々もボド族の襲撃を受けた。家族5人で避難民キャンプに逃れたディル・ムハマド・マンドルさん(40)の村では7月22日、ボド族の男らがやってきて銃を乱射、4人がけがを負ったという。「私たちは共存を願っているのに」と憤った。

州政府によると、衝突の発端は7月6日にコクラジハル近郊の村でイスラム教徒の男性2人が殺害された事件。ボド族とは無関係な過激派の犯行だったがイスラム教徒の間ではボド族の仕業と思われた。さらに7月19日にイスラム教徒2人が撃たれ負傷、翌日にボド族の4人が殺され、一気に火が付いた。

この地域にはボド族やイスラム教徒、アッサム人などが混在。多数派はボド族だが、全体の3、4割とされ、これまでも土地などをめぐり民族同士が対立、衝突を繰り返してきた。
ボド族側は衝突の背景に国境を接するバングラデシュからのイスラム教徒不法移民の大量流入があると主張する。女性組織のリーダー、アンジャリ・デイマリさん(48)は「不法移民は北のブータン国境近くまで入り込んでいる。対策を強化すべきだ」と訴える。

だが、イスラム教徒側はこれを否定。イスラム教徒学生組織のアブドゥル・ラヒム・アフマドさん(29)は「避難民は皆インド人。ボド族は地域での人口割合を上げようと他民族を迫害している」と非難する。

バングラデシュ周辺ではミャンマー西部でもイスラム教徒のロヒンギャ族と彼らをバングラデシュ人移民と見なす他の民族の間で衝突が起きている。

■政府は全国への広がり懸念
インド政府は地域に軍隊を展開するが、殺人などの暴力行為は続いている。7月下旬にボド族とイスラム教徒双方の計約48万人が都市部の公共施設などに逃れ、いまだに約26万人が避難生活を続ける。

政府がこの問題に神経をとがらせるのは、多民族・多宗教国家のインドで対応を誤れば暴力が全国に拡大するおそれがあるからだ。実際、衝突の長期化で対立拡大の兆しが出ている。
西部ムンバイでは今月11日、抗議デモのイスラム教徒が暴徒化し、2人が死亡。近郊のプネではボド族に顔が似た北東部出身の学生らが相次いで襲われる事件が起きた。15日以降、北東部出身者が襲撃されるとのうわさが広まり、南部バンガロールなど各地から約5万人が列車などで北東部に逃げ帰るなど、一地域の抗争が国内全体に拡大しつつある。【8月22日 朝日】
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【「国内全土で安全に暮らせるよう全力を尽くす」】
記事最後にある衝突の全国への拡大の兆しについては、下記のようにも報じられています。

****インド:北東部出身の3万人が大都市脱出 襲撃のデマで*****
インド北東部アッサム州出身の学生や出稼ぎ労働者が先週以降、滞在先の西部ムンバイや南部バンガロールなどの大都市から集団で脱出する騒ぎが起こっている。

アッサム州では、隣国のバングラデシュから移住したイスラム教徒と、元から住んでいた非イスラム住民との間の民族対立が起こっており、「都市部のイスラム教徒が北東部出身者に報復を仕掛ける」とのデマが広がったためだ。

これに対し、インド内務省は18日、「デマは、パキスタンから発せられた携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)が原因」と指摘した。パキスタン側は疑惑を否定しており、両国間の新たな問題となりかねない情勢だ。

インド北東部出身の住民は、日本人に似た東洋系の顔をしているのが特徴。ほかのインド人と容易に見分けがつき、大都市でしばしば差別の対象となってきた。
インドのシン首相は17日の議会で、北東部出身者を「私たちの友、子供たち、国民」と呼び、「国内全土で安全に暮らせるよう全力を尽くす」と約束した。当局は同日、デマの広がりを防ぐため、大量の宛先のSMSの使用を禁ずる措置を講じた。【8月20日 毎日】
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バングラデシュから流入したと地元で言われるイスラム教徒と地元住民の衝突といえば、お隣ミャンマーでのロヒンギャ族の問題もあります。

ただ、“バングラデシュから流入した”とは言っても昨日今日の話ではなく、すでに数十年この地で生活しているようです。
また、ボド族は州全体では少数民族であり、“アッサム州からの分離や主権獲得”といった高度の自治権をかねてより要求しているようです。

****インド:アッサム州で民族間衝突――その背景にあるもの ****
インドのアッサム州で、地元部族であるボド族とイスラム系住民による衝突が発生。少なくとも32人が死亡し、さらに多くのけが人が出ているという。きっかけは2012年7月20日金曜日の夜、ボド族が大半を占めるコクラジャール地区で若者4人が何者かに殺害されたことだった。

その報復として、武装したボド族がイラスラム系住民の村を襲撃し火を放った。ボド族は、先の殺害がイスラム教住民によるものだとしている。報道によると、国内の治安部隊が暴徒に向けて銃器を使用し、そのため多くの死者が出たという。

衝突が発生して以来、チランを始め、ドゥブリー、ボンガイガオン、ウダルグリ、ショーニトプルといった地区から逃れてきた村民が避難キャンプに押し寄せ、その数は約7万人に昇っている。コクラジャール地区とチラン地区では、ボド族の村もイスラム系住民の村も襲撃や焼き討ちにあっており、そうした村の数は少なくとも60に達している。

アッサム州では、抗議者らが線路を占拠し列車に投石したため、列車21本が運行を中止。乗客約2万人が列車内に足止めされる事態となった。

ボド族はアッサム州の人口の5%を占めており、対するイスラム系住民は33%を占めている。ボド族は政治的独立を求めており、その範囲は自治権にとどまらず、アッサム州からの分離や主権獲得とった内容にまで及んでいる。

アッサム州の人口は2033万人で、ボド族やミシン族、ラブハ族、ソノワル族、ラルン族(ティワ族)、デオリ族、テンガル族(メチ族)といった部族がその15.64%を占めている。同州には憲法第6附則のもと自治評議会が3つ設置されているが、さらに複数の部族が同じ憲法第6附則(訳注:少数民族の地域的な自治規定について定めたもの)のもと自らの自治評議会の設立を求めている。

野党であるインド人民党は、今回の衝突の原因は「不法移民」の存在であるとし、これを地域間の衝突(訳注:ボド族地区と不法移民居住地区の間の衝突)と位置付けた。
しかしアッサム州警察トップは、こうした衝突は地域間というよりはむしろ民族的な衝突であると述べている。同トップによると、今回の衝突はボド族と非少数民族との間で発生したもので、こうした非少数民族は主にイスラム系で40~60年前から代々この地域に居住しているという。【Global Vices 原文 Rezwan • 翻訳 Kazuko Ohchi 翻訳掲載 2012/08/10 http://jp.globalvoicesonline.org/2012/08/10/15510/
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こうした民族対立・宗教対立が痛ましいのは、決して両者が共存できない訳ではなく、確かにこれまでも事件は起きているようですが、多くの住民が衝突が起きるまでは普通に隣接して暮らしていることです。
それが何かのきっかけで互いに殺し合う関係に堕ちてしまう・・・というのは、やりきれないものを感じます。
ひとの心に奥に潜む、差別・攻撃の相手を求める部分が、生活の苦しみを背景に“あいつらのせいで・・・”と噴き出すのでしょうか。ことさらに対立を扇動する者たちの所業でしょうか。

“政府がこの問題に神経をとがらせるのは、多民族・多宗教国家のインドで対応を誤れば暴力が全国に拡大するおそれがあるからだ。”というのは、非常に懸念されるところです。
もとよりインドにはヒンズー教徒とイスラム教徒の建国以来の対立・不信があります。
民族・宗教間の対立が社会全体に拡散してインド社会の根底にあるヒンズー教徒とイスラム教徒の対立に火がつくと、想像することすら恐ろしい建国時の混乱のような悲惨な状況が生まれます。

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