孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  中国のドローンを利用したADIZ(防空識別圏)侵入常態化で緊張が更に高まる可能性

2022-01-09 23:16:11 | 東アジア
(中国は広東省の航空ショーで無人戦闘機「彩虹6」を披露(2021年9月【1月8日 Newsweek】

なお、“中国では様々な無人機が開発されており、今回のこれら機体がすべて運用されているとは考えられず、モックアップレベルにとどまっていると思われます。ただし、何れにしても無人機開発に相当力を入れていることは間違いないと考えられます。”【2021年09月27日 ZAP ZAP!】との指摘も)

【ドローンを利用したADIZ(防空識別圏)侵入常態化の可能性】
巷にあふれる中国面白ネタのひとつ。

****ドローンで火炎放射 豪快すぎる“スズメバチ巣の駆除”が中国で話題****
木の上で炎に包まれているのは、巨大なスズメバチの巣。この火は、なんと火炎放射器を搭載したドローンから付けられたもの。
 
近隣の住民はスズメバチに刺され、集中治療室に運ばれるなどの被害が出ていて、巣を駆除したくても高い場所にあるため、火炎放射器を搭載したドローンが使用したという。
 
この動画に、中国のSNSでは「これは本当に実用的だね」「これは技術の力だ。素晴らしい」「巣を駆除するのに人がケガしなくて済むのはとてもいいことだ」と称賛する声多く寄せられていた。
 
一方、日本では「これがスズメバチの巣だけに留まれば良いのですが」「これ普通に軍事転用できそうだなあ」と批判する声も上がっている。
 
豪快すぎるゆえに他の火事を引き起こしそうだが、中国メディアによると、ドローンの操縦は消防と共に行っているのでその心配はないとのことだ。(『ABEMAヒルズ』より)【1月7日 ABEMA TIMES】
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一方、国際政治面のニュース。

****中国軍機の防空識別圏侵入に身構える台湾、来年はさらに増加か****
今年に入り約950機の中国軍機が識別圏侵入-前年の380機から2倍超
来年は中国共産党大会、台湾でも選挙-大型政治イベント控え緊張も

中国人民解放軍による台湾の防空識別圏(ADIZ)侵入が今年目立ち、識別圏に入ってきた中国軍機の数は前年の2倍余りに上った。来年は大型の政治イベントも控えており、台湾側はさらなる侵入増に身構えている。
  
ブルームバーグが台湾国防部(国防省)のデータをまとめたところ、今年に入り延べ約950機の中国軍機がADIZに侵入。侵入急増を受けて国防部がデータの公表を始めた前年の約380機から大幅に増えた。

2022年は緊張がさらに高まる恐れがある。中国共産党の習近平総書記(国家主席)は来年の党大会で慣例を破り党トップとして3期目を狙うと見込まれている一方、台湾与党の民主進歩党も次期総統選挙の前哨戦とされる統一地方選を控える。

台湾の国策研究院でディレクターを務める郭育仁氏は、「中国は来年、より威圧的なオペレーションで台湾ADIZへの軍用機派遣を増やすだろう」と指摘。「22年の情勢はターニングポイントとなりそうな中で注目に値する」と話す。
  
来年の政治イベントを控え、習、蔡英文両氏には力を誇示し、挑発と受け止められる行為には対応する決意を示すよう圧力が強まる。中国が行動に出るなら台湾を守るとの米国のコミットメントを確認したバイデン政権も、中間選挙を前に中国に対して毅然とした姿勢を保つ政治的なインセンティブが働く。
  
台湾国防安全研究院のリサーチフェロー、欧錫富氏は台湾と外交関係を結ぶ国に断交を促すことや経済的威圧などの取り組みも挙げ、「中国の準軍事手段は台湾を威嚇、威圧しようとするグレーゾーン戦術の一環で、ハイブリッド型の脅しだ」と分析。「米中の競争が激しくなる中で、台湾海峡での中国の活動は増えるだろう」と述べた。【12月28日 Bloomberg】
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上記ふたつのニュースを組み合わせると・・・将来的に中国がドローンを使って台湾ADIZへの侵入を常態化させるのでは・・・という予想。

別に火炎放射器で火を吹かなくても十分に危険。
特に、“来年の政治イベントを控え、習、蔡英文両氏には力を誇示し、挑発と受け止められる行為には対応する決意を示すよう圧力が強まる”という状況下では。

****中国「サラミ戦術+ドローン」が台湾を挑発する****
<台湾のADIZ(防空識別圏)侵入を繰り返す中国空軍。無人機(UAV、UCAV)が導入される可能性は高いが、そうなれば一気に中台紛争の危険度が増す>

中国軍機が最近、台湾のADIZ(防空識別圏)に侵入を繰り返している。この問題にさまざまな議論が出るなかで、特に注目されたのが英字紙・台北時報の社説だ。

同紙は、中国軍の頻繁なADIZ侵入によって台湾軍が神経をすり減らしていることから、台湾は中国軍機の侵犯を監視するために無人航空機(UAV)の開発・配備をさらに進めるべきだと主張した。

台北時報は、UAVは有人の戦闘機より費用対効果と安全性が高いと主張。さらに付加的な利点として、中国空軍にとってのリスクが増すとしている。(中略)

とはいえ、中国のADIZ侵入にUAVで対抗する案に検討の価値はある。だがUAVを先に配備するのは台湾ではなく、中国だろう。近いうちに、中国がADIZ侵入にUAVを使うケースが増えるとみられる。

事実、中国は新型のUAVや無人戦闘機(UCAV)の開発・試験・運用を積極的に行っている。

広東省珠海での航空ショーで展示された無人戦闘機「彩虹6(CH6)」は、台湾海峡での軍事作戦を想定したものだと、北京を拠点とする軍事アナリストの宋忠平(ソン・チョンピン)は指摘する。

英国際戦略研究所(IISS)のフランツシュテファン・ガディは、中国の軍事作戦でUAVとUCAVの重要度がいかに高まっているかを分析した。ガディが使ったシナリオは、中国が2028年に台湾およびアメリカと衝突し、そこでUAVとUCAVを投入するというものだった。

しかし中国がUAVなどを最初に投入するのは、台湾をめぐる大規模な戦闘ではなく、台湾のADIZ侵入のような小規模で本格的な作戦である可能性が高い。

中国空軍はUAVなどを作戦に使うため、場数を踏もうとするはずだ。その意味でADIZ侵入は絶好の機会となる。
UAVなどを台湾との紛争で投入するため、中国空軍は平時の作戦で経験を積みたい。ADIZ侵入は「グレーゾーン戦略」(平時でも戦時でもない状態での作戦)だと言える。

中国の厄介な「サラミ戦術」
フォーブス誌の軍事担当記者デービッド・アックスによれば、中国空軍は2021年8月、沖縄南方で行われた米英軍と日本の海上自衛隊の共同訓練の偵察にUAVを使用した。

中国が、台湾海峡での作戦にUAVを使う能力と理由があることは確実だ。台湾海峡での主要な作戦は、当然ながらADIZ侵入になる。

UAV配備については運用面だけでなく、中国にとって戦術面でも妥当かどうかを検証する必要がある。
中国は長年にわたり「サラミ戦術」を取ってきた。これは「サラミを薄く切るように少しずつ状況を変えていけば抵抗が少ない」という意味で、中国はADIZをめぐっても既成事実を少しずつ積み重ねることで最終的な権益を手に入れようとしている。

さらに筆者らは、無人システムが中国のグレーゾーン戦略にいかに適しているかを論証してきた。特にADIZ侵入への対応策が確立されていない場合、無人システムは厄介だ。

これらの点は台湾海峡についても当てはまる。
従って、中国がサラミ戦術の枠組みを拡大しながらグレーゾーン戦略をうまく用いた場合、UAV、場合によってはUCAVの導入は中国にとっては理想的な戦略となる。中国が実際に使用する可能性は高い。

こうしたシステムをADIZ侵入に組み込むのは、長期的なプロセスを中国が少しずつ進めている表れとも考えられる。

既に侵入部隊は徐々に数を増やし、航空機のレベルも上がってきた。以前は主に戦闘機が使用されていたが、最近は核搭載爆撃機、早期警戒管制機、対潜哨戒機なども導入されている。
これらのほぼ全ては、中国が台湾との紛争に突入した場合に使用し得る航空機だ。

UAV(あるいはUCAV)の導入は、侵入部隊の質の向上を目指す上で理にかなった措置になるだろう。台湾海峡上空および台湾領空への侵入を正当化し、さらには常態化を狙う中国にとって有益なはずだ。

「夢遊病症候群」に注意せよ
ただしUAV使用の可能性は、グレーゾーン戦略の中でのものとして理解する必要がある。国籍を示す印がなく、誰も搭乗していないため、UAVとの直接のコミュニケーションは不可能だ。この点が大きな混乱や誤解につながりかねない。

UAVとコミュニケーションを取り得る唯一の方法は、軍または外交のチャンネルだ。その場合は、いかなる情報の伝達も台湾側の戦闘機のパイロットから指揮系統の上流に向かって行われ、そこから中国側のトップに渡り、個々のUAV操作担当者へ下りてくることになる。

このプロセスに必要な時間が、中国空軍にとっては重要だ。情報伝達が進む間、UAVを台湾のADIZのさらに奥まで(あるいは台湾領空内にまで)侵入させられるからだ。中国は本土と台湾の双方に向けて技術力をアピールし、空軍がその気になれば台湾領空のさらに奥深くに侵入できることも伝えられる。

中国がUAVを使用した場合、台湾は厳しい選択を迫られる。外交チャンネルによるコミュニケーションが行われなかったら、対抗策は限定されたものになる。

その中で最も緊張激化を招くのは、侵入してきたUAVを撃墜することだ。
台湾政府は、中国のUAVが南シナ海上空の領空を侵犯すれば撃墜すると示唆しており、そのための演習も行っている。今後この方針が、中国UAVによるADIZ侵入に拡大されれば、緊張激化は免れない。

そこまで手荒ではない代替策もあるが、やはり大きな問題につながりかねない。中国UAVとの意図的な空中衝突という手段には、相手側の機体を破壊して事態を悪化させるリスクがある。中国の脅威に対抗する上で危険な前例を作る恐れもある。

妨害電波でUAVを無力化する策は、いくらか穏やかに思える。だが台湾にその技術力があるかどうかは不明だし、あったにせよ中国の航空機と直接対峙するという危険は残る。

以上3つの方法で問題なのは、いずれの場合にも事態を悪化させるような破壊行為や物理的介入を行うのが、中国ではなく台湾だという点だ。
これでは、中国が台湾を「侵略者」に仕立て上げることになりかねない。

台湾が取り得る最終手段は、国家安全保障の責務を放棄して中国の侵入を許すというものだ。だがこれには、より大きい政治的な闘いに敗れるリスクと、台湾に自衛の意思が欠けていると見なされるリスクが伴う。

これらのシナリオは、中国が台湾のADIZ侵入にUAVやUCAVを使用した場合に、台湾の政府と空軍が直面する外交、軍事、政治上の問題を示している。

だが中国が戦略上および地政学上の理由から、作戦に無人機を導入しようとする可能性は十分にある。台湾は早期に具体的な対応策を確立し、公表すべきだ。

これまで専門家は、中台間の直接衝突が起きる可能性は低いと考えてきた。
しかし国際政治学者のジョセフ・ナイが最近の論考で指摘したように、東アジアで差し迫った軍事衝突の恐れはないものの、「偶発的に軍事衝突が起きる」リスクはある。台湾海峡上空でのUAVの使用はそのリスクを大幅に引き上げ、緊張激化のスパイラルを招く可能性がある。(後略)【1月8日 Newsweek】
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【近い将来の軍事進攻の可能性は低いものの、グレーゾーンでの緊張高まりで不測の事態も】
中国の台湾侵攻に関しては、習近平主席として第3期続投のために「成果」が欲しいとか、いろいろありますが、その軍事的な実現可能性は次第に高まっていると指摘されています。

****中国軍が対台湾の制海・制空力獲得か、関係筋分析…侵攻作戦準備は完成段階へ****
中国軍が台湾への武力侵攻でカギを握る制海・制空権の確保に向け、空から陸海空への同時攻撃を行う能力を獲得しつつある。

台湾の防空識別圏(ADIZ)で2021年に急増した中国軍機の進入行動を複数の関係筋が分析して導き出した。台湾侵攻の作戦準備は、今後、台湾本島への上陸作戦能力が備われば完成に近づく。
 
台湾の国防部(国防省)の公表資料によると、中国軍機は21年の1年間で計約250回、延べ960機以上がADIZに進入。21年9月16日から同年12月末までの3か月半では延べ約500機で前年同期(約150機)の3倍以上となった。
 
中国軍機のADIZ進入は米国と台湾の接近などをけん制する狙いがあるとみられていたが、中国軍の内情を知りうる関係者は「実戦化に向けた(訓練)行動だった」との見方を示す。
 
21年10月に1回で過去最多の延べ52機が進入した際は、早期警戒機、哨戒機、戦闘機、戦略爆撃機など「陸海空のすべての領域への攻撃を同時に行うことが可能な組み合わせで運用した」という。ヘリコプターの進入もあり、特殊部隊を地上に送り込む訓練も想定していたとみられる。
 
このほか、戦略爆撃機は複数回、沖縄本島と宮古島間を南下して西太平洋を飛行。別の関係筋によると、米領グアムの基地を巡航ミサイルで攻撃できる地点まで到達した上で引き返す行動を繰り返した。

21年11月には、戦略爆撃機が空中給油機などを伴って台湾ADIZに進入し、バシー海峡を経て、さらに台湾の東側に回り込む行動を取った。
 
関係筋は、空中給油機の投入により、戦略爆撃機を護衛する戦闘機の行動半径が拡大されていると分析している。台湾有事を受けて接近する米空母打撃群やグアム基地への攻撃パターンが多様化することになる。
 
台湾国防部は、中国軍による台湾侵攻のプロセスを〈1〉中国本土側からのミサイル攻撃〈2〉台湾の軍事施設を標的としたサイバー攻撃〈3〉米軍などの介入を阻むための制空・制海権の確保〈4〉上陸作戦で台湾本島制圧――と想定する。中国軍は弾道、巡航ミサイルの配備、サイバー攻撃能力の構築の進展を背景に、プロセスの第3段階に向けて軍機の訓練を活発化させている模様だ。【1月4日 読売】
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上陸作戦能力については、未だ「困難」という見方を台湾国防部は示しています。

****中国軍の上陸、輸送能力踏まえると困難 台湾国防部が分析****
台湾国防部(国防省)は13日、中国が台湾に軍隊を上陸させ、港や空港を占拠して台湾に全面的に侵攻することは、中国の兵士や物資の輸送能力を踏まえると難しいとの見方を示した。

国防部は議会への報告書で、中国の輸送能力は現時点で限られており、全ての部隊を1度に台湾に上陸させるのは難しいと指摘。港湾施設を必要とする「非標準的な」ロールオン・ロールオフ船や空港を必要とする輸送機に頼らざるを得ないとの見方を示した。

ロイターが確認した報告書は「台湾軍が港や空港を断固として防衛するため短時間の占拠は難しい。上陸作戦はかなり高いリスクに直面する」としている。

また、上陸部隊に武器や食料、医薬品を供給する上で中国は物流面での課題にも直面していると指摘している。【12月13日 ロイター】
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もちろん上記は台湾側の見方であり、どれだけ客観性があるかは知りません。

いずれにしても、中国がいきなり(極めて大きな軍事的・政治的リスクを伴う)台湾侵攻のオペレーションを実行するということは考えにくく、前出【Newsweek】にもあるように、グレーゾーンにおけるドローンを使用したADIZ侵入の常態化という「サラミ戦術」で、次第に緊張を高めていく・・・ということが考えられます。

もし、その緊張のもとで台湾側が暴発すれば、それに乗じて一気に・・・ということも想定しての戦略です。
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