孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リトアニア  中国・台湾の対立の場外乱闘の舞台に ロシアの脅威に加えて中国とも 国内政治に動揺

2022-01-10 23:01:34 | 欧州情勢
(リトアニアの議員らと会談する台湾の蔡英文総統(手前右)=2021年11月29日(台湾総統府提供)【12月15日 毎日】)

【台湾の苦境と重なるソ連による「抑圧」の歴史】
昨日ブログでは、台湾への中国の直接的な圧力を取り上げましたが、中国の圧力は台湾を支持する国家へも及んでおり、目下のところ標的とされているのが、台湾が「台湾」の名前で代表機関を開設するのを許可したバルト三国のひとつ、リトアニア。

中国の圧力は露骨で、外交関係の格下げや事実上の貿易停止など、いささか場外乱闘気味の荒れた展開となっています。

台湾とはほとんど縁がなさそうなリトアニアが台湾支持の鮮明にしたのは、かつてのソ連による抑圧の経験が、現在の台湾の苦境とダブるため・・・とも指摘されています。

****北欧の一国・リトアニアはなぜ中国に強く反発するのか 背景にソ連による「抑圧」の歴史…平成まで続いた恐怖政治*****
「中国重視か台湾重視か」、世界各国は中国との接し方に悩んでいます。そんな中、台湾との関係を重視しているのがバルト3国のひとつ、リトアニアです。中国は台湾がリトアニアに代表機関を開設したことに反発し、リトアニアとの外交関係を格下げしました。中国との距離をとる歴史的背景を持つ国なのでしょうか。

「北欧」の一国として存在感を示すリトアニア
中学や高校の地理の授業で「エストニア、ラトビア、リトアニア」の順に覚えた方も多いと思いますが、リトアニアはバルト3国の最も南に位置します。面積は日本の約6分の1にあたる6.5万平方キロメートル、人口は約279万人です。

首都は内陸部に位置するヴィリニュスです。長らく「東欧」に分類されることが一般的だったリトアニアですが、近年は「北欧」の一国として積極的にアピールしています。

バルト3国のひとつという認識から「エストニア、ラトビア、リトアニア、すべて同じような国でしょ」と思う方も多いと思います。結論から先に述べると、リトアニアは歴史的に西隣のポーランドとの関係が深いです。16世紀にはリトアニア大公国とポーランド王国が「合同」し、東ヨーロッパの大国として君臨しました。

またエストニアとラトビアがプロテスタントが主流なのに対し、リトアニアはポーランドと同じカトリックが主流の国です。

過酷だったソビエト連邦によるシベリアへの追放 
社会主義国の中国に強く反発しているリトアニアですが、歴史的一因には1990年代まで続いたソビエト時代があるのでは、というのが筆者の意見です。

1940(昭和15)年にリトアニアはエストニア、ラトビアと共にソビエト連邦に併合されました。第二次世界大戦中にナチス・ドイツにも占領されましたが、1944(昭和19)年にソビエト連邦は再占領し、「リトアニア・ソビエト社会主義共和国」としてソビエト連邦の一共和国でありました。

1940年代から1950年代前半までのスターリン時代はリトアニアにとって最大の不幸の時代といっても過言ではありません。罪を犯さなくても社会主義、ソビエト連邦に好ましくない人物という烙印を押されたら、逮捕、そしてシベリアへ追放されました。(中略)

シベリアへは粗末な貨車に押し込まれ、「ラーゲリ」と呼ばれる収容所に。老人やこどもも関係ありません。1948(昭和23)年〜1949(昭和24)年の間に約7万人以上、1951(昭和26)年に約2万人が追放され、追放先で亡くなった方も少なくありませんでした。(中略)

平成の時代まで続いた自由への抑圧 
スターリン亡き後は大々的な逮捕は影を潜め、インフラ整備が進みました。しかし、独立運動やソビエト体制に対する反対運動は厳しく弾圧されました。1972(昭和47)年にリトアニアの第二都市であるカウナスで、ソビエト体制に対する抗議を示すためにリトアニア人青年が焼身自殺しました。この事件を機に抵抗運動が発生しましたが、当局は厳しく弾圧したのです。

1985(昭和60)年にゴルバチョフがソビエト連邦のリーダーになり、「ペレストロイカ」「グラスノスチ」と呼ばれる改革・情報公開を実施。当局にとって不都合な歴史的真実が次々に暴かれ、独立への機運が高まりました。

ところが、ゴルバチョフ書記長はリトアニアをはじめとするバルト3国の独立に強く反対。これに対し、リトアニアはエストニア、ラトビアと連帯し、1990(平成2)年に「独立回復宣言」をしました。

しかし、ソビエト連邦は1991(平成3)年1月に首都ヴィリニュスにて暴力を用いて独立の機運を抑え込もうとしました。この事件では多数の市民が犠牲になり、「1月事件」と呼ばれています。

最終的に国際社会からの後押しもあり、ソビエト連邦は1991年9月にリトアニアの独立を承認。独立以降、リトアニアは民主主義国家としての歩みを着実に進め、2004(平成16)年にはEU(欧州連合)に加盟しました。

リトアニアは権威主義的な国である隣国ベラルーシからの政治亡命者を受け入れています。このような歴史的経緯もあり、「独裁」や「人権侵害」にはとても敏感といえるでしょう。今後の中国との向き合い方から目が離せません。
【12月18日 まいどなニュース】
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【中国の貿易圧力 リトアニア製品を使う欧州企業にも】
上記のような自国の歴史を台湾の苦境に重ねるメンタルなものもあるのでしょうが、一方で、私個人の想像ですが、「中国の圧力がかかっても、そもそもリトアニアと中国の取引はそんなに大きくないし・・・」という考えもあったのではないでしょうか。

しかし、リトアニアからの直接的な中国への輸出が事実上ストップしているにとどまらず、リトアニア製部品を使う欧州企業にも圧力がかかる形で、リトアニア経済への大きな影響を与えています。

****中国、リトアニアに経済圧力 台湾「代表処」問題で****
中国が、リトアニアへの経済的な圧力を強めている。

台湾への接近を進め、昨年11月に首都ビリニュスに「駐リトアニア台湾代表処」(大使館に相当)の開設を認めたためだ。リトアニアからの輸出品が中国の税関を通らなくなったなどと伝えられており、巨大な経済力をバックに台湾との離間を図る狙いとみられる。

欧州メディアの昨年12月24日の報道によると、欧州連合(EU)欧州委員会で通商を担当するドムブロフスキス執行副委員長は「リトアニア製が含まれていると、EU諸国からの品物は中国の税関で処理されないようだ」と発言。中国の港で足止めを食っているリトアニアやEUからの輸出品が増えていると懸念を示した。

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は同日の記者会見で「事実ではない」と反論。同時に「リトアニアは両国の外交関係の政治基礎を深刻に破壊した」と主張し、「中国の企業の多くは既に、リトアニアを信頼に値する協力パートナーとしていないそうだ」と付言した。

中国は、台湾が欧州に置く代表機関として初めて、名称に「台北」ではなく「台湾」と明記した代表処がリトアニアに開設されたことに猛反発。外交関係の格下げに動いた。

香港メディアの「香港01」は今月5日、中国が「外交等級の引き下げだけでなく、リトアニアとの貿易を実質的に止めた」と指摘。中国企業がリトアニア産品の使用を停止しているなどと伝えた。

影響はリトアニア以外の企業にも広がっている。ロイター通信は12月、独自動車部品大手コンチネンタルが、リトアニア製の部品使用を中止するよう中国から求められていると報じた。また、中国が多国籍企業にリトアニアとの関係を打ち切るよう求めているとも報じている。(後略)【1月5日 産経】
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リトアニア側も国鉄の契約から中国企業を締め出すなど「応戦」しています。

****リトアニア政府、中国系企業との契約認めず 「安全保障」理由に****
リトアニア政府は5日、国営鉄道会社に対し、「国家安全保障上の利益」を理由に、中国系の建設会社と正式契約しないよう命じた。首相報道官がBNS通信に明らかにした。

この建設会社は、スペインに登記されているプエンテス・イ・カルサダス・インフラエストルクトゥラス。昨年の国際入札の結果、リトアニア国営鉄道から最低金額の6250万ユーロ(5540万ドル)で鉄橋建設契約を受注した。これについて国営鉄道は政府に対し、検討を要請していた。

プエンテスのウェブサイトによると、同社の親会社は中国国営の中国路橋工程。リトアニア国営鉄道は契約に際してのリスクとして「中国とのつながり」を挙げていた。 リトアニアは、中国が自国領と主張している台湾の実質的な大使館を首都ビリニュスに開設することを許可。中国から圧力を受けている。【1月6日 ロイター】
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【リトアニア大統領「過ちだった。私は関与しなかった」 背景には外相との政治的確執も】
こうした展開に慌てたのか、もとから台湾支持表明に異論があったのか・・・そこらは知りませんが、リトアニア大統領が台湾の代表処(代表部に相当)設置は正しかったとする一方、「台湾」の名称を用いたのは過ちだったと自国政府を批判する事態になっています。

****対中関係悪化のリトアニア、大統領が自国政府を批判―仏メディア****
仏RFIの中国語版サイトは4日、台湾の扱いをめぐって中国との関係が悪化したリトアニアについて、ナウセダ大統領が自国政府を批判したと報じた。

記事によると、ナウセダ大統領は中国との貿易紛争について政府を批判した。「台湾」の名を冠した代表機関設置を認めた決定は誤りとの考えを示し、この名称がリトアニアと中国との関係に影響を及ぼす重要な要素となったことに遺憾の意を表明したという。

中国は昨年11月、同代表機関の設置を受け、リトアニアとの外交関係をこれまでの大使級から代理公使級に格下げしたと発表。

これまで、リトアニアの商業団体からは「輸出商品が中国に入国できなくなっている」との声が上がったことが報じられており、記事は今月4日にも同国最大の商業団体が「中国との交渉に向けて経済協力開発機構(OECD)の助けを求めている」としたことを伝えた。協会によると、中国で通関などができずにいる企業は約130社に上るという。【1月5日 レコードチャイナ】
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こうした大統領の政府批判の背景には、大統領と外相の政治的確執もあるとも指摘されています。

****リトアニア、親台湾政策めぐり大統領と外相が対立****
バルト三国の一つ、リトアニアの政府内で親台湾外交をめぐる対立が起きている。ナウセーダ大統領は4日、昨年11月に国内に設置された台湾当局の代表機関に「台湾代表処」の名称を認めたのは「過ちだった。私は関与しなかった」と主張。

ランズベルギス外相は「すべて大統領とともに決めた」と反論した。内政バトルに中国と米国が「参戦」し、場外戦に発展している。

一連の発言は、リトアニア公共放送LRTなどが報じた。ナウセーダ大統領は、代表機関の設置自体は正しいとしながら、「名前が問題。対中関係に大きな打撃を与えた」と発言し、ランズベルギス外相に打開策を示すよう求めた。

これに対し、同外相は「リトアニアは悪いことをしていない。価値観に基づいて方針を決めたため、罰を受けている」と述べ、中国がリトアニアに「報復」として経済圧力を加えていることこそが問題と主張している。

大統領と外相の対立について、ビリニュス大のコンスタンチナス・アンドリヤウスカス准教授は「2人がライバル関係にあるのが原因」と指摘する。

ナウセーダ大統領は、中央銀行の元理事で経済専門家。ランズベルギス外相は2020年の議会選で勝利した中道右派政党の党首で、かつて大統領選でナウセーダ氏の対立候補だったシモニテ現首相を擁立し、新政権を発足させた。

ナウセーダ大統領の発言を受け、中国外務省報道官は5日、「誤りを正すのは正しい方向への一歩。重要なのは行動だ」と述べ、台湾代表処の名称変更を促した。

これに対し、米通商代表部(USTR)のタイ代表はランズベルギス外相と電話で会談し、支持を表明。ツイッターで「リトアニアは中国の経済的威圧に直面している」と指摘した。

中国は台湾代表処の開設は「一つの中国」政策に反すると批判。リトアニアからの出荷品の通関を差し止める報復に出ている。中国は実施を認めていないが、欧州連合(EU)に影響が広がっており、欧州委員会は世界貿易機関(WTO)への提訴も辞さない構えを示している。

リトアニアは1990年、民主化運動の末にソ連から独立回復を宣言した歴史があり、中国の圧力を受ける台湾を支援してきた。

昨年11月にはナウセーダ大統領が、バイデン米大統領と訪英中に会い、親台政策で「支持を得た」とも述べていた。しかし、隣国ロシアの脅威が増す中、国内には対中関係悪化への不安も強く、最近の世論調査では41%が政府の政策に不支持を表明していた。【1月7日 産経】
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ウクライナとロシアの緊張は、実際に戦闘になればその影響はリトアニアにも及びますので、そうしたロシアの脅威を抱えながら、更に中国とも・・・というのは、現実問題としてリトアニアにとって「荷が重い」ところはあるでしょう。

【支援つなぎ止めに務める台湾】
一方、台湾は貴重な支援国つなぎとめに懸命です。

****台湾、2億ドル基金設立 リトアニアに投資へ****
台湾は5日、2億ドル(約230億円)の基金を設立しリトアニアに投資すると発表した。
 
在リトアニア台湾代表処(大使館に相当)のエリック・ホアン代表は「初期資金2億ドルの基金を設立し、リトアニア・台湾双方にとって戦略的に重要なリトアニアの産業に投資していく」と述べた。
 
リトアニアが中国の圧力にさらされる中、台湾は経済関係の緊密化を進めており、今回の投資はその一環。半導体、レーザー、バイオテクノロジーなどの産業を対象に、年内に1回目の投資を行うという。
 
リトアニアは中国から圧力を受けつつも台湾代表処の開設を認めた。リトアニアの財界人や政府関係者によると、中国はリトアニアからの輸入を停止するなどの経済的な報復措置で対抗してきたという。
 
台湾の酒販会社は今週、中国が輸入を停止したリトアニアのラム酒2万本以上を購入したと明らかにした。
ホアン氏によれば、台湾は中国の措置で影響を受けたコンテナ120個分の貨物も購入。
 
中国政府への懸念を強める米国も、リトアニアへの支援を申し出ている。
 
リトアニアのギタナス・ナウセーダ大統領は今週、台湾代表処の開設を認めたのは「誤り」だったと述べたが、政府は断固とした姿勢を崩していない。
 
リトアニアは、今後数か月以内に台湾に貿易事務所を設置する予定。 【1月6日 AFP】
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上記記事にもある「ラム酒」については、以下のようにも。

****台湾、ラム酒購入で支援 リトアニアを、中国による圧力****
中国がバルト3国のリトアニアに対する圧力として同国産のラム酒の入荷を直前になって許可せず、台湾企業が輸送船に積まれた全量2万本超を購入した。

台湾とリトアニアは中国対抗で一致し、実質的な関係を深めている。ラム酒は9日にも台湾北部の基隆港に到着する予定。
 
ラム酒を購入したのは「台湾煙酒公司」。台湾メディアによると、昨年12月に中国が通関を拒否し、行き場を失った。同社は台湾政府からの連絡を受け「苦境を助ける」として購入を決定。既に台湾人から購買予約が寄せられており、双方の貿易関係が深まることへの期待を表明した。【1月8日 共同】
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中国と取引がある欧州企業がリトアニア製品を使わなくなると、リトアニアにとっては「ラム酒」では済まない話にもなります。
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