孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

格差社会  米:万長者の元妻たちの巨額寄付 中国:習近平政権が掲げる「共同富裕」

2022-01-03 22:07:34 | 民主主義・社会問題
(【2021年11月10日 舞田敏彦氏(教育社会学者) Newsweek

【コロナ禍で格差拡大】
生きていけないような絶対的貧困はともかく、一定程度の所得があれば、所得の多寡そのもの以上に人の心をむしばむのが格差の問題。

格差社会という言葉に示されるように、現代社会は格差が拡大しつつあると言われて久しいですが、コロナ禍はその格差拡大を助長していると指摘されています。

****超富裕層の資産、世界全体の3.5%で記録更新 コロナで格差増=研究者****
世界全体の家計資産に占める「超」富裕層の資産保有比率は今年3.5%と、コロナ禍が発生した昨年初めごろの2%強から一段と上昇し、過去最多水準を記録した。社会科学者のグループが7日公表した最新の「世界不平等リポート」で、超富裕層による「世界の富の支配」が改めて浮き彫りになった。

リポート執筆を主導したルーカス・チャンセル氏は「コロナ危機は超富裕層とその他の人々の格差を助長した」と指摘した。

2019年にノーベル経済学賞を共同受賞したアビジット・バナジー氏とエステール・デュフロ氏も執筆に加わった。報告書は「資産が将来の経済的な利益や権力、影響力の主な源泉となる以上、この状況は今後格差が一段と開く事態を予見させる」と述べ、「極めて少数の超富裕層の手に経済力が異常に集中」していると説明した。

今回のリポートによると、資産上位0.01%の富裕層52万人の合計資産も世界全体に占める比率が昨年の10%から11%に切り上がった。

富裕層が富を拡大した背景としては、コロナ禍対応のロックダウンに際して世界の経済活動の多くがオンラインに移行する流れに乗じたことや、世界経済の回復期待の中で金融市場の資産価格が上昇した恩恵を指摘した。

リポートは各地域に目を向け、福祉制度が整っていない国では貧困が急増した一方、米国と欧州では政府の大規模支援によって少なくとも一部の低所得層の痛手は和らげることができたと指摘。チャンセル氏は「貧困との闘いにおいては社会福祉国家の重要性が証明されている」と強調した。【12月8日 ロイター】
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【アメリカ 億万長者の元妻たちによる新たな「タッグ」】
欧米の超富裕層のなかには、ビル・ゲイツのように寄付行為で社会に富を還元することに積極的な者もいます。
日本に比べたら「寄付」という行為が文化的に根付いている土壌があってのことでしょう。

下記はビル・ゲイツではなく、その元妻とアマゾン創業者の元褄の話。

****.「元夫が絶対にやらないこと」Amazon創業者と離婚…億万長者の“元妻”が6000億円超を矢継ぎ早に“寄付”したわけ****
億万長者の元妻たちによる新たな「タッグ」が米国を席巻しつつある。
 
1人は、2019年7月に米アマゾン社の創業者ジェフ・ベゾスと離婚したマッケンジー・スコット(51)。もう1人は、2021年8月に米マイクロソフト社の共同創業者ビル・ゲイツと離婚したメリンダ・フレンチ・ゲイツ(57)だ。
 
2021年8月の時点で、マッケンジーの総資産は590億ドル(約6兆4830億円)、メリンダの総資産は61億ドル(約6700億円)と推定される。

億万長者と別れ莫大な資産を保有する2人が初めてタッグを組み、同年7月「2030年までに米国における女性の活躍と地位向上を実現」するためのプロジェクトに4000万ドル(約40億円)を寄付すると発表したのである。

具体的には「育児支援の公共インフラ整備」「女性のIT・ソフトウェア専門家育成」「女性の高等教育・キャリア支援」「女性の起業支援」を推進する4つの団体にそれぞれ11000万ドル(約10億円)を寄付するという。

「女性による女性の支援」がトレンド
なぜ彼女たちは、あり余るお金を寄付につぎ込むのか。その理由についてマッケンジーは「変化が必要なシステムによって生み出された富を手放すためのもの」としている。自分たちの元夫が築き上げたシステムから得られた富は不当なものだから還元すべき、とも読める。
 
かつて米国では裕福な女性による典型的な寄付といえば「夫の金、夫の名」で「夫の出身大学」へ寄付する、あるいは夫の名前を冠した図書館や病院といった公共物を寄贈することであった。しかし近年、「女性による女性の支援」が、フィランソロピー(慈善活動)における女性の活躍とともに新たなトレンドとなっており、彼女たちの行動は象徴的だ。
 
メリンダは離婚前から積極的に慈善事業に携わってきた。2010年には国連総会において貧困撲滅やHIVの蔓延防止などを訴え、2019年のワシントンポスト紙の取材には「(虐待の被害者に直接会うなど)胸が張り裂けるような思いをすることが、仕事に取り組むエネルギーになる」と話している。世界最大の慈善団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」の立ち上げをはじめ、夫ゲイツが慈善活動に参画するようになったのは「メリンダのおかげ」(ゲイツ周辺)だという。

ベゾスが絶対にやらないこと
一方のマッケンジーはベゾスとの離婚が決まるや否や「元夫が絶対にやらないこと、すなわち壮大な資産を世界の人々と共有すること」(ヴァニティ・フェア誌)に着手した。

ちなみに米国の長者番付トップ5のうち、「ギビング・プレッジ」(寄付誓約宣言:ビル・ゲイツや投資家のウォーレン・バフェットらが富裕層の寄付を促すために始めた慈善活動)に参加していないのは、ベゾスだけだ。
 
離婚後に5億ドルのスーパーヨットを購入した元夫がアマゾンの社員によるストや労働環境の問題、環境問題などで叩かれているのを後目に、マッケンジーは矢継ぎ早に59億ドル(約6480億円)の寄付を行った。

寄付が生む恩恵の副産物
「私には不釣り合いなほどのお金があります。金庫が空っぽになるまで寄付し続けます」と宣言した通り、2020年に全世界で行われたコロナ関連寄付金の約20%が彼女によるものだった。さらにこの年、支援先候補となる6490もの組織・団体を徹底調査し、最終的に384団体への寄付を決めている。
 
寄付先決定にあたっては、単に研究を行ったり、プログラムを運営したりしているだけではなく、それらの取り組みが社会やコミュニティにどのような影響を及ぼしているかを重視しているようだ。

「寄付を行うことで初めて気づいたことがあります。それは私が寄付することでその団体やそれを率いている人々、活動に関心を抱いてもらえる、という恩恵の副産物です」(マッケンジーのブログ)

金は出すが、口は出さない“マッケンジー流”
小説家でもあるマッケンジーは内向的でメディアには殆ど姿を見せない。だが自身のブログにおいて、「少数の人に富が集中する不均衡な状態が解消されることを願っている」と綴り、その解決策は、富を持つ人たち以外によって見出されるべきだという考えを示した。(中略)

マッケンジーの寄付でもう一つ特徴的なのは、「金は出すが、口は出さない」点にある。マッケンジーは「(現場の)経験豊富な方々が最も課題を的確に把握しておられ、資金の使い道について適切な判断を下せると考えています」として、寄付金の用途を縛らず、受益者にすべてを任せている。

財団を作ることもなく、ひたすら「草の根」の活動を支援し続ける“マッケンジー流”は〈まったく新しい寄付のあり方〉(NYタイムズ)として、称賛を浴びている。

もはや「億万長者の元妻」ではなく、新時代の活動家
億万長者の元妻たちによる新しい形のフィランソロピーには、どのような意義があるのだろうか。

第一にジェンダー格差の是正こそが次代の重要なトピックであることを改めて世に知らしめたこと。第二に米国において、慈善事業への寄付金のうち、女性を支援するための寄付の割合が2%を割っている現状に風穴を開けること。そして最も重要なことは、彼女たちの行動が新たな寄付を促す効果があるという点だ。インディアナ大学の研究によると、とりわけ女性は、他の女性による寄付行動に関心を示し、自らも寄付を行う傾向があるという。
 
メリンダとマッケンジーは、ともにシアトル郊外に住む「ご近所さん」ではあったが、これまで特に親密であったというわけではなく、今回のタッグを公表するにあたっても、お互いに対する言及はない。それでも目指すべき場所は一致している。彼女たちはもはや「億万長者の元妻」ではない。自分たちの声を取り戻した新時代の活動家なのである。【1月3日 文春オンライン】
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「私だって資産が590億ドル(約6兆4830億円)あれば・・・」というのは貧乏人のひがみでしょうからやめときます。

それはともかく、自発的寄付行為だけでは社会は変わらないでしょう。

【日本 一番多い世帯は所得100万円台・貯蓄ゼロの世帯という現実】
日本ではこうした富裕層による寄付というのはあまり一般的ではありませんが、岸田首相が分配重視を打ち出しているように、日本にあっても格差是正が重要な課題となっています。

****所得と貯蓄の世帯数集計で分かる、日本社会の「富の格差」****
<日本で一番多いのは、年収100万円台で貯蓄ゼロの世帯という過酷な現実>

国民の生活は苦しくなっているが、その指標として使われるのは所得だ。1985年以降の推移を見ると、世帯単位の平均所得のピークは1994年の664万円だったが、2002年に600万円を割り、2019年では552万円となっている(厚労省『国民生活基礎調査』)。この四半世紀で100万円以上減ったことになる。中央値は437万円だ。世帯の単身化、高齢化が進んでいるとはいえ、国民の稼ぎが減っていることは明らかだ。

だが収入は少なくても(なくても)、貯蓄が多いという世帯もある。リタイアした高齢者世帯などだ。生活のゆとりの分布を知るには収入だけではなく、いざという時の備え、湯浅誠氏の言葉で言う「溜め」にも注目しないといけない。

所得階級と貯蓄階級のマトリクスにて世帯数を集計した表が、上記の厚労省調査(2019年)に出ている。(中略)

(冒頭グラフの)横軸は所得、縦軸は貯蓄額の階級で、この2つを組み合わせた各セルに該当する世帯数がドットサイズで示されている。一見して、所得・貯蓄とも少ない困窮世帯が多いことが分かる(左下)。所得300万未満、貯蓄200万未満の世帯は全体の15.1%に当たる(緑の枠線内)。その一方で右上の富裕世帯も結構あり、社会の富の格差も見て取れる。

ちなみに「日本で一番多い世帯は?」という問いへの答えは、上記のグラフのドットサイズから、所得100万円台・貯蓄ゼロの世帯ということになる。

単身非正規の若者、ないしはカツカツの暮らしをしている高齢者世帯などが多いと想像されるが、強烈な現実だ。所得と貯蓄を合わせて見ても、日本社会の貧困化が進んでいるのが分かる。

赤丸(左下)は所得・貯蓄とも100万円未満の世帯で、生活困窮のレベルが甚だしく、生活保護の対象のレベルだ。全体の3.2%に相当し、2019年1月時点の全世帯数(5853万世帯)に掛けると、実数で見ておよそ187万世帯と見積もられる。

現実の生活保護受給世帯はどうかと言うと、同年7月時点の被保護世帯数は約162万世帯(厚労省『被保護者調査』)。生活保護は、困窮世帯を十分に掬えて(救えて)いない。日本の生活保護の捕捉率の低さは、よく指摘される。

その生活保護だが、コロナ禍で困り果てる人が増える中、受給者は増えているだろうと思われるが現実は違う。生活保護受給者数の推移の近況を棒グラフにすると、<図2>(略)のようになる。2019年7月から2021年7月までの月単位の変化だ。

ご覧のように真っ平だ。コロナ禍だというのに保護受給者は増えておらず、よく見ると微減の傾向すらある。これでは「日本の生活保護は定員制なのか」という疑問も禁じ得ない。恥の意識につけ込んだ扶養照会(申請者の親族に援助できないか問い合わせる)などの水際作戦も功を奏しているのだろう。

なお同じ期間にかけて、母子世帯の保護受給世帯は明らかに減っている。京都の亀岡市では、2015年度から19年度にかけて母子世帯の保護利用が大幅に減っているのはどういうことか、削減のターゲットにされているのではないかと、市民団体が調査に乗り出すとのことだ(11月9日、京都新聞Web版)。

日本では世帯の貧困化が進んでいて、最後のセーフティーネットである生活保護も十分に機能していない。どうにもならず自殺者(とくに女性)が増え、自棄型の犯罪が起きるのも道理だ。

まずは生活保護の運用の見直しが必要で、効果が定かでない扶養照会などは廃止を検討するべきだろう。<資料:厚労省『国民生活基礎調査』、厚労省『被保護者調査』>【2021年11月10日 舞田敏彦氏(教育社会学者) Newsweek】
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【中国 「共同富裕」を掲げる習近平政権】
欧米富裕層の寄付行為も、(何をやるのか定かでない)日本の分配重視も格差社会の現状を変えるほどの力はないように思われますが、その点、良し悪しは別にして、中国は「馬力」が違います。

経済・政治体制を問わず格差が重大問題であることは同じで、中国でも高度成長の結果として格差拡大が問題なっています。そうした現状を踏まえて習近平国家主席が「共同富裕」を打ち出しているのは周知のところです。

****「共同富裕」って何なの?習近平政権のねらいは?****
中国の習近平国家主席はことし8月、「共同富裕」というスローガンを大々的に打ち出し、注目を集めました。(中略)
国際部の建畠一勇記者がわかりやすく解説します。

「共同富裕」って何なの? 
ひと言で言うと、格差是正のことです。

実際、中国共産党はスローガンで「貧富の格差を是正し、すべての人が豊かになることを目指す」としています。

もともとは、今の中国で「建国の父」とされる毛沢東が唱えたものですが、習主席は従来よりも一歩踏み込む形で「高すぎる所得を合理的に調節し、高所得層と企業が社会にさらに多くを還元することを奨励する」と述べ、所得の高い人や大手企業に寄付などを促しました。

どうして今、「共同富裕」なの? 
背景には、中国の経済成長にともなう貧富の格差拡大があります。

中国は「豊かになれるものから先に豊かになる」という「先富論(せんぷろん)」を掲げながら市場経済化を進め、世界2位の経済大国になりました。

しかし、国が豊かになるとともに所得の格差も拡大し、スイスの金融大手「クレディ・スイス」は、去年(20年)の時点で中国の上位1%の富裕層が中国全体の資産の30.6%を保有しているとして、富裕層に富が集中していると指摘しています。(中略)

習指導部の思惑は?
習指導部としては、格差の是正に取り組む姿勢をアピールすることで国民の不満を和らげ、政権の求心力向上につなげたい思惑があるとみられます。

また、中国の情勢に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は「習主席にとっては、来年の党大会で総書記(党トップ)として、異例の3期目入りが実現できるかどうかが1番の優先課題となっている。『習主席に引き続きやってもらわねば』という党内外の世論が重要になるので、来年の党大会を視野に入れた動きではないか」と指摘しています。

中国企業はどう受け止めているの?
中国企業の間では、大手IT企業を中心に巨額の資金の拠出を表明する動きが相次ぎ、「共同富裕」の方針に追従する動きを見せています。

ネット通販最大手の「アリババグループ」は、「共同富裕」の理念を体現するモデル地区建設の支援などを掲げ、2025年までに日本円で1兆7000億円を投入するとしています。

IT大手の「テンセント」は、低所得者の支援や農村部振興などのために日本円で8500億円の資金を拠出するとしています。

出前代行サービスなどを展開するIT大手の「美団」なども、「共同富裕」に貢献する姿勢をアピールしています。
なぜ、大手IT企業がこぞって追従しているの?

去年からことしにかけて相次いだ中国政府による「IT企業叩き」が関係しているのではないかとの見方があります。
「アリババ」はことし4月、独占禁止法違反の疑いで日本円でおよそ3000億円に上る巨額の罰金を科されました。
「テンセント」は、収益の柱の1つとなっているオンラインゲームが、未成年の使用を制限する政府の規制の対象となりました。

こうしたことから、IT企業側としては、さらなる圧力を避けるためにも、「共同富裕」に追従したほうが得策だと判断した可能性があります。

興梠教授は「中国共産党は国家が統制できない、統制外の民間の組織を嫌う。あまりにも強大になった民間企業は、共産党や国有企業にとって脅威であるという発想だ」と指摘します。

いろんな思惑がある中で、「共同富裕」ってうまくいきそうなの?
 習指導部としては、急成長した大手IT企業からの資金の拠出などを通じて、富の再分配を進めたい考えとみられます。

しかし、一方で、相続税や固定資産税の導入など、共産党幹部の既得権益に踏み込むような抜本的な税制の改革案は現時点では示されておらず、「共同富裕」という形での富の再分配については、効果を疑問視する指摘も出ています。

ちなみに先月(10月)、習近平指導部は日本の固定資産税にあたる「不動産税」を一部の都市で試験的に導入することを決定。ただ、反発も予想されるなど、全国的な導入にはまだ課題もありそうです。

中国経済への悪影響はないの?
大手IT企業などへの締めつけ強化は、企業活動を萎縮させて技術革新などが生まれにくくなるほか、株価の下落にもつながり、企業の資金調達が難しくなることから、結果的に中国の経済成長の妨げになるおそれも指摘されています。(後略)【2021年11月8日 NHK】
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中国共産党の「馬力」をもってしても格差是正は難事業です。
上記にもある「不動産税」試験実施について、“ただ、障害は多い。試験都市の候補には広東省深圳市などが挙がるが、北京市は外れる公算が大きい。党高官やその親族が所有する物件が多く、政治的な反発が強いためだとされる。
政府の不動産金融への規制強化などでマンション市場が冷え込んだことも逆風だ。”【1月1日 日経】とも。

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