孤帆の遠影碧空に尽き

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アメリカ 米中対立の裏で米企業の中国市場重視を後押しする二重基準 中国の自給自足志向は困難も

2022-01-16 23:09:12 | 経済・通貨
(【1月5日 レコードチャイナ】米電気自動車大手テスラが新疆ウイグル自治区の区都ウルムチにショールームを開設した際のセレモニー)

【新疆ウイグル自治区における人権問題で米中対立の渦中に巻き込まれる米巨大企業】
新疆ウイグル自治区における人権問題が米中対立の「主戦場」のひとつになっていることは周知のところで、米議会上院は昨年12月に、同自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決しています。

アメリカ巨大企業もこうした対立の渦中に巻き込まれています。

****テスラが新疆にショールーム 米中、非難の応酬****
米電気自動車大手テスラが人権侵害疑惑のある中国北西部・新疆ウイグル自治区にショールームを開設したことをめぐり、米国の政治家や人権団体から批判の声が相次いでいることを受けて、中国は6日、米国を偽善的だと非難した。
 
テスラは昨年12月31日、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチにショールームを開設したと発表した。
この発表に米国の政治家が反発。共和党のマルコ・ルビオ上院議員はテスラについて、「中国共産党が新疆ウイグル自治区にけるジェノサイド(集団殺害)や奴隷労働を隠蔽(いんぺい)するのを助けている」とツイッターで批判した。
 
ジェン・サキ米大統領報道官は4日、「官民を含む国際社会は、新疆ウイグル自治区で起きていることから目を背けてはならない」と記者団に述べた。
 
これに対し中国は6日、米国は「偽善的」であり、「人権を口実に中国に対して経済的威圧と政治的抑圧」を加えようとしていると非難した。
 
中国外務省の汪文斌報道官は定例会見で、人権侵害疑惑について、「事実によってとうの昔に暴かれたうそ」と切り捨てた。
 
全米最大のイスラム人権団体「米イスラム関係評議会」はテスラに対し、ウルムチのショールームを閉鎖するよう求めた。
 
AFPはテスラにコメントを求めたが、回答は得られていない。 【1月7日 AFP】
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中国との貿易政策にたびたび疑問を呈している米国製造業同盟のスコット・ポール代表は、テスラを「恥知らず」だと批判しています。

テスラは今のところ動きを見せていませんが、もし米議会主張に沿って中国での展開を縮小すると、今度は最大市場である中国からの激しい非難にさらされます。

小売チェーン大手の米ウォルマートや米半導体大手のインテルは昨年末、新疆で生産された製品などの取り扱いを停止したことで、ソーシャルメディア上で批判が殺到し、中国消費者への謝罪も余儀なくされています。

****米インテルが中国で謝罪 新疆製品の不使用要請で****
米半導体大手インテルは23日、仕入れ先に中国新疆ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう求めていたことについて「尊敬する中国の取引先や協力パートナー、公衆を困惑させた」と中国の会員制交流サイト(SNS)で謝罪した。中国国内で同通知に対する批判が高まったことで、対応を余儀なくされた形だ。

ロイター通信によると、インテルは仕入れ先に対して同自治区の労働者を使用したり、関係する製品やサービスを調達することがないよう求める公開文書を出していた。これに対し、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報が23日付の社説で「荒唐無稽で目障りだ」と反発。中国のインターネット上では同社に謝罪を求めたり、不買運動が呼び掛けられたりしていた。

同社は、中国のSNS「微博(ウェイボ)」で発表した中国語の声明で、文書は「米国の法律の順守」を表明したものだと説明。同自治区に関する記述は「他意や立場を表明したものではない」と釈明した。

米議会上院は16日に、同自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決している。

中国外務省の趙立堅報道官は23日の記者会見で、インテルの問題に関して「新疆の製品は品質が優れている。企業が使わないことを選ぶなら、彼らにとって損失だ」と発言。同自治区の強制労働問題については「完全に米国の反中勢力がでっちあげた噓だ」と反発した。【12月23日 産経】
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【アメリカ 同盟国に厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認】
アメリカ政界の中国に対する激しい視線、その“あおり”で対応に苦慮する米企業・・・トランプ政権から続くアメリカの「対中デカップリング(切り離し)」というイメージも浮かぶのですが、逆に、「謝罪」してまでも中国市場を捨てられないアメリカ企業の対中国依存を見るべきなのかも。

アメリカ企業にとって中国巨大市場への参入は死活的に重要な問題で、米中対立にあっても積極的中国進出を続けていますし、アメリカ政府も“デカップリング”ではなく、この中国との関係を後押ししているとのこと。

****<米中対立パラドックス>米企業「中国ビジネス」急拡大=相互依存強まり、米経済界にブーメラン****
米中対立にもかかわらず米国企業の対中貿易投資は急拡大。米政権は、日本など同盟国に厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認している。

米中対立にもかかわらず米国企業の対中貿易投資は急拡大している。中国・上海で2021年11月に開催された「中国国際輸入博覧会(輸入博)」では世界最大の中国市場の成長を取り込もうと多くの外国企業が最新の商品や技術を披露した。特に目立ったのは米国の出展企業で、過去最多となり熱気に包まれた。トランプ政権から続く米国の「対中デカップリング(切り離し)」は進展しておらず、逆に「相互依存関係」が強化されている。

この輸入博における米国の企業・団体の参加数は200超で過去最多となった。ゼネラル・モーターズ(GM)、マイクロソフト、アップル、ナイキをはじめ従来からの進出企業の多くは派手な巨大ディスプレイで会場を圧倒。メガ企業のアマゾンなど初出展の企業も目立ち、米中対立が続く中でも中国市場のビジネスチャンスを重視する姿勢が際立った。

中国税関総署によると、2021年の対米貿易総額は過去最大となった。対米貿易総額は前年比29%増の7556億ドル(約86兆円)で、3年ぶりに最高を更新。20〜21年はいずれも対米輸出の増加額が輸入の増加額を上回り、貿易黒字は拡大した。21年は25%増の3965億ドルと過去最大を記録した。米中間の貿易は拡大を続けており、貿易での相互依存はむしろ強まっている。

輸出は米個人消費の回復でパソコンや玩具の出荷が好調だった。20年2月に発効した米中貿易協議の第1段階合意で、中国は米国から輸入するモノやサービスを20〜21年に17年比で2000億ドル増やすと約束。この合意に基づき、農産品だけでなくの輸入も増加した。中国人民大学は21年12月に公表した研究リポートで「米国が仕掛けた貿易戦争は失敗に終わった」と指摘した。

◆世界貿易に占めるシェア、米国を凌駕
中国が世界貿易機関(WTO)に加盟して、21年12月で20年を迎えた。この間に貿易総額は9倍に拡大、世界貿易に占めるシェアは01年の4%から20年には13%に達した。13年には米国を追い抜き、日本を含む多くの国にとって最大の貿易相手国になった。(中略)

◆テスラの急成長、中国市場が支える
米電気自動車(EV)大手テスラは中国市場で成功した米企業の典型と言える。2021年7〜9月期決算は売上高と利益がともに過去最高を更新し、時価総額は1兆ドル(約110兆円)を突破。その驚異的な成長は中国事業が支えている。

1〜9月のテスラの中国販売台数は前年同期実績の約3.5倍に拡大。テスラの中国の販売台数は4〜6月から米国を安定的に上回るようになり、7〜9月には全体の50%に達した。2年前に稼働した上海工場の生産台数は米国工場を上回った。中国からテスラや中国企業がEVを世界中に輸出し急増している。時価総額で世界1、2位のマイクロソフトとアップルは中国事業のウエイトが大きいが、テスラも2社の中国重視戦略を追いかけている。

人口14億人を擁する世界最大の消費市場を掴もうと米企業は必死である。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)と半導体メーカーの中芯国際集成電路製造(SMIC)が米国の事実上の禁輸リストに指定されているにもかかわらず、米国内の両社のサプライヤーがかなりの額の製品・技術の輸出許可を米商務省から取得していた事実が判明した。

昨年11月から今年4月までの期間に、ファーウェイ向けの計610億ドル(約7兆円)の製品・技術の販売について計113件の輸出許可が付与され、SMICには420億ドル近い製品・技術を販売するために188件の許可が与えられた。許可は4年間有効で、SMICの米サプライヤーによる輸出許可申請の90%強が承認され、ファーウェイの米サプライヤーによる申請は89%に許可が下りたという。

脱炭素で、中国は脱炭素(カーボンニュートラル)を今世紀中頃までに実施すると宣言しているが、米企業は保有ライセンスを前面に、中国企業への売り込みに血道をあげている。米国金融業界は中国で日本より多くのビジネス上の特権を持ちさらに拡大している。米中間の官民やの対話・交流は頻繁に行われており、中国に行くと米国人や米ブランドショップが目立ち、GMなどアメリカ車の多さに驚く。

◆米中覇権争いの中、米中のしたたか戦略
米中の世界覇権を巡る争いは表向き激化しているが、米国内では最近の経済安全保障に名を借りた対中強硬策への反発も経済・金融界を中心に根強い。米シンクタンク幹部は「トランプ政権以来の保護主義政策は結果的に世界最大の消費市場・中国でのビジネスチャンスを奪い、米国の経済力を衰退させる」と警鐘を鳴らす。米中経済の相互依存が強まる中で、米政府主導のデカプリング(対中切り離し)は進展しておらず、「米中対立パラドックス(逆説)」とまで言われている。

ウォール街や米産業界にとってビジネス上の中国の重要性はむしろ増大するばかり。米政府は中国とのビジネスをやめるよう圧力をかけておらず、逆に前述したように、ファーウェイなどへの輸出を容認するケースも散見される。

グローバルな市場経済下で、成長の機会を求める米経済界が中国市場を重視するのは当然と言える。中国政府による市場開放のチャンスを米企業がつかまなければ、欧州や他の地域の企業に横取りされるとの懸念も根強い。

米国では対中貿易規制の長期化により中国からの輸入品に高い関税がかけられているため、昨年暮れのクリスマス商戦を前に物価が上昇、消費者の不満が高まった。

中国との投資や貿易取引が多大な米金融経済界や農業界から米中対立の緩和を求めるロビー活動も活発化している。昨年11月の米中首脳会談(リモート)もバイデン大統領から旧知の習主席に要請した。

米半導体大手インテルは中国・新疆ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう部品メーカーに通達したことについて、昨年12月23日に中国側に謝罪した。中国の国民感情に配慮することで同社製品の不買運動などに発展するのを避ける狙いだ。

(中略)(インテルは)20年に同社の売上高の26%が中国本土と香港に依存しており、この傾向は多くの米企業にとって同様だ。インテルの「謝罪」は米経済界の中国依存を象徴する出来事と言える。(後略)【1月16日 八牧浩行氏 レコードチャイナ】
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【中国 安全保障重視の自給自足を目指す道を模索 実現は困難】
一方で、中国・習近平政権は諸外国との緊張関係の長期化に備え、安全保障重視の自給自足を目指す道を模索しているとも。ただ、その実現はかなり難しいようにも。

****中国「自給自足」まい進、先進諸国との関係悪化で****
食糧、エネルギー、原材料などあらゆる生産・流通過程の確保を公約に

中国政府は米国をはじめとする諸外国との緊張関係の長期化に備え、中国経済の強化を図っている。一部の必需品を備蓄し、外国依存度を下げる努力を加速させるため、国内生産の増加を計画中だ。
 
公式発表によると、国家発展改革委員会や農業農村省など中国の経済機関は最近、2022年の優先課題として「安全保障」を挙げている。特に、穀物からエネルギー、原材料に至るまであらゆる供給に加え、工業部品や商品(コモディティー)の生産・流通過程の確保を公約に掲げている。
 
中国はここ数カ月、穀物の買い付けを強化してきた。さらに、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以降、栽培を放棄したも同然だった大豆を栽培するため、耕作地を確保する計画も明らかにしている。
 
安全保障重視の経済政策は、習近平国家主席が2020年に発表した戦略を強化するものだ。習氏は国外投資や輸出よりも、国内のサプライヤーと消費者を中国経済のけん引役として優先させる戦略を掲げた。中国政府はこうした重点シフトを「国内循環を主体とする双循環」と呼んでいる。

多くの先進国との関係が一段と冷え込む中、中国の内向き転換が加速しているようだ。新型コロナウイルス感染拡大や人権問題、中国の台湾に対する主権主張など一連の問題は、米国のみならずオーストラリアやカナダ、日本を含む米同盟国との対立を引き起こし、中国は報復措置として各国からの一部製品の輸入を制限している。特にオーストラリア産石炭の輸入禁止は昨年、中国の多くの地域で電力不足を深刻化させた。

中国はますます自己主張と民族主義を強め、技術面だけでなく、長年輸入に頼ってきた主食作物などの基本的な必需品についても自給自足を目指す道を模索している。
 
国営メディアによると、習氏は12月下旬の農業に関する高官級会議で、「中国人民の茶わんは常に自分たちの手でしっかりと握らねばならず、茶わんには主に中国産の穀物を入れなければならない」と述べた。
 
中国の指導者が食糧と経済全体の安全保障を訴えるのは初めてではないが、今回は政治的な意味合いが強い。今年は10年に1度の指導者交代期を迎える中、権力の座を譲るのではなく、既存の継承制度を破って権力を維持しようとする習氏の、力強いイメージを打ち出そうとする意欲が浮き彫りになっている。
 
しかし、自給自足という課題は容易ではない。とりわけ中国は、世界との融合によって多大な恩恵を受け、世界の工場になると同時に、世界のモノを求める貪欲な消費者となっている。
 
中国ではコロナ禍を通して輸出が堅調で、中国製の防護具や在宅勤務向け端末の需要が急増するのに伴い、昨年の成長の原動力となった。

一方、中国政府が成長の源として期待する国内消費は低迷している。習氏の経済改革(市場原理や個人ではなく、国家の党支配強化を中心に据える)が、企業や消費者の信頼感を低下させたためだ。コロナ関連規制を巡る不透明感も、消費者に支出をためらわせている。
 
中国の備蓄は既に、穀物やその他の商品価格を世界的に押し上げている。専門家やエコノミストは、中国がオーストラリアや米国など緊張関係にある国からの輸入を増やすことなく、石油、石炭、鉄鉱石などの備蓄を増強する能力があるか疑問視している。

安全保障の重視は、中国の主要貿易相手国との関係悪化を反映したものだが、そうした政策転換が武力衝突の懸念を呼び起こした例もある。一例として、中国商務省は昨年末、冬場の食糧供給を確保するよう地方当局に要請。台湾を巡り中国本土の弁舌が先鋭化する中での漠然とした表現の声明発表であり、中国政府が武力による台湾奪還の準備を進めているかもしれないとの不安をあおった。
 
そのため中国の一部でパニック買いが起こり、商務省当局者が国営放送に出演して火消しに努めたほどだ。
商務省の朱小良氏は発表から程なく、国営テレビ局の中央電視台(CCTV)に対し、「生活必需品の供給はどこでも十分あり、供給は完全に保証される」と語った。【1月14日 WSJ】
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要は、アメリカにしろ、中国にしろ、政治的な思惑で何を言おうと、経済的依存関係(“依存”という言葉のイメージが悪ければ、“相互補完”でも“ウィンウィン”でも)は弱まることはない・・・といったところでしょうか。

【岸田首相 対中関係で「したたかな外交を行う」】
“米国以上に対中依存が高い”日本について、前出【1月16日 八牧浩行氏 レコードチャイナ】は以下のようにも。

****経産相「海外市場における日本ビジネスを全面支援」****
米国以上に対中依存が高いのが、低成長が続き対外貿易に依拠する日本である。21年11月10日、経団連や安全保障貿易情報センター(CISTEC)など10団体が「中国及び米国の域外適用規制について」の要請書を経済産業省に提出。12月1日施行の中国輸出管理法や関係法令の懸念点(法規の域外適用、産業政策的の実施、報復措置等)のほか、従来からファーウェイなど向けに実施されている米国の再輸出規制の懸念点について触れ、政府ベースでの対応を要請した。

昨年12月、梶山経産相は産業界に対して経産省としての3点の考えを表明した。(1)企業各社は海外市場におけるビジネスが阻害されることのないよう万全の備えをして頂きたい(2)他国企業と同等の競争条件を確保することが重要であり、過度に萎縮する必要は全くない(3)仮にサプライチェーンの分断が不当に求められるようなことがあれば、経産省は前面に立って支援をしていきたい―などである。経済安全保障に名を借りた企業活動制限の動きをけん制したと受け止められている。

最近になって、岸田首相は対中関係で「したたかな外交を行う」との言辞を繰り返しているが、米国バイデン政権が「米経済界に根強くある、国益を優先し攻撃一辺倒でない、したたかな外交をすべきだとの声に押されて(米経済界に配慮した)ダブルスタンダード(二重基準)政策を展開していることに触発されたため」(外務省筋)とみられている。経団連幹部によると、米政権は、日本など同盟国に経済安全保障など厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認しているという。

中国の経済パワーは日米だけでなく欧州、アジア、アフリカ、中南米にも及んでいる。日米の一部政治家による表向き威勢の良い攻撃的な言説が目立つが、その裏で着々と進行する「不都合な真実」を注視すべきである。【1月16日 八牧浩行氏 レコードチャイナ】
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