孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド社会の負の側面  「名誉殺人」、カースト制、そしてレイプ犯罪

2013-09-22 22:09:35 | 南アジア(インド)

(ニューデリーで起きたバス車内集団レイプ事件の犯人に厳正な裁きを求める女性たち 【9月11日 The Voice of Russia】)

州政府首相ら地元の政治家たちは事件について沈黙
家族や一族、地域社会が認めていない交際をした男女や婚前・婚外交渉(強姦の被害による処女の喪失も含む)を行った女性を、一族の名誉と誇りを守るため父親や男兄弟などの親族が殺害する「名誉殺人」と呼ばれる風習は、中東イスラム文化圏やインドなど(バングラデシュ、トルコ、ヨルダン、パキスタン、ウガンダ、モロッコ、アフガニスタン、イエメン、レバノン、エジプト、パレスチナ、イスラエル、インドなど)で広く行われています。

この「名誉殺人」については、これまでも何回かとりあげてきました。
(2012年11月4日ブログ「女性の権利に関する問題  インドの名誉殺人 イタリアのDV被害 日本は?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121104 など)

上記ブログでも触れたインドでは、“「名誉殺人」についてインド最高裁は2010年、インドの野蛮な「汚点」であり犯罪だとみなし、有罪の場合は死刑に処するべきだとの判断を示している。だが、公式の統計はないものの市民団体によれば、インド全土で年間約1000件もの名誉殺人が起きているという。”【9月20日 AFP】とのことで、そうした“年間約1000件”のうちの1件がまた報じられています。

“インド北部ハリヤナ州ロータク県の村で18日、駆け落ちした若いカップルが怒った親族によって殺害される「名誉殺人」事件が起きた。地元警察当局が19日明らかにした。男性(22)は首を切り落とされ、女性(20)は殴り殺されたという”【同上】

年間約1000件行われているとも言われる「名誉殺人」のなかで、今回事件がたまたま報道されたのは、おそらく首を切り落としてさらすという猟奇性のためでしょう。

****インド:逃避行直前の男女、家族が殺害 同氏族の結婚禁止****
インド北部ハリヤナ州ロタック地区の村で18日、恋人同士の女子学生(20)と男子学生(22)が、伝統的な価値観から恋愛結婚を認めない女子学生の父親ら家族に相次いで殺害された。

うち男子学生の遺体は首を切られ、「見せしめ」のために自宅前に放置された。

警察は19日、女子学生の両親とおじを殺人容疑で逮捕したが、父親は「家族の名誉のために正しいことをした。後悔していない」などと話している。

報道によると、村では、村人同士や同じ氏族の出身者同士の結婚が伝統的に禁じられてきた。
殺された男女は同じ氏族の出身で、家族が別れるように強要したが、2人は18日に首都ニューデリーに駆け落ちしようとしたところをバス停で家族に見つけられ、村に戻され殺害されたという。
男子学生の家族は19日に村から逃亡したという。

現場の村はニューデリーから約50キロの首都郊外。
前近代的な「名誉のための殺人」を支持する村人たちについて、民放NDTVは、かつてアフガニスタンで公開処刑を繰り返していた旧支配勢力タリバンになぞらえて、「インドのタリバンだ」などと報じた。

だが、ロタック地区出身のフーダ・州政府首相ら地元の政治家たちは事件について沈黙している。「殺害を非難すれば、伝統的価値観にこだわる住民たちの支持を失いかねないため」(ニューデリーの住民)とみられている。【9月20日 毎日】
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“ニューデリーから約50キロの首都郊外”ということで、そんなに地方の片田舎という訳でもありません。

悪しき風習や狂気にかられる人々というのは、どこにでも存在はしていますが、“州政府首相ら地元の政治家たちは事件について沈黙している。「殺害を非難すれば、伝統的価値観にこだわる住民たちの支持を失いかねないため」(ニューデリーの住民)とみられている”というのが、やりきれないところですし、問題の深刻さを示しています。
これでは、今後の改善もあまり期待できません。

公的機関によるカースト階級別火葬場の設置計画
インドで最も有名な伝統といえばカースト制になります。前記の「名誉殺人」の温床ともなっています。カースト制は公的には、1950年に制定された憲法で全面禁止が明記されています。

身分・職業を規定するといわれる複雑なカースト制を外部の人間がイメージすることは困難です。
また、そもそも論として、こうした社会の根幹をなす伝統的価値観をどのように理解すべきかということは、非情に難しい問題です。

必ずしも、旧弊として頭から否定されるべきものではないのかもしれませんが、現実問題として差別的なネガティブな影響を社会全体にもたらしている側面があります。差別と表裏の関係にある制度であれば、裏だけ取り除くということもできず、全体として廃棄されるべきでしょう。

社会に根深く存在するカースト制の現状については、下記のようにも記されています。

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“カーストが成立した時期には存在しなかった職業などはカーストの影響を受けないと言われる。IT関連産業などは、当然カースト成立時期には存在しなかったので、カーストの影響を受けない。インドでIT関連事業が急速に成長しているのは、カーストを忌避した人々がこの業界に集まってきているからと言われている。

しかし、高等教育を受けることが出来ない下層カースト出身者は高度な仕事が出来ない上に、仮に優秀であったとしても上層カースト出身者で占める幹部が下層カースト出身者を重要なポストに抜擢することはなく、表面的にはカーストの影響を受けないIT関連事業においてもカーストの壁が存在するのが現状である。”

“現在でも、保守的な農村地帯であるパンジャブ州では、国会議員選挙に、大地主と、カースト制度廃止運動家が立候補した場合、大地主が勝ってしまうという。現世で大地主に奉仕すれば、来世ではいいカーストに生まれ変われると信じられているからである。”

“児童労働従事者やストリートチルドレンの大半は下級カースト出身者が圧倒的に多い一方、児童労働雇用者は上級カースト出身で、教育のある富裕層が大半である、と報告される”

“インド国内の刑務所内の受刑者の大半が下級カースト出身者で占められている”
【ウィキペディアより】
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憲法でも禁止されており、インド社会のくびきともなっているカースト制の是正については、公的なセクターにおいてすら鈍いようです。

****カースト差別、火葬場まで=階級別に47カ所設置計画―インド****
インド北部ラジャスタン州で、伝統的な身分制度カースト制に基づいた階級別火葬場を設置する計画が持ち上がり、「憲法違反だ」などと反対の声が上がっている。

発案したのは、州都市開発・住宅省傘下の都市整備機構。パキスタン国境に近い町ジャイサルメールで、予算5000万ルピー(約8000万円)をかけ、「ナイ(美容師)」や「ダルジ(仕立屋)」などカースト名を明示した47カ所の火葬場を建設すると発表した。

地元紙によると、同機構のタンワール会長は「複数のカースト階級を扱う火葬場を嫌う住民がいるため、この計画を進めることを決めた」と説明。「この地域ではカースト別に火葬することは藩王国の時代からあった習慣で、何も不思議ではない」と主張する。

一方、ラジャスタン大学のグプタ教授は「遺体までもカーストに基づいて区別するのは合理性に反しており、完全に憲法違反だ」と批判する。【9月21日 時事】
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司法制度には依然、「やる気のなさ」も
インド社会には女性蔑視、女性の人権が軽んじられる傾向もあり、結果としてレイプ事件の多発を招いていますが、この女性蔑視の風潮については、昨年末に首都ニューデリーで起きたバス車内集団レイプ事件を機に、変化の兆しも見えるようです。
ただ、現実の壁を突き崩せるかどうかは、今後の話です。

ニューデリーの裁判所は13日、犯行グループの被告4人全員に対し、レイプや殺人罪で求刑通り死刑を言い渡し、性犯罪に対する厳罰化を求めていた多くの国民は極刑判決を歓迎しているそうです。
(なお、主犯格とされた男は3月に刑務所で首をつって死亡。事件当時17歳だった少年は、少年矯正施設に3年間収容する決定を受けています。)

****インド集団レイプ殺害事件が破った沈黙の壁*****
インドの裁判所が10日、被告4人に有罪を言い渡した集団レイプ殺害事件は同国全土に大規模な抗議行動を巻き起こし、性犯罪に関する法の厳罰化や警察改革を促したが、女性に対する暴力の波は一向に収まる気配がない。

昨年12月、首都ニューデリーで個人バスに乗り込んだ女子学生(当時23)が、一緒にいた交際相手の男性ともども車内で集団に暴行され、女性は約2週間後、治療を受けていたシンガポールで多臓器不全のため死亡した。

女性人権団体などの活動家らは、この事件をきっかけに性的暴行を受けた被害者の一部が沈黙を破るようになり、長年、レイプに関するどんな議論も封じてきた文化的タブーが解かれたと述べている。

女性の支援や人権擁護活動を行っているニューデリーのNPO「社会研究センター」のランジャナ・クマリ氏は、亡くなるまでのおよそ2週間、女子学生の生き延びるための闘いが、他の被害者たちに声を上げさせたという。「以前だったらレイプという言葉さえ誰も口にしなかったけれど、その沈黙が終わりを告げたのです」

前月ムンバイで女性カメラマンが同じく集団レイプされた事件は、広く報じられたことで、別の女性が7月に同じ容疑者たちに暴行されたことを初めて証言するに至ったとクマリ氏は語る。

しかし司法制度には依然、「やる気のなさ」が漂っているという。
ニューデリーの集団暴行殺害事件の被告4人の裁判は迅速に進められたが、その他のレイプ犯罪の裁判は事件発生から何年もたった今もなお審理開始を待っているありさまで、人権活動家らは裁判官の考え方自体、変えさせる必要があると主張している。

「レイプの都」とまでいわれるニューデリーの警察には今年1~6月で800件のレイプ被害が記録されているが、これは前年同期比で2倍以上となっている。
この増加について、デリー警察の女性と子どものための特別班に所属するスマン・ナルワ氏は、被害者の間で名乗り出ようという意志が高まっている表れだと説明する。

警察の対応に非難の声が向けられたことによって、デリー当局は全警官に対し、2008~11年に展開していた性犯罪に関する意識強化キャンペーンを復活させた。
また電話相談サービスを増設したり、全警察署に女性のための24時間相談窓口を設けた。

ナルワ氏いわく「以前は性暴力は他の犯罪と比べて後回しにされることを余儀なくされていたが、今は最優先とみなされている。最高水準の態勢でそうした犯罪を監視している」という。

政府も強姦(ごうかん)罪の強化という重要な一歩を踏み出した点は、活動家らも認める。
3月の議会で可決した新法には、レイプの被害者が死亡した場合に実行犯の最高刑が死刑となったことや、性的暴行や性的いやがらせに関する記録を怠った警察官に対する懲戒処分の条項などが盛り込まれた。

こうした変化は抗議行動の正当な成果だと、「全インド進歩的女性協会」の運動家、カビタ・クリシュナン氏は評価し、「性的暴力に対する闘いがいかに大きな運動となり得るか、世界もインドの闘いから学べることがたくさんあると思う」と語った。

しかし社会研究センターのクマリ氏のように、インド当局が真剣に性的暴力と闘うのならばもっと根本的な改革が必要だと訴える運動家もいる。
性的暴行の後遺症と向き合うにあたり、被害者が当局から十分な支援を得られることはまれな上、レイプの被害者に無神経に対応する警官や公務員は今も多い。

新法についてクマリ氏は、厳格な懲戒処分の枠組みを示した包括的なものだが十分でないと批判し、「何万件ものレイプ被害が未解決な一方で、有罪となっているのはわずか。これではまったく強いメッセージになっていない」と語った。【9月11日 AFP】
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