孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  保守穏健派ロウハニ新大統領による新体制スタート SNSとIAEA

2013-09-17 22:13:28 | イラン

(8日、イランの首都テヘランで握手する自民党の高村正彦副総裁とイランのロウハニ大統領(共同)【9月8日 産経】)

ユダヤ教徒あての新年の挨拶
イランでは、国内融和や国際協調に比較的前向きとされる(前職のアフマディネジャド氏などに比べれば・・・ということではありますが)保守穏健派のハサン・ロウハニ師が先月3日に大統領に就任しています。

****ロウハニ大統領が就任=核制裁の解除訴え―国際社会、穏健路線注視・イラン****
6月のイラン大統領選で勝利した保守穏健派のハサン・ロウハニ師(64)は3日、最高指導者ハメネイ師による認証手続きを経て、大統領に就任した。任期は4年。聖職者としては、ハタミ師退任以来8年ぶりの大統領となる。

ロウハニ師は就任後に演説し、対話を通じた国内融和や国際協調を重視する穏健路線を推進する姿勢を強調。一方で「(核開発を受けた米欧による)非人道的な制裁は解除されなければならない」と訴えた。

ハメネイ師はロウハニ師就任を祝福し、大統領交代がスムーズに行われたことについて「イスラム型民主主義の成果だ」と指摘した。

保守強硬派のアハマディネジャド前大統領は「イスラエルを地図から消し去る」といった強硬な発言により物議を醸した。国際社会は大統領交代でイランの反欧米姿勢が変化するか注目している。

ロウハニ師はこれまでに、外交政策について「建設的なやりとりを重ねていく」と表明、制裁解除に向けた交渉に意欲を示してきた。ただ、核開発については「透明性を高めるが、ウラン濃縮を停止するつもりはない」と述べており、核開発をめぐる米欧との交渉の進展は直ちに期待できない状況だ。【8月4日 時事】 
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女性の地位・権利が問題となることが多いイスラム社会にあって、ロウハニ大政権では初の女性報道官も起用されています。

***イラン初の女性報道官が任命****
イランで1日、同国初となる女性の外務省報道官が誕生した。

同日の引き継ぎ式に出席したハサン・ロウハニ大統領は、新たに任命されたマルジェ・アフハム氏の起用について、女性の社会的地位の向上を目指す同国の方針を象徴するものだと述べ、歓迎の意を表した。【9月4日 AFP】
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更に話題となったのは、核開発問題などでイラン・イスラエル関係は厳しい対立状況にありますが、ロウハニ大統領がユダヤ教徒あてに新年の挨拶をツイートしたとされることです。

イスラム革命で4~5分の1に減少したものの、今でもイラン国内にはイスラエルを除いて中東で最も多い、2万~2万5000人のユダヤ人が暮らしているそうで、イランのマジュレス(議会)には、ユダヤ教徒の代表者の席が1つ用意されているそうです。

****イランのユダヤ教徒****
ユダヤ教の新年祭ローシュ・ハッシャーナーの前日、イランのハッサン・ロウハニ新大統領、あるいはその後援会とおぼしきアカウントから、意外なツイートが投稿された。ユダヤ教徒、中でも国内の教徒にあてた新年のあいさつだ。

このツイートを目にした人々は当惑した。互いに背を向ける宗教の顔合わせも意外だが、欧米ではほとんど注目されていないイランのユダヤ教徒に言及していたためだ。

「ここテヘランはもうすぐ日没です。すべてのユダヤ教徒、特にイランのユダヤ教徒が幸せなローシュ・ハッシャーナーを迎えられますように」。ハッサン・ロウハニ(@HassanRouhani) 2013年9月4日
(後略)【9月9日 ナショナルジオグラフィック】
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ロウハニ大統領のTwitterアカウントは下記のとおりです。
https://twitter.com/HassanRouhani/status/375278962718412800/photo/1

【「表現の自由拡大」の予兆?】
“ユダヤ教徒向け”という点を別にしても、反政府運動を封じ込めるためにソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が制約されているイラン社会にあっては、政治指導者自らネット上で発信するということ自体が異例のこととされています。

****イラン:SNS解禁?閣僚15人がフェイスブック始める****
イランの閣僚15人がインターネット交流サイト「フェイスブック」(FB)を始めたと報じられ、話題となっている。

イランでは反体制活動を封じるため2009年以降、当局の規制でFBや短文投稿サイト「ツイッター」などソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が使えない。
穏健派のロウハニ大統領が公約した「表現の自由拡大」の予兆として歓迎される一方、「どうアクセスしたのか」といった疑問も出ている。

「医薬品が制裁の影響で不足」「肝臓のインターネット売買は、虚偽もあるので注意」。ハシェミ保健相は、本来なら閲覧できないはずの国民にメッセージを送る。

イランでは、当局が有害と判断したサイトへの接続を遮断しており、若者らは特殊ソフトなどで規制をかいくぐる。閣僚自らの利用が公になるのは初めてで、「規制解除の前触れかもしれない」(地元紙シャルグ)と期待されている。

ザリフ外相は、留学や国連大使の経験から米国での生活が長く、米国生まれのFBを巧みに使いこなす。ページ開設は09年。投稿内容に対し、閲覧者の共感を示す「いいね!」は17万件以上。
核交渉の責任者でもある外相はツイッターも使い、主に英語でつぶやく。4日には、ユダヤ暦の新年「ロシュ・ハシャナ」を祝福。英BBCなど欧米メディアは、核交渉など欧米との外交を柔軟に進めるサインとして好意的に報じた。【9月12日 毎日】
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閣僚15人が利用するというのは、政府としての判断を背景にしていると思われます。
ただ、こうした大統領、閣僚のFB使用について、保守強硬派の警察長官が「合法性はない」と非難し、利用停止を求めています。

****大統領のフェイスブック、警察長官が非難する国*****
イランのロハニ大統領や閣僚が、同国で禁じられている交流サイト「フェイスブック」(FB)を利用し始めた。
これに対し、保守強硬派の警察長官が公然と非難し、政府内の路線対立に発展しそうだ。

イランは、イスラム主義の価値観を害する恐れがあるとみなしたサイトの閲覧を強制的に遮断してきた。それでも、国民の大半は違法ソフトを使ってFBを利用し続けている。

保守穏健派のロハニ大統領も、6月の大統領選前にFBのアカウントを開設し、就任後も演説内容や動静の書き込みを継続。ザリフ外相ら閣僚15人のほか、各省庁の報道官も利用を開始した。内外に「開かれた政府」を印象付ける狙いがある。

だが、アフマディモガダム警察長官は15日、「合法性はない」と非難。閣僚や政府職員に利用停止を求めた。14日には、外相のアカウントがハッキングされた。
ただ、大統領らが利用をやめる可能性は低いとみられている。【9月17日 読売】
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原理主義の宗教独裁国家というイメージもあるイランですが、議会・大統領は“一応”民意を反映した選挙で選ばれていますし、今回のFBの件など、世界の多くの強権支配国家に比べればまだ自由度があるのでは・・・という側面もあります。

無難な新体制外交スタート 注目されるIAEAとの核協議
ロウハニ大統領の実際の施策については、まだこれからの話ですし、核開発問題などでは決定権は大統領ではなく最高指導者マメネイ師にあるなど、大統領の裁量の範囲は限定されていること、したがって外交姿勢の急激な変化は望めないことなどは、常に指摘されているとおりです。

先ず、13日の上海協力機構首脳会議で、友好国ロシア・中国首脳との顔合わせを無難に行っています。

****イラン:ロウハニ大統領、無難な外交デビュー****
イランのロウハニ大統領は、キルギスの首都ビシケクで13日に開かれた上海協力機構首脳会議にオブザーバーとして参加し、「対話に基づく穏健外交」を本格始動させた。

8月の就任後、初の外遊で、12日の中国の習近平国家主席に続き、13日にはロシアのプーチン大統領と会談。イランの核開発問題に一定の理解を示す中露と、シリア問題で足並みをそろえ無難な外交デビューとなった。

インタファクス通信によると、プーチン大統領との会談では、イランの核問題に関し「国際規範の枠内で早急に解決したい」と発言。米欧露など6カ国との協議の早期再開を目指す姿勢を強調した。

両首脳はシリア情勢での協力姿勢も改めて確認したと見られる。両国はシリア問題の政治的解決を一貫して主張しており、ロシアがアサド政権に対し、化学兵器の放棄と国際管理を提案した際にはイランはいち早く「歓迎」の意向を示している。

ロウハニ大統領は12日の習主席との会談で「イランは核拡散防止条約(NPT)の枠内で核開発を推進する権利を求めている。国際社会の懸念を払拭(ふっしょく)するため、国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れもいとわない」と述べ、就任後初めて査察受け入れに前向きな姿勢を示した。今後、どの程度、透明性を発揮するのか注目される。

これに対し、習主席は「イランの権利は尊重されるべきで、必ずや対話を通じて解決される」と応じた。またシリア問題では、両首脳は平和的解決に向けた両国の関係強化を確認した。【9月13日 毎日】
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更に、欧米との関係についても動きがみられます。

****イラン:米と親書交換 英とは月内に外相会談****
核開発問題で孤立するイランの穏健派のロウハニ大統領が、オバマ米大統領と親書を交わしていたことが15日、明らかになった。オバマ大統領が同日、米ABCテレビで明らかにした。

オバマ大統領は、親書の詳細については明らかにしなかったが、「イランの核問題は、シリアの化学兵器よりずっと大きな問題。新大統領が性急にやり遂げるとは思わない」と語った。

一方、イランメディアは16日、ザリフ外相と英ヘイグ外相がニューヨークで開かれる国連総会に伴い、今月下旬に会談すると報じた。英国側からの打診で、中東和平やシリア問題、核開発問題を話し合うという。先週、キャメロン英首相は「英国は、選挙後にイラン政府に効果的に接触してきた。関係を築く用意がある」と述べ、意欲を示していた。

英国とは2011年11月の在イラン英国大使館襲撃事件をきっかけに、双方が大使館を閉鎖するなど事実上外交関係が途絶えていた。8月に大統領に就任したロウハニ氏の対米欧関係改善への兆しとして注目される。【9月16日 毎日】
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焦点の核開発問題に関しては、27日に再開される国際原子力機関(IAEA)とイランの交渉が注目されています。

****イラン核協議:ロウハニ体制下、進展期待 IAEAを注視****
イランで保守穏健派ロウハニ新大統領が誕生してから初めての国際原子力機関(IAEA)理事会で、イランの核兵器開発疑惑を追及する米欧から新体制下での透明性の強化などを期待する声が相次いでいる。

今理事会ではイラン非難決議などを求める動きはなく、当面は各国とも今月27日に再開されるIAEAとイランの核協議の行方を注視する考え。IAEA事務局長が次回のイラン報告をまとめる今年11月までの実質的な進展を求めている。

11日から始まったイラン核問題に関する協議で、米国のマクマナス大使は「ロウハニ政権が今後数カ月間の具体的な措置によって、自らが約束した透明性と協調性に従って行動するよう期待している」と述べた。
欧州連合(EU)も「イラン新大統領による透明性強化の発言に注目し、確固たる行動に移ることを期待している」との声明を発表した。

ただ、米欧ともイランのウラン濃縮能力増強やプルトニウムの製造に道を開く重水炉の建設進展には深刻な懸念を表明。ロウハニ大統領が約束する透明性強化などを行動で示すよう迫った。米欧とも11月までにイラン側に具体的な行動がみられない場合、新たな対イラン決議などに踏み込む構えだ。

一方、初めて理事会に出席したイランのナジャフィ新大使は12日の協議後、「今後とも誠意を持ってIAEAと協議を続ける」と記者団に語ったが、核拡散防止条約(NPT)で保障された「原子力の平和利用の権利」については「いかなる譲歩もない」と強調した。【9月12日 毎日】
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“ロウハニ師がイランの銀行と原油輸出に対する西側諸国の制裁を解除できなければ、彼が目指す改革は行き詰まるだろう。ロウハニ師が大統領に選ばれた最大の理由は、制裁を解除できる可能性が最も高い人物だと有権者が判断したからだ”【9月11日 英エコノミスト】という状況にあって、イランから柔軟な姿勢を引き出すためには、新体制がイラン国内で動きやすいような環境を用意することも必要ではないでしょうか。

圧力をかけるだけでは、せっかくの芽をつぶしてしまいます。
改革派のハタミ元大統領が国際協力を得られず、結局国内での権力を失い、改革派の退潮を招いた経緯もあります。
過度の期待は・・・とは分かっていても、つい期待してしまいます。
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