(下町を視察するジョコ・ウィドド・ジャカルタ特別州知事(中央) 正直なところ風采はいまひとつの感はありますが、そこがまた“庶民派”たる所以でもあるのでしょう。左隣はアメリカ大使のようです。 “flickr”より By U.S. Embassy, Jakarta http://www.flickr.com/photos/39809323@N03/9013009998/in/photolist-eJs2S7-deAwa7-dJsfrC-9EdJoX-eaW9Af-deAxan-deAxRV-deAvpq-deAvc7-deAxwc-deAxkD-ex2wpk-ex5q4s-ex5ELy-ex5JmN-ex2kPM-ex2o7P-9ko9Fe-ex5ziY-ex5CTs-ex5uFh-dCvFpB-ek44Uu-bE8A2J-dJP1bN-bXapm9-b5fv2t-eKbgzX-dwnZwC-dwo1PE-edyPMW-dwo243-djSrYp-e98iRd-e7GhFX-fbdCUe-fLoPPo-fL7dpH-9CaATB-fH4Z95-fH4YZW-e7GhSc-e92DHp-e98isL-e5xvWU-e7MTB3-e6JKQu-e98ib9-dJYZuM-dkEwTt-c2PBMU)
【「既存の政治家とは、あらゆる面で正反対の人物だから」】
インドネシアでは大統領選挙が来年7月に行われますが、早くも「当確」が出ているそうです。
古都ソロの市長を経て昨年9月に首都・ジャカルタ特別州知事に当選したジョコ・ウィドド氏の人気が非常に高く、大きなスキャンダルが今後なければ闘争民主党の大統領候補として選挙にのぞみ、「全く選挙運動をしなくても、120%の確率で大統領に当選する」とも言われています。
****インドネシア:来年大統領選 庶民派候補が早くも「当確」****
インドネシアで来年7月に行われる大統領選挙で、国政経験の無い地方政治家が世論調査でも他の立候補予定者に大差をつけてリードしている。クリーンで庶民派として知られ、既存の政治家を嫌う国民の支持が集まっており、専門家は「当選確実」「選挙は終わった」と指摘している。
「大統領当確」とされているのはジャカルタ特別州知事のジョコ・ウィドド氏(52)。中部ジャワのソロ出身で大学卒業後、家業の家具販売などを経て2005年、ソロ市長に就任。2期目途中だった昨年、ジャカルタ特別州知事選に出馬し、現職を破って当選した。
知事就任後、深刻な交通渋滞の原因だった市中心部の大規模市場の撤去に成功するなど実績を重ね、人気を高めた。メディアは連日その行動を追い、注目度はユドヨノ大統領をしのいでいる。ジョコ氏が所属する闘争民主党内では、大統領選の候補者として、すでに決定済みとみられている。
地元有力日刊紙「コンパス」が実施した世論調査では支持率は32・5%と、2位のプラボウォ・スビヤント元陸軍戦略予備軍司令官に倍以上の差をつけた。別の世論調査では支持率が45%を超した。
ジョコ氏の人気の理由について、多くの地元記者は「既存の政治家とは、あらゆる面で正反対の人物だから」と、口をそろえる。初代スカルノから現職のユドヨノ氏まで歴代大統領は全て高級軍人や宗教指導者などエリート出身だった。次期大統領選の有力候補もジョコ氏以外は首脳、閣僚経験者や元軍人で、中には過去に汚職や人権侵害への関与を取りざたされた人物も多い。
一方、ジョコ氏は庶民出身のたたき上げで、公用車は今もトヨタの大衆車。下町の屋台で食事をしながら、気さくに住民と言葉を交わし、市場で買った安価な靴を愛用する。「親しみやすさ」に加え、汚職と無縁で、公約を着実に実行に移す行政手腕は「ユドヨノ氏に代表される口先だけの既存の政治家」(地元記者)に失望した国民から絶大な支持を集める要因となっている。
地元紙の政治担当記者らはジョコ氏が「高い確率で当選する」と見ている。インドネシア政治専門の立命館大の本名純教授は「イスラム教に関する失言や女性スキャンダルなど致命的な失点がなければ、全く選挙運動をしなくても、120%の確率で大統領に当選する」と話す。【9月21日 毎日】
*******************
昨年9月のジャカルタ特別州知事選挙の際は、ジョコ・ウィドド氏とコンビを組んで副知事候補として立候補した華人のバスキ・チャハヤ・プルナマ氏について、これまで「経済を牛耳るが、政治嫌い」とされてきた華人の異例の政治への挑戦であること、現職陣営が「華人に首都を奪われていいのか」と激しい選挙戦を展開したことが国際的には話題となりましたが、知事候補のジョコ・ウィドド氏自身については話題とはなりませんでした。
インドネシア在住のindobaru氏による「インドネシア語・Watch」(http://indobaru.exblog.jp/20970615/)によれば、ジョコ・ウィドド氏の経歴などについては以下のように紹介されています。
****ジャカルタ知事ジョコ・ウィドド氏の経歴*****
正式名:Ir. H. Joko Widodo (H.ジョコ ウィドド:愛称 ジョコウィ)1961年6月21日スラカルタ市で生まれる。現在52歳。ジャカルタ知事第17代目。その以前は、スラカラタ(Solo)市長を二期勤める。
◆幼少期
貧しい家庭で育つ。学用品代や駄菓子代は自分で稼いだ。傘を運んだり、荷担ぎの仕事をしたりした。学友は自転車で通学するが、ジョコは歩いて登校した。
12歳の時、父の大工稼業を受け継いだ。住む家の立ち退きを三回経験した。この経験が、スラカルタ市長に就任時、住民の住居を整備する上で指導力を発揮した。そして今回のジャカルタ市タナアバン地区の整備でも指導力を発揮した。
(著者注記:ジャカルタ知事としての赴任時、政庁へ持ち込んだ事務机・椅子・書類棚、公邸へ持ち込んだ寝具・家具は、自作の木工家具である。大工としての技量は相当なレベルである。)
◆大学時代と事業経営時代
秀でた学力から、ガジャマダ大学林業学部に迎え入れられた。この時、材木に関する構造学、利用方法、加工技術を学んだ。
大学卒業後、国有会社に就職したが間もなく退社し、唯一の自分の家を賃貸する商売を始める。商売が順調に発展した時、外国人事業家に出会う。努力と誠実な性格から各方面から信頼を得た。
ヨーロッパを旅行した時、素晴らしい町並みを見て歩き、帰国後、その良さをソロ市のインフラに採り入れた。
◆スラカルタ(ソロ)市長時代
若い時のさまざまな経験を元に、インフラの悪いソロ市の発展に努力した。市民の反対もあったがそれも解決した。ジョコウィの指導力から、ソロ市は大きく変化させ、国外大学の研究対象にもなった。
ソロ市のインフラ整備に努力した。古物商を、緑地化・環境整備された場所へ移転させた。この時、市民の反対運動は起きなかった。個人商売と市の公共性を共存させる政策を次々と展開した。
ソロ市に「ジャワの心」という宣伝文句を付け、市の発展を更に促進した。2006年に、ソロ市は世界遺産都市メンバーとして承認された。
以後、2004年には王宮内部紛争の調停に乗り出したり、数々の活躍をした結果、2008年に時事雑誌『Tempo』が選ぶ「10人の人物」の一人に選出された。【9月7日 「インドネシア語・Watch」】(http://indobaru.exblog.jp/20970615/)
*******************
【市場の郊外移転事業】
いわゆる庶民派の苦労人のようです。
ソロ市長時代に市民の支持を得たのは、市街地にあったカキリマ(露天商)の市場を、市街地から車で20分以上かかる郊外へ移転させた事業でした。
なんとなく話の雰囲気はわかります。
インドネシア社会は他の東南アジアの国々同様、すさまじい勢いで車社会に変化しています。
しかし、道路・駐車場などのインフラ整備がおいつかず、市内の市場などは車、バイクが溢れており、駐車スペースを確保することも難しい状況ににあります。
市場周辺の混雑が交通渋滞の原因ともなります。
また市場内は狭く、暑く、人混みで息苦しい感じがあります。
そうした市場を整備された郊外の広いスペースに移転させれば、市場内外のカオス的な混雑が緩和されます。
(観光客の目線で言えば、そうしたアジア的カオスはひとつの魅力でもあるのですが・・・住民の立場はまた別でしょう)
市街からは離れますが、どうせ人々の移動は車・バイクが中心になっていますので、さほどの不都合はないと思われます。日本でも市街地から郊外の大型商業施設に移転しているのと同じです。
同氏が住民から支持されたのは、こうした事業の方向性の正しさだけでなく、その手法にもあるようです。
カンプン(下町)など現場を視察し、その場で関係者の声を聞きながら指示を出していくスタイルで、途上国・新興国にありがちな強権的に移転させるというものではないようです。
また、慎重だが始めたら猛スピード。事業後のケアも欠かさない・・・とも。【2012年11月24日 じゃかるた新聞より】
首都ジャカルタにおいても同様事業で支持を高めたようです。
首都ソウルの清渓川復元工事で人気を集め、実行力をアピールして韓国大統領に就任した李明博大統領に似た感じもあります。
【汚職に無縁】
インドネシアの政治家には珍しく汚職などに無縁なところも支持されている理由のようです。
同氏の“収賄”については、著名なヘビメタバンドから贈られたギターが話題になったぐらいです。
****メタリカからジャカルタ州知事に贈られたベースギター、やっぱり没収****
インドネシア政府は28日、米メタルバンドの大御所「メタリカ(Metallica)」のメンバーが、ヘビーメタル好きで知られるジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)知事に贈ったベースギターを、汚職の疑いがあるとして没収することを決めたと発表した。
ジョコウィ知事は今月初旬、メタリカのベーシスト、ロバート・トゥルージロさんから贈呈されたという栗色のベースギターをかき鳴らしながら、さっそうとテレビに登場した。
ベースにはトゥルージロさんのサインと共に「クールでファンキーなベースを弾き続けて!」などの言葉が書かれていた。
だがテレビ出演後、ジョコウィ知事は自主的にベースを国の汚職捜査機関「汚職撲滅委員会(KPK)」に提出することになってしまった。KPKは28日、政府高官への贈答の規則に基づいてベースを調べた結果、この楽器を没収することを決定したと発表した。
「KPKは調査の結果、賄賂の授受に発展する可能性のある利害相反を認め、政府がギターを没収することを決めた。ギターは国の所有物となる」と、KPK当局者はAFPの取材に語った。
同当局者は「プロモーターは、(ジョコウィ氏が)メタリカファンであることを知っていた可能性が高い。プロモーターが見返りに何かを期待する可能性がある」と述べた。
さらにベースには、「Giving Back」とも書かれていたことから、「何かの見返りの可能性」が示唆されていると付け加えた。
番組内でジョコウィ知事は、メタリカの大ファンだと公言。他にもレッド・ツェッペリンやディープ・パープル、ナパーム・デスといったハードロックやヘビメタのバンドが好きだと語っていた。【5月30日 AFP】
***************
汚職捜査機関「汚職撲滅委員会(KPK)」も、もっと他にやるべき仕事があるだろうに・・・という感があります。
もっとも、KPKは汚職摘発に熱心に取り組んでおり、むしろ警察がこれを阻害する形にあるようです。
ハードロックやヘビメタを好み、ジャカルタ知事選では華人を副知事に抜擢するなど、伝統的価値観やイスラム的価値観に縛られない新しさも感じさせます。
所属する闘争民主党自体が、自由主義・中道左派とされ、華人やクリスチャンメンバーが多いようです。
その闘争民主党は、インドネシアの初代大統領スカルノの娘でもあるメガワティ前大統領が率いる野党ですが、党内におけるメガワティ氏との力関係などについては、知りません。
【指導力を欠き失速したユドヨノ政権2期目】
04年の大統領就任から第1期の5年間を経て、09年に圧倒的な支持を受けて再選を果たしたユドヨノ現大統領ですが、2期目は支持率低迷に苦しんでいます。
****「成長の実感ない」 首都市民、スハルト懐古も****
中央ジャカルタのオフィスビル周辺で働く市民にユドヨノ政権の評価を聞くと、連日報道が続く汚職疑惑に対する失望に加え、国際社会での存在感向上につながっている高い経済成長率の実現についても、「庶民は実感できていない」と不満の声が上がった。
「経済成長を実感しているのは上級公務員とか上層の人たちだけで、市民の暮らしは変わらない。むしろスハルト時代の方がお金を稼ぎやすかったって親は言っているよ」と語るのは警備員のアリヤントさん(35)。
給料は月180万ルピア。1年ごとに勤務契約を延長する形式になっており、「アウトソーシング(派遣・請負労働)だよ」と話す。
次の選挙で投票したい人を聞くと、「信頼できる人なんていない。誰でも同じだよ」と嘆いた。
オフィス街の裏手でミー・アヤム(鶏肉入り麺)のカキリマ(移動式屋台)を営むウンコンさん(54)は、収入は月500万―600万ルピアほどだが、「支出も増えていて自転車操業の状態だよ」。「ジョコウィ(ジョコ・ウィドド・ジャカルタ特別州知事)は町を歩いて直接、市民の声を聞くけど、SBY(ユドヨノ大統領)は報告を部下から聞いているだけでしょ」とつぶやく。
証券会社で働くデニー・クルニアントさん(53)の収入は700万―800万ルピア。「経済危機を乗り越えた指導力は評価できる。ただスハルト大統領の方が庶民の生活を考えていた」と主張し、次期大統領選では「スハルト氏に似ているプラボウォ氏に投票したい」という。
収入は千万―1500万ルピアという金融サービス代行会社勤務のハンダイ・ジャヤさん(45)は「しっかりと経済発展しているし、表現の自由も広がった。昔はメディアに発言する勇気はなかったよ」と語る。
アウトソーシングの問題があることは認識しているが、「それでも格差は昔より縮んだはずだ」とユドヨノ政権の功績を評価した。【2012年10月20日 じゃかるた新聞】
******************
ユドヨノ大統領の支持率低下の原因としては、汚職への取り組みがで指導力を発揮できなかったことがあげられています。
一方で、“庶民の声を聞いて、現実政治に反映させていく実行力を持った政治家”としてジョコ・ウィドド氏の人気が高まっています。