孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  タミル人居住エリアの北部州で内戦後初の州議会選挙実施

2013-09-20 22:45:09 | 南アジア(インド)

(9月14日 内戦中、LTTE実効支配地域の事実上の首都であったキリノッチへ向かう列車(二十数年ぶりに復活した「Queen of Jaffna」の記念走行)に乗車するラジャパクサ大統領(左端) 州議会選挙に向けて復興をアピールするものでしょう。 “flickr”より President Mahinda Rajapaksa http://www.flickr.com/photos/101002436@N08/9738183311/in/photolist-fQwJCg-fQJ5dN-fQJ3US-fQwK9X-fQJ4Ly-fQJ4XE-fQwKip-fQJ4Aq-fQJ58L-fQJ4wd-fCgBej-fTeVrC-fTfX33-fTfUbc-fTfTxP-fTeRPg-fTfY7s-fTeVQd-fTeUjh-fTfUKZ-fTeUbm-fTgmkK-fTeRXT-fgTavf-fJzmob-fJhQFv-fNx6uL-fJboGL-fQcQwv-fJAwvZ-fWko4t-fJSb6Q-fTgBbg-fTf83c-fTgAXa-fEJYvn-fF2H91-fEK78F-fWnAKh-fWoLQ4-fWmb6F-fWpsRN-fWmZyM-fWmT2X-fF2CHQ-fTfb17-fHTqbZ-fHPaWm-fJUowN-fQd8uB-fJBd1r)


タミル人への権限委譲に逆行する憲法修正の動きも
スリランカでは多数派シンハラ人(総人口の約7割・仏教徒)と北部・東部を中心とする少数派タミル人(総人口の2割弱)の民族対立が存在し、政府軍とタミル人反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の間で激しい内戦が戦われました。

内戦は2009年に、ラジャパクサ大統領が率いる政府軍が勝利し、LTTE国内組織は壊滅する形で終結しました。
シンハラ系のラジャパクサ政権にとっては、内戦から復興、シンハラ・タミル間の国民和解が要請されています。
なお、ラジャパクサ政権は、内戦末期に市民への無差別攻撃があったとして国際的に批判されています。

内戦当時は連日のようにスリランカ情勢は日本でも報じられていましたが、内戦が終結すると情報も途絶え、国民和解がどのように進められているのかよくわかりません。

そうした中にあって、珍しくスリランカ情勢に関する記事がありました。
タミル人居住区である北部州で、実施が先延ばしされてきた州議会選挙が21日に実施されるそうです。
タミル人系の政党が優勢なようですが、一方でそうした情勢を懸念するラジャパクサ政権には、タミル人への権限移譲を後退させる憲法修正を図る動きがあるとのことです。

****スリランカ北部州、初の議会選 内戦終結、自治権を問う****
スリランカでかつて、政府軍と少数民族タミル人反政府武装勢力、タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)が内戦を繰り広げた北部州で21日、初の州議会選が行われる。

タミル人野党、タミル国民連合(TNA)が優勢とみられており、勝利すればスリランカの9州で初めてタミル人主導の州議会が誕生、自治権の拡大などを求める声が強まりそうだ。

選挙にはTNAのほか、ラジャパクサ大統領の与党、統一人民自由連合(UPFA)傘下の政党などが候補者を擁立し、選挙で選ぶ36議席を約900人が争う構図となった。有権者数は国内の避難民約9千人を含む約72万人で、95%はタミル人とされる。

LTTEはかつて、仏教徒が中心の多数派シンハラ人の支配に対抗し、ヒンズー教徒中心のタミル人が多く居住する北・東部州の分離・独立を訴え、政府と血みどろの内戦を展開した。

2009年に政府軍の攻勢でLTTEは消滅し、内戦が終結したが、過去に多数の市民が戦闘に巻き込まれ、国連は双方に市民への無差別殺害があったと発表している。

スリランカの州議会選は他州では行われてきたが、北部州では内戦のため長い間選挙がなく、政府は内戦後も避難民の帰還や復興を優先すべきだとして実施を遅らせていた。

TNAは、憲法でうたわれる警察や土地開発、財政権限の州政府への委譲を履行するよう求めている。こうした権限は、国内にタミル人を抱えるインドの圧力で内戦中に憲法に盛り込まれた条項だが、実施は棚上げされてきた。

ラジャパクサ政権はタミル人による分離・独立運動の高まりを警戒、憲法修正の動きを見せている。人権問題で欧米やインドの批判を浴びるラジャパクサ政権が、タミル人への権限委譲に逆行する憲法修正を本格化させれば、いっそうの反発を招く可能性がある。【9月20日 産経】
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なお、新華社の報道によれば、“選挙にあたって、国内の紛争を再燃させる内政干渉を意図した外部の資金が流入している”と、ピーリス外相が批判しているそうです。
外部資金というのは、タミル人組織を支援するディアスポラ(国外居住者)からの資金のことでしょうか。
それとも、タミル人が多く居住する南インドの組織などを指すのでしょうか?

情報が少ないのでよくわかりませんが、上記記事にあるような“タミル人への権限委譲に逆行する憲法修正”が実施されれば、国民和解も遠い夢となります。
シンハラ民族主義の傾向が強いと言われるラジャパクサ大統領は、力でタミル人社会を抑えていこうというつもりなのでしょうか?

かつてLTTEが実効支配していた北部地域には現在も多くの政府軍が駐留していますが、そのことに関して大統領はインドメディアのインタビューで以下のように述べています。(多少、わかりづらい日本語訳の箇所もありますが、原文のまま)

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 Q:北部の非先軍化が進んでいません。7割の国軍兵が未だそこに駐屯しています。治安地帯、失踪者、北部州での総選挙問題にどう対処しているのですか?

 ラジャパクサ大統領:7割云々というのは、LTTE残党の謀宣に過ぎません。「非先軍化」なんて酷い言葉です。
我らは30年続いたテロリストとの紅世の闘争から復興しているのです。
北部の中心ジャフナの駐屯兵士数は2009年末の2万7000から2年半で1万5000に減った現状をみて、先軍化継続中というのですか?
地雷除去、北部の復興作業、基建整備、残留武器の捜索、西洋を中心とした海外勢力からの暴動煽動のことなど、御存知ないでしょう?
海外のタミル虎の燐子は資金力もあります。陸軍の存在力なかりせば、内戦後の復興開発が大規模に進むことなどありえなかったのです。【8月7日 ジオ通信】http://blog.livedoor.jp/ohju/archives/30453892.html
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ジャフナ近況 復興と問題点
復興が進む北部州の中心都市ジャフナの近況について、下記のように報告されています。
進まない地雷撤去の問題や、政府軍が軍事施設として収容した土地の問題もあるようです。

****ジャフナの近況#1 -変わりゆく町の風景-****
これからしばらく、開発が進み活気づきつつある一方で、残された課題・新たな課題に直面するジャフナの現状をお伝えします。

内戦終結から4年が経ち、町の開発が大きく進みつつあります。ジャフナの町には、それまでなかったような4階建、5階建の大きなビルも建ち始めました。
ずっと建設が止まっていた町の中央にある商業ビルも最近増築が急速に進み、やっと上層階にテナントを入れる準備ができつつあるようです。

また、海外での需要が高いスリランカのカニの身をコロンボの輸出業者に送るための作業をする加工工場もこの1年の間に複数建設されました。新しく衛生的な工場には70人-100人の若い女性たちが朝から夕方まで働いています。

穴だらけでガタガタだった、ジャフナと南の主要都市アヌラダプラ、キャンディをつなぐ幹線道路のA9道路のワウニア以北の改修工事も昨年にはすべて終了し、今ではきれいな舗装された道路となりました。
大型トラックやバスの通行量も増えました。コロンボへの移動も以前は半日かかっていたのが、今では8-9時間ほどで移動できるようになっています。

こうして開発が進み、町が再び活気を取り戻しつつある一方で、残された課題、そしてそれまでなかった新たな課題も浮かび上がりつつあります。

残された課題の一つとして、ムライティブ日誌にもありますが、ジャフナでも一部地域での地雷除去作業が今も続いています。

A9道路沿いのモハマーレ地域は、2002年から2009年までLTTEと政府軍の軍事境界線となっていたところで、紛争中に多くの地雷が埋められました。地雷除去が続いていますが、一向に地雷マークが撤去される気配はなく、手作業で進められる地雷除去作業には気の遠くなるような時間が必要なことを実感します。

また、ジャフナやムライティブなどスリランカ北部には、いまだ軍の主要基地などが置かれ、村の人たちが立ち入れない地域(ハイ・セキュリティ・ゾーン:HSZ)が残されています。

これらの地域は内戦中に政府軍が軍事施設として使用していたもので、人々は20年以上の間、自分の土地がある村を離れて親戚の家に身を寄せたり、キャンプで暮らしたりしてきました。

ジャフナ北部のワリカム・ノース郡のHSZは今後、国際空港や国際港や軍事施設等として使用される予定です。
この5月に政府はジャフナ県の6,381ヘクタールのHSZを正式に政府の土地として接収し、土地の所有者に4億ルピーの補償金を出すと発表しましたが、所有者たちは反発し、政府の方針に反対するデモを行っています。

タミル系政党のTNAは、政府の措置によって9,900世帯(35,000人)が土地を失うこととなり、土地の所有者とともに裁判所に5,000件以上の提訴を行うとしています。今後の解決の先行きはまだ見えません。
(ジャフナ事務所 西森光子)【5月22日 PARCIC 現地レポート】http://www.parcic.org/report/srilanka/s_diary/4056/*********************

スリランカ中央と結合することで経済環境も変化しており、復興から取り残される地元住民の問題も報告されています。

****ジャフナの近況#2 -浮かびあがりつつある新たな課題(その1):漁業への影響****
前回、内戦後にスリランカ北部を走る主要な幹線道路のA9が修復され、スリランカ南部から北部への行き来が容易になったことをご紹介しましたが、その結果、以前よりも多くの人・物資が行き来するようになり、新たな変化を起こしつつあります。

道路だけではなく海の行き来も自由になり、漁への影響も出ています。今回は、私たちが事業でかかわっている漁業分野での変化をお伝えします。

漁業への影響の一つとして、内戦中はスリランカ北部にほとんど来ていなかった冷凍車がコロンボから大量に流入するようになり、漁師さんが獲った魚の価格がコロンボ市場の価格に合わせてその場ですぐに引き上げられるようになりました。

その結果、ジャフナ市場での鮮魚価格が上がり、時に地元の人が買えなくなっています。また、私たちの乾燥魚事業の女性グループも以前は獲れすぎた魚を漁師さんに安価で売ってもらっていたのが、今ではすべて冷凍車に流れてしまい、魚を買えず干物が作れないと嘆いています。

他方、陸路だけでなくこれまでは内戦で容易に移動できなかった海路での移動も楽になり、海を通っての人々の行き来も増えています。

ここ数年はジャフナやムライティブなどスリランカ北部の漁場に、ネゴンボやチラウ、プッタラムなどスリランカ中南部から多数の漁業者がやって来るようになりました。
砂浜に簡易な小屋を建てて暮らし、季節的に漁をしています。

自分たちの漁場で時にダイナマイトや強力なライトなどスリランカで違法とされる手法で漁が行われ、それらに怯えて魚がやって来なくなることから、タミル人の漁民は怒るとともに困惑しています。

加えて、隣国インドから来るトロール漁船との漁場を巡る衝突もたびたび起きており、これらの漁場をめぐる問題が地元の漁業に悪影響を与えているとジャフナの漁業関係者は頭を抱えています。
漁業権の設定、漁業規制、養殖などの育てる漁業の導入など、漁業資源の枯渇を防ぐ取り組みが必要とされています。

こうした状況から、魚の価格が上がっても漁師さんたちは十分な漁獲が得られず、稼げないと嘆いています。
特に、漁具を持たず漁業労働として働いている大部分の漁業者は鮮魚価格の上昇の恩恵を受けられず、生活は貧しいままです。

そのため、よりよい稼ぎの仕事を求めて、スリランカ北東部の海岸からオーストラリアに違法渡航する人たちが後を絶たちません。次回はオーストラリアへの違法渡航の現状をお伝えします。
(ジャフナ事務所 西森光子)【8月28日 PARCIC 現地レポート】http://www.parcic.org/report/srilanka/4584/******************
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