goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  高まる宗派対立再燃の懸念 来年総選挙に向けた政治的緊張も

2013-05-07 22:43:50 | 中東情勢

(混乱の発端となった北部キルクーク県ハウィージャ シーア派主導のマリキ政権に抗議するスンニ派住民 “flickr”より By 757Live http://www.flickr.com/photos/757live/8674019149/)

政権基盤のシーア派、少数派のスンニ派、自治を求めるクルド人
アフガニスタンでは14年末の米軍撤退をにらんだカルザイ政権やタリバン側の動きがありますが、その先例ともなるイラクでは、11年末の米軍撤退後も、数年前の激しい宗派対立に比べれば、これまではマリキ政権のもとで一応の落ち着きを見せていました。

しかし、マリキ政権の基盤となるシーア派と少数派スンニ派の対立がマリキ政権の強気の姿勢もあって、特に4月以降激化しており、宗派対立の再燃も懸念されています。
06〜07年にはシーア派聖廟爆破事件を機に宗派対立が激化し、5万人以上が死亡したとされています。

更に、以前からあるクルド人自治区と中央政府の対立も緩和しておらず、今後はシーア派、スンニ派、クルド人の三つどもえの混乱の不安もあります。

****イラク政治危機先鋭化 宗派対立が激化 4月以降の死者460人****
■クルド人自治区も緊張
イラクでマリキ首相が主導する多数派のイスラム教シーア派勢力と、少数派のスンニ派との政治対立が先鋭化している。治安回復の兆しはなく、1日には中部ファルージャなど各地でテロにより少なくとも15人が死亡、テロや衝突などによる4月以降の死者数は460人以上に達した。宗派抗争の再燃を懸念する声も強まる中、北部キルクークをめぐる中央政府と北部クルド人自治区との緊張も高まっており、政治の先行きの不透明さに拍車をかけている。

「宗派間の内戦に戻ってはならない」。4月下旬、マリキ氏は国民に、2006~07年に頂点に達した宗派抗争の再来を警告した。
イラクでは4月、北部にあるスンニ派の町ハウィージャで、マリキ氏退陣を求めるデモ隊と治安当局が衝突。暴力は各地に飛び火し、230人以上が死亡した。マリキ氏の声明はこうした状況への危機感を表明したものだ。

しかしスンニ派勢力には、マリキ氏こそが対立を先鋭化させている元凶だとの批判が強い。マリキ政権は11年末の駐留米軍撤退後、対立するスンニ派中心会派イラキーヤへの圧迫を強めており、そうした態度がスンニ派の反発を呼んでいるというわけだ。
イラク当局が最近、ハウィージャでの衝突をめぐり政府に批判的な報道をした衛星テレビ局など10局に営業停止を命じたことも、マリキ政権の強権姿勢のあらわれだとみなされている。

こうした中、イラキーヤ所属のヌジャイフィ国民議会(国会に相当)議長は4月29日、マリキ内閣の総辞職と、選挙管理内閣の下での早期の総選挙を求めた。
ただ、マリキ氏率いるシーア派会派「法治国家連合」は、4月の地方議会選で投票が行われた12県のうち少なくとも8県で優勢を維持するなど、シーア派の国民を中心に一定の信任を得ている。マリキ氏に取って代わる政治勢力は育っていないのが現実だ。

一方、ハウィージャに近く、中央政府とクルド自治政府との係争地となっているキルクーク周辺には27日、クルド側が「治安の空白を埋めるため」として部隊を派遣。中央政府はこれを、政治混乱のどさくさにまぎれてキルクークの油田地帯を押さえようとする動きだとみて強く非難した。
クルド側と中央政府の双方とも本格的な軍事衝突は避けたいのが本音とみられるが、当面は緊張状態が続く可能性がある。【5月2日 産経】
********************

上記記事では“テロや衝突などによる4月以降の死者数は460人以上に達した”とありますが、国連イラク支援派遣団(UNAMI)が発表では、テロなどの暴力事件による死者が4月の1カ月間だけで712人に上ったとのことです。

****4月の犠牲者、08年以降最悪=イラク****
国連イラク支援派遣団(UNAMI)は2日、イラクにおけるテロなどの暴力事件による死者が4月の1カ月間だけで712人に上り、2008年6月以降最悪だったと発表した。負傷者は1633人に達した。死者のうち595人は民間人だった。(後略)【5月3日 時事】 
*******************

シーア派主導の現政権に対するスンニ派住民の不満に、治安部隊の強硬な対応が火を付けた
4月23日、北部キルクーク県ハウィージャで治安部隊がスンニ派反政府デモを攻撃し、53人が死亡した事件で事態は急激に悪化し、北部スレイマンペックで4月24日、スンニ派武装勢力が治安部隊との戦闘のうえ一帯を2日間にわたって占拠するなど暴動が拡大、27日までの5日間で少なくとも215人が死亡したと報じられています。

****イラク、内戦再燃の恐れ 宗派対立、5日で200人超死亡****
イラクで、イスラム教スンニ派武装勢力と治安部隊の戦闘が急拡大している。AFP通信によると27日までの5日間で少なくとも215人が死亡、300人が負傷した。宗派間の暴力の連鎖で2006~07年ごろの内戦状態に逆戻りする懸念が出ている。

同通信などによると、北部モスルで24日夜、武装勢力が警察本部などを襲撃し、少なくとも武装勢力31人、警官15人が死亡。
北部スレイマンペックでは24日、武装勢力が治安部隊との戦闘のうえ一帯を2日間にわたって占拠。
北部シルカでは原油パイプラインが爆破された。
西部ファルージャでも25日、武装勢力が警察本部を襲撃。バグダッドでは26日、市内外で4カ所で爆発があり、27日にも戦闘で10人が死亡した。

マリキ首相は27日のテレビ演説で、宗派対立が「他地域で始まったことでイラクにも戻ってきた」と述べ、内戦状態に陥った隣国シリアの影響を示唆した。

発端は23日、北部キルクーク県ハウィージャで治安部隊がスンニ派反政府デモを攻撃し、53人が死亡した事件。スンニ派が報復を呼びかけ、衝突が拡大した。大油田のあるキルクークはアラブ人とクルド人が領有を争う係争地でもあり、クルド地域政府は27日、治安維持のため民兵組織ペシュマルガをキルクーク近郊に配備した。
スンニ派の間では、多数を占めるシーア派が主導する現政権への不満が大きい。【4月28日 朝日】
*********************

最近の混乱の背景としては、“イラクでは03年のフセイン前政権崩壊後、米軍が駐留してきたが、治安が安定せず、経済の復興が進んでいない。スンニ派、シーア派、クルド人などの政治勢力が権力争いを続け、物価高や失業問題を改善できない政治に国民の不満が高まっていた。
特にフセイン政権下で優遇されてきた少数派のスンニ派は、シーア派主導のマリキ政権下で軽視されているとの不満が根強く、昨年12月ごろから反政府デモを活発化。国際テロ組織アルカイダ系のスンニ派過激組織によるシーア派に対するテロも頻発している。”【4月28日 毎日】と指摘されており、“物価高や失業問題を背景に、シーア派主導の現政権に対するスンニ派住民の不満が高まっていたところに、治安部隊の強硬な対応が火を付けた格好”【同上】となっています。

総選挙の前哨戦でマリキ首相派が勝利したものの、支持には陰り
こうした情勢のなかで4月20日に、2011年末の米軍撤退後の初選挙となる地方選挙が行われており、来年の総選挙の前哨戦として結果が注目されていました。
結果は、シーア派のマリキ首相率いる「法治国家連合」が12州のうち7州で勝利し、“シーア派の国民を中心に一定の信任を得ている”【前出 産経】とのことですが、その支持には陰りも見られるという微妙なものでした。

****マリキ首相派が南部中心に勝利 イラク地方選挙****
イラク選挙管理委員会は4日、先月20日投票の地方選挙の結果を発表した。イスラム教シーア派のマリキ首相率いる会派「法治国家連合」が12州のうち7州で勝利したが、圧勝した前回2009年と比べて支持に陰りが目立った。
11年末の米軍の完全撤退後初の全国選挙で、来年の総選挙の前哨戦としても注目された。

同連合はバグダッド州で58議席中20議席を得たほか、油田地帯のバスラなどシーア派住民が多数を占める南部中心に勝利した。だがどの州でも単独過半数には及ばなかった。

投票率は前回とほぼ同じ約51%。全18州のうち北部クルド地域3州や治安上の懸念から延期された西部アンバル州などを除く12州の地方評議会で実施された。選挙戦を通じてテロなどで十数人の候補者が殺害されたが、投票日当日に大きな混乱はなかった。(ドバイ)【5月6日 朝日】
*******************

なお、“選挙は、スンニ派のデモが続いた西部アンバル州や北部ニネベ州、帰属争いにより選挙関連法案が未整備の北部キルクーク州のほか、クルド自治区3州では別日程で行われる見通し”【4月20日 時事】とのことで、選挙の実施が困難な地域も存在しています。
“選挙戦を通じてテロなどで十数人の候補者(378議席に対して候補者8000人以上が出馬)が殺害された”ことも併せて、来年総選挙に向けてさらに政治的緊張が高まることが推測されます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする