孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  5歳児が「子供向けライフル」で妹を誤射 繰り返される銃依存社会の悲劇 それでも・・・

2013-05-05 21:31:46 | アメリカ

(子供向けライフル“Crickett”のCM ピンクのライフルを抱えたお嬢ちゃん ママの銃口が子供の頭に向いているのも怖い感じですが・・・ “flickr”より By Allen Gathman http://www.flickr.com/photos/agathman/8703962171/

【「ワシントンにとって非常に恥ずべき日だ」】
先月15日に起きたボストンマラソン爆発テロの陰に隠れた感もありましたが、オバマ政権が主導してきた銃規制法案が同時期に上院で否決・廃案となっています。
比較的国民的支持も高い銃販売時の身元調査を強化する法案であり、当初検討された銃規制としては最低限の規制でしたが、それすら全米ライフル協会の強力なロビー活動もあって成立させることができませんでした。

*****米国:銃規制強化法案、否決・廃案に*****
米上院(定数100)本会議は17日、現在は登録販売業者だけに義務づけられている銃購入者への犯罪歴などの身元調査をインターネットを通じた販売や銃の展示即売会にも広げる銃規制強化法案を採決した。
賛成は可決に必要な60票を下回る54票で法案は否決・廃案となった。オバマ大統領が2期目の中心課題の一つに掲げる銃規制強化が事実上頓挫し、政権への大きなダメージになりそうだ。

法案は民主、共和両党の有力議員がまとめた。上院で民主党は55議席(無所属2議員含む)を保持するが、大統領が強く主張してきた殺傷能力の高い銃器の販売を禁止する法案は可決ラインに遠く及ばないと判断。米国民の9割が支持する身元調査強化の法案について、共和党を巻き込んで可決を目指した。
しかし、足元の民主党で5人が反対。今回のような重要法案の可決に必要な60票は得られなかった。

米国では、犯罪歴などのある人の銃所持を禁じており、登録販売業者は購入希望者の身元調査を連邦政府に照会することが義務づけられている。ただ、インターネットや展示即売会は対象外で、銃販売の約4割が身元調査なしに行われている。こうした販売を規制し、危険な人物が銃を入手しにくくするのが法案の狙いだった。

米連邦議会で包括的な銃規制法案が審議されるのは1994年以来約20年ぶり。昨年12月に児童ら26人が殺害された米東部コネティカット州のサンディフック小乱射事件を受け、オバマ大統領は殺傷能力の高い銃器の販売規制などに取り組む姿勢を鮮明にした。

しかし、米国憲法修正第2条は武器保有の権利を明記しており、全米ライフル協会は規制の動きは銃を持つ権利への無用な侵害だと反発しロビー活動を強めていた。このため、反対の共和党に加え民主党でも14年の中間選挙を意識した慎重論が出ていた。今回反対した民主党5人のうち3人は中間選挙で改選を目指すアーカンソー、アラスカ、モンタナの現職。米メディアによるといずれも苦しい戦いが予想されている。【4月18日 毎日】
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オバマ大統領は、「ワシントンにとって非常に恥ずべき日だ」「この取り組みは終わらない。これは1回戦にすぎない」と語り、引き続き銃規制強化を目指す考えを明らかにしています。

年間6万丁販売される子ども向けライフル
そうした状況にあって、南部ケンタッキー州で4月30日、ライフル銃で遊んでいた男児(5)が、誤って妹(2)の胸を撃ち死なせる事件が起きています。
使われたのは「マイ・ファースト・ライフル」をキャッチフレーズに、子ども向けに売られているライフル銃で、男児にプレゼントされたものだそうです。

おそらく私を含め、このニュースを聞いた多くの日本人は「子供向けのライフル?なんじゃそれは?」という印象を持ったのではないでしょうか。

****初めてのライフル」で妹を射殺、相次ぐ悲劇に揺れる米社会****
5歳の男児が2歳の妹を誤ってライフルで射殺した事故は、米国でこれまで幾度となく繰り返されてきた銃についての議論を再燃させた。

ケンタッキー州カンバーランド郡で4月30日に起きたこの事故を引き起こした22口径ライフルは、「マイ・ファースト・ライフル」のキャッチコピーで子ども向けに販売されていた「クリケット」というブランドだった。この銃は事故当時、兄妹の自宅の部屋の片隅に、弾丸一発が装填された状態で置かれていた。

今回が他の似たような事故と異なるのは、銃が男児のものであったという点だ。ライフルは昨年、プレゼントとして買い与えられていた。

「常軌を逸した事故の一つにすぎない」。カンバーランド郡検視官のゲイリー・ホワイト氏は、地元紙レキシントン・ヘラルドリーダーにこう語った。「子ども向けの小型ライフルだった…男児は、この小さな銃を撃つことに慣れていた」

クリケットのメーカー側は、この件について今のところコメントを出していない。この銃はグリーンとブルーの他、女の子向けとしてピンク色のモデルも販売されている。コネティカット州ニュータウンのサンディフック小学校で子ども20人と大人6人が犠牲になった銃乱射事件の衝撃にいまだ揺れる米国で、今回の事故は新たな怒りの声を生み出した。

銃規制を呼びかけるロビー団体「Americans for the Protection of Children(子どもを守る米国人)」は、「クリケット、全米ライフル協会(NRA)とその支持者らが、われわれの子どもたちに向けて銃を販売するのを阻止する」ためのオンライン請願運動を立ち上げた。

一方、NRAはテキサス州ヒューストンでの年次総会に合わせ、子ども向け銃のメーカー各社を招いて「若者の日」を5日に開催する予定だ。請願運動はこれを「恐ろしいことだ」と批判している。

■年間6万丁販売される子ども向けライフル
2日の時点ですでにアクセス不可能となっているクリケットのウェブサイトには、ライフルを扱う子どもたちの写真、数十枚が掲載されていた。中には迷彩柄のロンパースを着て、膝に置かれた銃をしっかりとつかむ赤ちゃんの写真もあった。

クリケットの製造元でペンシルバニア州に本社を置くキーストーン・スポーティング・アームズは、同ブランドのライフルを販売初年の1996年に4000丁、2008年には約6万丁を販売したとしている。

同社は「銃を使う若者たちに安全性に対する意識を植え付け、狩猟や射撃に必要かつふさわしい知識と敬意を身に着けるよう奨励する」ことを目指しているとうたう。

重さわずか1.1キログラムで銃身40センチメートル、全長が76センチのクリケットは、一度に一発しか撃つことができない単発式で、引き金はロックすることができる。モデルごとに異なる価格は110~140ドル(約1万1000~1万4000円)で、大手小売店ウォルマートで簡単に購入できる。

銃に関する意見交換サイト「ファイアリング・ライン」には、わが子にライフルを買い与えた親たちが集まり、その経験について熱のこもった書き込みをしている。中には、3歳の子に銃を与えた親もいる。

「息子が私と一緒に銃声を聞きたがるのでワクワクしている。息子が何を撃とうが構わない。今の時点では、何でも『大当たり』だ」。ユーザー名「Saltydog235」さんは4歳の息子について、2010年にこう書き込んだ。「息子には今、銃の安全性と扱い方について教えている。今の時点では、正確さよりもその方が重要だ」

■子どもは「新たな顧客層」
非営利組織(NPO)「バイオレンス・ポリシー・センター」のジョシュ・シュガーマン事務局長は、米国には「さまざまな種類の」銃が幼い子ども向けに販売されていると指摘。
米ABCニュースに対し、「ここ数十年にわたり銃の所有者数は減り、銃器産業は衰退を続けている。たばこ(産業)と同じように、銃産業には新たな顧客層が必要なのだ」と説明した。「子どもたちを将来の銃の消費者として取り入れるには、幼いうちが最も効果的だ」

米国児童青年精神医学会によると、米国では年間、10代の若者と子ども合わせて3000人以上が銃により死亡し、1万5000人以上が負傷している。これはつまり、イラク戦争があった約9年間において、米兵の死者数を上回る子どもたちが犠牲になったということだ。

今年4月初めには、ニュージャージー州で4歳の男児が一緒に遊んでいた6歳の男児の頭部を撃つ事件が、その2日前には、テネシー州で家族とバーベキューをしていた4歳児が女性を撃ち死亡させる事件が起きている。【5月4日 AFP】
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すでに多くの銃が社会に存在し、自分・家族の身を守るために銃が不可欠だとする考え、常に銃とともに歩んできたアメリカ社会の文化・伝統・・・などの議論はありますが、小学生にもならない子供に「子供向けライフル」を買い与えて嬉々としている社会、その一方で夥しい銃による犠牲者を出し続ける社会というのは、やはり議論の出発点でボタンを掛け違えている「常軌を逸した社会」のように思えます。
何とか理由をつけることで銃を手放せない様子は、薬物依存にも似た銃依存的な社会病理症状を感じます。

【「われわれは米国人であることを誇りとし、自らの自由を守っていく」】
3日から始まった全米ライフル協会(NRA)の年次総会では、「我々の自由が、かつてない危機に脅かされている」「我々は権利を守る姿勢から、絶対に後退しない」と、あくまでも銃規制に反対していく強硬な姿勢をあらわにしています。

****全米ライフル協会が年次総会、幹部「自由が攻撃の対象に*****
米国の銃愛好家らでつくるロビー団体、全米ライフル協会(NRA)の年次総会が3日、テキサス州ヒューストンで始まった。同協会の幹部らは、わずか数人の犯行によって法律を順守するすべての銃保持者が非難されているとし、このような非難は止めるべきだと強調した。

NRAの幹部クリス・コックス氏は「われわれの自由が、かつてないほどの攻撃の対象となっている」と指摘。「混乱した犯罪者が無実の子どもを殺害すると、われわれの責任とされる」と述べた。

テキサス州のリック・ペリー知事は「正常でない、悪意に満ちた人物が恐ろしい事件を起こした場合」、新たな規制法案を加えようと銃規制派が呼び掛けを始めるとし、そのような法案は法律に従う米国人が銃を持つことをより困難にさせるだけだと語った。

またNRAのウェイン・ラピエール副会長は、「われわれは米国人であることを誇りとし、自らの自由を守っていく」と述べた。

年次総会は5日まで開催され、会合や展示などが行われる。主催者は約7万人が来場すると予想している。今回の大会は、昨年12月にコネティカット州の小学校で児童を含む26人が死亡した銃乱射事件の発生以来、初めての開催となる。【5月5日 ロイター】
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オバマ大統領は、先述のように「この取り組みは終わらない。これは1回戦にすぎない」と、引き続き規制強化に取り組む姿勢を崩していませんが、“大統領は今後、巻き返しに出る構え。しかし、米メディアによると議会で検討中の修正案は犯歴確認などを購入者の自発的な意思に基づかせるなど「ザル法」ばかりだ。”【5月5日 時事】とも報じられています。

銃規制問題でいつも感じるのですが、これだけ銃に関する認識が日本とアメリカでは異なる訳ですから、その差は銃だけにとどまらず、国家的な安全保障とか戦争への対応に関しても基本的な部分で日米の意識・価値観の差があるのではないでしょうか。

安全保障面において日本はアメリカと行動を共にすることが多い立場にあるわけですが、そうした日米の意識・価値観差が存在することは常に留意しておく必要があるように思います。

コメント
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