(ティラワ経済特区を視察する安倍首相 ティラワ港は水深が浅く、大型船舶が入港できないという問題もあるようです。 “flickr”より By Kevin Thant http://www.flickr.com/photos/95162959@N07/8851419145/)
【「ミャンマーの独立時から、日本とミャンマーは特別な立場にある」】
テイン・セイン大統領のもとでの民主化の進展とともに、欧米との関係を改善しつつあるミャンマーには経済進出を狙う各国政府・企業・投資家などから熱い視線が向けられており、その活況ぶりはさながら「ゴールドラッシュ」の様相を呈しているそうです。
****ミャンマーの「ゴールドラッシュ」、商機求めて外国人が集まる****
軍事政権による支配が終わり、欧米による経済制裁の緩和が進むミャンマーが「ゴールドラッシュ」の様相を呈している。経験豊かな投資家から急いで作った名刺と一獲千金の夢のほかは何も持っていないような新卒者まで、さまざまな人々が商機を得ようと海外から押し寄せている。かつては閑散としていた最大都市ヤンゴン西部では商業が活発化している。
ホテルはどこも満室で、ヤンゴンで契約をまとめようと来た人々の話し声は夜になってもやまない。ホテルのロビーは、パソコンに向かい、雇用に積極的な海外企業とスカイプで話す外国人客でいつもごった返している。
(中略)殺到する外国人は万人に歓迎されているわけではない。一部のミャンマーの年配者は、横柄なタイプの新参者は皆、ミャンマーについての知識もほとんどないのに、抜け目がなく、将来の非現実的な計画ばかり議論すると不満をもらす。
ただ、ミャンマーの人々の多くは外国の専門技術から学ぶのを喜ばしいと思っており、それが、停電や通信速度が遅いインターネット、高い家賃、融通の利かない官僚主義にもかかわらず多くの外国人がヤンゴンにとどまっている理由のようだ。【5月28日 AFP】
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以前観光で二度訪れたヤンゴンが“閑散としていた”とは思いませんが、現在の状況は“沸騰都市”のようです。
当然ながら、歴史的にも、経済的にもミャンマーとは深いつながりを持つ日本も進出の機会を狙っていますが、昨日取り上げたアフリカ同様に、ミャンマーにおいても経済制裁が行われていた軍事政権時代に中国が関係を強化し、日本は大きく水をあけられた状態にあります。
ただ、アフリカと異なり、ミャンマーでは政権が軸足を中国からアメリカに移しつつあり、民主化の機運も高まっていることから、日本も活路が見つけやすい状況ではあります。
遠いアフリカより、近くて関係が深いミャンマーの方が何かと手っ取り早いのも現実です。
ミャンマーを訪問した安倍首相は、すでに発表されていた510億円の円借款に400億円の無償資金・技術協力を上乗せして総額910億円のODAを今年度末までに供与することを明らかにしました。
****日・ミャンマー首脳会談:首相、ODA910億円供与表明*****
安倍晋三首相は26日午前(日本時間午後)、ミャンマーのテインセイン大統領と首都ネピドーの大統領官邸で会談した。首相はミャンマーの経済改革や民主化に向け、総額910億円の政府開発援助(ODA)を2013年度末までに供与し、電力などのインフラ整備を支援する方針を表明。
会談後、両首脳は「永続的な友好協力関係を築く」とする共同声明を発表した。
首相は首脳会談後の共同記者発表で、「ミャンマーの民主化、法の支配確立、国民和解を官民総動員で応援する」と強調。経済協力に限らず、防衛協力や文化・人的交流も進める考えを示した。
一方、テインセイン氏は「ミャンマーの独立時から、日本とミャンマーは特別な立場にある。36年ぶりの日本の首相の訪問で、両国間に新しいページを開くことができた」と述べた。
首脳会談は予定より40分長い約90分間行われ、首相は対日延滞債務の残額約2000億円を免除する方針を表明。日本企業が進出を図るヤンゴン近郊の「ティラワ経済特区」の15年開業に向け、一層の協力を図ることも伝えた。
ミャンマーに対する支援は、同国の経済発展を日本経済の再生に取り込むのが狙い。首脳会談で、テインセイン氏は「人材、技術を外国から導入したい」と語り、日本の技術支援や日本への農産物輸出に期待感を示した。首相も前向きに検討する考えを示した。(後略)【5月26日 毎日】
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【中国への不信感・反発も】
中国依存を薄めたい思惑があるミャンマー側の日本への反応も悪くはないようです。
****ミャンマー支援 日本への期待 背景に嫌中感****
ミャンマー政府は、安倍晋三首相が26日のテイン・セイン大統領との会談で表明した支援策を、「国づくりへの支援」と受け止め極めて高く評価している。「世界の支援が必要だ」とする大統領の、軍事政権時代から良好な関係にある日本に対する期待は、中国に反し高まるばかりだ。
欧米のミャンマーに対する経済制裁の下で、日本企業は投資などを手控え、この間に中国企業などの著しい進出を許した。
1989~2011年度までの累積投資認可額をみると、1位は中国(139億6100万ドル)、2位はタイ(103億6700万ドル)。日本は13位(2億2300万ドル)と後塵(こうじん)を拝している。ミャンマーにすれば、日本や欧米から投資などを呼び込む余地はそれだけ大きく、安倍首相の支援表明を高く評価しているゆえんだ。
国際通貨基金(IMF)は、ミャンマーの13年度の成長率を6・75%と予測している。ミャンマー側には、経済改革と成長をさらに加速させるうえで「最も安定した信頼できる支援国は日本だ」(政府筋)との認識がある。とりわけ、国民生活の向上と海外投資の拡大を図るうえで、インフラ整備への期待が強い。
大統領は4月に中国を訪問し習近平国家主席と会談するなど、中国との良好な関係もむろん、維持しようとしている。だが、民政移管後のミャンマーの振り子が、中国から米国へ振れるにつれ、「中国との要人の往来は質量ともに低下している」(消息筋)という。
中国企業はというと、通信サービス大手の中国移動(チャイナ・モバイル)が携帯電話事業免許の取得に動くなど依然、活発だ。
しかし、ミャンマーには「中国は資源を略奪するだけで、雇用創出や技術供与などの利益をもたらさない」との嫌中感が根強い。現に、ラカイン州と中国雲南省を結ぶガス・石油パイプラインの建設、カチン州における水力発電ダムの建設、ザガイン管区での銅鉱開発など、中国が出資する共同開発の多くが地元住民の反発に遭っている。
また、中国は最大の輸入相手国であり、対中貿易赤字はミャンマーも例外ではない。地元のエコノミスト、アウン・タン・セット氏は「安倍首相の支援は雇用創出などにつながる。中国の投資を低減させるために、品位がある日本の投資を増やすときだ」と指摘する。【5月27日 産経】
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【高揚する住民の権利意識と軍政期を連想させる強引な行政手法がぶつかる】
テイン・セイン大統領との会談に先立ち、安倍首相は日本企業進出の舞台となるティラワ経済特区を視察し、また、今後の民主化において中心的役割が期待されている最大野党指導者アウン・サン・スー・チー氏とも会談して関係強化を図っています。
****安倍首相がミャンマーの経済特区を視察、スー・チー氏と会談も****
ミャンマーを訪問中の安倍晋三首相は25日、軍事政権時代に停滞したミャンマー経済のてこ入れに向けてあらゆる支援を実施すると明言し、同国最大都市ヤンゴン近郊のティラワ(Thilawa)経済特区をミャンマー発展の象徴として称賛した。
日本企業がミャンマーの経済発展に寄与する可能性を強調している首相は、面積2400ヘクタールで、港湾と工業団地を備えた同経済特区を視察した。首相は今回の訪問で、インフラ建設を中心に日本企業の専門技術をミャンマーに売り込む。
一方のミャンマーは経済再生のための投資を切実に必要としている。ミャンマーのセッアウン国家計画・経済開発副大臣は「ティラワ経済特区は、官民両面で二国間関係の画期的な出来事だ」とコメントし、雇用や期待が高い技術支援の面で「ミャンマーと日本の企業関係者の短期的成功を創出するだろう」と付け加えた。同特区の環境影響評価は8月に完了する予定だとしている。
日本の首相のミャンマー訪問は、1977年以来36年ぶり。安倍首相の今回の訪問には日本の有力企業40社の幹部が同行している。 首相は25日にヤンゴン市内で、ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)氏と会談した。26日には首都ネピドーでテイン・セイン大統領と首脳会談を行った。【5月26日 AFP】
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ヤンゴン郊外に開発が進む「ティラワ経済特区」には、日本政府が既に表明したミャンマーへのODA510億円のうち200億円がインフラ整備に投入され、9月には着工予定です。
ただ、民主化のなかで高まる住民の権利意識もあって、立ち退き補償問題を抱えているようです。
*****ミャンマー経済特区:立ち退き要求に住民反発「補償を」*****
ミャンマーの最大都市ヤンゴン近郊で日本が官民を挙げて主導する「ティラワ経済特別区」の開発を巡り、住民が立ち退き補償を求めてミャンマー政府と対立している。
日本の「ミャンマー支援」を象徴する大規模プロジェクトの現場を舞台に、高揚する住民の権利意識と軍政期を連想させる強引な行政手法がぶつかり合った格好だ。2015年の一部開業を目指す計画に影響する可能性も出ている。
ヤンゴンの南東25キロ。ティラワ港の後背地に水田地帯が広がる。造成予定地はその一角の6000エーカー(約24平方キロ)で東京ドーム510個分だ。今は熱帯モンスーンの雨期に入り、例年なら耕作風景が見られるはずだが、水田は土色の地肌をさらしている。
「『工業団地ができるので今年はコメを作らないように』と政府から言われたんです」。東京ドームの面積に近い11エーカー(約440アール)の土地を持つ農民のブレサミさん(41)が言った。この国の土地はすべて国有で、農民が持つのは使用権だ。
今は豪雨に備え、ニッパヤシの屋根のふき替えを終えている時期でもある。だが「家は捨てるのだから」と放置していたところ、補償金額も移転先も決まりそうになく急ぎ補修の準備を始めた。
予定地住民の大半は農民だ。補償金を求める381世帯の代表、ミャーラインさん(67)を自宅に訪ね、「要求額が法外ではないか」と問い掛けた。
予定地に隣接して政府分譲の工場用地があり、最近1エーカー当たり2億7000万チャット(約3000万円)で取引された。ミャンマーの土地高騰の一事例として不動産誌も紹介。彼はこれを引き合いに、「補償金は農地法に基づき現在の相場で算出するよう訴えている」と聞いたからだ。10エーカーを持つ彼の場合、満額だと3億円。国の公務員の月給は1万円ほどだ。
実は、軍政期の1997年、予定地一帯で当時の住民を対象に工業団地造成に伴う土地収用の補償として代替地あるいは1エーカー当たり1万〜2万チャットが支給された。補償金は今の貨幣価値で3万〜6万円に相当する。
ティラワ一帯は軍政期に権勢を誇ったキンニュン元首相のお膝元。何の補償もない住民の強制移住など日常茶飯事だった当時としては「まともな扱いだった」(地元関係者)。だが、当時の造成計画は宙に浮く。当局は収用した農地について、補償金を受け取った農民や新たに入植した農民に5年期限で貸し出し、農民は使用料をコメで物納した。満期後、農民は1エーカー当たり1円にも満たない使用料を当局に納め、耕作を続けてきた。
こうした経緯から、ミャーラインさんは「以前の土地収用は無効」と主張し、「補償金の二重取り」ではないと否定する。予定地内の立て看板にはこう記した。「この土地は国家に税金を納めてきた農民の土地であり、当局が追い出す権利はない」と。農民で不動産業も営むセインタンさん(64)は「私たちは欲張りではありません。近辺の農地売買の相場1エーカー4000万チャット(約440万円)ほどでいい」と言った。
予定地近くでは今、外国人向けの高級アパートや住宅が建設中だ。しかも特区開発を主導するのは日本。開業の遅れを避けるため「当局は譲歩せざるを得ない」と踏んでいるのかもしれない。「言論の自由」が保障されたインターネットが普及し、検閲が廃止されて住民の後ろ盾になってくれそうなメディア、市民団体も存在する。
だが経緯を調べると、当局の手荒な退去命令に行き着く。当局は日本側に「立ち退き問題はない」と説明。一方で昨年末に両国政府が特区開発の協力覚書を交わした直後、住民を「不法占拠者」扱いし、文書で「2週間以内に退去せよ。従わなければ30日間、刑務所に拘留する」と通告した。住民の移転先も用意していない。
その後、当局は退去命令を「延期」。ティラワ特区開発委員会のセッアウン委員長(副国家計画・経済開発相)は補償金について「受け取るべき者は受け取るべきだ」と述べた。ただ、97年の補償金支給後に住民が一部入れ替わるなどしており、対象者の絞り込みは容易でない。
経済開発に伴い「ティラワ」のような事例が頻発する可能性があり、経済発展を進める立場からは足かせになる。「民主化」のコストなのだろう。【5月25日 毎日】
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住民と政府の交渉がこじれると、中国による開発事業で紛糾したダム建設や銅山開発と似たような話にもなってきます。
【中国の巻き返しも】
その中国も日本や欧米の攻勢を座視している訳ではなく、“巻き返し”に出ているというようなことが今朝のTVで報じられていました。
スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)の大会に中国の代表が出席し、多額の資金援助を行うそうです。
これまでもスー・チー氏は中国との関係を否定はしていません。中国と民主化運動という異色の組み合わせではありますが、将来に保険をかけたい中国、中国の影響力を無視できないスー・チー氏側、双方の思惑があっての接近のようです。