孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

人権侵害批判のあるスリランカで開催される英連邦首脳会議にエリザベス女王欠席

2013-05-08 21:59:45 | 欧州情勢

(昨年6月にロンドンで開催されたエリザベス女王の即位60年を祝う英連邦首脳を招いた昼食会 前列中央がエリザベス女王、前列右端がスリランカ・ラジャパクサ大統領(白い服) “flickr”より By Commonwealth Secretariat  http://www.flickr.com/photos/comsec/7160243249/)

女王欠席は王位継承の布石
かつての大英帝国、イギリスにとってイギリス連邦首脳会議は極めて重要な意味がありますが、これまで毎回出席されていたエリザベス女王に代わって、今回はチャールズ皇太子が出席するとのことです。

****英女王が連邦会議を欠席へ、40年ぶり 高齢で公務削減****
英王室は7日、エリザベス女王(87)がスリランカで今年11月に行われる英連邦諸国の首脳会議に出席しないことを明らかにした。

英メディアによると、女王は2年に1回開かれる会議に1973年から毎回出席しており、欠席は71年以来約40年ぶり。王室は理由として長時間の移動による女王への負担を挙げており、高齢に伴い、負担の大きい公務を徐々に減らしていく方針だ。

今回はチャールズ皇太子(64)が代理で出席する。女王は存命中に退位する意向はないとされるが、チャールズ皇太子が代理を務める場面が増えそうだ。【5月7日 共同】
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イギリスでは、カミラ夫人との不倫でダイアナ元妃を死に追い込んだとして、王位継承順位1位のチャールズ皇太子は不人気でしたが、昨年6月の世論調査ではチャールズ皇太子の王位継承を支持したのは44%と、王位継承順位2位のウィリアム王子(38%)をようやく逆転しています。
これは、女王の即位60周年記念行事で、入院した父親のフィリップ殿下への気配りをみせたスピーチなどで、チャールズ皇太子の人気が上昇したとの分析もあります。【2012年6月12日 産経より】

まあ、なんとか国民の支持も高まってきたということで、今回のチャールズ皇太子代理出席はチャールズ皇太子への王位継承の布石を進めていこう王室の意向とも受け止められているようです。

人権侵害の疑いがある開催国スリランカへの批判・反発も
そうした王室問題のほかに、今回のエリザベス女王欠席は、会議開催国スリランカにおける内戦時の人権侵害、それを指導したラジャパクサ大統領に対する女王の不興を示すもの・・・との見方もあります。今朝のTVニュースなどは、そうしたスタンスでの報道を行っていました。

その生涯を通じてイギリス連邦を背負ってきたエリザベス女王としては、“品行の悪い”国家の存在には思うところもあり、また、強い政治的メッセージ発信も辞さないところでしょう。

スリランカでは09年に少数民族タミル人反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」との内戦が政府軍勝利で終結しましたが、内戦の最終段階で国連・国際社会の強い要請を無視して政府軍・LTTE双方が市民を無差別殺害した疑いが指摘されています。
そのため、問題国スリランカで英連邦首脳会議を開催することへの英国内からの批判・反発があります。

****スリランカ政権に強まる人権侵害批判****
(3月)12日から4日間の日程で訪日したスリランカのマヒンダ・ラジャパクサ大統領(67)に対し、スリランカ国内をはじめ欧米諸国の間で少数民族などへの人権侵害を批判する声が高まっている。

米国はジュネーブで開催中の国連人権理事会(UNHRC)の会合に、スリランカに説明と行動を求める決議案を提出する構えを見せており、内戦で行方不明になった市民の家族らは、人権理事会に対し、スリランカ政府に圧力をかけるよう求めている。

■内戦終結時に無差別殺害
スリランカでは、2009年に少数民族タミル人の反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」との内戦が終結した。国連専門家パネルは11年4月、内戦の最終段階で双方が市民を無差別殺害した疑いが強いと発表した。

12年3月の国連人権理事会の会合では、スリランカで起きた重大な人権侵害の疑いに政府は十分応えていないとして、スリランカ政府に行動と説明を求める決議案が米国やインドなどの賛成で採択された。

今月22日まで開催されている人権理事会の会合にも改めて決議案が提出される見通しで、スリランカ紙ミラー(電子版)によれば、7日に決議案の草案が理事国に示された。草案は前回と同様の内容に加え、現在も超法規的殺害や拷問をはじめ、人権活動家やジャーナリスト、司法の独立などへの脅迫や報復の報告が続いていることに懸念を表明している。

AP通信によると、内戦の最終段間で行方不明になった市民の家族の会は13日、国連人権委員会に向けてラジャパクサ政権により強い圧力をかけるよう求める書簡を送った。

■行方不明者は6万人超か
家族の会の代表、ブリット・フェルナンド氏は、昨年の決議では内容が甘く、何の結果ももたらさなかったとして、強い不満を表明した。フェルナンド氏は行方不明者の数は6万人に上ると主張しているが、スリランカ政府は行方不明者は1人もいないと強弁している。

スリランカではこれまで、解放のトラの指導者で内戦終結時に殺害されたベルピライ・ブラバカラン議長(1954~2009年)の息子(12)が、軍によって処刑されたとの疑惑が浮上しているほか、政権の意思にそぐわない判断を下した最高裁長官が国会で弾劾され、大統領に解任される事態になっている。
政府を批判していた記者が何者かに殺害される事件も発生した。

隣国、インドの議会では7日、タミル人に同情的な与党連合内政党などが政府に国連人権理事会で賛成票を投じるよう求め、煮え切らない政府側の答弁に抗議して退席する事態になった。
またタミル人が多く住むインド南部、タミルナド州のJ・ジャヤラリタ州政府首相(65)は先月21日、タミルナド州チェンナイで7月に実施が決まっていたアジア陸上選手権について、スリランカ選手団は受け入れられないとして開催を拒否。スリランカへの反発が強まっている。

■英連邦内でも反発
スリランカでは今年11月、かつて大英帝国に属した地域が対等な立場で作る英連邦の首脳会議が開かれる予定だが、英国の議員や識者からはスリランカでの開催に反対する声も上がっている。

ロンドン大学のジェームズ・マノール教授はインド紙インディアン・エクスプレスへの寄稿で、「英連邦はいくつもの一党支配国家の指導者に開かれた複数政党制を取り入れるよう説得し、選挙で敗れた指導者が権力にしがみつかないようにしてきた。こうした称賛すべき実績が無駄にされそうだ」として開催地の変更を求めた。

スリランカへの最大の援助国は10年時点で、港湾整備などを支援する中国がトップ。以下、インド、日本と続いている。【3月16日 産経】
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インド南部に強いスリランカ政府批判
インドは自国勢力圏と考えるスリランカの動向には強い関心を有してはいますが、かつてスリランカ内戦に介入して軍事進駐した結果LTTEとの関係が悪化、ラジブ・ガンジー首相がLTTE支持者による自爆テロで暗殺されるという苦い経験もあって、あまり突出した行動はとっていません。
しかし、上記記事にもあるように、スリランカの少数派タミル人と同民族が多く存在するインド南部では、タミル人弾圧としてスリランカ政府を批判する空気も強く存在します。

****インド政党DMK、スリランカ問題で連立離脱*****
インドの連立与党に参加していたドラビダ進歩同盟(DMK)は19日、少数民族タミル人への人権侵害が批判されているスリランカのラジャパクサ政権に政府が厳しい態度で臨んでいないとして、連立離脱を表明した。
与党連合の議席数は18減の230。閣外協力政党を加えて過半数(273)を維持してきた状況に変化はないが、シン政権はさらに厳しい状況に置かれた。【3月20日 産経】
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人権侵害を重視する国際社会とは一線を画した日本外交
国際社会のスリランカ批判は、国連人権理事会で継続して行われています。

****日本は棄権 国連人権理事会がスリランカに説明求める決議案採択***** 
国連人権理事会(UNHRC)は21日、ジュネーブで開かれていた会合で、少数民族タミル人への人権侵害が批判されているスリランカ政府に対し和解と説明を求める決議案を採択した。米国が提出し、インドなど23カ国が賛成。13カ国が反対し、日本など8カ国が棄権した。【3月21日 産経】
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日頃、アメリカ追随とか自主性がないとか指摘されている日本外交ですが、経済的関係が強いスリランカについては、従来から欧米の人権侵害批判とは一線を画した“独自のスタンス”をとっています。

3月のラジャパクサ大統領来日に続いて、この5月連休には麻生副総理がスリランカを訪問して関係強化を図っています。

****スリランカと関係強化 麻生副総理が大統領と会談*****
麻生太郎副総理兼財務相は2日、訪問先のスリランカでラジャパクサ大統領と会談し、経済協力などの関係強化で一致した。副総理は内戦が続いたスリランカの国民和解の進展を求めるとともに、同じ海洋国家として沿岸警備隊の能力向上などへの協力を約束した。

地政学上重要な位置にあるスリランカに中国が投資や援助を増加。麻生副総理は会談後、記者団に、「国民和解が進み、治安が安定し、経済成長が続くのであれば、日本として一層の協力をする用意があると伝えた」と話した。

スリランカは2009年の内戦終結後、高い経済成長率を維持し、1人当たりの国内総生産(GDP)は南アジア主要国の中ではトップ。だが、内戦後も少数民族タミル人への人権侵害があるとして欧米諸国などから批判されている。日本政府は欧米との橋渡しをすると同時に、インフラなど投資環境の整備面で協力する考えだ。【5月2日 共同】
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“欧米との橋渡し”という建前もありますが、中国との影響力競争を考えると、人権侵害など銭にならない問題にはかまっていられない・・・というのが日本の立場のようです。
支援を進めるにあたっては、資源獲得のためなら強権支配国家支援もいとわないとの悪評もある中国と似たり寄ったりとならないように、留意してもらいたいところです。
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