孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  バンコクで続くタクシン元首相派の抗議活動 血液散布も

2010-03-16 22:54:15 | 国際情勢

(抗議行動のための採血に応じるタクシン元首相支持派の人々 “flickr”より By newstatesman
http://www.flickr.com/photos/44845223@N02/4437122091/)

【アピシット首相 総選挙を拒否】
タイで昨年来続いているタクシン元首相支持派とアピシット政権の対立(反タクシン元首相派とタクシン派政権の対立からカウントすれば、一昨年来ですが)は、双方決め手を欠く形で相変わらずの様相ですが、タクシン元首相支持派が首都バンコクでの100万人規模の集会を呼びかけ(実際には10万人超が集まったと発表。警察当局発表では8万6000人)、アピシット政権への圧力をかけていることが連日報じられています。
政府は11日からバンコクなどに治安維持法を発令。軍と警察は約5万人を動員して厳戒態勢を敷いています。

タイの首都バンコク中心部に集まったタクシン元首相の支持団体「反独裁民主統一戦線(UDD)」は、14日正午、24時間以内のアピシット政権の退陣と下院解散・総選挙の実施を要求しましたが、当然ながらアピシット首相はこれを拒否しています。

****タイ首相「総選挙応じぬ」 タクシン派、抗議活動拡大へ*****
タイのアピシット首相は15日、大規模な反政府集会を首都バンコクで展開しているタクシン元首相の支持者らが求めた解散・総選挙に応じない考えを表明した。元首相派は抗議活動の拡大を決めるなど反発を強めている。兵士2人が負傷する爆弾事件も起き、情勢は緊迫の度を増している。
アピシット首相は15日午前、対策本部がある首都郊外の陸軍施設内で連立与党の幹部らと共に記者会見し、「集会を終わらせるために下院を解散するという選択は、あり得ないというのが我々の総意だ」と述べ、元首相派の要求を拒否した。

一方、元首相の支持者らでつくる「反独裁民主同盟」は同日、大規模集会の拠点としている官庁街から、アピシット首相がいた陸軍施設に向けて数万人規模のデモ行進を実施。施設前の道路を占拠して抗議集会を開いた後、同日夕にいったん拠点へ戻った。
だが、首相の拒否に元首相派は反発を強めており、16日から抗議活動を拡大することを決定。数万人の支持者から集めた血液を首相府や首相の自宅、与党の本部などにまく計画だという。

15日午後には、元首相派が抗議集会を行った場所から約10キロ離れた別の陸軍施設に爆弾6発が撃ち込まれ、うち4発が爆発し、近くにいた兵士2人が爆弾の破片などで負傷した。
元首相派はこれまで平和的な抗議活動に徹することを強調し、政府側も平和的な集会である限りは強硬手段に出ないと約束している。今回の爆弾事件にどんな勢力が関与しているのかは明らかになっていないが、こうした事態が今後も続けば、情勢が一気に緊迫する恐れがある。
元首相派は今後も首相退陣と解散・総選挙を求めて抗議を続けるとしているが、政権打倒に向けた具体的な展望があるわけではない。一方の政府側も、強硬策に出て流血の事態になれば国内外から批判を浴びるのは必至で、事態打開への有効な手立ては今のところ見えていない。当面は双方のにらみあいが続きそうな情勢だ。【3月15日 朝日】
*****************************

【「タイに民主主義を取り戻すため、私の血をささげた」】
支持者から集めた血液をまくという奇抜な行動は、採血時に血液感染症の拡大やショック症状などの健康被害をもたらす恐れがあると懸念されていましたが、実際に行われたようです。

****タイ:反政府集会が3日目に 血液を首相府前にぶちまける*****
タイのタクシン元首相派「反独裁民主戦線」(UDD)によるバンコク中心部での大規模反政府抗議集会は16日、3日目を迎えた。UDDはこの日、集会参加者から1人10ミリリットルの血液を採り、集めた血液を同日夕、首相府前にぶちまけ、「議会解散」「総選挙実施」要求に応じないアピシット首相に抗議した。
タイの保健当局や赤十字社は、採血時に血液感染症の拡大やショック症状などの健康被害をもたらす恐れがあると中止を求めた。UDDはこれを無視して16日朝から集会会場のテント内で赤シャツ姿の支持者から採血を開始。元首相を支持する看護師など医療関係者が、使い捨て注射器で数万人から採血した。
バンコク国際空港占拠事件を起こした反タクシン派組織「民主市民連合」(PAD)がタクシン政権当時、血判状を作って政権に抗議したことがあり、UDDはこれをヒントに前代未聞の作戦を立案した可能性がある。

集会参加者には元首相の地盤の北部や東北部など遠隔地から動員された年配の農民などが多い。猛暑のバンコクでの集会に疲れも見え、会場に集まる人数も減り始めている。奇抜な作戦には、内外の注目を集めるとともに、参加者の士気を高め抗議行動を一日でも長く継続する狙いもあるとみられる。
採血を受けた女性(54)は「タイに民主主義を取り戻すため、私の血をささげた」と語ったが、会場近くの商店主の男性は「本当に国のことを思うのなら、輸血が必要な患者がいる医療機関に献血すべきだ」と批判し、嫌悪感をあらわにした。【3月16日 毎日】
********************************

血液をまいてどうなるものでもないのは当然のことですが、そんなことでもしないと勢いを維持できないあたりに、決め手を欠いた闘争のあせりも感じます。
使い捨て注射器を使用したとのことですので、エイズなどの感染拡大にはならなかったと思いますが、記事にもあるように、いささかもったいない気もします。

【資産6割没収、ドバイ追放】
タクシン元首相派の抗議活動を支えているのは、タクシン元首相の巨額の資産ですが、それもあやうくなってきています。
*****不正蓄財1240億円没収 タクシン氏の職権乱用を認定 タイ最高裁判決*****
タイ最高裁は2月26日、タクシン元首相が在任中職権を乱用し、不正に蓄財したとして、同国政府が凍結しているタクシン氏と一族の資産約760億バーツ(約2050億円)のうち、約460億バーツ(約1240億円)の没収を命じる判決を言い渡した。タクシン氏は2006年のクーデターで失脚。その後、土地の不正取引をめぐって有罪判決を受け、海外逃亡生活を続けながら、国内の支持者を支援するなどして政界復帰を狙っていた。多額の資産の没収で、政界復帰への道のりは険しさを増しそうだ。(中略)

ただ、判決では「資産の一部は、タクシン氏が首相になる前から保有しており、全額没収は不公平」として、没収額を約460億バーツとした。凍結資産をめぐって検察側は全額没収が相当としていた。6割の没収にとどめたことは、タクシン氏側に一定の配慮を示すことで、反政府の姿勢を強めるタクシン支持派をなだめ、これ以上の混乱を抑える意図があるとみられる。(中略)
元首相派と反元首相派の政治対立が長びくなか、元首相派の活動を支えてきたのは元首相の資金力だ。だが、国外にある資産は減り続けているとみられる中で、国内資産の半分以上が没収されれば、打撃は大きい。【2月27日 産経】
***************************
6割の没収にとどめたことは、あまり効果がなかったようですが、いずれにしても“金の切れ目が・・・”となる恐れがあります。

タクシン元首相は、資金のみならず、タイでは汚職罪で有罪判決を受け、収監を逃れるために海外に逃亡している身ですので、その落ち着き先も問題です。これまで拠点としていたドバイを追放されたとの報道もあります。
****タクシン元首相 モンテネグロで目撃情報 地元TV*****
モンテネグロの地元テレビは15日、タイのタクシン元首相がモンテネグロ国内のホテルで目撃されたと報じた。AFP通信が伝えた。タイ外務省は13日、アラブ首長国連邦(UAE)当局がドバイを活動拠点とするタクシン氏に出国を求めたことを確認しており、同氏はドバイを「追放」された可能性がある。
タイ政府はタクシン氏のパスポートを失効させたが、同氏はモンテネグロなど複数の国が発行するパスポートを所持しているとされる。
タクシン氏は汚職罪で有罪判決を受け、収監を逃れるために海外に逃亡。タイ政府はUAEに対し領内を同氏の政治活動に使わせないよう繰り返し求めてきた。【3月15日 毎日】
******************************

【従来支配層・都市住民 対 農民・貧困層】
決め手を欠くのはアピシット政権側も同様で、衝突が起こり犠牲者が出るような事態となると世論の批判を受けかねないため、タクシン元首相支持派を刺激しないようにして収まるのを待つ・・・という姿勢です。
これだけ国論が二分されている状態が続いていますので、本来ならタクシン元首相支持派が求めているように、解散・総選挙もあってしかるべきなのですが、元首相派のタイ貢献党(プアタイ)は下院では第1党で、農村地帯の北部・東北部では今も元首相の人気は根強いという状況では、選挙に打って出ることもできない・・・というところです。

総選挙実施について、アピシット首相は“任期満了まであと2年残されているし、タイ経済は安定してきたが、国民の同意の下で立法作業を進める必要があるのは確かだ。それでも、抵抗勢力が不正を働こうと画策するなかで選挙を実施するのは考えものだ。彼らは脅迫や暴力に訴えようとしている。とても民主的とは思えない。”【2月10日号 Newsweek】と語っています。
タクシン元首相の資金が細り、抗議行動がジリ貧になっていくのを待つというところでしょうか。

タイは階級社会であり、タクシン元首相は、批判されるような金権・強権的な側面もあるものの、タイ社会の変革を行おうとした政治家でもあります。
アピシット現政権は、経済界・軍・司法・王室側近などの従来からの支配層の支持を受けています。両者の対立は、こうした従来からの支配層、及びバンコクを中心とした都市中産階級と、北部・東北部の農民や都市貧困層の争いでもあります。

総選挙を拒むアピシット現政権に対し、国外に身をおき、資産の相当部分が没収されるタクシン元首相の戦いは次第に厳しいものになっていくように思えます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする