孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー軍政、政党登録法でNLDにスー・チーさん除名を迫る

2010-03-10 22:29:27 | 国際情勢

(“flickr”より By falang_bah2002 http://www.flickr.com/photos/falang_bah2002/1501655476/)

【除名して選挙参加か、政党資格はく奪・解党か】
ミャンマー軍事政権は、今年実施予定の総選挙に向けた五つの選挙関連法(上院、下院、地方議会選に関する各選挙法、政党登録法、選挙管理委員会法)を制定し、そのうち政党登録法、選挙管理委員会法の内容が明らかになっています。

アメリカとの対話姿勢や、アウン・サン・スー・チー解放の憶測などもあって、民主的な選挙をアピールして国際社会から「民政移管」の支持を取り付けたいとされる軍事政権の対応にやや期待するところもありましたが、明らかになりつつある選挙関連法の内容は、改めて軍事政権側の厳しい姿勢を示すものであり、ミャンマー民主化運動の難しさを痛感させるものです。

特に、政党登録法では、“過去に有罪判決を受けた人物、服役中の人物、裁判が継続中の人物は政党のメンバーに登録できない”とされており、野党「国民民主連盟」(NLD)は、米国人男性による自宅侵入事件の裁判で有罪判決を受けているスー・チーさんや、投獄されている多くの活動家を「除名」する形でしか政党資格が認めらないことになり、60日以内の選挙管理委員会への登録期間という時間的制約のなかで、NLDに対し、選挙に参加するのか、政党資格を失うのかの“踏み絵”を迫る内容となっています。

*****ミャンマー:スーチーさんの活動困難に 政党登録法を公表*****
ミャンマー軍事政権は10日、今年予定されている総選挙に向け、政党登録法を公表した。過去に有罪判決を受けたり、現在刑事裁判中の人物の政党登録を禁止しており、事実上、民主化運動指導者のアウンサンスーチーさん(64)を最大野党「国民民主連盟」(NLD)の活動から締め出す内容となった。NLDはスーチーさん抜きで総選挙に参加するかどうか、困難な選択を迫られることになった。
スーチーさんは昨年、米国人男性による自宅侵入事件の裁判で懲役3年の有罪判決(後に政権が自宅軟禁1年6月に減刑)を受け、最高裁への上告も今年2月に棄却された。政党法の規定に従えば、NLDが政党として登録し総選挙に参加する場合、スーチーさんを「除名」せざるを得なくなる。

軍事政権が08年に制定した憲法は「外国の影響下にある人物」の選挙参加を禁じており、英国人男性と結婚したスーチーさんは総選挙に立候補できないとみられていた。新たに政党法の規定によって、たとえ総選挙前に自宅軟禁を解除されたとしても、自身の立候補だけではなく、NLDなど民主化勢力への応援活動も困難になった。

米国など国際社会は昨年来、政権との対話姿勢に転じながらも、「自由、公正で誰もが参加する総選挙の実施」を求めてきた。このため、政党法の公表を受け、軍事政権への批判を強めるのは必至だ。AFP通信によると、キャンベル米国務次官補(東アジア太平洋担当)は10日、訪問先のクアラルンプールで「失望と遺憾の意」を表明した。
 ◇政党登録法の主な内容は次の通り。
一、総選挙に参加する政党は、60日以内に選挙管理委員会に登録しなければならない。
一、政党は選管への登録後90日以内に、500人以上のメンバーを確保しなければならない。
一、過去に有罪判決を受けた人物、服役中の人物、裁判が継続中の人物は政党のメンバーに登録できない。
一、僧侶など宗教関係者は政党のメンバーに登録できない。【3月10日 毎日】
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一方で、党員数に関する選挙参加への資格については、比較的緩やかに定められており、NLDの選挙参加で、形式的な民主選挙を演出したい軍事政権側の意向を反映しているとも言われています。

【民主的選挙アピールにこだわる軍事政権】
****スー・チーさん野党、迫られる総選挙参加判断*****
ミャンマー軍事政権が8日に制定した選挙関連法のうち、焦点だった政党登録法の内容が9日、軍政筋の話で明らかになった。
選挙の参加条件は比較的緩やかに定める一方、既存の政党は同法制定から60日以内に再登録しなければ廃党に追い込まれる可能性があるとしている。
総選挙への対応を明確にしていないアウン・サン・スー・チーさん率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)の参加を促し、民主的な選挙を演出する狙いがある。
政党登録法は、総選挙の参加に必要な党員数として、国会にあたる人民議会(下院)と民族議会(上院)の選挙には90日以内に少なくとも1000人、地方選は500人を組織する必要があるとしている。関係筋は、「少数政党の乱立を防ぐ狙いがある一方、一般的な政党にとっては、3か月あれば十分に確保できる数字だ」と指摘する。

一方で、1990年の前回総選挙時に施行された政党登録法が今回失効したことから、すべての既存政党に対し、改めて政党登録するよう規定している。登録の期限は5月5日ごろと見られ、「再登録に応じない党の資格は廃止される」(消息筋)見通しだ。
NLDは、総選挙参加の条件として、〈1〉約2100人とされる政治囚の釈放〈2〉軍政が制定した現行憲法の改正〈3〉国際監視下での公正で自由な選挙の実施――を挙げているが、NLD内部には「政党の責務を果たすため、参加すべきだ」との声もある。
こうした中で軍政が政党登録法制定で揺さぶりをかけた格好となり、スー・チーさんらNLD幹部は、再登録期限もにらみながら、選挙に参加するかの最終的な判断を迫られる。
軍政がNLDの総選挙参加に固執するのは、形の上では民主的な選挙をアピールして、国際社会から「民政移管」の支持を取り付けた上で、軍政状態を維持する狙いがあるためだ。【3月10日 読売】
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【選管委員を事実上、軍事政権が指名】
なお、選挙管理委員会法に関しては、軍政側に委員の任命権限があるなど、軍政に有利な運用を許す規定が盛り込まれており、「選挙の公平性」への懸念も出ています。
****ミャンマー:軍政が選管委員指名 民主勢力から批判も*****
ミャンマー軍事政権は9日、国営紙を通じ「連邦選挙管理委員会法」の内容を公表した。選挙管理委員会は5人以上で構成され、委員は軍事政権の最高意思決定機関である国家平和発展評議会が「国家と国民に忠誠を尽くす」と判断した人物から選ばれる。選管委員を事実上、政権が指名する内容で、今年予定される総選挙の「自由、公正な実施」を求める民主化勢力や国際社会から批判を受ける可能性がある。
同法によると選挙管理委員会には、候補者リストの承認のほか、自然災害や治安上の理由による選挙延期、無効化決定など、大きな権限が与えられる。【3月9日 毎日】
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【不本意ながらも、新たな展開への転機に】
もとより、軍事政権側がスー・チーさんの解放に応じても、彼女の自由な政治活動を許すとは思えませんでしたし、「外国の影響下にある人物」として、選挙への立候補も憲法で阻まれていましたので、今回の政党登録法によるスー・チーさん排除を受け入れたとしても、実質的な差はさほど大きくないとも言えます。

もし、排除を受け入れなければ政党資格を失い解党に追い込まれるということであれば、現在のミャンマーの政治状況ではいかんともし難いものがあります。
スー・チーさんにこだわる限り、合法的なミャンマー民主化運動はほとんど不可能にもなります。

国連の潘基文(バンギムン)事務総長は8日、政治犯を含むすべての国民を参加させ透明性を確保した選挙にすることの重要性を強調、「このままでは信頼性を欠いた選挙になる」と懸念を伝える書簡を軍政トップのタンシュエ国家平和発展評議会議長に送ったことを明らかにしていますが、残念ながらこのような国際批判は軍政の対応を動かす力は持ち得ていません。

こうした状況では、目標とするところとのギャップが大きいにしても、スー・チーさんを排除する形になったとしても、軍事政権側の民主化演出に沿う形になったとしても、一定の政治的影響力を維持し、軍政側の独走を阻止するためには、選挙に参加してできるだけ多くの議席を確保することしか道はないように思います。
スー・チーさんやNLDとしては不本意でしょうが、厳しい現実にあっては選択の余地はないのでは。
軍政側がどうしても許容しないスー・チーさんの問題から解き放たれる形で、新たな民主化運動の展開を構築する方向で進む転機と考えることもできるのでは。
それにしても、投獄中のメンバーを除名するというのは、つらいものがあります。

コメント
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