孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ  追加再建策でEU支援を求める 国内には激しい反発も

2010-03-06 11:19:42 | 国際情勢

(2月10日のアテネでのストに参加した移民労働者 財政再建の厳しい締め付けの影響を真っ先に被るのは、こうした移民労働者など社会的弱者でしょう。“flickr”より By Left~Lens
http://www.flickr.com/photos/laoulaou/4351008198/)

【公務員ボーナスの30%削減や付加価値税引き上げ】
欧州ではギリシャの財政危機、債務不履行の危惧、単一通貨ユーロからの離脱の懸念が依然として続いています。
ギリシャの財政赤字は、09年に国内総生産(GDP)比12.7%と、EU基準(3%)の4倍以上となり、累積赤字も約3000億ユーロに達しています。

ギリシャの破たんは、ポルトガル、イタリア、アイルランド、スペインなど“PIIGS(豚)”とも呼ばれる、同様の財政事情にある他のEU諸国、更にはやはり財政事情の悪化しているイギリスなどにも波及することになるので(ということは、日本を含めた全世界に波及するということでもありますが)、危機の回避に向けて、ギリシャ自身の財政再建計画の発表や支援に向けたEU各国との調整が行われています。

****ギリシャ:「消費税」21%に 追加再建策******
深刻な財政危機に陥っているギリシャは3日、追加的な財政再建策をまとめた。
付加価値税(日本の消費税に相当)を2%引き上げて21%とするほか、公務員のボーナスを3割カットするなど歳出、歳入両面で財政赤字削減に取り組み、48億ユーロ(5800億円)の財政赤字を追加削減する。
欧州連合(EU)がギリシャ支援の前提としていた再建策がまとまったことで、EUは、ギリシャ支援策の具体化に向けた詰めの作業を急ぐ。
パパンドレウ首相は、「EUの支援を受け取る条件が整った」との考えを表明したほか、EUが支援に踏み切らない場合は、従来は否定していた国際通貨基金(IMF)から支援を受け入れる考えを初めて示し、EUに早期の支援実施を促した。(中略)

ギリシャ政府は、当初、10年の財政赤字を、09年に比べGDP比4%削減すると表明していたが、EUは、ギリシャ支援を決定した2月11日の非公式首脳会議で、ギリシャに対し計画達成を確実にするため、さらなる財政赤字削減を求めていた。(中略)
パパンドレウ首相は、5日にメルケル独首相、7日にサルコジ仏大統領と会談するほか、週明けには訪米し、オバマ米大統領、IMF首脳などとも会談し、支援実施に向けた最終調整を進める。ギリシャ支援をめぐっては、独仏両国が中心となって取り組む方向で調整が進んでいる。【3月3日 毎日】
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IMFからの支援受け入れについては、受入国には厳しい財政規律が求められる負担が伴います。
また、EUとしても、ユーロ圏内の財政問題を自力で処理できなければ、EUとユーロの信認にかかわります。
その他、フランスのサルコジ大統領の政治的思惑もあって、これまではギリシャはIMF支援受け入れを否定してきました。しかし、支援の意思の表明だけで、なかなか支援具体策が提示できないEUを牽制する意図もあってのIMF支援受け入れ容認発言のようです。

【「ギリシャ側から支援要請はなかった」】
そのEUによる支援の中心となると見られているのが、EU諸国のなかでも一番強い経済力を持つドイツです。
****直接の金融支援、不要で一致=独・ギリシャ首脳会談*****
ドイツのメルケル首相は5日、同国を訪問したギリシャのパパンドレウ首相と会談し、ギリシャの財政赤字問題で、ユーロ圏諸国による同国への直接の金融支援は不要との認識で一致した。
両首相は会談後に記者会見し、メルケル首相はギリシャ側から支援要請はなかったと指摘。さらに「ユーロの安定は脅かされていない」と強調した。
メルケル首相は、ギリシャ政府が今週、48億ユーロ(約5900億円)の財政赤字追加削減案を決め、これを議会が5日に可決したことを「大変な努力」と評価。一方で、早急な実行とさらなる措置を取るようクギを刺した。【3月6日 時事】
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【せめて「ありがとう」くらいは言う必要がある】
EUという共同体とは言え、他国の財政赤字を自国の税金を注ぎ込んで救済することには強い抵抗があります。
ただ、放置すれば、その火の粉は自らにも及びます。
ギリシャ側にも“上から目線”の支援については抵抗感があるようです。
支援が期待されるドイツとギリシャの間には、双方の苛立ちが募っています。

****ギリシャとドイツの「救済ヒステリー」******
欧州の首脳は2週間ほど前、財政危機に陥ったギリシャの救済に向けてドイツに先導的な役割を委ねた。以来、両国の間には騒乱と混沌が広がっている。ドイツ人から見れば、ギリシャが米大手金融機関の力を借りて行っていた債務隠しから、年金制度を圧迫し財政赤字を招く平均定年年齢の低さ(61歳)まで、何もかもが腹立たしいようだ。
一方のギリシャ人は、ドイツの新聞は人種差別的であり、西ヨーロッパの指導者たちは自分たちに干渉しすぎだと非難している。(中略)
同国のテオドロス・パンガロス副首相はドイツ批判に歴史まで持ち出した。イギリスのBBCラジオとのインタビューで、30万人近い死者を出したとされる41年のナチスによるギリシャ侵攻について触れた。
「(ナチスは)ギリシャの銀行にあった黄金を奪った。彼らはギリシャから金を奪うだけ奪って、決して返金しなかった。これはいつか向き合わなければならない問題だ。何が何でも金を返せとは言わないが、せめて「ありがとう」くらいは言う必要がある。それに盗みや、経済的取引の詳細説明の不足についてあまり文句を言うべきではない」

結局のところ、こうした外交的な攻撃は誰にも恩恵をもたらさない。ギリシャ人はドイツの助けを求めていないし、ドイツ人はギリシャを救済する立場に置かれることを快く思っていない。しかしギリシャが助けを拒めば、待っているのは大量の失業と人口の国外流出、社会保障費の大幅削減、そして長引く不況だ。たとえ緩やかな緊縮財政対策に、富裕層への増税など大衆迎合的な政策を組み合わせても、うまく行かないだろう。
余談だが、「黄金には感謝している」とアンゲラ・メルケル独首相が言っても、ギリシャ政府には受けないと思う。【2月26日 アニー・ラウリー 「フォーリン・ポリシー」】
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【カネがないなら島を売れ】
今回会談でメルケル首相が「黄金には感謝している」と言ったかどうかは知りませんが、不満が募るドイツではこんな声も。
****カネがないなら島を売れ=財政危機のギリシャに-独******
財政危機に見舞われているギリシャはエーゲ海の島を売却し、赤字を穴埋めするべきだとの議論が、同じユーロ圏のドイツで浮上している。あまりに無神経な提案に、「両国間の世論が険悪になる」(独紙)との懸念もある。
独大衆紙ビルトによると、与党の一部政治家らが「破産者は所有物で金をつくらなければならない。ギリシャには借金の形にできる無人島がある」などと語った。ギリシャには3054の島があり、うち人が住んでいるのはわずか87という。
市場では、ギリシャが国家破綻(はたん)の瀬戸際に追い込まれれば、ドイツを中心とするユーロ圏諸国が救済せざるを得ないとの観測がある。ただ、放漫財政のツケが回ったギリシャへの「血税」投入にドイツ人の反発は根強い。
ギリシャのパパンドレウ首相は5日、メルケル独首相との会談後の記者会見で、「われわれは主権国家。島売却など問題外」と、余計な提案を一蹴(いっしゅう)した。【3月6日 時事】
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【「金持ちを助けるため、これ以上国民に犠牲を強いるな」】
肝心のギリシャ国内の再建策への反応ですが、負担増加・条件改悪への反発と、再建のためにはやむを得ないとの容認に、世論は二分されているようです。
労働組合など反対派は激しい抵抗を行っています。
先月24日、交通機関や学校、省庁、旅行社などが24時間ストを決行。約2万人が「金持ちを助けるため、これ以上国民に犠牲を強いるな」と叫びながら国会議事堂に向けて行進し、警官隊が催涙ガスを発射する騒ぎになっています。
3日に発表された、公務員ボーナスの30%削減や付加価値税引き上げ、高所得者増税などの緊縮財政策を受けて、更に厳しい抵抗が予想されています。

****ギリシャ公共・民間最大労組が3月11日にスト実施へ、労働力人口の半分に相当*****
ギリシャ最大の公務員労組連合組織「ギリシャ公務員連合」(ADEDY)と同国最大の民間企業労組連合組織「ギリシャ労働総同盟」(GSEE)は5日、同国政府が新たな緊縮財政措置を決めたことに反発し、11日にストライキを行う方針を示した。
GSEEの広報担当者は「3月11日の木曜日にストを実施する」と述べた。またADEDYを代表するIlias Iliopoulos氏は、同じく11日にストライキを実施するとした。同組織は当初16日にストを予定していたが、日程を前倒しした。
両労働組合にはギリシャの労働力人口の半分に相当する約250万人が加盟している。【3月6日 ロイター】
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【自らが蒔いた種】
しかし、2月25日ブログ「ギリシャ 財政再建策にゼネストで抗議 イギリス、日本は?」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100225)でも触れたように、ギリシャでは左派勢力が政権を担う期間が長く、公的部門が拡充され、就労人口の4割近くを占めるほど公務員が多くなっています。この非効率で社会保障制度が手厚い公的部門の拡大が財政悪化の原因になっています。また、社会全体に課税逃れが横行し、政府が把握できていない闇経済がGDPの30%以上に達するとも言われています。
こうした自らが蒔いた種は、自らの負担で刈るしかないように思えます。

コメント
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