孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  パレスチナ人に代わり流入する外国人労働者 欧州・日本は?

2010-03-20 15:52:56 | 世相

(テルアビブ 09年10月13日 移民労働者がイスラエル国内で生んだ子供たちを国外に追放しようというイスラエル政府の施策に反対する集会 詳細はわかりませんが、労働力としては使うが子供はいらない・・・というのも、イスラエル的な割り切りです。長い迫害と排斥の歴史を経験してきたイスラエル・ユダヤ人ですが、自らの苦しみの経験が他人の苦しみに対して優しくさせる・・・ということは現実にはないようです。
“flickr”より By activestills
http://www.flickr.com/photos/activestills/4010079686/)

【キブツのタイ人労働者】
イスラエル・パレスチナの間をアメリカが仲介して間接交渉に入ろうとした矢先に、イスラエル側の東エルサレム新規住宅建設承認が発表され、東エルサレムでは住民とイスラエル警察が衝突し50名を超す負傷者が出る事態となっています。
また、ガザ地区からはイスラエルに向けたロケット弾攻撃が行われ1名が死亡、これに報復するイスラエルはガザ空爆を行っており、間接交渉どころか、状況は悪化しつつあります。

****イスラエル:ガザからロケット弾 1人死亡*****
ロイター通信によると、イスラエル中部ネティブハーサラに18日、パレスチナ自治区ガザから発射されたロケット弾が着弾、男性1人が死亡した。ガザからのロケット弾攻撃で死者が出たのは2008年12月~09年1月のイスラエル軍によるガザ大規模攻撃以降で初めてとみられる。
ロケット弾が着弾したのは、欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表がガザ入りした直後だった。
医療当局者らによると、死亡したのはキブツ(集団農場)のタイ人労働者。(共同)【3月18日 毎日】
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【テルアビブの「チャイナタウン」】
そうした中東和平の行方というの本筋とは別に、上記記事で目にとまったのは、どうしてイスラエルのキブツにタイ人労働者がいるのか?ということでした。

そのあたりの事情に関連すると思われる記事「イスラエルに“異国”誕生」が3月24日号Newsweek日本版にありました。
この記事によると、93年、当時のラビン首相がパレスチナ人の日雇い労働を制限したため、その後釜に座ろうと世界中から労働者が押し寄せたそうです。
イスラエルの外国人労働者は推定で30万人、最大都市テルアビブ市内には外国人労働者4万人とアフリカ難民5千人が存在しているとか。

記事は、こうした外国人労働者が集まる「チャイナタウン」的な異国情緒あふれる地域がテルアビブに誕生していることを伝えるものですが、当然ながら売春・麻薬といった治安問題も抱えています。
テルアビブ市民の外国人労働者に対する反応は、パレスチナ人が減ってテロが少なくなったという好意的なものが多いとの調査もあるようです。

ただ、いろんな摩擦もあようで、ネタニヤフ首相は、不法入国を防ぐためエジプト国境の一部に壁を建設することを決定(ヨルダン川西岸地区の壁といい、イスラエルは壁を張り巡らすのが好きなようです)、また、外国人労働者を最低10%減らす計画も発表しているそうです。

ガザからのロケット弾攻撃によって死亡したとされるタイ人労働者(AFP記事によれば、“キブツの運営関係者によると、このキブツではタイ人の労働者を雇い入れているが、死亡したのがタイ人かどうかについては言明を避けた。”とのことです。)は、こうしたパレスチナ人に代わって流入した外国人労働者のひとり・・・なのでしょうか。


【移民排斥に向かうヨーロッパ社会】
イスラエルの場合、外国人労働者受け入れによってパレスチナ人を排除し、テロが減少するという特殊な側面がありますが、グローバリゼーションが進む現代社会で、最も重要な問題のひとつが、ひとの国際移動“移民”の問題です。

特に、ヨーロッパ社会において、北アフリカやEU拡大に伴う東欧諸国からの移民増加に伴い、文化的・経済的摩擦が激化し、移民排斥運動が広がりつつあることは周知のところです。

イタリアでは1月、南部カラブリア州ロザルノでアフリカ系移民と地元住民が衝突、治安当局は移民900人以上を強制的に同国のクロトーネやバリに移送しました。また、2月には、北部のミラノで19歳のエジプト人男性がペルー・エクアドル人に刺殺されたのを機に北アフリカ出身の住民が南米系住民への暴動に走り、警察当局が不法移民掃討作戦を始める事態となっています。

イギリス保守党のキャメロン党首は、次期総選挙で政権を獲得できれば、移民受け入れを現在の4分の1に減らすことを公約しています。(既定路線と思われていた保守党勝利は、このころ微妙な情勢になってきていますが)

フランスでは、サルコジ大統領が地方選挙を前に「フランス人とは何か」という「国家としてのアイデンティー」を問題にし、「こうした論議自体、移民やイスラム教徒の排斥につながる」との反発も強くなっています。
また、大統領の「ブルカは女性の従属の象徴だ」との発言もあって、国民議会(下院)調査委員会は1月、公の場でのイスラム女性のブルカなどの着用を禁止する法制度を整備するよう議長に提言しています。

スイスでは、イスラム礼拝所の尖塔「ミナレット」の新規建設禁止を憲法に盛り込む提案が国民投票で可決されました。

【門戸を閉ざす日本の行方】
3月17日号Newsweek日本版に掲載された記事「移民叩きが閉ざすヨーロッパの未来」は、こうした最近の情勢を批判したものですが、その内容は別として、日本がひとつの代表例とて挙げられいる一節が目にとまりました。
****移民叩きが閉ざすヨーロッパの未来*******
このままいけば、いずれヨーロッパは一つの厳しい選択を突きつけられる。社会の反移民感情に迎合して門戸を閉ざすのか。それとも、門戸を閉ざすことなく、むしろ高い専門技能を持つ移民をもっと呼び込むのか。
世論の逆を行く道を選択することは、政治的に難しい。しかし、ヨーロッパが経済立て直し、生き延びていくためにはそれが欠かせない。
カナダ、オーストラリア、アメリカのように、もっと開放的で、流動性の高い社会を築ければ、ヨーロッパは繁栄するだろう。だが、日本のように移民への門戸を閉ざし、移民を社会の一員として受け入れようとしなければ、経済が縮小し、排外主義的な空気が社会を覆い、衰退する運命を甘んじて受け入れるしかなくなるだろう・・・・【3月17日号Newsweek日本版】
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この記事は、“高い専門技能を持つ移民”の受け入れを主眼としており、その他大勢の移民をどうするのかにはあまり触れていません。
そういう“いいとこどり”が可能でしょうか?むしろ専門技能を持った人材は母国でこそ必要とされる側面もあるのでは。
専門職については、日本もインドネシア・フィリピンからの看護・介護職の人材受け入れを初めていますが、なかなかうまくいかない実態も報告されています。

それはともかく、文化的摩擦・雇用の競合・治安の悪化・・・といった困難な問題を忌避して門戸を閉ざすことの是非、その結果、少子高齢化が進む日本社会が今の活力・経済的水準を保てるのか・・・という問題は直視する必要があります。
移民に批判的な人々は、往々にして日本文化の独自性を強調し、国際社会での日本の毅然たる対応を主張する人々と重なる部分が大きいように思えますが、移民に門戸を閉ざし社会が縮小し活力が失われていけば、必然的に日本の世界における位置も、「かつては経済的・技術的に見るべきものがあったが、今は世界の片隅でひっそりと独自の社会をまもりながら生きている国」という、それなりのものになっていくことを同時に受け入れる必要もあるのではないでしょうか。

コメント
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