(中国映画「台湾海峡緊急指令」(1988年 チャン・イーモウ監督)より
共同して事件解決にあたることになった中国部隊指揮官(右)と台湾部隊指揮官(左)
両者には信頼と友情が芽生えます。
当時の中国でこういう映画が認められていたというのは意外な感もしますが、“ひとつの中国”という大枠内のものということでしょうか。)
【ひとつの中国】
「台湾海峡緊急指令」という、ちょっと変った古い映画を観ました。
北京オリンピックの開会式・閉会式を演出した、また、「紅いコーリャン」「菊豆」などで世界的にも評価の高い、中国を代表する映画監督、チャン・イーモウの珍しいアクション映画です。
チャン・イーモウ映画には欠かせないヒロイン、コン・リーも出演しています。
1988年制作ということですので、「紅いコーリャン」の翌年、比較的初期の作品です。
筋書きは、“台湾政財界の大立者を乗せた台北発の専用機がハイジャックされ、中国大陸に不時着。犯人は台湾の刑務所に投獄されている仲間の釈放を要求する。北京と台北は共同で人質救出に当たることになった。中国部隊と台湾部隊が共同してさまざまな試みを行うが失敗する。・・・・”といったものです。
アクション映画として観ると、ハリウッド映画の大掛かりな映画を観慣れた目には、その出来栄えはいかにも時代を感じさせるものがあります。一昔前のTVドラマ程度と言えなくもありません。
いわゆる“つっこみどころ”も多々あります。
ただ、北京と台北という政治的に対立関係にある両者が手を結び、事件解決にあたる。そして、現場の両国部隊指揮官には政治を超えた男の友情が芽生える・・・という筋書きは、1988年(天安門事件の前年)という時代背景を考えると、興味深いものがあります。
今でこそ台湾は馬英九・国民党政権で、中台接近を進めていますが、まだ中台が激しく対立していた時代です。あの頃に中台合同作戦というような映画もあったのか・・・と、感慨深く観た次第です。
映画の中の一場面、特に印象的なシーンがありました。
雲南省出身の中国部隊の兵士が果敢にのぞむものの、テロリストの凶弾に倒れてしまいます。その勇気を惜しんだ、彼の名も知らぬ台湾部隊の指揮官は遺体から彼のタバコをとり、台湾部隊兵士に「雲南のタバコだ。同郷の者がいたら吸ってくれ」と差し出すと、「私も雲南です」と数人の手があがります。指揮官は中台の絆の強さに今更ながら驚いたような表情を浮かべます。
兵士の年齢からして、本人が雲南で生まれたのではなく、父母が雲南出身ということでしょう。
中台の指揮官同士も「どこの出身だ」「わたしは北京だ」といった類の会話で次第に心を開いていく場面もあります。
同じ民族、“ひとつの中国”を印象づける演出です。
映画の中では、88年当時の北京や台北の庶民の暮らし、街の風景を映した静止画がカットバックでたくさん挿入されます。この前後の86年と91年に中国を旅行して多くの思い出もある私としては、映画そのものよりも、当時のそうした映像をもっとじっくり観たい・・・という感もありました。
【台湾の敏感な世論と馬総統への配慮】
さて、現在の中台関係です。
****中国:中台関係 政治対話の圧力弱まる 経済中心で強化へ*****
中国の温家宝首相は5日、全人代の政府活動報告で、中台関係に「重要な進展があった」と評価した。しかし、昨年3月の同報告で台湾側に敵対状態を終わらせる平和協定締結の協議を呼び掛けたのに比べ、政治対話の圧力は弱まった。台湾では中国への警戒感が依然根強く、温首相は引き続き経済協力を進めながら「政治的な相互信頼を強めたい」と述べるにとどめた。
中台間の自由貿易協定(FTA)に相当する経済協力枠組み協定(ECFA)について、温首相は「相互利益を促し、両岸(中台)の特色ある経済協力メカニズムを構築したい」と積極的な姿勢を示した。
台湾の馬英九総統も先月22日、中国で事業展開する台湾ビジネスマンによる台北の会合で「ECFAは絶対に必要」と断言した。双方は5月にも調印することを目指している。
ECFAに対する中台双方の指導者の姿勢は同じだが、中国側が早期に政治対話に移行したいのに対し、馬総統は二の足を踏む。
台湾では、ECFAによって中台の経済一体化が更に進み、台湾が中国にのみ込まれるとの懸念が大きい。また、馬総統は昨年8月の大水害の不手際で批判を受けて以来、支持率低迷にあえぐ。台湾で世論の激しい対立を招きかねない対中政策では、思い切った動きを取りにくい状況だ。
中国としては、中台関係の改善に貢献した馬総統との連携を継続したい考え。政治対話の圧力を緩めた背景には、台湾の敏感な世論と馬総統への配慮があったとみられる。【3月5日 毎日】
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馬英九政権は“逆風”のもとにあります。
****台湾立法委員:国民党3議席中、補選で2議席減****
台湾の立法委員(国会議員)の補欠選挙が27日、北部や東部などの4選挙区で行われ、与党・国民党は現有3議席のうち2議席を失った。昨年の大水害での不手際や米国産牛肉の強引な輸入解禁で、馬英九総統の支持率は低迷。国民党は後退が続いている。年末の台北市など5都市首長選までに巻き返しを図れないと、12年の総統選にも影響が出そうだ。
今回の補選で、国民党の地盤が固い北部・桃園県(改選数1)では、同党から候補者3人が乱立し、議席を失った。国民党主席を兼務する馬総統は党内運営でも苦戦が続きそうだ。
野党・民進党は3議席を確保した。
立法院(定数113)の議席は国民党75、民進党33で、66%の議席を占める国民党の優位は変わらない。【2月27日 毎日】
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中国としては、ここで馬政権を更に追い込むようなことは避けて、中台接近を推し進めてきた馬政権の立ち直りを期待する・・・、そして最終的には政治統合の話へ・・・という思惑のようです。