
(6月25日 サンクトペテルブルクでの海軍によるデモンストレーション 「強いロシア」を望む人々に「強い男」をアピールするプーチン首相は表裏一体にも思えます。
“flickr”より By Current News Stories
http://www.flickr.com/photos/currentnews/3660363063/)
【20キロの袋33個】
ロシア経済は、経済危機の影響で5月のGDPが前年同期比マイナス11%と厳しい状況が続いており、労働争議も多発しています。
そんなロシアの労働争議で笑えるトピック。
****重すぎ!労使紛争の10万円を硬貨で支払い、ロシア****
ロシア極東ウラジオストクの会社に解雇された女性従業員2人が、労使紛争で要求していた10万円相当の解決金を、全て硬貨で支払われ困惑している。
26日付の露コムソモリスカヤ・プラウダ紙によると、世界金融危機の影響による業績不振を理由に解雇された2人は、残っていた有給休暇を、現金3万6000ルーブル(約10万円)で買い取るよう会社に求めていた。
当初は支払いを渋っていた会社側も、最終的には2人の要求に応じた。
だが、2人が受け取ったのは、3万6000ルーブル分の硬貨が入った袋33個で、その大部分が、現在はほとんど流通していない5コペイカ硬貨(日本の銭に相当)だったという。1袋の重さは20キロもあり、2人は硬貨を持ち帰るため、友人に助けを求めなければならなかった。
コムソモリスカヤ紙が、要求額を硬貨で支払った理由を会社側に尋ねたところ、「彼女らは大金を求め、それを得た。貨幣が何であろうと、その事実に変わりはない」と話したという。【6月26日 AFP】
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労働争議と言うと経営者側が“悪役”扱いされることが多くなりますが、硬貨の入った20キロの袋33個(660キロ)で支払ったこの経緯者、その納まりきらない憤懣がちょっとユーモラスな感じも。
【プーチン首相 財閥社長を一喝】
“悪役”としてさらし者にされた経営者の代表が、新興財閥ロシア・アルミニウムのオレグ・デリパスカ。
「ロシア最強の男 プーチン」に一喝されたとして今月始め話題になった例の一件です。
プーチン政権下、プーチン大統領(当時)と密接な関係を維持し、有力な新興財閥として成長してきたデリパスカのロシア・アルミニウム(ルサル)は、ロシアのアルミニウム生産の約70パーセント、世界生産の約8分の1を占めるとされ、デリパスカは2008年の世界長者番付では資産280億ドルで10位となっています。
ロシア・サンクトペテルブルク郊外の企業城下町ピカリョボでは、デリバスカの工場を含む3つの工場が経済危機のなか操業停止に追い込まれ、解雇された労働者らが付近の主要高速道を数時間にわたって封鎖する事態に陥っていました。そこへ乗り込んできたのが「ロシア最強の男 プーチン」
****プーチン首相、ペン放り出して財閥社長を震え上がらせる*****
「オレグ君、この合意文書に署名をしたかね?君のサインが見あたらないのだが。今すぐここに来てサインしなさい」
ウラジーミル・プーチン首相は、ペンをテーブルに放り出すと、自分の元へ来るよう手招きした。
約300億ドル(約3兆円)の資産を持ち、前年までロシアで最も裕福な人物として知られたロシア・アルミニウムのオレグ・デリパスカ社長は、席から立ち上がり、首相に冷徹ににらみつけられる中、頭を垂れたまま、給与の不払いが続く工場の操業再開を約束する合意文書に署名した。
今週テレビで、多数の主要企業をたばねるデリバスカ氏にとって屈辱的な映像が放送されたことは、一時は全権を担るほどの力を持っていたオリガルヒ(新興財閥)の実業家らが、数年でその権勢を弱体化させたことを象徴するものだった。
ボリス・エリツィン大統領時代のロシアの混乱期に、ソ連崩壊後に私有化した資産を元手にばく大な財を築いた新興財閥の実業家らは、かつてないほどの政治権力を獲得した。しかし、2000-08年のプーチン政権は、これに終止符を打った。そして今、金融危機が、新興財閥の財産を減少させるとともに、多額の債務を明るみに出している。
合意文書に署名をしたデリパスカ氏に、プーチン首相はうなずく以外の返答をしなかった。そして、デリバスカ氏が首相のボールペンを持ったまま席に戻ろうとすると、「ペンを返せ」としかりつけた。【6月8日 AFP】
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デリバスカや地元指導者、労働組合代表らを小さな会議室に集め、「君たちは自らの野心や未熟さ、強欲で数千人の住民を人質に取った。私が来る前にゴキブリのように走り回りながら、なぜだれも問題を解決できないのだ」と一喝。
政府が4000万ルーブル(約1億2千万円)を支援するとして、操業再開の合意書に署名するよう命じ(自分のペンを放り投げて)、問題を収束させました。
主要テレビ局がこのやり取りの一部始終を放映しており、国営テレビで放映されたこの映像は、プーチン首相が労働者らをねぎらうために工場から出てきて、労働者らが「ありがとうございます」と涙する場面で終わった・・・・そうです。
【“危険な賭け”】
昨年来の経済危機・資源価格急落で、ロシアの多くの企業がダメージを受けており、政府の融資を受ける形で生き残りを図っています。
その政府融資対象企業のリスト(プーチンのリスト)に入れてもらうための企業の奮闘振りが、以前NHKでも放映されていました。
ただ、政府融資を受けることは、政府の管理下に入ることを意味します。
ルサルもロシア政府から4500億ドルの融資を受ける代わりに政府の人間を役員に入れており、すでにルサルは政府のコントロール下に置かれるようになっています。
ピカリョボの労使争議は政府の特別融資で“解決”しましたが、1つの産業に依存する「企業城下町」が数百あり、金融危機以降、政府の公式統計でも失業者が200万人を突破、デモやストライキが頻発しているロシアでは、各地の問題すべてにこうした特例措置を取るのはほぼ不可能で、政府が“危険な賭け”に出たとの論評も出ています。【6月10日 産経】
【「高すぎるな」】
そうした問題などは気にしていないのか、プーチン首相、今度はスーパーに乗り込んで「高すぎる!」と値引きを指示したそうです。
****「ロシア最強の男」プーチン首相、スーパー電撃視察で値引き指示****
ロシアのウラジーミル・プーチン首相が、モスクワのスーパーマーケットを電撃視察し、驚く店長らに対し商品の値段を下げるよう指示した。
ロシア最強の男、プーチン首相は最近、メディア受けする行動で、緩和の兆しがない経済危機を政府がしっかり管理していることを国民にアピールしているが、このスーパー訪問もそうした一幕となった。
25日の露コメルサン紙によると前日、プーチン首相は官邸で行っていた小売業界の状況に関する会議を中断し、出席者を連れて近くにあるロシア最大の小売チェーン、ペレクリョーストックの1店舗を訪れた。
■「高すぎる」と一喝
ペレクリョーストックの幹部や生産業者らを引き連れ、商品棚の間を練り歩いたプーチン首相は、多くの商品の売値が生産者価格よりもずっと高いのはなぜかと尋ねた。
(首相)「このソーセージはなぜ240ルーブル(約740円)もするんだ?これが当たり前か?」
(責任者)「こちらのソーセージは高品質だからです。ご覧になってください、こちらのソーセージなら49ルーブル(約150円)です」
(首相)「高すぎるな」
(責任者)「いや、そんなことは・・・」
(首相)「その値段のつけ方を見せてあげよう」(紙切れを取り出し)「このソーセージだったら、ほら、52%も上乗せじゃないか」
(豚肉製品のコーナーで)プーチン首相は、スーパーが原価の倍以上の価格をつけていると言い出した。
(首相)「これなんて2倍だ。おかしくないか?」
(責任者)「明日値下げします」
インタファクス通信によると、官邸に戻ってから再開した会議で、プーチン首相は生産者と小売業者、消費者の間の価格バランスを改善しなければならないと切り出し、「そうすることでしか、社会的公正は達成できない」と力説した。【6月25日 AFPより】
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【「ロシア最強の男」演出では解決しない経済問題】
いかにも「ロシア最強の男」プーチンらしい演出ですが、ピカリョボの労使争議の件にしても、今回のスーパーの件にしても、市場経済的な発想とはかなり異なるものに思えます。
市場経済だろうが、旧ソ連型計画経済であろうが、生産設備が旧式で生産効率が悪いといった問題、あるいは流通の問題という根本的な問題にメスを入れずに、表面的問題だけを強権的に押さえ込もうとするのは無理があり、こうしたことをやっていると、経済の根幹が揺らいできます。