孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

高まる黄海での北朝鮮・韓国の緊張 開城工業団地の今後は?

2009-06-11 21:43:59 | 国際情勢

(沖縄・嘉手納基地のF22(2007年2月)「1機でF-15を5機同時に相手にできる」そうですが・・・ “flickr”より By david_axe
http://www.flickr.com/photos/david_axe/406596042/)

【制裁決議案 最終合意】
国連安全保障理事会の常任理事国に日本と韓国を加えた7か国は、10日午前(日本時間10日深夜)、北朝鮮の核実験に対する制裁決議案で最終合意し、決議案は12日にも採択される見通しであると報じられています。

****対北制裁決議案、12日にも採択…常任理事国と日韓が合意*****
決議案は、2006年の北朝鮮の核実験後に採択された決議1718の制裁強化を柱とし、「国連憲章7章のもとで行動し、同章41条に基づく措置を取る」と規定。非軍事的な制裁を定めた「7章41条」下の措置にしぼり、「7章42条」に基づく武力行使を排除した。
北朝鮮を出入りする船舶などの貨物については、核、ミサイル関連物資など禁輸物資があると疑われる場合、国連加盟国が自国領内で検査を行うよう要求。公海上の検査は、船舶が所属する国の同意を得て行うことを要求している。
中国の主張で、加盟国が「貨物検査をしなければならないと決定する」としていた文言よりは弱められたが、決議1718が「貨物検査などを通じた協調行動」を呼びかけるにとどまったのと比べ、各国により強く検査を求めている。
金融制裁では、加盟国と国際金融機関に対し、人道・開発目的を除く新規援助・融資を行わないことや、北朝鮮の核、ミサイル開発につながる資金移転の阻止を加盟国に要求している。北朝鮮による武器輸出禁止は「すべての武器に適用される」とし、外貨獲得を封じ込める措置を取った。
決議1718と今回の決議履行を監視する専門家グループの設置なども定めている。また、今回の核実験を「最も強い表現で非難」し、北朝鮮が今後、核実験や弾道ミサイル発射を行わないよう要求した。6か国協議への即時無条件復帰も求めている。【6月11日 読売】
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【通常の2倍に】
制裁決議案の内容や実効性の問題はさておき、採択されれば北朝鮮が更に行動をエスカレートさせるものと思われます。
長距離ミサイル発射準備の問題も日本にとっては重要ですが、さしあたりのリスクとしては、黄海での北朝鮮・韓国の緊張状態が懸念されます。

北朝鮮は5月27日段階で、韓国が「大量破壊兵器の拡散防止構想(PSI)」への全面参加を発表したことに「宣戦布告とみなす」と反発、敵対行為があれば軍事攻撃も辞さないとする声明を発表しています。
朝鮮戦争の休戦協定について「拘束を受けない」と、また、黄海上の米韓船舶などの航行の安全を保証できないも主張しています。【5月27日 朝日より】

6月1日の韓国・聯合ニュースは、北朝鮮軍が黄海の艦隊司令部所属の警備艇や海岸砲部隊に平時よりも2倍以上の弾薬や砲弾を準備するよう指示したとの情報が入手されたと伝えています。【6月1日 時事】
6月4日には、北朝鮮の警備艇1隻が黄海上の南北境界である北方限界線(NLL)を越えて韓国側に約1.6キロ侵入。警備艇は韓国海軍の高速艇の警告を受け、約1時間後に北朝鮮側に戻るという事件がありました。
韓国軍合同参謀本部は北朝鮮警備艇は中国漁船を追って来たとみていますが、韓国への挑発の可能性もあるとしています。【6月4日 毎日】

緊張が高まる黄海で違法操業していた中国漁船の大半は、3日夜に撤収したそうです。
北朝鮮からの情報に基づく中国当局の指示があった可能性もあるとも言われています。【6月4日 時事】

韓国側は、陸軍参謀総長が4日、北朝鮮の挑発の動きに伴う軍事準備態勢を点検するため、最前線部隊を視察。
将兵らに対し「国民の安全と国の安保を脅かす行為にはいかなる妥協もあり得ない」と述べ、国民が安心して生業に従事できるよう完璧な警戒作戦態勢を維持するよう呼びかけています。
更に、黄海境界線付近の艦艇配備を増強し、北朝鮮からのミサイル攻撃に対しては発射地点を攻撃する態勢を準備しています。

****黄海で警戒強化=艦艇配置、通常の2倍に-韓国軍*****
聯合ニュースは9日、韓国軍が黄海上の軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)付近で北朝鮮警備艇の侵犯に備え、艦艇の配置を通常の約2倍に増強したと報じた。韓国軍消息筋の話として伝えた。ただ、北朝鮮軍の特異な動きは今のところ捕捉されていないという。
聯合ニュースによると、韓国軍は現在、駆逐艦や護衛艦、高速艇など数十隻をNLL付近に前線配置。北朝鮮軍が韓国軍艦艇を狙って地対艦ミサイルなどを発射した場合、陸海空軍を総動員して発射地点を攻撃する態勢を取っている。【6月9日 時事】
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【「核の傘」】
アメリカもF22を沖縄・嘉手納基地に再配備して朝鮮半島有事への対応を進めていますが、ワシントンで16日に行われる李明博大統領とオバマ米大統領との首脳会談での合意文書に、北朝鮮情勢などを考慮し、米国が「核の傘」で韓国を守るという「拡大抑止力の強化」が明記される見通しであることを明らかにされました。

****米韓首脳、合意文書に「核の傘」 北朝鮮の反発必至****
韓国軍関係者によると、米国による「核の傘」の提供は78年以降、国防相会談や米韓定例安保協議会の共同声明には盛り込まれてきたが、首脳会談の合意文書に明記されるのは初めて。
会談では米韓同盟を再定義する「未来ビジョン」が採択される方向で、その中に盛り込まれる。単に「核の傘」とするだけでなく、「韓国が核の脅威や攻撃を受けた際、米国が核抑止力を拡大する」との趣旨を明確にすることが検討されている。
弾道ミサイルの発射に続き核実験まで強行した北朝鮮に対し、これまで以上に強いメッセージを発する必要があると判断した。また、韓国国内でも与党ハンナラ党の一部国会議員らから「核保有」を検討すべきだとの声が出始めているため、「核の傘」を明文化することでこれらの主張を抑え込む狙いもある。
北朝鮮の労働新聞は8日付で「米国の核の傘の提供が文書化されれば、核戦争勃発の危険がそれだけ増大する」と牽制しており、反発を強めるのは必至だ。【6月9日 朝日】
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「核のない世界」とは言いつつも、最後に頼るのは“核の傘”です。
そこは日本も同様です。

アメリカは北朝鮮との間で、一昨日ブログで取り上げた米国籍記者拘束問題も抱えています。
更に、金正日総書記の後継者問題、金総書記の健康再悪化説・・・など、いろんな要素が絡まって事態は混沌としています。

【開城工業団地 今日実務会談】
そうした北朝鮮・韓国の緊張のなか、南北経済協力事業として運営されている北朝鮮内の開城(ケソン)工業団地の存続が懸念されています。
これまで北朝鮮はたびたび開城工業団地を往来する南北通行の遮断と解除を繰り返しており、単に物流という経営的な問題に留まらず、南北間で軍事的衝突が発生し北朝鮮が軍事境界線を全面遮断すれば、1000人余りに達する開城工業団地常駐者らがそのまま「被抑留者」となる可能性があるという問題を浮き彫りにしています。
実際、北朝鮮軍当局は、3月30日から現代峨山社員を「体制批判をした」として拘束しています。

こうした経営環境悪化と拘束の不安の高まりのなかで、9日には開城工業団地に入居する韓国企業(106社)のうち1社が、同団地稼働以来初めて完全撤退を決めています。
企業側が独自判断で工業団地を撤退する場合、経済協力保険の保障を受けることができないため、巨額の投資で工場を建設した企業は「極限の状況」が訪れるまで、容易に撤退することはないとみられていますが、小規模投資の入居企業を中心に、さらに撤退企業が出る可能性も指摘されています。【6月9日 聯合ニュース】

開城工業団地からの収益は北朝鮮にとっても重要な収入ではありますが、先月15日に開城工業団地の土地賃貸料・使用料、賃金、税金などに関する南北間契約の無効化を宣言しています。
今日11日には南北当局間の実務会談が開かれ、北朝鮮は北朝鮮側労働者の賃金を4倍の月300ドル(約29000円)水準に引き上げ、納入済みの土地賃貸料についても約31倍に当たる5億ドルで再調整することを要求しています。
韓国・聯合ニュースは“北朝鮮が今後の交渉でこうした立場を貫徹する場合、南北関係悪化のなか注文量減少などで危機に直面する開城工業団地が崖っぷちに立たされる可能性が排除できなくなった。”と報じています。

もっとも、“ただ、北朝鮮側は、こうした要求事項を提示しながら「今後、協議していこう」との立場を示したという。政府当局は、交渉の余地を残したものとみている。”とのことで、19日に再度、交渉が行われます。
なお、韓国側は、北朝鮮に抑留されている現代峨山社員の早期の解放を求めています。

ある意味では、これだけ軍事緊張が高まるなかで、まだ1000人余りに達する常駐者が存在するかたちで南北経済協力事業が展開されていることのほうが奇異な感じはします。
ただ、撤退は先述のような事情で企業にとっては容易ならざる決断ですし、もし撤退企業が続出すると、ますます南北間の緊張は臨界点に近づくことにもなります。

コメント
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