孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル・ネタニヤフ首相、始めてパレスチナ国家樹立へ言及 オバマ大統領、和平交渉への第一歩

2009-06-15 21:36:36 | 国際情勢

(オバマ大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相・・・と言っても、1年ほど前の写真で、当時はまだ二人とも政権の座にはありませんでしたが  “flickr”より By Barack Obama
http://www.flickr.com/photos/barackobamadotcom/2697058088/)

【「ネタニヤフ氏は大統領が和平作業に取り組めるような発言をした」】
中東和平に関係するニュースがいくつか報じられています。
一番扱いが大きいのは、イスラエルのネタニヤフ首相が始めてパレスチナ国家樹立に言及したというものです。

****イスラエル:首相、パレスチナ国家樹立に言及*****
イスラエルのネタニヤフ首相は14日夜、外交演説を行い、中東和平交渉を巡り拒み続けてきた将来のパレスチナ国家樹立に初めて言及した。首相はただ、この国家が非武装化され、イスラエルを「ユダヤ人国家」と認めることが樹立合意の必要条件だと主張。さらに、パレスチナが求める聖都エルサレムの分割や、難民のイスラエル領内への帰還には応じないと言明するなど、事実上、パレスチナが受け入れられない高いハードルを突きつけた。【6月15日 毎日】
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確かに“パレスチナ国家”に言及していますが、“非武装化”と“イスラエルをユダヤ人国家として認めること”という、二つの厳しい条件がついています。
“イスラエルをユダヤ人国家として認めること”は、イスラエル内に現在暮らしている多くのパレスチナ人の存在を無視することになり、また、パレスチナ難民の帰還を否定することにもなり、パレスチナ側が承認できるものではありません。

それ以外にも、エルサレムについても「永久不可分のイスラエルの首都」と断定し、東エルサレムを将来の首都に描くパレスチナの要求を拒否しています。
また、占領地ヨルダン川西岸での入植活動の完全凍結を拒否し、人口増に伴う既存入植地の拡張は不可欠との従来方針を繰り返しています。

“パレスチナ国家”への言及は、恐らく、先のオバマ大統領との会談で強く迫られたことによるものでしょう。
これ以上“パレスチナ国家”を無視すると、オバマ大統領のカイロ演説の流れで、イスラエルだけが孤立しかねない・・・との判断もあったと思われます。
ただ、内容的には、これまでの主張から一歩も出ないゼロ回答のようにも思えます。

しかし、“ゼロ回答”であったにしても、とにもかくにも“パレスチナ国家”に言及したことは、今後の交渉への門戸を開いたという意味で、大きな変化であるとも考えられています。
“「2国共存を推進したいオバマ大統領の懸念という観点からすれば、ネタニヤフ氏は大統領が和平作業に取り組めるような発言をした」
非武装化されたパレスチナ国家という考えは、クリントン元米大統領が政権後期の和平交渉で推し進めた非軍事国家に非常に近く、「非武装化国家を最初の条件とすることで、米国も全く話が始まらないということにはならない」”【6月15日 ロイターより】・・・とのことです。

パレスチナ解放機構(PLO)のエラカト交渉局長は「(エルサレムの帰属問題など)最終地位交渉の課題の大半を退けられ、交渉の余地もない」と演説内容に憤っているそうですが、ギブス米大統領報道官は「重要な一歩であり、オバマ大統領は歓迎している」との声明を発表しています。

【シリア・ムアレム外相「米国との関係正常化のロードマップで合意した」】
一方、シリアのムアレム外相は、アメリカの目指す包括的中東和平実現に協力していくこと、及び、中断しているイスラエルとの和平交渉を進める用意があることを表明しています。

****シリア:米国との関係、正常化へ 外相が国務長官と協議*****
シリアのムアレム外相は米外交専門誌「フォーリン・ポリシー」(電子版)に掲載されたインタビュー(4日実施)で、クリントン米国務長官と5月末に電話協議し、「政治、安全保障、文化など全分野での米国との関係正常化のロードマップ(行程表)で合意した」と語った。また、イラクの治安安定化と包括的中東和平の実現、テロ対策の3点でも「展望を共有しているとの点で一致を見た」と述べた。
ムアレム外相は対イスラエル和平の展望にも言及し、「パレスチナ側が(和平に)合意する前でも、イスラエルとの和平合意に調印する用意がある」と語った。また、イスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ地区攻撃で中断した、トルコの仲介による間接交渉の再開が望ましいと発言。最終的には、イスラエルの同盟国で、和平合意の順守を検証できる米国の仲介による決着を求めたい意向を示した。

オバマ米政権は包括的な中東和平実現に向け、ガザを実効支配するイスラム教原理主義組織ハマスに強い影響力を持つシリアとの関係改善交渉を推進。13日にはミッチェル中東和平特使がダマスカスでアサド大統領と会談。ミッチェル氏は「シリアには(中東の)包括的和平に欠かせない役割がある」と述べた。
米国は、一部武装勢力がシリア国境からイラクに出入りしているとしてシリアに対処を要求。テロ対策では、ハマスや、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラの支援を止めるよう求めてきた。シリアが受け入れれば、オバマ政権が5月に延長したテロ支援国家指定の最終的解除に向けた環境が整うことになる。【6月15日】
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【EU・ソラナ代表「ヒズボラはレバノン政治の一部だ」】
そのシリアが強い影響力を持つレバノンの武装組織ヒズボラは、EUとの初の公式会談に応じています。

****EU:ヒズボラと対話へ 高官レベル、初の公式会談*****
欧州連合(EU、加盟27カ国)のソラナ共通外交・安全保障上級代表は13日、ベイルートでイスラム教シーア派組織ヒズボラの高官と会談した。EUとヒズボラの高官レベルの公式会談は初めて。米国はイランが影響力を持つヒズボラを「テロ組織」に指定しているが、オバマ政権の誕生でイスラム世界との融和機運が高まる中、欧州がヒズボラとの対話に踏み出した格好だ。

ソラナ代表が会談したのはヒズボラ政治部門のフセイン・ハジ・ハッサン国民議会議員。7日投開票の国民議会選挙でヒズボラを中心とする反米親シリア派連合は与党の親米反シリア派連合に敗れたが、与党はヒズボラが参加する挙国一致内閣の樹立を目指しており、ヒズボラ軍事部門の武装解除が連立交渉の焦点だ。
ソラナ代表は会談後の記者会見で「ヒズボラはレバノン政治の一部だ」と述べ、レバノンの各政治勢力が次期内閣の樹立で早期に合意するよう促した。フセイン・ハジ・ハッサン議員は会談について「ヒズボラをもっと知ろうというEUの善意の表れだ」と評価した。
ソラナ代表はオバマ米大統領のミッチェル中東特使ともベイルートで意見交換し、中東和平交渉の進展を目指し欧米間の協力と連携を強化する方針を確認した。ヒズボラとの接触も事前にEUから米側に連絡されていたとみられる。
欧州では今春、英国がヒズボラの政治部門と実務レベルで接触を始めるなど、対話への地ならしが進んでいた。【6月15日 毎日】
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“ヒズボラ軍事部門の武装解除”は、今のところヒズボラ側が応じるとは思えません。
先の総選挙で勝利したレバノンのシニオラ首相は、ヒズボラが中核の野党連合が現内閣で保持している事実上の拒否権について「続かない。実験はうまくいかなかった」と述べ、今後組閣される新内閣では認めるべきでないとの見解を明示しています。
昨年7月に発足した現内閣では、30ある閣僚ポストのうち、3分の1超の11が野党側に配分されています。
憲法が重要政策の閣議決定に3分の2以上の賛成が必要と定めているため、野党側は事実上の拒否権を持つことになっています。
ヒズボラ側は拒否権が維持されなければ新内閣には参加しない姿勢と言われ、今後の組閣における混乱の種になる可能性があります。【6月15日 毎日より】

【オバマ大統領 厳しい前途】
全体的には、イスラエル・ネタニヤフ首相による始めてパレスチナ国家樹立への言及、シリアのアメリカ中東政策への協調、アメリカの意を受けたEUとヒズボラの会談・・・と、オバマ大統領の今後の包括的中東和平に向けた取組みの土台づくりは、なんとか前進しているようです。
もちろん、中身の話になると、楽観的になれる要素はあまりありませんが。

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