孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  アメリカの入植地凍結要求を改めて拒否

2009-06-24 21:04:53 | 国際情勢

イスラエル入植地のひとつケドゥミム。
ケドゥミムは75年以来一帯の丘の頂上に次々と建て増しされた中小12の住宅地群で、人口は約5000人。エチオピアやロシアから移住した比較的低所得のユダヤ人も多く、住宅不足であぶれた人々は移動式の仮設住宅を借りて待機しています。隣接する別の丘では入植者が勝手に住み着き、新たに簡素な住宅地を形成しています。【6月23日 毎日】

こうした入植地拡大によって、パレスチナ住民のオリーブ畑と入植地が接近し、パレスチナ住民は国際機関などの立会いなしには安全に収穫ができない事態も起こっています。
“flickr”より By michaelramallah
http://www.flickr.com/photos/michaelimage/2857754054/)

ちょっと“?”と感じたニュース。
イスラエルがハマスの「大物」を釈放したそうです。
ハマスとの間でなんらかの交渉があったのでしょうか。

****イスラエル:ハマスの「大物」を釈放****
イスラエルは23日、刑務所に約3年間収監されていたイスラム原理主義組織ハマスのメンバーで、パレスチナ評議会(国会に相当)議長のアジズ・ドゥエイク氏を釈放した。
イスラエルは06年6月下旬に兵士1人がパレスチナ自治区ガザの武装勢力に拉致された後、ハマス所属の評議会議員を大量に拘束。ドゥエイク氏はその中で最も「大物」の一人だった。
イスラエルにとって同氏は、拉致された兵士の解放交渉の「カード」とみられていた。だが、ハマス側は同氏釈放と解放交渉の関連を否定している。【6月23日 毎日】
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【「完全な入植中止は受け入れられない」】
そのイスラエルのネタニヤフ首相は14日の外交演説で、これまで拒み続けてきた将来のパレスチナ国家樹立に初めて言及しました。
ただし、この国家が非武装化され、イスラエルを「ユダヤ人国家」と認めることが樹立合意の必要条件だと、パレスチナ側が受け入れられない東国原知事並みの高いハードルを突きつけた形になっています。
併せて、パレスチナが求める聖都エルサレムの分割や、難民のイスラエル領内への帰還には応じないと言明、更に、
オバマ大統領が求める入植地建設の全面中止については表明せず、新しい入植地の建設とパレスチナ領土の収用については今後行わないとだけ述べるなど、殆どゼロ回答に近い内容でした。
アラブ諸国から一斉に反発の声が上がっていますが、アメリカは、パレスチナ国家樹立に言及しただけでも今後の交渉の糸口がつかめたと評価しています。

入植地については、イスラエルは、人口の「自然増」を理由に拡充しています。
この入植地問題について、クリントン米国務長官とリーベルマン・イスラエル外相の会談が行われましたが、パレスチナの西岸地区での入植地凍結を求めるアメリカに対し、イスラエルはこれを拒否しています。

****米イスラエル外相会談、入植地建設の凍結めぐり物別れ*****
米国務省での会談後の共同記者会見で、クリントン長官は「入植を中止してほしい」と明確に述べた。また、入植地建設の中止は包括合意によるパレスチナ国家建設と二国家共存にとって、重要不可欠な条件だと米国側の主張を再度強調した。
しかし、ネタニヤフ連立政権の一翼を担う極右政党「わが家イスラエル」党首でもあるリーバーマン外相は、イスラエルは現在のヨルダン川西岸の「人口比を変える意図はない」と逆の主張を明言した。
同外相は「人の自然な生死、人口の自然増加を認めるべきで、完全な入植中止は受け入れられない」と米国側の要求をかわし、「われわれの姿勢は非常に明快だし、米国のジョージ・W・ブッシュ前政権からも一定の理解を得て、わが国はこの方向性を維持しようとしている」と主張した。
これにクリントン長官は同意せず「ブッシュ政権下では、非公式なものにしても口頭のものにしても、拘束力のある合意はひとつも交わしていない」と反論した。【6月18日 AFP】
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極右政党のリーベルマン党首が外相に就任した段階で、容易に和平交渉に関する問題が前進しないであろうことは想像されていましたが、実際そのような流れです。

【04年のブッシュ書簡】
リーベルマン・イスラエル外相が言う“米国のジョージ・W・ブッシュ前政権からも一定の理解を得て”云々は、04年のブッシュ前大統領から当時のシャロン・イスラエル首相に送られた書簡を指しています。
この書簡は、大規模な入植地建設に伴う「現実」を考慮するという内容だったとされ、イスラエル政府が入植地人口の自然増に伴う拡張を容認する根拠の一つとなっています。
クリントン米国務長官は今月5日、ブッシュ前政権からの引き継ぎに「(人口の自然増による建設拡大を認める)いかなる非公式、口頭の合意もない」と断言、前大統領が書簡で認めたとするイスラエル側の主張を退けています。
また、クリントン長官は「前政権からは(中東和平の)交渉の公式記録を引き継いだ」として、仮に非公式の合意があったとしても、オバマ政権としては認めないことを強調しています。【6月6日 毎日】
イスラエルに“甘かった”ブッシュ前政権のツケが回ってきているようです。

【入植拡大の実態】
イスラエルは「自然増」を理由に入植地を拡充していますが、実際は入植地の格安住宅を求めてイスラエル領内から移り住む「社会増」も多いようです。

****イスラエル:ヨルダン川西岸「人口自然増」 入植拡大、薄れる根拠 移住も一因****
中東和平の最大の障害の一つである、イスラエル占領下ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地問題。入植活動の完全凍結を求める仲介役の米国に対し、イスラエルは人口の「自然増」を理由に入植地を拡充している。だが、実際には入植地の格安住宅を求めてイスラエル領内から移り住むケースも多く、こうした「社会増」も手伝って人口は増加の一途をたどっている。(中略)
 
イスラエルは入植者人口の増加の理由を「自然増」と説明する。通常「自然増」とは出生数が死亡数を上回ることだが、イスラエルが言う「自然増」には、同国領から入植地へ移住する「社会増」も含まれているのが実態だ。
イスラエルの最大紙イディオト・アハロノトによると、06年の入植者人口増の約4割は「社会増」で、07年もほぼ同様の傾向だった。イスラエルはこうした人口増によって生活水準が落ちる恐れがあるとして、入植活動の凍結を拒否している。

イスラエルは第3次中東戦争(67年)で西岸とガザ地区を占領。西岸での入植活動は70年代半ばごろから本格化した。神に与えられた「約束の地」への帰還を掲げる右派・宗教系のユダヤ人が先導し、政府はこれを「追認」。入植地に通じる道路を整備したり、入植者向けに好条件の住宅ローンを提供したりして、事実上、入植を「促進」してきた。このため、入植者の中には自らを政府の「代弁者」と標榜(ひょうぼう)する人も少なくない。
西岸とガザ地区を将来の「パレスチナ独立国家」の領土と位置付けるパレスチナ人と米欧諸国などにとって、入植地の拡充を認めることはパレスチナ国家建設による「2国家共存」構想を否定することにつながる。

イスラエル紙ハーレツのアキバ・エルダー論説委員は入植地問題の背景について、「イスラエルは西岸を占領地でなく『係争地』と考えている」と指摘する。国際法上、占領地への入植は違法だ。だが、イスラエルは自国と西岸の境界(国境)を「今後の交渉課題」と解釈し、自国政府が承認していない入植地のみを「違法」とみなしている。
和平交渉の積極仲介に乗り出したオバマ米大統領は入植活動を完全凍結し、交渉進展の起爆剤にしたい意向。パレスチナ自治政府も和平機運を再喚起する好機ととらえ、オバマ大統領と歩調をそろえている。

イスラエルが占領地に建設したユダヤ人居住区。ヨルダン川西岸には約120カ所ある。このほか、政府未承認の入植地も多数あり、過去10年で入植者人口は10万人以上も増えた。米露、欧州連合、国連が03年に提示した「新中東和平案」(ロードマップ)はイスラエルに対し、「自然増」を含む入植活動の完全凍結を求めている。ガザ地区の入植地は05年にすべて撤去された。【6月23日 毎日】
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【厳しい前途】
入植地問題ひとつをとっても、上記のようにイスラエルとの交渉は困難な状況です。
更に、「2国家共存」に向けての条件整備となると・・・道はるかというのが実態です。
ただ、思いがけない方向へ事態が進展・・・といったこともなくはないでしょうから、粘り強い交渉は必要です。

中東をめぐる枠組みとしては、アメリカが4年ぶりに駐シリア大使を復帰させることを明らかにしており、関係正常化が進みそうです。
一方で、イランの混乱によって、イランとの対話路線は頓挫しそうです。
イランとの対話が進めば、孤立を恐れるイスラエルに圧力をかけることもできたのでしょうが。

コメント
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